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School of Days  作者: 橘樹儚椛
〜1学期編〜
3/101

転校生の理由(擦れ違う理由)

「愛宮紗希です。

よろしくお願いします」

 転校生が自己紹介をした瞬間、クラスからは歓声が上がっていた。

 なんせ90%が男子な上、寮生の俺たちに出会いの場なんて何1つなかったんだ。

 最近初めての彼女ができたという俺も、実はクラスではレアキャラの方であったりもする……

 でもそんなことさえ何も知らなさそうな転校生のさきちゃんは、自己紹介をするなりただ嬉しそうにニコニコとした笑顔を見せていた。

(かわいい……)

 さすがの俺もそう思ってしまった。

 そりゃあ俺の彼女に比べたら負けるし、この子を好きになる。なんてこともないけど。

 それでもただ普通に可愛い子ではあると、そう思った。



「そしたら久保の後ろに座ってもらえるか?」

「はい!」

 自己紹介を終えたさきちゃんは担任の指示のもと、空いていた俺の後ろのスペースに急遽作られた席へと案内されていた。

 が、それと同時に俺はクラス中から睨まれるような視線を向けられることとなった。

 それは多分、というか絶対に俺の席はクラス中から羨ましがられる席。

 これは次の席替えまでのしばらくの間、俺はクラスのほとんどからの恨みを買うことになるのだろう……

 でもそうは思ったが、俺はそんなこと気にしない。

 確かに新しく来た転校生さきちゃんの見た目は、可愛くて、清純そうで……

 なのかもしれないけれど、なんてったって俺にはもっと完璧な彼女がいる。

 その彼女にはやっぱりこの子でも敵わないかな……(俺なりの偏見だけど)

 まぁ俺にそんな彼女がいるってことは、このクラスでも数人しか知らない事実なわけで。


 ってそんなことはさて置き、転校生のさきちゃんは先生に誘導された俺の後ろの席へと向かってこっちに歩いて来ていた。

(なんだか懐かしいな……)

 俺はさきちゃんのその姿を見て、そんな風に思っていた。

 実は俺にも小学生の時に1度だけ転校した経験があった。

 その時は初日からガチガチに緊張して、周りに溶け込めるまでには数ヶ月ほどかかったっけ……

 あの当時は今よりも人見知りが酷かったからなぁ……

 だからこそ、今こっちへ向かってくる転校生を見て俺は少しでもこの転校生の力になってあげたいと思っていた。

 もちろん、友達としてね。



「よろしくね、さきちゃん」

 俺は後ろの席へ座ったさきちゃんに優しくそう声をかけた。

「よろしくお願いします。

あ、あの、えり……」

 俺がさきちゃんに声をかけると、さきちゃんも俺と同じ人見知りだったのか余所余所しくそんなことを言い出していた。

「えり?」

 その言葉をすぐに理解出来なかった俺。

(あれ?もしかして俺、女子だと思われてる??この見た目で……?)

 俺は多少の疑問を抱きつつも、

「俺の名前は久保万尋。えりではないよ?」

 冷静に、そして転校生であるさきちゃんに初日から嫌な印象を与えないよう気を遣って優しく訂正してあげた。

 するとさきちゃんは、

「あ、名前じゃなくて……その……

襟が立ってます……」

 勘違いしている俺に若干引き気味でそう言った。

「あっあぁ……襟ね!襟、えり……」

 俺はただ誤魔化すように威勢だけでその場を乗り越えようとしていた。

(え……何これ……普通に恥ずかしいし、転校して来たばかりなのになんかすごい堂々としてるっていうか……)

 なんか、思ってたのと違う……

 俺が1人でそんなことを考えている中、さきちゃんは何事もなかったかのように次の授業の準備に取り掛かっていた。

(まぁでも、さきちゃんが特に何も思っていないなら……)

 そんなさきちゃんを見て、俺は恥ずかしさごと必死に無かったことにしようとしていた。



 そして鞄の中をゴソゴソとした後、さきちゃんが取り出した筆箱。

 その筆箱の中から出てきたシャーペンや消しゴムは、今にも壊れそうなほどのボロボロ加減で。

 けどだからと言って雑に使われていたという訳ではなく、長年にわたって使い古されてきたことを感じさせるような見た目だった。


「あれ……?」

 取り出したシャーペンを何度もカチカチとさせているさきちゃん。

 だが一向にそのシャーペンから芯が出てきそうな気配はなく、どこかさきちゃんのその様子は困っているようだった。

 そんなさきちゃんに俺は、

「ちょっと貸してみて」

 見るに見兼ねてどうなっているのかそのシャーペンの中を見てあげようと思った。


「やっぱり……」

 俺が予想した通りそのシャーペンは中のバネが錆び付いていて、もはやシャーペンとしては機能しなくなっていた。

「中が壊れちゃってるみたいだし、もうこれは買い替えたほうがいいと思うよ。

他には持ってないの?」

「他、ですか……」

 俺がそう聞くと、さきちゃんはどこか沈むような言い方でそう言った。

「ん?」

 俺はどういう意味なのだろうとそんなさきちゃんのことを見ていると、

「あ、ありがとうございます。でも今は他のものを持っていなくて……

私の家、あんまりお金がないので少しでも長く使えればと……

でも今回こそちゃんと新しいものを買おうと思います。

見ていただいてありがとうございました」

 さきちゃんのその言葉に、俺は何も言えなくなってしまった。

 なんだかそう言ったさきちゃんが少しかわいそうに思えてしまい、こんだけボロボロになるまで使っていたってことは、きっと相当お金がないんだろうな……

 さきちゃんの言葉が胸に刺さった俺は、

「はい、これあげるよ」

「え?」

 予備に筆箱に入れていたシャーペンと消しゴムを1つずつ、さきちゃんへと渡した。

 別に俺があげた物も新品な訳ではないけど、さきちゃんの物よりはまだマシかなって思うし使えもするから。

「でも、万尋さんの分が……」

 この期に及んでまだ俺の心配までしてくれているさきちゃん。

「あぁ大丈夫大丈夫。

それはいつも予備に入れておいてるやつで、普段は使ってないから。

それに家にもまだあるからさ。

俺からしたら、逆にそんなものでいいのかなって感じなんだけど……」

「ありがとう!嬉しい!」

 さきちゃんは俺の心配するまでもなく心から喜んでくれていた。


 満面の笑みで心から喜んでくれているように見えるさきちゃん、それが俺にはどこか不思議でしょうがなかった。

 正直さきちゃんにあげたものは大手メーカーの物でもなければ何が良いってわけでもない。

 まぁだからと言って書けないわけでも消せないわけでもないんだけど……

 2つとも、俺と同じ平凡って感じで。

 だからこそ俺の中ではずっと2軍止まりでしかなかった。

 それをこんなにも喜んでくれる人がいるなんて……

 さきちゃんは俺の思っていた転校生とは違ったけど、特別悪い子ってわけでもなさそうだった。

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