2人目の転校生(先生と転校生)
4月上旬の日のこと。
「おはようございまーす」
「おはよー!
今日も朝から元気だねー紗希ちゃん」
「はい!今日も一日よろしくお願いします!」
朝から元気良くバイト先へと出勤してきた紗希。
「悪いねぇ休日だってのに呼び出したりしてさ」
「いえいえ、私なんかで良ければいつでもですよ!」
そんな紗希の言葉を聞いた店長さんは安心したような笑顔を見せ、また持ち場の作業へと戻っていった。
店長との話を終え、紗希が早速バイトの準備に取り掛かろうとしていた時、
<携帯の受信音>
紗希の携帯に一通のメールが届いた。
<久しぶり、元気にしてる?
会って話したいことがあるんだ。>
「先生……?」
紗希はメールの内容を見ると、首を傾げてそう言った。
「紗希ちゃーん、休憩入っていいよー」
「はーい」
休憩時間に入った紗希はバイトの制服から私服へ着替えると、そのままバイト先から少し離れた近くのカフェへと入った。
<カフェの扉を開ける音>
紗希がカフェの中へと足を運ぶと、そこには1人座って紗希のことを待っている先生の姿があった。
その姿を見つけた紗希は途端に嬉しそうな表情を見せ、まだ紗希には気付いていない先生の方へと笑顔で駆け寄って行った。
「先生!」
そう言った紗希が先生の方へ手を振ると、それに気付いた先生も少しずつ優しい微笑みに変わり静かに紗希の方へと手を振ってくれていた。
久しぶりの再会を果たし、紗希は幸せそうな顔で席に着いた。
「元気そうだね」
「はい、先生も」
紗希が先生の言葉に嬉しそうにそう返すと、
「うん……」
先生はどこか下を向くような素振りを見せながらただ静かに微笑んでいた。
そんな様子に紗希も少し不思議そうな顔で首を傾けていると、
「あ、いや、その……
紗希はさ、あれから毎日どんな感じなの?」
紗希の不思議そうに見つめる様子に気付いた先生は、心配をかけたくなかったのか誤魔化すように紗希にそう質問をしていた。
「私は……今は朝から夜まで働いて。夜からは夜間学校に通って……
少し慌ただしいような毎日を過ごしています。
あっけど私は全然元気なので、大丈夫ですよ!」
「そっか……
そんな毎日は、紗希にとって楽しい?」
「あ、まぁ今は大変なことも多かったりはします。
それなりに疲れちゃったりする日もありますし……
でも未来のことを考えたら今頑張っておかないとって。
これでも私なんかはまだ楽な方かなって思ってますし!
私は周りの人や優しい家族にたくさん支えてもらってますから。
私よりも、私の両親の方がもっと寝る間もなく過ごしてるんだと思います……
それに何よりも私には、頑張れる理由があるので!」
紗希の話を聞き、先生の顔は笑顔から優しさだけを残したような表情へと変わっていた。
それから少し何かを考えたように間を置いた先生は、
「実はさ、教師になれたんだ。
1年前から明暮高校ってところに勤めて、今は紗希と同じ学年にあたる3年生の担任をしている」
先生が紗希にそう話すと、それを聞いた紗希は嬉しそうな顔で、
「本当ですか!
そっかぁ。先生、本当に先生になれたんだぁ」
上の方を見上げながらどこか夢のようにそう言っていた。
「それでさ……」
でも嬉しそうな紗希の様子とは裏腹に、続けて何かを言いかけ少し言葉を詰まらせた先生。
「良かったら紗希も来ないかなって……
明暮高校に……」
「え……?」
そう言われた紗希は、その先生の急な言葉にただ驚いていた。
それから1ヶ月ほどが過ぎたゴールデンウィーク明け初日。
「また学校かぁー、あっという間だったなー」
登校途中、面倒くさそうにそうぼやいている久保万尋。
「マジだりぃー。
ってかそれにしても休み短過ぎんだろ!」
その隣をダラダラと歩いていた桐嶋暖人も続けて言うと、
「はぁ……今日まで休みだったらって感じだよなぁ。」
そんな2人と一緒に歩いていた麻倉脩眞もまた同じようにそうぼやいていた。
「「「はぁ……」」」
朝っぱらから同時にため息をつく3人。
「おい椿佐、お前は何とも思わないのかよ。
そんな大人しく学校向かうような真面目な性格してたっけか?」
万尋は3人の少し先を1人で歩いていた東雲椿佐に小走りで近づくと、椿佐の肩に自分の手を置きおちょくるようにそう聞いていた。
するとそんな風に聞かれた椿佐の方はそれまでの冷たい表情を変えないまま、
「お前らみたいに文句を言ってるだけで学校が休みになるとは思ってない」
万尋のことを一切見ることなく視線さえ変えずにそう言った。
それを聞いた万尋はその冷たい答えに納得がいっていないような顔で椿佐のことを見ていると、
「あれだよな。何か可愛い女の子とか転校して来てくれたりなんかしたら、やる気も100倍!とかになるんだけどなぁ〜」
2人の後ろを歩く麻倉が妄想の中の話を夢見るように言い、それを聞いていた万尋と桐嶋はそんなことあるわけないだろとでも言うような顔で麻倉のことを見ていた。
けどそんな一言は、なぜか現実になったりもする……
「愛宮紗希です。
よろしくお願いします」
自己紹介と共にクラス全員の前で頭を下げた紗希。
「「「おー!!!」」」
そんな紗希に対してクラスの中からは歓声が上がっていた。