表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

エイプリルフール神隠し事件

作者: ウォーカー

 自慢にもならないことだが、僕は学校でいたずらっ子として有名だ。

教室の扉に黒板消しを挟んでおいたり、机の中にカエルを入れておいたり、

思い付く一通りのいたずらをやってきた。

おかげで親にも学校の先生にも大目玉。

もう絶対にいたずらは禁止だと厳しく言いつけられてしまった。

それが、去年の秋くらいの話。

季節は過ぎて、もうすぐ春の季節。

長くいたずら禁止の生活を続けていたが、もう限界。

いたずらがしたい。人を驚かせたい。

でも、いたずら禁止と言われている。

どうにかして、いたずらをしても怒られないで済む方法は無いだろうか?

そんな僕にぴったりのイベントが、もうすぐやってくる。

エイプリルフールだ。


 エイプリルフール。

それは、毎年四月一日には嘘を付いても良いという、

お祭りだか風習だかのこと。

元々は外国のものだったが、最近では世界中で行われるようになった。

エイプリルフールなら、いたずらをしても怒られないかもしれない。

きっとそうだ。そうに決まってる。

なんといってもエイプリルフールはお祭りなのだから。

そうして僕は、きたる四月一日に、

エイプリルフールのいたずらをすることに決めた。


 エイプリルフールにどんないたずらをしようか。

久しぶりのいたずらに僕の胸は高鳴った。

どうせなら、みんなが驚くような突飛なものが良いだろう。

教室の扉に黒板消しを挟むいたずらは、引っかかった一人にしか効かない。

机の中にカエルを入れておくのも、カエルが嫌いじゃない相手には効果が薄い。

いたずらのアイデアを練るために、僕は街の雑貨屋さんを訪れていた。

大きなビルに動物のマスコットの有名な雑貨屋さんだ。

いたずらのアイデアを考えながら、広くてせせこましい店の中を歩く。

座ると音が鳴るクッションは、ありきたりすぎる。

びっくり箱なんて、今時は引っかかる人もいないだろう。

そもそもエイプリルフールの趣旨にも合わない。

そうして僕の足は衣料品コーナーへ。

そこでピーンと来るものが見つかった。

僕の目を引いたのは、銀色に輝く宇宙人の姿を模した全身タイツ。

「・・・これだ。よし、そうしよう。」

宇宙人の姿の全身タイツを手に取って、僕はほくそ笑んでいた。


 そうして数日の後。

今日は四月一日、エイプリルフール当日。

新学期が始まる日でもある。

僕は朝早くに起きると、そっと家を出て学校へ向かった。

登校するにはまだ早すぎる時間帯だが、僕にはやることがある。

朝早く、人気ひとけのない学校にたどり着くと、

閉まったままの校門を乗り越えて学校の中へ入っていった。

誰にも見つからないように、そっと、静かに。

目指すは学校の自分のクラスの教室。

そうして、誰もいない教室に入ると、教室の真ん中へ足を運ぶ。

なるべく目立つ場所がいい。そう、この辺りでいいだろう。

それから僕は鞄の中に手を突っ込む。

取り出したのは、この前に買っておいた、あの宇宙人の全身タイツだ。

それを教室の床に置いておく。

こうしておけば、この後で教室に入ってきた誰かがこれを見つけて、

きっと大騒ぎになるだろう。

愉快なエイプリルフールになること間違いない。

「くっくっくっ、これでよし。

 見つけた奴はきっと驚くだろうな。

 よく見たらタイツだってバレるだろうけど。」

そうして僕は、宇宙人の全身タイツを教室に置いてから、

通常の時間になってから登校するために、学校を出ていった。


 しばらく時間を置いて。

通常の登校時間になるのを待って、僕は改めて学校に向かった。

あまり早く登校しても不審に思われるので、

あえていつもと同じ遅刻寸前になる時間まで待ってから。

本当はいたずらの結果を近くで観察したかったのだが、仕方がない。

逸る気持ちを抑えて、僕は何気ない風を装って、学校の教室に入った。

すると期待通り、教室の中はクラスメイトたちで騒ぎになっていた。

「ねえ、あれを見て!

 もしかして、宇宙人の抜け殻じゃない?」

「何だあれ!?」

「もしかして、この学校に宇宙人が?」

「怖い!」

そんなクラスメイトたちの悲鳴を聞いて、僕は声を押し殺して笑っていた。

エイプリルフールのいたずらは大成功。

それどころか、思った以上に効果があったらしい。

みんなあれが全身タイツだとは気が付かずに、

本物の宇宙人の抜け殻だと思っているらしい。

すると、教室の扉がゆっくりと開けられて、担任の先生がやってきた。

担任の先生は、比較的若い男の先生で、

眼鏡をかけた顔はいつも血色が悪く、物静かな先生だ。

そんな担任の先生が、クラスメイトたちにのんびりと尋ねた。

「なんだお前たち、何を騒いでるんだ。」

「それが先生、朝、教室に来たら、宇宙人の抜け殻が落ちてたんです。」

「何ぃ?宇宙人の抜け殻?」

「はい、あれです。」

クラスメイトが指差す先、

教室の床に落ちている宇宙人の全身タイツを、担任の先生が覗き込む。

それから宇宙人の全身タイツを拾って言った。

「なるほど、とにかくこれは先生が預かっておく。

 みんな、このことは他のクラスの人たちには言わないこと。

 他の生徒たちを無闇に混乱させたくないから、良いね?」

宇宙人の全身タイツが担任の先生によって回収されて、

クラスメイトたちはようやく落ち着きを取り戻した。

それから何事もなく、四月一日の学校は終わった。

放課後になって家へ帰る途中、僕は、

宇宙人の抜け殻がエイプリルフールのいたずらだと、

みんなに言うのを忘れていることに気が付いた。

「ま、いいか。」

その時の僕は、結果としてそれが大事になるとは思ってもいなかった。


 次の日、四月二日。

いつものように学校に登校すると、教室の中が何やら騒がしい。

扉を開けて中に入ると、クラスメイトたちが叫び声を上げていた。

「ねえ、あれを見て!

 もしかして、宇宙人の抜け殻じゃない?

「・・・なんだって?」

驚いた僕が、クラスメイトが指差す先を見る。

するとそこには、銀色の抜け殻が。

あの宇宙人の全身タイツが落ちていたのだった。

僕の頭は途端に混乱した。

あれは僕が置いたものではない。

今日は四月二日、エイプリルフールは過ぎている。

そもそも、宇宙人の全身タイツは一着しか持っていないし、

それは昨日回収されてしまった。

それがどうして、今日もまた学校の教室に?

クラスメイトたちも驚いた様子で、オロオロしている。

するとそこに、またしても担任の先生がやってきた。

騒ぎを聞きつけて、銀色の抜け殻を覗く。

「なんだ。今日も落ちてたのか。

 これは先生が回収しておくから、みんな落ち着いて。

 今日から新学期の授業が始まるのだから。」

担任の先生が、銀色の抜け殻を回収する。

するとクラスメイトたちは、ようやく落ち着きを取り戻した。

しかし、僕の心の中が落ち着くことはなかった。


 それから次の日も、その次の日も、週末をまたいでも。

朝、学校に登校すると、教室にはあの銀色の抜け殻が落ちていた。

混乱するクラスメイトに勘付かれないように、

僕は口元を手で抑えて言葉をこぼした。

「どうして、宇宙人の抜け殻がこんなに落ちてるんだ?

 僕はもう何もしてないぞ。

 まさか、あれは全身タイツじゃなくて宇宙人の抜け殻、

 本当に宇宙人が出たのか?」

周囲のクラスメイトたちは不安そうで、

それが一層、僕の心を不安にさせる。

エイプリルフールのいたずらだったはずのことが、

まさか本当に起こってしまうなんて。

あるいは、僕のいたずらが原因で、

何者かを呼び寄せてしまったのかもしれない。

僕のせいだ。

その日の授業が終わった後の終礼ホームルーム

僕は居た堪れなくなって、クラスメイトたちに向かって言った。

「みんな、聞いて欲しい。

 実は、四月一日の朝に、

 教室に宇宙人の抜け殻が落ちてたのは、

 僕のいたずらだったんだ。

 エイプリルフールのいたずらのつもりだったんだけど、

 ついそれをみんなに白状することができなかった。

 でも、僕のいたずらは四月一日だけだ。

 だから、それ以降に落ちてた抜け殻は本物ということになる。

 何であれ、僕のいたずらのせいで何かを呼び寄せてしまったみたいだ。

 みんな、ごめん。」

僕は立ち上がって、みんなの前で頭を下げた。

誠心誠意、心を込めて。

すると、クラスメイトたちから笑い声が起こった。

「あっはっはっは!」

「やっぱりそうだったか。」

「・・・どういうこと?」

訳が分からず、僕は目を白黒させて尋ねた。

すると、クラスメイトの一人が、カバンから何かを取り出して見せた。

「あっ!それって・・・」

それは、銀色の抜け殻。

よくよく見れば、僕が雑貨屋さんで買ったのと同じ、

宇宙人の全身タイツだった。

クラスメイトたちが笑顔になって口々に言う。

「あはは、いたずらもやってみると結構おもしろいね。」

「うん。上手いこと引っかかってくれたものだ。」

「あのね、私たち、四月一日から、

 あれがあなたのいたずらだって、薄々勘付いていたの。」

「だから、みんなで演技をすることにしたんだ。

 あれが宇宙人の抜け殻だって、騙されたフリをして。」

「お前、あれ駅前の雑貨屋で買っただろ?

 近所の店で買ったら、すぐバレるって。

 だから同じ物を用意するのも簡単だったよ。」

「みんなのお小遣いを出し合って買ったんだからね。」

真相がわかって、僕は椅子にへたり込んだ。

銀色の抜け殻は作り物。

エイプリルフールのいたずらを仕掛けたつもりで、

逆に僕がいたずらを仕掛け返されていた。

クラスメイト全員が相手では、多勢に無勢。

僕はクラスメイトたちの演技にまんまと騙されていたのだった。

それがわかったら、何だか可笑しくさえ思えてきた。

僕は泣き笑いで言った。

「なあんだ、いたずらだったのか。

 みんな、意地が悪いぞ。」

「それは君も同じだろう?いたずらっ子くん。」

「それもそうか。

 いたずらは、する方から見れば、最初からいたずら。

 でも、される方にとっては、

 いたずらとわかるまでは本当のことなんだね。」

「そうだよ。

 それをわかってくれたなら、いたずらした甲斐があったかな。」

「小遣いをはたいた甲斐もね。」

僕とクラスメイトたちは顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。


 四月一日の銀色の抜け殻は、僕のいたずら。

四月二日からはクラスメイトたちのいたずらだった。

いたずらを仕掛けあって、今はお互いに戦友のような気分。

みんなで微笑み合って、いたずらで工夫したことなどを話していた。

だから、僕たちは忘れていた。

もう一人、いたずらに引っかかっていた人がいたことを。

その声は、近いような、それでいて遠いところから聞こえてきた。

「なあんだ、いたずらだったのか。

 てっきり、仲間が見つかったと思ったのに。」

声を聞いて、クラスメイトたちが微笑んだままで振り返る。

そして、みんなの表情が凍りついた。

そこにいたのは、あの人。

いつものように物静かで、だから、いるのを忘れていた。

眼鏡が血色の悪い顔ごとポロッと剥がれて床に落ちた。

顔が剥がれて落ちるはずがない。

それは顔を精巧に模した仮面。

お椀のように床でくるくると回って動かなくなった。

そして、仮面の下には、銀色の顔。

人間とは思えない銀色の顔に、吸い込まれそうな黒い目が、

能面のようにこちらを見ている。

銀色の顔に黒い口が開いて言葉を話した。

「脱皮はいつ始まるかわからないから困ったものだなぁ。

 ・・・おっと、顔を見られてしまったね。

 仕方がない。

 みんなには、ちょっと入れ替わってもらうよ。」

そんなことを言いながら、あの人は懐に手を入れる。

静かに取り出したのは、先端に球だの線だのがいくつも付いた、

おもちゃの銃のような物。

その引き金を引くと、先端の球が光りだして、

それが僕たちが見た最期の光景だった。



 世間がエイプリルフールで賑わう四月一日。

郊外のある学校で、世間を騒がせる事件が起こった。

学校のひとクラスの生徒たちが丸ごと失踪、

全員が行方不明となったのだ。

生徒たちには家出をする理由も前触れもなく、

家族や警察が必死に行方を探したが、誰一人見つかることはなかった。

それからおよそ一年後。

空き教室となっていた学校の教室に、突如として、

行方不明となっていたクラスの生徒たちが全員、姿を現した。

発見された時の生徒たちは、何事もなかったかのように、

学校の椅子に座って勉強をしていたという。

果たしてこれは事件なのか、それとも神隠しなのか。

警察が生徒たちを保護して事情を尋ねるも、

生徒たちは記憶が混濁しているようで、手がかりは得られなかった。

ともかくも生徒たちは全員が無事で一件落着、かと思われたが、

しかし保護された生徒たちは、

全員がまるで別人のように人が変わってしまっていた。

一例をあげると、

あるいたずらっ子で有名だった男子生徒は、

事件の後は成績優秀、いたずらなどすることも無くなった。

そんな男子生徒だが毎年四月一日になると、

エイプリルフール、エイプリルフールと、

何かにうなされるように繰り返し口にするのだという。



終わり。


 エイプリルフールのいたずらは、いたずらをする側が最も楽しい。

でも、いたずらが過ぎると、

いたずらが伝わってはいけない人に伝わってしまうこともある。

そんな一例を、ファンタジーを交えて空想してみました。


本当にセンスのあるいたずらというのは、

誰も騙されることがなく、

見た人が笑顔になれるいたずらのことではないかと思います。


お読み頂きありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ