過去・呪われた血 1
よろしくお願いします。
「バートリー様! 人族に包囲されております!」
「何故だ!? 我らが何をしたと言うのだ!?」
「魔人族の王、バートリー様、人族の代表であるエルダール帝国皇帝より使者が参っております!」
「エルダール皇帝が? よし! 通せ! 我らの無実を訴えるのだ!」
魔人族の王が住まう居城、ナルバリー城。
大陸一と呼ばれる程に美しい白銀に輝くこの城は普段なら、行き交う人々も落ち着いて歩き、大声など一切聞こえない、物静かな城だった。
ところが今日だけは違った。
朝から多くの人が城の中を行き交い、幾つもの情報が錯綜しどれが真実なのかじっくりと検討する暇もなく人々は慌てふためいていた。
そんな中に伝えられたエルダール帝国皇帝からの使者が訪れたとの報。
それは今、この城の者全てが必要とする情報をもたらす者であり、最悪をもたらす者になるかもしれないと戦々恐々としていた。
「エルダール帝国皇帝エルダールⅡ世陛下のご使者様、ご入場!!」
謁見の間に使者の到着を知らせる声が響き渡る。
人の3倍の高さはある扉がスーッと音もなく開かれ、一人の男性がゆっくりと場内へと歩き出した。
赤い絨毯が敷かれた中を進む帝国の使者。
その様子を見逃さないと両脇に控える魔人族のバートリー王の臣下達が並ぶ。
そして使者は謁見の間の最奥の玉座に座るバートリー王の前に立つと、そのまま頭を下げ一礼をする。
「何んと無礼な!! いくら帝国の使者とは言え魔人族の王の御前であるぞ! 膝を付き礼につくさんか!!」
バートリー王の横に立つ背の高い男性が使者の行為に対して声を荒げ指摘する。
しかしその者にバートリー王は右手を横に出し制した。
「宰相、今はそれどころではない」
「しかし陛下」
陛下への礼を尽くさない使者に対して不満が残る宰相だったが、王の命令とあればそれ以上問い質すことはできなかった。
「それより使者殿の用向きをお聞かせ願おうか?」
表向きは冷静さを保っては居るがバートリー王も心中は穏やかではなかった。
その為、余裕なく使者を問い質したのだろう。
「は、魔人族を纏める偉大なるバートリー王国の王、バートリー王陛下。私めはエルダール帝国皇帝エルダールⅡ世陛下のお言葉を伝える使者、ヨルンヘルム子爵と申します」
バートリー王への挨拶と帝国の使者である自分の商会を仰々しく胸に右手を当て今一度頭を下げる仕草を見せた。
「それでヨルンヘルム子爵殿、エルダール皇帝陛下の言葉とは現状の説明のことですかな?」
「説明ですか?」
頭を上げたヨルンヘルム子爵の顔は何をいっているのかと惚けた振りを見せていた。
「惚けないでいただきたい! どうして同盟国であり対悪魔侵攻を防ぐ同士でもある我がバートリー王国の王都に帝国の兵隊が武装して向かっているのかお聞かせ願いたい!」
バートリー王に制されたとはいえ、あまりの態度に大声で荒げてしまう宰相。
その思いはここに集まった臣下の者達も同様であった。
「さて? それを私目が説明しないといけませんか? 原因を作られたのは王国側ではありませんか?」
使者の言葉はバートリー王達にとって予想もしていなかった言葉だった。
「何を言っておられる? 私共に原因がある? それこそ分かりかねますな」
「左様ですか。では改めて申し上げましょう。この度我が帝国とバートリー王国、その他の大連合で悪魔領土へ大規模な反転攻勢計画を実行する手はずになっていたはず」
「それは承知しておる」
バートリー王は使者の言葉に何か引っ掛かるものを感じながらもそれを聞くしかなかった。
「その計画の情報がどうも悪魔側に流れているという情報を入手したのです」
「なんと! それは由々しき事ではないか! 早急に対策を立てなくては!」
「ほう、バートリー王はそう仰いますか?」
「どういう事だ?」
「情報には続きがございます。その情報漏洩はこのバートリー王国から漏洩したと、しかも意図的に」
「は? 使者殿何を言っておられる?」
「まだ白を切るつもりですかな?」
「だから何を言っていると聞いておるのだ!」
「エルダール帝国皇帝エルダール陛下のお言葉をお伝えします。帝国はバートリー王国が悪魔側へねがえったと判断、わが連合国に重大なる損害を与える作戦を悪魔側と画策していたと断定いたしました。これにより両国の同盟条約は全て破棄。この言葉を伝えた瞬間から魔人族の王国を敵対国と認定する・・・以上が皇帝陛下のお言葉です」
謁見の間に集まる全ての者が一瞬凍りついた様に動けなくなっていた。
ありがとうございました。