11 魔法の瓦解
「無理をされたのですから、休まないといけません」
そうシャロンに言われて私はまたベッドに寝かされていた。
シャロンは私の体調が心配のようだ。
有無を言わさない彼女の態度に、私は降参して早々と布団に潜り込んだ。
「また抜け出して、何かしてはいけませんからね」
「ええ、分かったから。貴女は別の仕事があるのでしょう? ここにいなくても大丈夫よ」
彼女の方が私より年下なのに、母のようなことを言う。
笑っていると納得してくれたのか、『何かあったらすぐに呼んでくださいね』と言い残してシャロンが部屋を出ていった。
私はベッドの上で目を閉じる。
それでもどうしても眠気は訪れてくれなかった。
ちら、と窓の外に目を向けると、さっきまでの青い空がどんよりとした黒い雲に覆われている。
「⋯⋯雨が降ってしまうかしら」
私はベッドを降りて、壁を伝いながらバルコニーへ移ってみた。少しの段差も慎重になりながらようやく外に出る。
記憶にあるかぎりではバルコニーに出るのは初めてだ。部屋の中からは見えなかった庭園を下に見ることができた。
雨の中の馬での移動は大変だ。どうか雨が降りませんように、と小さく祈る。
風も冷たくなってきた。
「⋯⋯戻ろうかしら」
部屋の方向に身体を向け直した時、聞こえてきた言葉が私を引き留めた。
「エドウィン様も仇の娘が憎いだろうに、なぜ俺たちを諫めるんだ!」
吐き捨てるように言う若い男の声は苛立ちによってか少し震えている。
「屋敷の侍女曰く、二人はほとんど言葉を交わしていないらしいぞ。両親を殺されたんだ。エドウィン様も俺たちと同じ思いに決まっている。王命だから仕方なく結婚して、離縁できないんだろう。あからさまに動けばオーウェン伯爵からまた何かされるか分からない。俺たちをかばっているんじゃないか」
「ちっ、シリルもだ! 愛想良くしやがって」
「あいつは誰にでもそうだろう」
声が遠ざかっていく。
「⋯⋯私の、こと⋯⋯?」
ドクン、ドクンと心臓の音がうるさい。
いつもよりも力の入らない足で何度もよろめきながら部屋に入り、ベッドへ倒れ込んだ。
仇の娘。仕方ない結婚。
私を、憎んでいる──?
分からない。
分からない。わからない。
「⋯⋯思い、出したい⋯⋯っ」
失くした記憶に答えがある気がした。
頭の痛みが酷くなっていく。
私は両腕で頭を抱えて痛みに耐えた。
「思い出したい⋯⋯思い出さないと、いけないの⋯⋯!」
頭が熱くなって、身体が冷えていく。
視界の奥に光る蔦の紋様が見えて──
光が、千切れた。
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拙い文だと思いますが、ブクマ・いいね・評価してくださる方がいて感激です! ありがとうございます!




