【アンソロジーコミック発売中】婚約破棄前日に戻ってきました
誤字報告ありがとうございます。
また誤字報告ありがとうございます。
デイリーランキング入りしていました。
本当にありがとうございます。
週間ランキング20位に入っていました。
読んでくださった皆さんありがとうございます。
思い付きなのであまり設定を凝らずに書いてます。
粗が多いです。
すみません。
「メルロー・ポートマス!貴様との婚約はこの場をもって破棄する!」
王宮主催のパーティで声高に婚約者である第2王子バッカス・ヴァイス様が宣言した。
私は公爵家の次女であるメルロー・ポートマス。
元々は他の婚約者が決まっていたのにバッカス様が私に一目惚れをしたという理由で強引に結ばれた婚約だった。
14歳の時に結ばれた婚約。
現在私は16歳。
2年の婚約期間であった。
その間バッカス様は私に常に傲慢な態度で接し、自身は言い寄って来るご令嬢と遊び呆ける癖に私が同級生のご令息と少しでも会話をしようものなら公衆の面前でも関わらず私を罵り蔑んだ。
数度は手を上げられたこともあった。
顔を腫れ上がらせて帰った私を見たお父様からその事はすぐ様王家に報告が入り、バッカス様は父である国王に酷くお叱りを受けたようだが
「お前が父上に告げ口したのだな?卑怯者め!お前は俺の婚約者なのだからただ黙って俺に従っていればいいんだ!」
と私がバッカス様に責められた。
そして今、バッカス様の隣には可憐な少女がピタリと張り付いている。
彼女の名はシャロン・ザロウ。
ザロウ男爵家の愛妾の子で、半年前に男爵家に引き取られた平民育ちの少女だ。
私とバッカス様が通う学園に入学してきた彼女は常にバッカス様の近くをうろつき回り、いつの間にかバッカス様の隣が自分の定位置の様に側にいるようになった。
何度かバッカス様とシャロン様が学園内で口付けをしている場面や明らかに乱れた服装でいそいそと倉庫から出てくる姿を目撃していたし、沢山の人達にも目撃されていた。
その事をそれとなく窘めた事もあったが、その度に私の方が酷い言葉で罵られた。
でも万が一の為に証拠と証言は確保して置いてある。
こういう時の為にと思って。
私は自分を落ち着かせる為に目の前のテーブルに置かれた果実水を一口飲んだ。
次の瞬間、せり上がる吐き気がして口元から生暖かい物が滴り落ちるのを感じた。
呼吸が上手く出来ず、全身が強ばる。
目の前が霞んで倒れ込んだ私に周囲から悲鳴が沸き起こった。
『毒』
そう思った時には私の意識は闇の中に落ちていった。
「はっ!!」
飛び起きるとそこは自分の部屋だった。
「助かった?」
何が起きたのか分からず呆然とするしかなかった。
コンコンコン
ノック音がして「お嬢様?起きてらっしゃいますか?」と聞きなれた声がした。
私の返事を待って侍女のハンナが部屋に入ってきた。
「本日はとっても良いお天気ですよ」
既視感を覚える会話を聞きながらハンナを眺めていた。
カーテンを勢い良く開けるとハンナはこちらを振り向き
「本日は忙しい一日になりますので、朝はしっかりとお召し上がりくださいね!」
と言った。
その言葉を私は一言一句覚えていた。
覚えていると言うよりも一度聞いたという方が正しいだろう。
毒を飲んで倒れる前日、ハンナは同じ行動をし同じ言葉を吐いたのだ。
「ハ、ハンナ…今日は何日?」
「今日ですか?春の月の4日ですよ」
屈託のない笑顔でハンナは答えた。
クラッと目眩がしそうになった。
部屋を見渡すとクローゼットの前にはあの時着ていたはずのドレスが飾られていた。
毒を飲み血を吐いたから血で染まったはずのドレスは、まだ袖を通す前の状態で光を受け淡く生地が光を放っている。
「どういう事?」
回らない頭で必死に考えた。
「戻ってきた、の?」
そんな訳がないと否定しようにも否定しきれない現実が目の前にある。
「戻ってきたのね…」
そう結論付けると一気に体の力が抜けた。
「お嬢様?!」
慌てたハンナが駆け寄ってきたが、私はそのまままた意識を手放したのだった。
目が覚めるとすぐ近くにお父様とお母様が心配そうに私を覗き込む顔が見えた。
何故私が毒を飲んで倒れまた戻ってきたのかは分からないが、もう死にたくはないし、バッカス様にあんな面前で婚約破棄などと言う不名誉な事をされたくもない。
力なく起き上がるとハンナに頼み机の中からバッカス様の不貞の証拠を持ってきてもらいお父様に渡した。
「私、もう無理です…」
不貞の証拠を読むお父様に疲れた様に俯きながらそう告げると、お父様は優しく頭を撫でてくれた。
「倒れてしまう程無理をさせていたのだな。すまなかった、メルロー。この婚約、私の力で解消させると誓おう。今は安心して休むがいい」
それからのお父様の行動は素早かった。
早馬で謁見の打診を出すと自分もそのまま王宮に出向いて行った。
そして夜には私とバッカス様の婚約は無事に解消させていた。
どう言う会話が為されたのかは知らないが、お父様は「問題なかったよ」とだけ言い微笑んでいた。
王宮主催のパーティ当日。
私はお父様にエスコートされて王宮に向かった。
パーティも序盤に差し掛かった頃、バッカス様の声が響き渡った。
「メルロー・ポートマス!貴様との婚約はこの場をもって破棄する!」
私はバッカス様を見ずにテーブルへと目をやった。
1人の男が歩み寄り果実水を置くのが見えた。
その男を私は知っている。
ザロウ男爵家の長男キリヤ・ザロウ様。
シャロン様に恋慕していると噂のある男で、常にシャロン様に仕える執事のように立ち回っていた男だ。
彼が果実水に何かを混入するのを見てお父様に耳打ちをした。
「あの方が果実水に何かを入れております」
お父様もそちらに目をやると、その光景をしっかりと見た。
近くにいる護衛を呼び耳打ちすると護衛が動き、人知れずキリヤ様はどこかへ連れて行かれた。
「おい!聞いているのか?!」
バッカス様が煩く騒ぎ立てているので私は貴族然たる最高の笑顔をバッカス様に向けた。
「殿下に申し上げます。私共の婚約は既に解消されております」
「なっ!そんな訳があるか!」
バッカス様は慌てたように声を荒らげる。
「婚約者がありながら不貞を働く者に、それが例え王子であろうと大切な娘は差し上げられませんからなぁ」
お父様が睨みを利かせた恐ろしい顔でバッカス様を見ていた。
「ふ、不貞など!俺は王子だぞ!」
「証拠も証言も揃っておりました故、婚約解消は速やかに行われましたぞ」
悪い笑顔でバッカス様を見るお父様。
流石は国王陛下にも一目も二目も置かれるだけあり、娘ながらに空恐ろしい物を感じます。
そこにバタバタと慌ただしい足音が駆け込んできて、バッカス様とシャロン様は衛兵に囲まれた。
「シャロン・ザロウ!キリヤ・ザロウに指示し会場内の飲み物に毒物を混入し不特定多数の殺害を示唆したな?」
「え?わ、私、そんな事してません」
「キリヤ・ザロウが証言している!」
「知らない!知らない!」
「連れて行け!」
喚き散らすシャロン様は衛兵に連れて行かれた。
「バッカス様。あなたにも共謀の嫌疑がかかっておりますのでご同行願います」
「なっ!何故俺が?!」
バッカス様も煩く喚いていたが結局は連れて行かれた。
2人が居なくなった会場内は静まり返っていたが、国王夫妻の登場で何とか場は取り繕われた。
その後、キリヤ様の証言通りシャロン様のお部屋から果実水に入れた物と同じ毒が発見され、その他にも麻薬までもが発見されてしまい、お家はお取り潰しの上財産没収、シャロン様は処刑される事に決まった。
実行犯のキリヤ様も同罪で処刑が決まった。
シャロン様の描いたシナリオでは、婚約破棄に絶望した私が服毒自殺をし、その後シャロン様とバッカス様は愛の力で身分差を押しのけ結ばれるはずだったそうだ。
随分と穴だらけで陳腐なシナリオである。
バッカス様は何も知らなかったらしい。
バッカス様の体内からは麻薬の成分が検出され、中度ではあるが薬物中毒であり、とてもではないが正常な判断が出来ない状態だと診断された。
薬物からの治療の為に療養に入ると御触れが出たが、実際には王宮の外れの塔に監禁され一生出られないそうだ。
私はと言うと、バッカス様と婚約する前に婚約していた隣国の公爵家のご令息であるイブリース・タイロン様に求婚され、再度婚約を結び直した。
「あなたが僕の初恋で、ずっと忘れられなかった」
そう言われて私の胸は早鐘を打ったように高鳴った。
私もイブリース様が初恋だったのだ。
バッカス様との婚約は解消出来ないと諦めていたので封印した想いだった。
私は今、イブリース様の隣で幸せに微笑んでいる。
心から幸せに。
何故婚約破棄の前日に戻れたのかは分からないが、戻れた事に心から感謝している。
そうでなければ掴めなかった幸せが、今ここにあるのだから。