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斎月千早の受難なる日常3

作者: 四月一日八月一日

 プロローグ




 最近、しみじみ思う。私は必ずと言っていいほど事件に巻き込まれてしまう。自分から、危険な事に向かうこともあるけれど。関わったコトが、大きな事件になった事もあるし。平穏な日常って、なんだったのかを考えてしまう。

夏には、似非心霊スポットとして廃病院がネットで拡散。そこには、サイコパスな科学者がいて、野次馬を実験台にしていたり、かつての鉱山の坑道跡に、危険な廃棄物や遺体を捨てていたという件。秋には、本物の心霊スポットなどに行った人達が次々に倒れ、眠り続ける『悪夢病』と呼ばれる症状になり、その根底には、世の中を呪った少女がいた。少女の願いを、日本の地を支える柱に関係する荒ぶる神が聞き入れた事で、呪いが『悪夢病』となった。その神様と『悪夢病』を鎮めるには、大きな賭けだった。失敗すれば、大地震。幸い、神様が私の提案を受け入れ、少女は浄化し、荒ぶる神に名前を付け祀る事で、事件は終息した。私は、大怪我をして死にかけた。

 年明けから、論文や記事を書きながら、ゆっくりと過ごせれるとマイペースな日々を送っていた。この様な日々が続けば良いと思っていたが、その様な思いは、あっさり砕かれた。色々とあって、気付かなかったというのが正しいのか。そこまで、気が回らなかったというか。

 卒論の為に“ある場所”へ、フィールドワークに行ったまま連絡が途絶え、行方不明になっているゼミ生の事だ。二か月以上が過ぎているという。秋から年末年始の忙しさで、私は、そのコトに気付く事は無く、教授も樹高さんと一緒に『悪夢病』の事後処理で各所を廻っていて、気付く事に遅れたという。ゼミの三年生・細川君。『彼』の家族から大学に連絡があり、事務方や警察から教授に改めて連絡があり、そこから、私に話が来た。


 細川君が、フィールドワークへ行った土地には、私も近い内にフィールドワークに行こうと思っていた土地。神隠し・人喰いの伝承がある土地で、それが絡んだ『曰く』がある土地。その様な土地に行き、行方不明に。細川君は、秋葉教授に師事し院へ進むと言っていた。それに、細川君は『視える』人。どちらかというと、私達側の人間だ。だから、家出や失踪では無い。恐らく『曰く』を深追いし、そこにある怪異に捕まってしまったと考えるのが、正しい。そして、もう一件。あるテレビ番組のスタッフがロケハンに行ったまま行方不明になっている。その場所が、細川君が行方不明になった同じ土地。衛星写真に映った山奥の一軒家を取材する番組。で、その土地に行ったのだと。その番組スタッフ四人が、三か月以上も行方不明になっている。もちろん、警察が捜したが、細川君も番組スタッフも発見できず打ち切りになった。テレビ局が、秋葉教授に捜索を依頼し、所用で手の離せない教授が、私に捜索するように言った。何故か樹高さんも、その話を気にしていて、自分の部下を共に行かせるので捜索に行って欲しいという事だった。




   エピソード1 衛星写真に写ったモノ



 行方不明のゼミ生・細川君と、テレビ番組のスタッフ四人。同じ『曰く』がある土地に行ったまま、三か月近く音信不通。警察の捜索も、手掛かりなし。それで、最終的に私のもとへ話が来た。細川君に関しては、教え子にして後輩。だから、無理して捜すのは解る。だけど、番組スタッフは、私が捜さなくても。不満に思っていたら、テレビ局から、行方不明のスタッフに関する資料が届いた。今のところ、細川君は生きている。スタッフの方は、探りにくいが生きている様だ。資料に関しては、細川君が提出していた資料と変わりがない。が、テレビ局から送られてきた資料の中に、衛星写真があった。たまに見るが、田舎の山の中にある一軒屋を訪ねる番組。数枚ある写真を見ていると、ソレがあった。ソノ写真を視た瞬間、猛烈な嫌悪感に襲われて吐きそうになって、過呼吸になる。ソコまでくるのは、久しぶりだ。人間の業・悪意や罪・穢れを極限まで凝縮されたモノ。部屋にいたゼミ生達が、驚いて私を見る。ゼミ生達は、私の事を知っているが、私の反応が今まで以上だったので驚いた様だ。

「大丈夫ですか?」

散乱した資料を拾い集めてくれる。

「あー。これ、ヤバいですね」

と、あの写真を視て言う。

「細川さん、ここへ行ったのかな。先輩、細川さん大丈夫ですよね」

言って、机の上に資料を置いた。

「―生きているよ」

と、しか答えられなかった。

田畑の中にある、小さな山。その頂に大きな家が写っている衛星写真。これに写っている『家』が、手掛かりだ。写真を視た以上、放ってはおけない。

結局、引き受けた。

 今年は、暖冬で雪が降っていない。スキー場は雪不足。その土地は、温暖な地方にあるので雪は無い。雪が無いだけ、マシか。目的の場所は、最近、流行の観光農園があるらしい。今は時季外れで、私達以外に客はいない。もともと、この集落には、古くから『神隠し・人喰い』の伝承がある。その様な伝承は、日本各地にある。地域差はあるけど、ここは多い土地になる。だから、一部のオカルト系UFOマニアの間では、宇宙人の誘拐説を挙げているが、この辺りでのUFO目撃は一切ない。私は、宇宙人存在説は信じるけれど、UFOは信じていない。この土地で、人が行方不明になるのは、昔から伝わっている怪異が関係していると考えている。


 地図を見れば、解る人なら解る様な土地。自然の河だけでなく人工川が、その土地を囲う様に幾つもある。この集落の土地そのものは悪くない。悪い忌地は極一部。あの衛星写真に写っている『山』だ。農業地帯。新しく農業を始める人を迎え入れて少し活気が出はじめている感じの集落。しかし、田舎ならではの新旧の対立もあるようだ。まあ。そういう事は、どこでもある。集落自体、周囲を山々に囲まれている盆地の様な平地の中に、その『山』はポツンとある。集落の中での忌地。あえて、そういう場所を造る事もある。それは、昔からよくある風習。おそらく日本各地にある。

集落を囲む様にある山に、大きな鉄塔が五基ある。

 この集落に来たのは『気になる事がある』と部下・あの時の運転手である風間さんを同行させた。陰陽師で神職だという風間さん。つまり樹高さんは『ヤバい』と踏んでいるという事か。行方不明となった番組スタッフを捜す為に、テレビ局から二人。杉田さんと東本さん。体格大小コンビのような人達。車はテレビ局が出してくれた。私が教授のアシスタントで、オカルト番組に何度か出た事があり、教授に話が来た。教授はソレを私に押し付けたということ。宿は、観光農園にあるホテル。それぞれ部屋に荷物を置くと、調査を始める。風間さんは、おそらく見当をつけているのだろう。私は、山之上の家について、この辺りの神様に聞いて廻る事にした。そういうのは、毎回行っている。まだ、痛む右脚を引き摺りながら、集落の地図を手に宿を出た。

ここから眺めても、忌地なのが解る。問題は『山』だけでなく山頂の『家』だ。その辺りのコトも調べる必要がある。ソレと、人喰いの伝承がどう関係しているのかも、気になる。ここへ来るまでの間、殆ど会話は無かった。まあ、例の事件の論文や記事を書いていて、ろくに寝ていないので、移動中は殆ど眠っていた。

 あの写真を、視た瞬間のコトを思い出す。あらゆる人間の業。罪穢れだけではない。他にもっと業が深く、人間の欲望。それが関係しているのか、何か感じたコトの無い妙なモノを感じる。それが、写真を視た時に視えたモノだ。山の上の家は、大きい。屋敷と言ってもいいかもしれない。衛星写真でも、造りが複雑だった。中庭にも何かあるし、離れもあった。もっと詳しくハッキリした写真があるなら、用意してもらおう。嫌悪していてもダメだ。行方不明の人達は、あの家に関係している。


 真冬にしては、暖かいのは助かる。広がる農地では、春に向けた作業が行われている。晴れていて風がないので良い。田畑の間に道路が通っている。この集落の先には行止まりなので、車通りは無い。人も歩いていない。農地なのに、田畑の神様を祀った祠などが無いのが、少し気になった。昔からの、農業地帯を新しい農業地帯にした際、その様なモノを撤去したまま戻していないのか。そういうのは、寂しい。神社も一つ。お寺も檀家寺ではなくて、密教系の祈祷寺だし。少し変わった集落だと感じる。そんな中で、あの山と家だけは異彩を放っている。手も加えられていない感じ。昔から住んでいる人に、話しを聞きたいが何せ人がいない。たまたま道で会った老人に、この集落の事を聞いたら

「その話はするな。取って喰われてしまう」と、怒られた。つまり、集落の中で、あの『山』の話はタブ―っていう事なのか。歩きながら色々考えているうちに、この集落の土地神様を祀ってある神社に着いた。

 神社は森で囲われていた。昔から、そのまま。開発の手が入っていない証拠。鎮守の森・産土の森だ。この様な場所は好き、あの『山』とは対極的な場所。私は、一礼し鳥居をくぐる。手入れが行き届いている境内。拝殿にお参りしていると、珍しく神様の方から話かけられた。

「そなたら。あの山にある屋敷に行くつもりか?」

―見透かされている。

「人を捜していまして。―あの屋敷には何か?」

「―溢れる前に、絶たねばならぬ」

なんていうか、嫌がっている?

「あの場所が何であるかを知っていて、行くつもりか?」

「集落内の、罪穢れを棄てる為の忌地? それを収める為の家」

私は、ここへ来た理由を説明する。

「あの場所は、ソレだけでは無い。昔から、人を喰う。あの屋敷には、何代にも渡った人間の欲望を溜めこんでいて、ソレから生まれた存在がいる。封じられてはいるが、その力を利用せんとする者の欲望に反応し成長している。ソレが、近づいた人間を喰らっている。アレが解き放たれたら、我では手に負えなくなる。そうすれば、この土地は死んでしまう」

神様が、この様な話をするのは珍しい。ソレ程の存在が、絡んでいるのか?

そして、ソレは人間の欲望で成長し蠢き封印を破ろうとしている。土地神様が恐れる存在って。話に出した以上、私に何とかして欲しいということ。

「解りました。なんとかしてみます。どのみち、人を捜す為に行かなければなりませんし」

と、答えると。

「この土地を護るモノとして、なんとかしたいが。アレは、人間の業や欲望と連動している以上、我にはどうすることも出来ない」

そう言い残し、気配は消える。

土地の神様が、恐れる存在とは? 人間の業・欲望から生まれ連動している? ソレを封じているのが、あの屋敷。ソレが、人喰いや神隠しの伝承にも関係しているのだろうか? あの写真から感じたものが、ソノ存在だとしたら。ソレが封印を破ったなら? 屋敷への捜索は、風間さんと私の二人だけで行った方がいいかもしれない。怪異相手なら、その方が良い。スタッフ二人まで守れる自信は無い。この事は、風間さんにも話しておかないと。


 土地神様の社を後にする。ここ以外に、神社が無いのが不思議。この集落意外には、それなりに古い神社やお寺があったけれど。何処も、ここの集落に関わりたく無い感じを漂わせている。そんな感じだから、力も借りれない。細川君は間違えなく、あの屋敷に行っている。それなりに日数が経っているけれど、生きているのは解る。スタッフの方も存在感は薄いが、生きている様だ。早く発見しないと、手遅れになる。確かに、あの屋敷には、おぞましい妙な気配がある。ソレを、土地神様は恐れている。どうするべきか? 考えても仕方が無い。何時もの直感は、警鐘を激しく鳴らしている。もしかすると、今まで一番ヤバいかもしれない。とぼとぼと歩く。痛みは未だ消えていない。つまり、完全回復していない。良い氣にあたれば、痛みは引くけれど。フィールドワークは、基本歩きだ。それは、道端や田畑の中にある祠などを見落さない為。でも、ここには、その様なモノがまったくない。それに、妙な閉塞感。これは、土地の造りによるものなのか? ソレは、ナニを意味しているのだろう。

そんなことを考えながら歩いていると、前方から車が来て停まった。

「斎月さん、乗っていきますか?」

と、番組スタッフの杉田さんが言った。杉田さんと東本さん二人は、山の上の屋敷について役所などで調べていたという。集落では、失踪したスタッフの事を聞いて回ったけれど、『屋敷』に行ったという情報しか得れなかった。そして、集落の老人達からは「あそこへは、行ってはいけない」と言われた。なるほど、昔から住んでいる人は、恐れているのだ。やはり、この二人を屋敷に連れて行くのは危険だ。

「曰くなんて、信じていない。とにかく、行かないと」

と、妙に力んで杉田さんは言っているが。危険な場所には、違いない。風間さんから、行かない様に伝えてもらえないだろうか。こちら側の人間と、そうでない人間では、感覚や認識が違う。それを伝えるのは、難しい。

 観光農園にある宿に戻ると、先に風間さんが帰って来ていた。

「何か判りましたか?」

物静かな口調で、問う。この口調は、樹高さんと似ている。

「土地神様から、あの屋敷をどうにかしてくれないと、土地が死ぬと言われ、屋敷の中にいる存在を、浄化してくれと頼まれました」

と、伝える。

「それは、かなり難しい。土地神が言うくらいなら、それだけ危険だということですね」

溜息混じりに、言った。風間さんは、解っているのだろう。きっと、私の知らない情報を持っているし、知識も豊富だ。

「あの屋敷には、斎月さんと私で行きます」

風間さんの言葉に、何故か焦る二人。

「何故です? 俺達も行く」

杉田さんが、強い口調で言い

「そうです、行きますよ」

と、東本さんも食らいつく。

「行けば、身の安全も命の保証も出来ませんよ」

風間さんは、淡々と言う。

「それ、どういう意味ですか?」

杉田さんが、問う。

「あの屋敷へ、立入った者は行方不明になる。伝承や地元の人から、人喰いの屋敷と呼ばれています。ここ一年以内で、十人以上は行方不明になっている。もし、その情報が正しければ―という事です」

「知ってます。捜すのも大切だけど、その屋敷を取材しろと言われているんです。出来ないと―」

言って、東本さんは肩を落とす。

―それって、パワハラ? 命の危険がある場所なのに。

私は、風間さんをチラッと見る。すると目が合ってしまった。

「もし、命賭けになっても行きますか?」

風間さんの言葉に、二人は顔を見合わせ俯く。

「どういう意味かしらないけれど。俺は、オカルトなんか信じていない」

デコボコスタッフの背が高く体格のいい杉田さんは、食ってかかった。

「僕も、信じていない。クビになる方が怖い。斎月さんは、あの廃病院事件を調べていたのでしょう? もしかしたら、同じ様にサイコパスな人間がいるだけかもしれません。誰構わず攫って監禁している。そちらの方が、リアルでありそうです」

小柄な東本さんが言う。そういう話では、無いのだけれど。

暫く、沈黙が続く。私としては、二人の面倒までみれない。写真を視た瞬間、自分の身を護る事が、きちんと出来るか不安だったのに。土地神様の話も、考えると、かなり危険だと解る以上は。

「仕方ありませんね。取材したいなら自己責任で。何が起こるか解らない場所ですから」

突き放す様に、風間さんは言った。

「わ、わかった」

ぶっきらぼうに、杉田さんは言った。

「これでも、心霊スポットには、よく取材に行っているし」

東本さんは、強がっていた。オカルト番組のスタッフなのか? そういう人達と一緒に仕事をした事があるが、この二人は知らない。


 夕食の時に、行方不明になっている四人のスタッフが、あの屋敷を取り上げる経緯を2人に問う。

「春くらいだったと、思いますよ。衛星写真に写っている、山の中の家みたいなのを幾つか候補を挙げて、その中から目についた写真を会議に出して決める。そんな感じで何時も決めていたのに。何故か、その屋敷の写真が気になって仕方が無いとかで、決めたとか」

と、東本さん。

「本来は、持ち主に問い合わせてから行くのですが、判らなくて。そのまま現地に行って、聞き込みをしようと。ここの集落で、色々聞いて回ったけれど、持ち主は不明のまま。で、仕方がないから、屋敷まで行ってみようと。その時、地元の老人から止められたけれど、屋敷に向かった。そして、行方不明に」

東本さんは、たどたどしく話す。

―呼ばれたのか?

二人は、もともとオカルト物の番組スタッフで、それなりに『曰く』を知り、取材と捜索を兼ねているだと。最近は、ネット動画のオカルト配信に負けていて、彼等の上司は焦っていると。それに、最近は『本物』を求める傾向にあるし。テレビ番組を、観ないという話もあるから。

―人喰いの屋敷。土地神様も、恐れる存在がいる。

わたしは、ここの土地の伝承と曰くを調べるつもりだった。こんな感じで来るとは、思いもよらなかった。やはり、私も呼ばれたのかもしれない。

私は、タブレットで、この集落を中心とした地域の衛星地図を見る。下調べで気になっていたのが、この集落を囲むようにある五基の鉄塔。それを結ぶと五芒星に見える事。五芒星は結界でもある。考え過ぎかと思い、それを風間さんに聞いてみる。風間さんは、しばし画面を見つめ

「意図的なモノ。私も詳しくはありませんが、屋敷と関係していると。それに、あの山自体が忌地。昔から、その様な場所だったとしか。幾つか気になるコトもあります。ソレを意図的に封じるカタチになっていると。ただ、台風で一基が破損していると、聞いています。人捜しも大切ですが、屋敷を詳しく調査しないといけません」

ちょっと歯切れの悪い返答。私の知らない、何かの情報。その為に動いているのではと、思う。

「それは、樹高さんから?」

「まあ、そうですね。あるスジの行方不明者が多いのが、気になっていると。その人達が、最後に目撃されたのが、この近くの町だった。それが、山の屋敷と関係しているのではと、樹高さんの所に協力要請があり、私が派遣された、ということです」

それって『公安』絡みの事なのか? 公安と護国が、山の屋敷を? 気になる。

「よく、集落に空地や空家を用意して、そこに罪穢れなどを棄てる。あるいは、ソコで封印する手法がありますが、あの山と屋敷は、それを大きくしたモノだと考えています。その、罪穢れが溜り限界を超えて、何かよくない存在が生まれてしまったと、私は考えています」

「確かに。ありえなくはないです。でも、気付いているのでしょう?」

さりげなく、風間さんが問う。風間さんも、感じているのか。私は、頷く。スタッフ二人は、私達の会話が理解出来ないのか、お互い気まずそうに顔を見合わせていた。

「罪穢れから生まれた存在だけでなく、別に人を喰う存在もいる。昔から、住んでいる人は、薄々知っている。だから、近づかない。それは、この辺り一帯の町とかも同じ。だから、怖くて捜索が出来ない」

風間さんは、淡々と言った。

 屋敷のある山は、盆地の中に一つだけある山。あの廃病院も、丘の上にあり、周囲には用水路が張り巡らされていた。水路は境界を示す。目に見えるカタチにし、境界という結界にした。水路の向こう側は、別の世界という意味もある。山を中心に、幾つもの水路がある。衛星地図を見ると山は、水路で幾重にも囲われている様に見える。家と呼ぶより、屋敷と呼んだ方がいいほど立派な造り。拡大してみると、中庭を囲む様な回廊と離れの様な建物もある。中庭の中にも、建物がある様に見える。そして、屋敷を囲う様に生垣がある。そこまでする必要がある理由は、なんだ。―なにを、封じているんだ。

土地神様も、恐れる存在。人の欲望が生み出した存在だというが。罪穢れだけでは、ないのか? もともと、あの山に在った存在と住民との間で、なにか『契約』みたいな事があったのか? 推測は、私には合わない。やはり、現地に行って確かめる方が、確実だ。向こう見ずな行動と言われ、叱られるけれど、私には、そちらの方が合っている。


 山の屋敷に向かうのは、明日の朝。それまでに出来る事は、しておこう。御護りとして身に付けている勾玉とも、長い付き合いになる。身代護符も何枚費やした事か。そこまでする理由を聞かれても、まだ答えは解らない。カミやモノと人間の在り方の答えを、見つけるまでは。

写真を元に、屋敷の見取り図を描いてみる。遠視をしてみても、ナニかに邪魔をされて視えにくい。玄関・土間・箱段に、中庭の望む回廊へ続く短い廊下。中庭から離れに続く廊下は闇が濃く、意識を集中すれば気分が悪くなる。中庭の建物には、何かの気配。他にも屋敷からは、嫌悪するような気配が蠢いていた。それらの気配の正体は、探れない。これ以上、探りを入れると気力を害う。現場で、視れば良いか。土地神様も、恐れている存在と離れの気配。中庭の建物の気配は、罪穢れの塊なのかもしれないが。



 翌朝、山の屋敷へ車で向かう。その道のりは、幾つかの橋を渡る。屋敷までは車で行けない。でも、途中まではアスファルトが敷かれていた。その先は、砂利道。車が一台停められる、スペースがある。そこに、車を停めて歩いていく。ここまで整えられているのは、今も、罪穢れを棄てに来ているのだろう。スタッフの二人は、車から取材用の器材を降ろしている。それを担いで、山道を登って行く。風間さんは、黙ったまま。私は、映像や写真を撮るのなら、それを論文などに使わせて貰えないだろうかと、考えていた。道が整えられているのは、風習が続いている。屋敷を、恐れながらも。

―田舎の成金。その様な言葉が、浮かぶ。凄い田舎なのに、豪邸。憑物を利用財を成す。でも、この辺りには、憑物の伝承は無い。三人の後を歩いていると、ある物が目に入った。茂みの中に、石垣がある。それは、城の石垣みたいだった。木々が茂っているから、全貌までは判らない。石垣を見ていると、風間さんが来た。

「この石垣、何時の時代の物だと思いますか?」

風間さんに問うと、風間さんは、石垣を一通り見て触れる。

「造り方と風化具合からして―専門ではありませんが、城というより、戦国時代の砦とかのようです。山の上ですし」

と、答え

「とりあえず。屋敷まで行きましょう」

風間さんは、歩き出す。私は、その後に続く。山道を進みむにつれて、嫌な気配は強くなる。空気が重い。それに、妙な視線も無数に感じる。山道を登り切った頂、生垣に囲われた立派な屋敷が建っていた。それは、つい最近、改築したかの様にキレイだった。

 冬なのに、生垣は青々としている。柊で生垣は造られている。柊は、あの時の林を思い出す。ここは、やはりナニかを封印しているのか? 生きた人間の気配は、私達以外には無い。あるのは、嫌な気配ばかりだ。それに気付く事の無い、スタッフ二人が羨ましく思える。

「持ち主不明って、聞いていたけど、コレ、リフォームしたてみたいだな」

杉田さんが言いながら、カメラを片手に持つ。

「入れるのかな?」

東本さんが、古民家風の玄関扉に手をかけて、動かした。扉は、すんなり開いた。日が差し込んだ廊下は、キレイに磨きあげられていた。

「鍵、かけてないって、田舎だな」

入ろうとした、杉田さんを風間さんが止めた。そして、風間さんは、手で印を結んで何か呪文の様なモノを唱えた。

「中では、何が起こるか解りませんから、気を付けて」

と、先頭に立ち中へ入る。それに、二人が続き、私は最後に入った。玄関に入った途端、空気が違う。気を抜くと吐き気を催す様な空気。腐臭に似ている。ここは別の領域だ。―屋敷に立ち入ったら、戻れない。閉塞感と圧迫感。おそらく、そういうコトなのだろう。そう考えていると、触れてもいない玄関扉が、勝手に閉まった。

「え?」

驚いて、東本さんは振り返る。

「風じゃあないのか?」

杉田さんが言う。玄関は引戸だ、風で閉まるワケが無い。杉田さんは、玄関扉に手をかけた。

「な、なんで開かないんだよ!」

杉田さんは、力一杯、扉を引いたり叩いたりする。

「閉じ込められましたか。―ここにいても、仕方がありません。中へ入って、手掛かりを探しましょう」

風間さんは言って、少し考えた様にし、土足のまま箱段を上がり廊下へ向かった。私も、それに続く。キレイに見えているだけで、実体は怪しい。もしもの時、靴を履いている方が安全だし。

「ま、待ってください」

東本さんは、慌てて付いて来る。その後から、カメラを手にした杉田さんが続いた。

 廊下の左側には、小さな客間があった。畳敷きで手入れが行き届いている。埃一つ無い。今、見ているモノが真実とは限らないけど。廊下を、そのまま進むと中庭の回廊。右手側には、台所などの水回りがある。中庭に面したガラス戸は、古民家にあるようなネジの鍵。窓からは、眩しい光が入って来ている。中庭は、小さな日本庭園。その中には、鳥居と社がある。何を祀っているのかが判れば、屋敷の意味も解るかもしれない。風間さんが、ガラス戸を調べる。やはり、開かない。

「嘘だろ」

杉田さんは、カメラ片手に、ガンガンとガラス戸を叩く。音はするけれど、ガラス戸は壁の様に、まったく動かない。

「どうすれば」

東本さんは、カメラを持ったまま半泣き。私は、スマホを取り出す。

「やっぱり、圏外か」

屋敷へ入る前は、電波は届いていた。スタッフ二人も、スマホを見る。同じく圏外。私は、手を握り力を込める。そして、掌を開くと掌に向かい、思いっ切り息を吹きかけた。

「式神ですか?」

風間さんが問う。

「はい。ここが、幽世みたいな空間なら、私レベルの式は出る事が出来ずに、同じ空間の何処かに落ちている。もし、外に出ているなら、ここは完全な幽世ではないから、出口があるはず」

「なるほど」

頷く、風間さん。

「何の話をしているんだ? カクリヨって、何だ?」

杉田さんが割って入る。オカルト番組のスタッフと言っていたくせに、無知だ。

「幽世とは、現実とは別の世界空間。行方不明や神隠しは、別世界や空間に迷い込んだ、そして閉じ込められたという話です」

簡単に、風間さんが説明した。でも、二人は、いまいち解っていない。

「え、それってヤバじゃん」

東本さんは、言う。だから「来るな」と、始めに忠告していたのに。

「ここで、立っていても時間の無駄です。何か、手掛かりを探しましょう」

風間さんが、そう言った時だった。回廊の先、離れに続く廊下の奥から、ナニかの気配がこちらを伺っているのに気が付いた。今の所、敵意は無いが嫌な気配には違いない。不服そうな二人は、そのままカメラを回している。嫌な気配がいる廊下とは反対側から、中庭の向こう側へと回廊を回る。襖を開くと、そこは十畳以上あるような広い仏間だった。ここも、埃などがなく手入れされている感じがする。造り着けの大きな仏壇―仏壇の様な祭壇がある。遺影も位牌も無いので、これは仏壇ではない。何かの祭壇。なんとなく、大陸系の祭壇。

ここも幽世で、幻に近いモノなのかもしれない。妙に、リアルなのが気になる。

―マヨヒガ。ふと、そんな考えが浮かんだ。

風間さんは、躊躇う事なく祭壇を触って調べている。すると、祭壇の引き出しの様な場所から、紙の束が出てきた。風間さんは、ソレを広げた。屋敷の図面と、何かの記録の様だった。

「忌地にて、罪穢れを棄て、間引きの時も山に棄て、閏年おきに封印を強め家への立入りを禁ず。念に一度、壺に罪穢れを―」

その先は、朽ちていて読めなかった。屋敷の見取り図には、細かい書き込みがたくさんあった。

「本物のようですね。おそらく、ここは現世と重なっている」

風間さんには、私には視えていないナニかが視えている。スッタフ二人は、仏間の中を撮影している。私は、覚書と思われる文章を読んでいて、その中にある言葉を見つけて、吐きそうになった。強烈な人間の業と欲望に悪意。

「―大丈夫ですか?」

風間さんが、背中を摩ってくれる。何事かと、スタッフ二人が来る。私は、震える指で、その『言葉』を指した。風間さんが、息を飲んだのが分った。

「キンサン、金蚕って、アレですよね?」

風間さんに問うと、彼は相槌を打った。

「もし、この覚書が真実なら、この屋敷は危険極まりないです」

と、大きく息を吐いた。




  エピソード2  マヨヒガと金蚕



 金蚕蟲というのは、蠱毒という古代中国に存在し現在も残っている呪術。呪術によって作られた蚕に似た蟲を、金蚕と呼ぶ。その金蚕に贄を与える事によって財をなす。捧げる贄が多い程、贄の能力が高い程、手に入れる財は大きくなる。しかし、贄を切らせば、呪術者は身を滅ぼすとか。それが、ここで行われているというのか。もし、そうだとしたら、ここは呪術の中心で内部? 嫌な考えが浮かんだ。

「斎月さん。今は、ここが何であるかを、突き止めるのが先。幽世・マヨヒガである以上、迷いを抱くと危険です。この屋敷が、マヨヒガなら特に。とりあえず、離れの方から感じる、妙な気配を調べに行きましょう」

風間さんは、紙の束を鞄にしまって立ち上がった。

 風間さんを先頭に、間に二人、最後を私が歩く。回廊を離れに向かって歩く。スマホは圏外のまま。飛ばした式神も、何処へ行ったのか判らない。中庭から差し込む光は、本物なのだろうか。手入れの行き届いた中庭は、綺麗だ。でも、よく見ると、季節外れの花が咲いている。それに、季節感を無視したような植栽。幽世・マヨヒガの幻か。だとすると、中庭の社は何を祀ったモノだろうか? 疑問ばかり出てくる。これを学術的に解釈するのは、無理だ。こちらの中庭からは、悪いモノは感じないが―。東本さんは、カメラで中庭を移しているけれど、マヨヒガはカメラに映るのかが謎だ。

「話には聞きますが、実際、体験すると不思議ですね」

中庭を見て、風間さんは言った。そんな回廊を左手に曲がると、暗い廊下が離れへと続いている。その先は、闇に視えた。二人は、ビクビクしながらもカメラを回している。廊下の奥、突き当りの闇の中に扉があった。妙な気配は、その奥から。それに他にも気配があった。よく解らなく気持ちの悪い小さいけど無数にある気配と、人間らしい気配。ライトを使わないと、暗すぎて何も視えない。風間さんが、ライトを燈す。二人は、カメラを暗視モードに切り替えたりバッテリーを入れ替えたりしていた。撮影用のヘッドライトを被り、二人は息を整えた。辺りが明るくなると、この場所が他の場所とは違って、古ぼけているのが判った。扉も古い木戸だし、床も古い木の板。扉の前に、注連縄が下がっていた。その注連縄は、どちらの意味だろう。

「先へ、行きますか?」

確認するかの様に、風間さんが問う。私が頷くと、風間さんは扉に向かって、なにかの呪文を唱えると、木戸に手をかけ一気に開いた。闇の中から、閉ざされていた空間特有の、カビ臭さが漂ってくる。その先に、色々な気配が蠢いている。ライトの光以外、光が無い。窓がまったくない部屋。部屋というより、入り組んだ通路だった。人一人が通れるほどしかない幅。その通路を進んでいく。入り組んだ通路。これは、封じたいモノを封じる手法だ。進むにつれて、気配は強くなっていく。今の所、こちらに対する悪意は感じられないが。嫌な気配は無数に蠢いている。如何するべきか? 考えていると、風間さんが足を止めた。その先には、注連縄と下へ向かう階段があった。無数に蠢く気配。

ふと、蠱毒の蟲達が浮かんだ。虫が苦手でなくて、良かった。

「斎月さん。恐らく、この先は」

ちらっと私を見る。風間さんには、どの様に視え感じているのだろうか。

風間さんは、再び何かの呪文を唱えると、ライトの光度を強くして階段を降りて行く。その後を、スタッフ二人、私が降りていく。階段を降りるにつれて、気配は強くなってきた。

 階段を降りた先は、板張りの床で踏むと耳障りな音がする。地下なのか別空間なのかが、解らない。ライトで辺りを照らすと、広い部屋だと判る。その部屋の中に、幾つかの気配がある。ライトで照らした闇の中に、何かが見えた。妙な気配は、その辺りから。ゆっくり近付くと、小さな祭壇の様な上に古い大きな壺が一つ、置かれていた。その周囲は、注連縄で囲い封じていた。

―壺。本当に、蠱毒なのか?

スタッフ二人が、カメラを手に近付いてくる。

「近付かないでください」

強い口調で、風間さんは二人を制した。二人は、慌てて立ち止まる。私は、部屋に隅をライトで照らす。すると、四方にお札が張ってある。その壁の一か所に注連縄が吊るされている。結界なのか。

―あれ?

注連縄が吊るされている場所へいく、そこには扉があった。その扉の手前の私が放った式神が落ちていた。式神は、私が扉に触れると消えた。

―探しものは、この先に。と、いうことなのか?

私に気付いた風間さんが、

「行きましょう。式が示したのなら、何か手がかりがあるはず。それに、この部屋に長居をするのは―」

その瞬間、ザワッとする。あの妙な気配が強くなる。

「早く!」

風間さんが、言って扉と開く。スタッフ二人も気配を感じたのか、血相を変えて、こちらへと来た。扉から、隣の部屋に入り、後手に扉を閉めた。

 扉のこちら側は、土間で古めかしい場所だった。あの気配は、こちら側には来れないのか。隣の部屋で、蠢いていた蟲と思われる小さな無数の気配は、相変わらずだ。この部屋も闇の中。ライトで部屋の中を照らしながら歩く。この部屋で行止まりかと思う程、何もない。土間と木と土壁の日本家屋。式神は、この部屋を示した。私は、その部屋の中央に立ち、内と外に集中し探る。蠢く無数の蟲と、弱いが生きた人間の気配。その一つは、知った気配。

―この近くに、いる。

私は、壁に触れながら部屋の中を歩く。すると、一か所だけ違う造りになっている場所を見つけた。そこを押すと、その先に、もう一つ部屋があった。

風間さんと二人が、駆け寄って来る。ライトで照らすと、その部屋は座敷牢みたいだった。ライトで更に奥を照らすと、格子戸の中に横たわっている人の姿が見えた。

「いました」

私が言うと、駆け寄って来る。風間さんと、スタッフ二人で格子戸を壊し、三人を確認する。

「細川君」

私は、グッタリしている後輩を、揺する。弱っているが息は、しっかりしている。他の二人は、行方不明になっているテレビ局のスタッフだった。意識は、かろうじてあるものの、動けそうにない。

「私が背負います」

言って、風間さんは細川君を担いだ。スタッフ二人も、倒れている二人を背負う。

「他の人は?」

東本さんが、言った。

「いません。今は、この人達を連れて戻る事です」

風間さんの言葉に、仕方なく二人は頷き歩き出す。

 その部屋を出て、来た順路を辿り戻る。あの壺の部屋に入ると、邪魔をするかの様に、あの妙な気配の主が姿を現していた。―コイツは、おそらく使い魔的な存在?

「昔から、ここにいたモノではなく、蠱毒から生まれたモノだろう」

風間さんは、小さく舌打ちをした。

―仕方が無い。倒したり封じたりは出来なくても、皆を脱出させる時間稼ぎくらいは出来る。

「風間さん。皆を、お願いします。先に行って下さい」

私が、そう言うと、風間さんは難しい顔をして

「―解りました。気を付けて」

少し笑って言い、呪文を呟きながら、スタッフを連れ早足で階段へと向かう。それを阻もうと、使い魔は動く。行方不明者は、呪術に利用する為に意図的に誘い込んだのか? 私は、階段と壺の間に立つ。使い魔の背後に無数の蟲が視える。やはり、そうなのか。でも、金蚕は何処にもいない。別の場所にいるのか? こういうものを相手にするのは、久しぶりだ。私の力では、一時的な足止めしか出来ないだろう。散らしたり滅したりするのは、無理だろう。この場合、根源を絶たない限り。私は、呼吸を整えると、迫り来るソイツに向かい、ありったけの気力を込めた、九字切を飛ばした。ソイツは、部屋の中央の壺のところまで、吹っ飛んだ。そこに、九字印を結んで結界を作った。そして、私は、風間さん達を追いながら、所々に結界印を作りながら、入り組んだ通路の部屋を出た。光が眩しかった。部屋の外で待っていた、風間さんが、ホッとした顔を見せると、その扉に大きく強い結界を張った。

 光に慣れ、改めて辺りを見回すと、そこは、先程までとは違い、古めかしい日本家屋だった。朽ちてはいないが、ボロボロ。廃墟廃屋の様だった。造りは同じようだけど。

「現世の方ですね。とりあえず、出ましょう」

と、風間さん。歩くと床から、バキバキと音がする。玄関扉は、歪んでいて開けるのに、かなりの力で抉じ開けた。外に出る、生垣の外まで振り返る事無く歩く。生垣の外側、屋敷の敷地を出てから、屋敷を見た。来た時は、キレイだったが、今は廃屋みたいになっていた。スマホを見ると、しっかりと電波は届いていた。この廃屋が、現実世界の屋敷の姿か。

「マヨヒガ。吉兆の方では無く、悪い意味のマヨヒガでしょうね」

溜息混じりに、風間さんは言った。


 その後、細川君とテレビ番組のスタッフ二人を、病院に運んだ。あと数日、発見が遅かったら危なかったと言われた。まだ、残りのスタッフや、同時期に行方不明になっている人達は、見つかっていない。杉田さんと東本さんには、調査から外れてもらい、東京へ帰ってもらった。怪異に耐性が無い以上、関わらせるのは危険だという事と、樹高さんがテレビ局に圧力を掛けたのかもしれない。残りの人を捜すのも、そうだけれど、蠱毒の術者を捜さないといけない。無数の蟲の中に、一瞬だけど、大きな金色のイモムシみたいなモノが視えた。おそらく、ソレが金蚕だろう。呪術は、私の専門外だけれど関わっている以上、この件は解決しないと、終わらないだろう。



     2


 三人を病院に運んだ後、風間さんは、何処かに電話をしていた。私も、教授と編集長に連絡を入れておく。まだ見つかっていない、スタッフ二人と他の行方不明者も発見出来ていない。マヨヒガ的な屋敷と、蠱毒の関係も気になるし。なにより『金蚕』の事もある。しばらく、この辺りを調査する方がいいのかもしれない。土地神様の話に出てくる、存在も。とりあえず、細川君達の回復を待ってから、話しを聞いてみるか。その事を、教授に話したら「その方が良い」の事だった。教授は、自分の仕事が片付いたので、ここへ来ると。風間さんの方も、三人に話を聞きたいらしい。杉田さんと東田さんは、深入りさせないためと怪異に関わらせるのは、危険なので帰らしたし。風間さんと一緒に、教授達が来るまでの間、この辺りを調べ直す事にした。この集落は『町』となっているが、小さな役所があるだけで公共施設は、役所の隣にある小さな建物に、診療所と図書室がある他、地元のスーパーがある。土地の資料を調べるにも、古い資料は残されていなかった。行方不明だった人が、山の屋敷から発見された事は、昔から住んでいる老人達を、驚かせた。それゆえに、怯えているのか話すら聞けなくなってしまった。

 細川君達は、極度の衰弱以外、外傷は無く、念の為、風間さんが御祓いをした。行方不明になって、三か月程。なぜ、あの屋敷の地下、座敷牢にいたのか? そもそも、飲まず食わずで、三か月も生きていられるのか? その事を、一円兄ちゃんに尋ねるメールをしておいた。何か、その様なコトに詳しいのも、一円兄ちゃんの分野だ。本当は、一円兄ちゃんの病院で診てもらいたかったのだけど、動かせれる体力が無いので回復を待って、一円兄ちゃんの病院に移す事も、伝えておいた。一円兄ちゃんから、返信を待つ間、集落周辺の町で情報を集める事にした。手掛かりは、ほぼ無い。気力を消耗するのであまり、式神や透視はしたくなかったが、手掛かりを探すには、一か八か式神を使って探した方が、当たりを付けやすい。今日は、どの辺りに行くのか、宿の前で、風間さんと話す。

「闇雲に、動くと逆効果になりそうですね」

と、紙の地図を車のボンネットに広げて、言う。その地図には、陰陽道で使う方位などが書き込まれていた。

「上手くいくかは、解りませんが、式を使ってみます」

そう言うと、

「それでは、私も式を使ってみます。その式達が示した方向へ行く事にしましょう」

風間さんと私は、ほぼ同時に、探し物系の式神を飛ばした。式が飛んでいく方向を、じっと見つめる。二つの式は、同じ方向、東北の方角に飛んで行った。

「あの方向なら、C市辺りでしょうか?」

風間さんに、問う。

「そうですね。行ってみましょう」

私達は、A市で借りたレンタカーで、C市を目指した。集落は、どんよりとした空気に覆われている。天気のせいなのか、または別の理由からなのか。食品や製薬系企業が、最近、農業に進出している事から、農家とは別に専用の機械で、農地作業をしている。忌地である、あの山が無ければ、ここの空気は、もっと良いはず。いや逆に、忌地があるから、ここは別の意味で安定しているのか。田畑以外、何も無い。初夏にでもなれば、一面緑色になって綺麗なのかもしれない。そんな事を考えながら、窓の外を見ていた。もし夏なら、かつての佐山の様な場所なのだろう。車は、河に架かる橋を渡る。橋を渡り隣のC市に入ると、妙な空気は普通の空気に変わる。

 C市にはいると、少し賑わいがある。活気こそ無いが、集落と比べると明るい。ここにある図書館や資料館などは、風間さんが調べていた。なのに、式はどうして、ここを示したのだろう。式の気配を辿りながら、移動する。すると、式の気配は、商店街の辺りから漂ってきていた。風間さんも、解っているのか、車を駐車場に停める。

「この辺りの、何処かでしょう」

二人で、人気の少ないアーケードの中を歩いて行く。シャッター商店街、生活必需品系の店以外は、閉まっている。式を探しながら歩いていると、路地裏へ続く通路の中央に、二つの式神が落ちていた。その通路から、路地裏へ。すると、そこには、古ぼけた小さな古書店があった。式が示したのは、ここか。

「古書店なら、もしかしたら、地元に伝わる話を書きまとめた本が、あるかもしれませんね。郷土史家とか」

風間さんに、意見を求めた。

「盲点と言えば、そうなります。でも、小さい店ですが、量は多い。手分けして探しましょう」

と、二人して店に入る。


 古い紙の臭いと、微かなカビ臭さ。薄暗い店内。レジカウンターは年代物。そこに座っている老婆が、チラリと私達を見た。年代物の古書。一般的なリサイクルな中古本とは、違っている。戦前以前に出版された本が並んでいたり、積まれていたりしている。個人的に、来たい古書店だ。店内を見ても、私達以外に客はいない。狭い店内なのに、膨大な量の古書がある。買い手はいるのか?

どちらかといえば、マニア向け。そんな感じ。量が量なので、無理がありそうだし時間も掛かる。疲れるけれど、仕方が無い。山の屋敷と似た氣を、書物の中にないか探してみる事にした。あの山自体の気配と、屋敷の気配を思い出し、店内を探る。極僅かな気配、店の一番奥の隅から感じた。そこは、ボロボロの古文書が無造作に置かれていた。分類すらされていない、色褪せていて古めかしい臭い。本の綴じ方からして、昭和以前の書物ばかりある。文芸物では無い。覚書をまとめて綴じた物や、当時の時事本など。その中に、気配があった。ソレを手に取る。表紙はボロボロだったけれど中は、そうでもない。ただ古文書特有の臭いと色褪せ。時代は、文字からして大正時代位か。中身は―苦手だ。地図と見取図の様な物から、あの山と集落の事が書いてあると思うが、私は、くずし文字や変体仮名は苦手だ。だから、古文書の解読には、何時も時間が掛かってしまう。他にも何かないか探したが、コレ以外は見つからなかった。私は、風間さんの所へ行った。

「見つかりましたか?」

私は、古文書を渡す。

「おそらく、あの集落についての記録だと思うのですが」

風間さんは、古文書を捲りながら頷く。

「そうですね。他には?」

「それだけです」

と、答える。さすがに、苦手なので変わりに訳してくださいとは、言いにくい。

「出来れば、あの屋敷に関する、呪物の記録などを記した書も欲しかった」

残念そうに、呟いた。風間さんは、古地図を見つけていた。私の見つけた古文書と共に買う。他に探し回る必要は無くなったので、そのまま宿に戻る。その帰路で、編集長から呪術に詳しい人が、ここへ来るかもしれないと連絡があった。そして、病院からは、三人の状態が安定し話せるまで回復したと、連絡が来た。私は、古文書の文字が苦手な事を風間さんに伝え、翻訳をお願いした。風間さんは、少し笑っていたが引き受けてくれたので、私は病院に向かう事にした。


 A市にある、市民病院。この辺りでは一番大きな総合病院。私は、とりあえず細川君から、話しを聞く事にした。彼は、ベッドに横になっていて、点滴をぶら下げていた。昨日から、普通食が食べれるようになったというので、コンビニプリンを差し入れると、嬉しそうにしていた。それ以上に、私の顔を見て、ホッとした感じを受けた。秋葉ゼミは『本物の怪異』を追う。それでまさか、本当に本物に遭遇してしまうとは、思ってはいなかったのだろうか。現実の時間と、あの空間の時間の関係に関しては、一円兄ちゃんに任せるとして、何があったのかを、彼から聞き出さなければならない。

 細川君の話によれば、秋に、この土地へ来た。集落で話を聞いて回っても、昔から住んでいる人達からは口を揃えて

「あの山に近付くな。特に山頂の屋敷には、絶対」と言われた。

「行ったら、家に喰われる」と、殆どの人が言ったと。もともと、神隠しと人喰いの伝承を調べに来た。その事を何人もの老人に話して、ようやく聞き出した話が。

―昔、罪人や疫病に罹った人を、山の上の家に閉じ込めていた。また、精神に異常をきたした者や、ヒルコを家に閉じ込めて、ろくに世話もせずに見殺し状態だった。その事から、怨念が山の家に近付いた生者を喰う様になった、という話だった。

「行くな」と、念を押されたが、どうしても行きたくなり行ったと。長い間、空家で手入れもされていないと聞かされていたが、行ってみると、新築みたいな立派な日本家屋だった。不思議に思った。マヨヒガの伝承を思い出し、何か関係があるのかと、中へと入った。鍵は、鍵はかかっていなかった。内部は、趣のある日本家屋だったと。

―マヨヒガは、人によって見え方が違うというのは、本当なのかな。

私達が見た屋敷と、細川君の話の屋敷は、違っている。それで、屋敷の中を調べていると、いつの間にか屋敷の構造が変わっていき、出れない迷路の様になっていったと。スマホも圏外、窓を割ろうと何度も為したけれど、割れなかった。色々と試しているうちに、気を失い、再び気が付いたら病院だったと。

「三ヶ月近くも、行方不明だったんですか? 僕」

細川君は、信じられないという顔をする。

「おそらく、幽世に迷い込んだのかもしれないよ。現に私達も、迷い込んでしまったし。そこで、あなた達を見つけた。あの屋敷の中は、幽世・異界の様な空間で、所々で現世と重なっていて、繋がっている感じ」

私が、屋敷で体験した事を、説明する。

「そうですか。それは、テレビ局の人達も同じだったのですか?」

「回復はしているけれど、テレビ局の人は細川君より長い時間、あの空間にいたから、もう少し先かな。細川君は、何か気になった事は思い当たる?」

そう聞くと、細川君は難しそうな顔をして

「無数の蟲に食べられる夢を、ずっと見ていました。アレ、あの蟲って、蠱毒に使う蟲みたいで、なんていうのか、あの屋敷全体がイメージ的に、蠱毒の壺みたいな感じ」

彼の言葉に、嫌な汗が背中をつたう。

―屋敷が、蠱毒の壺?

その言葉が、引っ掛かる。もう一つ、問わなければ。

「思い出したくないと、思うけれど。聞いていい?」

「なんですか?」

「蟲の中に、黄色・金色のイモムシ・蚕みたいなモノは、いなかった?」

「金色イモムシ、蚕、それって……」

その先を言おうとして、口を噤む。細川君は、呪術ヲタク。その意味を知っていて、口にしたくは無いのか。それほどまでに、あの呪術は。

「風間さんが、祓ってくれたから大丈夫だから、言うけれど。あの場所で、何者かが蠱毒を行っている。―金蚕蟲を。おそらく、あの屋敷へ行って行方不明になった人は、金蚕の餌にされた」

その言葉に、細川君は吐きそうにする。

「ヤバすぎじゃあないですか。僕、呪術ヲタクだけど、方法とかを読んで楽しむだけで、実際、行おうとは思いませんよ。それに、蟲の餌になるなんて、最悪です。あの夢みたいに、蟲に喰われるなんて。誰です、そんな事しているのは?」

思ったより、元気だ。これならもう、大丈夫だ。細川君は、私が持ってきたプリンを食べる。

「卒論。どうしよう」

と、洩らす。

「体験したコトを書けばいい。教授なら、それでOKを出すと思う。でもそれは『裏』のモノになる」

私が言うと

「本物を追うっていうのは、本当に命懸けなんですね」

苦笑いをする。

 細川君は、大丈夫そうなので宿へと戻り、古文書の翻訳をやっている風間さんに、細川君の事を伝えないと。テレビ局の二人も、もう少し回復したら話を聞かないと。病院を出ると、小雪が舞っていた。私は、宿へと戻る。レンタカー、車を使った方が広範囲の調査は、効率が良いけれど、私には向かない気がする。

 集落へ入ると、やはり空気が違っていて重い。元凶を絶たなければいけない。教授と樹高さんも同意し、同じ目的になった。この後、合流する事になっている。それに、専門ではないけれど、蠱毒の呪術が暴走しかけているのも気がかり。樹高さんが、何処まで情報を押さえられるかが、ポイントになるだろう。これ以上、行方不明になり、金蚕の餌になる人を増やしてはいけない。

宿に戻った頃、一円兄ちゃんからの返信が届いていた。

『発見された人を、診ていないから詳しくは言えないけれど。彼等の情報を読む限り、三ヶ月以上も行方不明で命に別状は無い。でも、その間、何も口にしていない。普通なら死んでいる。考えの一つとして、現実と見つかった部屋とでは、時間の流れが異なっていた。千早ちゃんが言っていた、マヨヒガ、そこでの時間経過が、一週間程だったとしたら、ありえるかもしれない。神隠しにあって、何年も経つけれど、その時の姿のまま見つかるという。話を聞くと、その人にとっては数日っていう話。それだね。そういう人を、実際、自分で診てみたい。現実世界と幽世の時間の流れが、人間の身体や精神に与える影響を調べてみたい。追加、情報よろしく』

なんとも、一円兄ちゃんらしい。現世と幽世の時間の流れの違い。これは、量子学で議論出来る内容でもある。本人に対する時間経過が、一週間程だったから、命は助かったと考えれば良いのか?

 ホテルにある、カフェで一人、お茶を飲みながら、考えていた。

細川君も、時間経過が麻痺していたようだし。こういうモノに対しての直感は、働かない。もう少し、神隠しや幽世に付いて調べ直した方が良いのかもしれないが。それよりも、ソコに蠱毒が関係している方が気がかりだ。蠱毒なんかは、樹高さん達や、教授の方が詳しい。徐々に空気が、澱み始めているのは、蠱毒が暴走し始めているせいなのか、それとも屋敷にいる存在のせいなのか? ソレらは、もしかしたら同一なのかもしれないという、嫌な考えも出てきた。

色々と、考えていると、風間さんが、資料の束を持ってやって来た。

「簡単に、まとめてみました。細川さん達の方は?」

言って、向かいの席に座る。

「細川君には、話しを聞く事が出来たけれど、テレビ局の二人は、回復するのには、もう少しかかりそうです。細川君が言うには、体感的に一週間程だと感じていたそうです。現世と幽世では、時間の流れが違っていたと考えられます。そうでなければ、三人とも命は無かったかもしれません」

「神隠しにある伝承のパターンですか……良いのか悪いのか」

風間さんは、溜息を吐く。

「―あの山と屋敷の事が、書かれていましたが、これしか資料が無いのでこれを信じるしかない。書かれている内容も、確かめなくてなりません。その辺りの事は、現地で調べる必要があるかと」

風間さんは、資料を広げる。そこには、屋敷のマヨヒガで手に入れた覚書もあった。その資料によると

『この土地は、山と河の間にある半ば閉ざされた土地。でも、土地自体は豊かだったので、集落が出来た。周囲を山に囲まれていることで、澱みが生れやすかった。集落の中に、一つだけ孤立した小さな山があり、その山に色々と棄てる事になっていた。山には洞窟があり、それは地中へと続いていた。民は、小さな壺に、一年の罪穢れを封じて、その洞窟の奥へと壺を棄てていた。ある時、その洞窟へ出入する穴が崩れた。地中に、罪穢れを棄てられなくなり、集落に厄災が起る。人々は、山の上から穴を掘り洞窟へと繋げた。そして、そこからまた、壺を棄てる習慣が再開した。そして、山頂に家を建てると、そこに罪人や疫病の者を閉じ込める事にした。壺は、家からも棄てれる様になっていた。山の家には、罪穢れや家に閉じ込められ死んだ者達の念が渦巻き、集落へ災いを起した。そこで、始めの家を囲む様に増築して別の家を建てるコトで封印しようとした。それでも、家に近付く者に厄災があり、立入りを禁じた。それでも、時折、興味本意で家に立ち入った者が出る。その者の殆どが、行方不明になった。それが、何度もあり、人喰いの家として恐れられ、集落では忌地とし、禁足地としている』

古書店で、入手した古文書に書かれていた内容。それ自体は、何処にでもありそうな云われだ。

「その洞窟、探した方がいいですかね?」

「はい。あと、あの屋敷で本当に蠱毒が行われているのかを、突き止めないと。うっかりしていると、こちらまで喰われかねない」

妙に深刻な顔をして、風間さんは答えた。そこまで、深刻な状態なのか? 私は、呪術は基本的な知識以外、よく解らない。解る者からすれば、深刻な事態なのかもしれない。

 教授達と合流するまでの間、その洞窟を探す事にした。壺に関しては、この辺りに、その様な陶芸文化は無いので保留。

「壺に穢れを封じるコトは、平安時代の宮中で行われていたモノ。都から離れた、この様な小さな集落で、行われていたという事は、もしかしたら、その酔うな術に使う壺を、この辺りで造っていたとしても不思議でもありませんが。その様な、歴史的資料は見つからなかったし。単に発掘されていないか、また別の土地から流れてきたのか。気になりますが、先に洞窟を見つけて、棄てられている壺などを見つけて鑑定するのも、ありですが」

私達は、あの山にある洞窟を探す事にした。あの石垣が、関係していそうな気がした。城後などの石垣なら史跡として、地図に載っていてもいいが、載っいない以上、違うものだろう。

「あの石垣、何か関係していると思いますか?」

問い掛けると

「それも含めて、調べましょう。二人が来るのは、明後日ですし」

そう決まれば、ピンポイントで石垣の処を調べる事に。あの屋敷に入らずに調べる方法を、取らなければ。


 翌朝、風間さんと私は、石垣のあった場所へ向かった。あの辺りまでは、手入れがされていた。ということは、今でも使われている事だ。石垣があるのは、ここだけ。風間さんと左右に別れて、石垣に沿って調べていく。茂みがあるが、冬枯れの木々を折りながら進む。夏は無理だ。この山は、あの廃病院の丘より二回り程の大きさ。石垣は、山の中腹辺りにあるのか。戦国時代の石垣には、抜け道があるというし。有名な城には、公開はされていないが抜道がある。罪穢れをイメージしながら、石垣に触れながら歩く。洞窟の地中に澱んでいる罪穢れを探る。月爪大地水神の様な洞窟とは、また違う。天然の洞窟を利用したもの。そのイメージを持ったまま石垣に触れると、ソコだけ他の場所と違った造りになっていた。

私は、石垣に沿って来たけれど、藪の中に細い道があった。人が通った道だと判る。私は、石垣の一部を叩く。明らかに他の場所とは違う音。中が空洞な音。漆喰で出来た蔵の様な感じ。念入りに調べてみると、そこは扉だった。忍者屋敷みたいな隠し扉、石垣そっくりに扉を造る理由が謎だった。私は、風間さんに連絡する。念の為、ライトとマスクを用意して来て良かった。私が通って来た場所を風間さんが、やってくる。扉と藪の中の道を見て、溜息。

「今も、行われているようですね」

と、不機嫌そうに言った。集落の人は、山と屋敷の意味と理由を知っていて、本当のコトを話さなかった。話したくない、負の場所なのだろう。

扉は、あっけなく開いた。人が出入りしている形跡がある。それでも、中の空気は澱んでいた。酸素は大丈夫。変なガスも出ていない。洞窟などに入る時は、必ず計器でチェックする様にと、水谷教授に言われた。星来村の件があるからだ。扉から入ってすぐ、石垣をくり抜いた手掘りの空間があり、道が奥へと続いていた。そこを、少し進むと井戸の様な物がある。その井戸の様な物がある空間の先に、手掘りの細い道が奥へと続いている。井戸の様な物を覗き中を照らすと、そこには無数の小さな壺が捨てられていた。

「今は、ここから棄てている。それじゃあ、あの道を奥まで行けば……」

細い通路の奥に、ライトを向ける。

「調べるのは、二人が着いてからにしましょう」

風間さんが、私を制した。それが、正しいだろう。二人ずつ二手に別れて探す方が、リスクは少ない。壺に封じる呪いは、今も続いている。それが、確認出来たから、今日は、よしとしよう。

樹高さんと教授が合流したら、洞窟を調べる。それから、蠱毒の主を捜さないと。現世と幽世の間、そして、ソレが重なる場があるのは何故だろう? ソノ事は今は、考えない方がいいのかもしれない。この件と違うかもしれないけれど、意外と神隠しみたいなモノは、身近にあったりするものだ。

 宿に戻って来た時、病院から、テレビ番組のスタッフに話を聞いても大丈夫になったと連絡があったので、そのまま病院へ向かった。

細川君より、スタッフ二人は、やつれていた。先に行方不明になったのは彼等。この二人も、杉田さんと東本さんの様に、デコボココンビだった。大きい方を松野さん、細い方が小村さん。二人は、ナニかに怯えている様に見えた。細川君と同じ、無数の蟲に喰われる夢をずっと見ていた。話によると

―空家だと聞いていたけど、とりあえず屋敷に行った。その屋敷は、古民家風の旅館に見えたのだという。中へ入ると、玄関が消えてしまった。中を探索して回っていると、宴会場の様な広間に、たった今、出来上がった料理を、人数分並べてあった。それを見た、松野さんと小村さんは嫌な予感がしたと。他の二人は、その料理に目を奪われていた。松野さんと小村さんは、そんなモノより、屋敷から出る方法を探そうと提案したけど、二人は料理を食べてしまった。そこから、先の記憶が無い。ただ、無数の蟲に喰われる夢を見ていて、気付いたら病院で、四ヶ月も過ぎていたという事に、驚いたと。

―マヨヒガの、もてなし料理。でも、アレは良い意味でのマヨヒガでは無い。マヨヒガ的なモノを利用したモノなら、料理は罠だ。そして、黄泉戸喫。あの世の食べ物を食べてしまうと、もう生者の世界・現世には戻れない。その考えからすると、その二人はもう―

この件は、私が考えている以上ヤバく根深い。これは、樹高さん達の仕事だ。ここまで関わってしまっている以上、私もまた蠱毒の中に入り込んでいる。病院からの帰り、まだ見つかっていない二人や他の行方不明者について、風間さんと話す。

「マヨヒガ的なのは、間違いないでしょう。もてなし料理は罠。もしくは、あの屋敷自体も蠱毒に関わる罠なのかもしれない。おそらく、残りの二人を含めた人達は、もう」

風間さんとは、ほほ同じ考え。風間さんは、生真面目で冷めた感じがあるので、やりにくい。自分から殆ど、意見を言わず相槌を打つタイプ。もう少し、意見を言ってくれてもいいのに。と、助手席で私は内心、思っていた。


 日本各地に伝わる、神隠し・人喰い・マヨヒガの伝承。それらが、ここの集落に集中していたから、そのうち調査するつもりだった。それが、この様なカタチで関わるコトになるとは、思いもよらなかった。その様な伝承を戦前までまとめた古い論文を読んで、謎を求めるつもりだった。一般的な神隠しやマヨヒガでは、なかった。でも、人喰いだけは『ある意味』本当だった。マヨヒガなども、東北地方などに伝わる吉兆のモノとは別モノ。禍々しい蠱毒が絡んでいる。そう、金蚕蟲だ。もともと山には洞窟があり、人々は罪穢れを壺に封じて、洞窟から地の底へと棄てていた。洞窟の入り口が崩壊した後も、別の入り口を掘って今も尚、行われている。山の上にある屋敷は、もとは集落での罪人や疫病に罹った者達を、棄てていた。それらに関わっている負の感情が、空間を歪ませて現世と幽世を繋げてしまい、負のマヨヒガになってしまった。それが、人喰い伝承の始りなのか。そして、屋敷の特性に目を付けた者が、蠱毒を行う場所とした。金蚕蟲を行うには最適だと気付いたのだろう。あの屋敷、マヨヒガで出された食べ物や飲み物を口にすると、ソレは黄泉戸喫と同じで、それは贄を集める罠。土地神様が恐れているのは、おそらく蠱毒から生まれたナニかだ。その術者を追わなければ。このまま、放っておけば、間違いなく呪術は暴走し、手が付けられなくなるだろう。

    2


 翌昼になり、樹高さんと秋葉教授が来た。あと一人、知らない人。どちらの知り合いだろう、テレビ局の人ではなさそうだ。視線に気付いたのか

「編集長に言われて、来たの。左京よ。私も、こちら側の人間。ここの件を記事にするのと、呪術の主を見つける為に、二人に頼んで連れて来てもらった。よろしく、千早ちゃん」

ニコニコ顔で言う。彼? 彼女は、私の事を知っているらしい。

「どちらでもいいよ」

そう言って、笑った。あーそうなのか。彼女でいいか。左京さんは、編集部の記者の一人で、人喰い屋敷と蠱毒との関係を記事にすると言っているが。それだけなのか? 編集長が人を寄越すと言っていたのは、左京さんの事だったのか。揃ったところで、情報を話し合う事にした。

「土地神様が、あの屋敷にいる蠱毒などから生まれた存在を恐れている。それが、解き放たれたなら、この土地が穢れて死んでしまうと懸念していた。それに、細川君達は、夢の中で無数の蟲に喰われる夢を見ていた。余り時間が無い様に思えるのですが?」

私の考えを伝える。

「蠱毒と金蚕蟲に関しては、まず間違いありません。何者かが、屋敷の特性を利用して行っているのは事実。現世と幽世が重なりあっているのは、場が不安定だからだと考えています。マヨヒガ的な閉ざされた場でなら、蠱毒はもってこいだろうし」

風間さんは、資料を広げる。そこには、あの覚書も。

「二つの世が重なる場所か。この覚書の方は、戦中から戦後の物の様だな」

教授は、屋敷から持ち帰った覚書を手に取り、じっくり見ていた。

「現役の場所。しかも、不安定感が伝わってくるのは、暴走しているのか、術者の力量不足か、結界が綻んでいるか」

樹高さんが、言って大きな溜息を吐いた。

コトはヤバいのか。行方不明者捜しから、蠱毒金蚕の術者捜しに至るとは。でもまだ、封じに使っていた壺について調べていない。壺を棄てていた洞窟もだ。それに屋敷。あの屋敷を『物理的』に調べる必要がある。気になる中庭に、どう行けばいいかだ。

「屋敷の中は、幽世。あるいは、マヨヒガ的な空間。そちら側を調べても意味は無い。地下の部屋も気になる。そこは、現世だったのですか?」

樹高さんが問う。

「おそらく、二つの接点。直感を信じるなら現世です」

私は、答えた。

「それじゃあ、そこが蠱毒の現場?」

と、左京さん。

「おそらく。だけど、屋敷の中から行けるとは限らない。常にカタチを変えるマヨヒガ的空間ですから」

風間さんは、言う。

「術者が関係しているなら、意図的に操作されている可能性もあるが。不安定な感じからすると、蠱毒自体の呪術ではなく、金蚕の持ち主の可能性がある。行方不明者が見つからないのと、無数の蟲に喰われる夢は、つまり金蚕の餌にされているからだ。屋敷は、金蚕の餌集めの為の物と考えれば、なんとなく辻褄が合う。金蚕を養うには、それなりの餌が必要だからな」

珍しく教授が、冷淡な口調で言う。それに、樹高さん達も頷く。

もしかして、この件の要は『金蚕』と、その主? なんだか、教授の雰囲気からして、売られたケンカを買いに来たって感じがする。

教授が感情を表に出すのは、珍しい。今回の件で、何かあったのか。教授は基本的に無関心なタイプ。でも、妙なコトに対して感情的になる。十年近い師弟関係だけど、謎だ。左京さんは、資料を読んでいる。編集部の人と、仕事をするのは、始めてだ。仕事―記事に出来るコトなら、むしろ調査と蠱毒の主を見つけるのが、目的なのだけど。樹高さんと教授には、こまめに情報を送っていたし、編集長にも、それなりに情報を送り、持っている情報を求めていたのだけど。情報の代わりに、左京さんを送り込んだのか。

「左京さんって、編集部で何を担当していたのですか?」

「ああ、専門記事は呪術系。あと『本物』の心霊スポットやパワースポットの発掘ね。まあ、スポット発掘担当は、もう一人いるけれど、その人も私も『悪夢病』になってしまって。あの事件を解決するなんて、凄いね」

と、左京さん。私は、苦笑いをするしかなかった。

「―まあ、雑談はおいておき。調べるなら、その罪穢れを封じた壺を棄てていた洞窟を調べて、ナニか澱みが溜まってバケモノ化しているのなら、ソイツを祓い浄化させれば、屋敷への干渉は無くなる筈だし、屋敷も少しは安定するのではと、思っているんだけれど」

左京さんは、自信ありげに言う。

「いや、屋敷の方にも、幽閉されて放置されて死んだ、病人やヒルコに、罪人の怨念が蠢いている。やるなら、両方を浄化させないと。でも、洞窟は調べるべきだな。崩れた穴に変わる穴を掘ってまで、使い続けていたのだから。そして、ソレは今も続いている。そして、集落の人は知っていて『近づくな』と告げた。その意味を、考えれば、気がかりだ」

教授が言う。屋敷と洞窟、両方は連動していて、ソレがマヨヒガ化を招いた?そして、蠱毒使われて、ソコは不安定になった? かなり複雑な状況か。

「では、先に洞窟の調査から。出入口に一人、奥まで行くのは三人、途中に一人と別れて行こう。出入口は、私が見張りましょう」

樹高さんが、言った。

「斎月と左京は、私と洞窟の奥まで」

教授は、風間さんを見て言った。風間さんは、無言で頷く。

 洞窟の調査と言っても、洞窟にバケモノがいるなら、祓って浄化させないといけない。罪穢れは、不浄なるモノ。今回は、力を借りれる神様はいない。何時も、力を借りるのは、錦原女神や波果神に水龍。でも、何時までも頼っていてはいけない。そう決めたから。人の不浄、何時から溜まっているのか解らないけれど。あの嫌な空間、不浄を圧縮したモノだと考えると、自信を無くす。


 翌朝、冬の曇天が広がっていた。真冬らしい、冷たく強い風が吹いていた。山の途中まで車で行き、石垣に隠される様にある扉へ向かう。本当は、藪の中の道も調べるべきだけど、今回は見送る。扉の処に、樹高さんが立つ。もしもの時の為と、他の人の立入りを阻むため。井戸の様な穴がある空間を通り過ぎ、細い手掘りの通路を通って、崩れた穴からの道と交わる点に、風間さんが立つ。そこから、自然に出来た洞窟内の通路を地中へと進む。通路の両側には、無数の小さな壺が積み上げられている。何時の時代から、積み上げられているのだろうか。教授と左京さんは、それを写真に撮っている。私は、澱んだ空気で、そんな余裕は無かった。何処からか、冷たい空気が流れて来ている。狭いが頑丈そうな洞窟。下の方、地の底から、嫌な気配が蠢いているのを感じる。

「嫌な、モノがいる」

左京さんが言う。こちら側の人間というのは、本当だ。あの編集部には、何人、こちら側の人間がいるのだろう。まあ、いいか。その様な人間は、生きにくい。その様な力は無いけれど、その様なセカイが好きなオカルトヲタクがいるので、私達の様な仕事は成立している。最近になって、そういう考え方もあると思える様になった。先頭を行く教授は、前方をライトで照らしながら、空気を計器でチェックしている。進むにつれて、嫌な気配は濃くなっていく。

人間の負の感情が、塊となって蠢いている様な。これが、罪穢れから生まれた存在なのか? 教授が、足を止める。ライトを強めて周辺を照らすと、そこには、掌サイズの壺が崩れてこない様に、板で囲っていた。土埃や蜘蛛の巣からすると、古い時代の物だと判る。戦前の物だろう。ぎっしり積み上げられている。手前の方は、乱雑に積まれていたけれど、この辺りからは塚の様に、積み上げられていた。崩れて通路が塞がらない様に、板で固定している。それは、奥へと続いている。二人は、また写真に収めている。進むにつれて、気分が悪くなる。物理的な空気の悪さではない。所謂、霊的なモノ。私は、ソレに圧倒されて気分が悪くなっていた。罪穢れは本来、海や河に流す。禊祓が、そうだ。名越の祓えとかも。罪穢れは、海の彼方へと流すモノなのだから。でも、ここは閉ざされた空間。もし、ここを黄泉に見立てていたのなら、解らなくもないけれど。溜りに溜まった罪穢れは、外へと出て害をなす。それを、山頂に家を建てて、生きた人間で押さえていたとすれば、罪人や疫病の人間は、生きた重石だったのかもしれない。でも、それが仇となった。怨念が生まれた。そして、地中のモノと共鳴しているとしたら。そして、負のマヨヒガが生まれ、ソレを利用とした蠱毒が行われ、土地神様が恐れるモノが、生まれた。

 やがて、洞窟の底に行き止まる。そこには、無数の壺が、たくさんの塚を造っていた。その塚も、板で支えている。崩れてきそうなので、これ以上近づけない。

「凄いな。何時から、始って続いているのか」

驚きを隠し切れないと、いった感じの教授。あの石垣が、戦国時代だとしたら、その頃には、既に行われていたのだろう。

「キモい。封印した壺は、機能していないから、漏れ出しているよ」

左京さんは、大きな溜息を吐きながらも、きちんと写真に収めている。

―こんなモノ、浄化させるのは無理だ。地下だから、尚更。私が今まで相手にしてきたのは『神様』に関係するモノだ。これは、人間そのものだ。せめて、ここに、きちんと神様が祀られていて信仰されていたのなら、神様の力を借りれた。いや、神様がいないから、抑えられていないのか。

「大丈夫か、斎月」

教授の声で、我に返る。

「無理です。せめて、外なら、なんとかなりますが、こんな閉ざされ何百年も積もり積もったモノなんか、私では無理」

ソイツが、洞窟の無いで蠢いているのが解る。それだけで、気分が悪くなってしまう。祓詞なんか、効きそうにない。消滅させるなんて、無理がある。壺を全て微塵にするか? 封印されて無いし、逆に壺が憑代になっている感じもある。私は、カミとモノとの間に立つ者でありたいけれど。コレは、違う。ヤバいと無理だという事しか、頭にない。

「―さすがに、無理か」

教授は、溜息混じりに言った。

「私が、なんとかしましょうか?」

左京さんが、言った。

「専門じゃあないけれど、散らすコトは出来る。散ったら、きっと屋敷へ向かう。ここに、戻って来れない様に結界を張れば、こちらは安定すると、思うけれど。千早ちゃん、結界は張れるよね?」

言って、左京さんは一歩前に出る。呪文、祝詞とも経と、も違う詞を唱え、法具の様な物を、塚の様に積み上がった壺を目掛けて投げた。ザワッと、風の様なモノが洞窟内に起こり、嫌な気の塊が霧散していく。

「千早ちゃん。結界」

左京さんに言われ、私は結界を張る。

「戻るぞ」

教授の言葉と共に、私達は、急ぎ足で地上へ向かう。途中で、風間さんと合流する。

「散らしたのですか?」

淡々とした中に、驚きがあった。

「はい。ここにも、結界を張り封じます」

と、左京さん。頷く風間さんと伴に、洞窟を出て扉を閉める。そして、左京さんは、お札を張る。それを見た樹高さんは、自分が持っていた札に、息を吹きかけて張った。目隠しの札? あえて、地元民を近づけさせないつもりだ。洞窟内で、左京さんの散らした塊は、霧の様になって屋敷へ消えていった。その巨大さに、唖然としてしまった。

「ここからが、本番になりそうですね」

それを見ていた、樹高さんが言った。

 私達は、そのまま、屋敷へ向かう。あの生垣から向こうは、おそらくマヨヒガの影響を受ける。風間さんと私は、二回目。屋敷の中へ消えて行った、罪穢れは、今のところ変化は出ていない。

「左京さんって、退魔師なのですか?」

「いや、真似事だよ。本物なら、多分、滅せったはず。私の知識と力量では、散らすのが精一杯」

クスッと笑って、答えるけれど、それなりの腕前だと思う。

「樹高さんなら、如何しました?」

興味本意で、問う。

「同じですよ。私は、均衡を保つ者ですから」

はぐらかす様に、答えた。

「屋敷の外観は、出た時のままですね」

風間さんが言う。屋敷は、細川君達を救出した時の、廃屋みたいな外観で立っている。初めて来た時は、リフォームした古民家の様だったけれど。つまり、今は、マヨヒガとして機能していない?

私達は、顔を見合わせると、生垣を越えた。

外観に変化は無い。でも、内部は。あの、蠱毒の壺と思われる部屋と、地下の座敷牢の様な部屋も、今も存在しているのだろうか。

「これといって、変化はありませんね。あの、妙な気配も、今は感じませんし」

辺りを見回し、風間さんは言った。言われてみれば、そうだ。アレは、幽世の中にいたのか。そして、ソレは、現世に出ては来れない? あの膨大な、罪穢れは、ここに入ったのに気配が無い。二つの世が、重なる場。

「屋敷の中は、ヤバそうだから、外側から中庭に入れそうな場所は無いのか?」

教授が言う。

「ないです。確かに中庭ある様ですが、そもそも“中庭”では、ないのかもしれませんし」

私は、答える。マヨヒガの中から見ていた中庭は、季節を無視した花が咲いていた。細川君達を救出した後、ごく普通の庭になっていた。いや、見る余裕なんてなかったのに、如何してそう思ったのか? 思い込みなのか。

「でも、衛星写真には、中庭と、そこには建物も写っていたよね。さすがに、アレは幻では無いと思うし、何処か壊して入るとか?」

左京さんが言う。壊すと、別の意味でもヤバそうなんだけど。

「そうだな。玄関扉を外して、現世から結界を作り、マヨヒガ化するのを防ぎながら回廊へ行き、ガラス戸を外す。そこにも、結界を作る。術者がプロではなく、ただの金目当てで金蚕に手を出したバカなら、それでも行けると思うが」

教授も、物理的な手段を挙げるのか。

ふと、思ったけど。術者がプロなら、逃がす事は無いと思う。それに、こちら側の人間の方が、金蚕の贄に向いているし。対象が、カミやモノを探る時にしか使っていなかったけれど、その対象を術者にしてみて、探りをいれてみるのはどうだろう。人間の業は、苦手だけど。試してみる価値は、ある。廃屋に意識を集中させる。視えてくるのは、無数の蟲と人の欲望。それに、ここで死んだ怨念。あの罪穢れは、感じない。もっと深く探りを入れると、妙な気配と罪穢れが混ざりあっている。その妙な気配も、おそらく蠱毒が関係している。土地神様が、恐れている存在。カミは、罪穢れを嫌う。それとは、少し意味が違う。掴めそうで掴めない、もっと深く、より深く意識を集中させる。すると、何処かで見た事のある、男の顔が一瞬、浮かんで背後に金色のイモムシみたいなモノが視えた。

「イゼエ ナツフミ」

その言葉と共に、私は、その場で吐き戻してしまい、激しい立眩みで座り込んでしまった。

―無理しすぎた? いや、あてられたか……。

四人が、何か言っているのは、分ったが、ソレが何かは、理解出来ず、意識は、闇に沈んだ。

―アイツは。急成長している、IT企業の? 学生ベンチャーとかで、もてはやされていた。何故、その人の顔と金蚕が浮かんだのか? ソイツが、金蚕の主なのか? 今まで、この方法で、外した事は無いから、そうなんだろう。


 気が付くと、病院だった。左京さんが、付き添っていてくれていた。私が、目を覚ましたのに気付くと、教授達を呼んできた。

「お前、暴走してたぞ」

教授が、珍しく、叱った。

「そうですよ、斎月さん。深入りしては、逆効果です」

困った顔をして、風間さんが言った。

「千早ちゃんが、ジャジャ馬なのは、編集部でも有名だけど、無謀だよ」

編集部での、私の評判って何なんだ? 自分でも無理をし過ぎたのは、解る。脱力感が、半端なかった。

「斎月さん、イゼエナツフミと、言いましたよね?」

黙っていた樹高さんが、問う。

「そう。最近、なんか、話題になっている、何処かの若社長」

思い出そうとすると、吐き気がする。つまり、ソイツが黒幕。大きな溜息が、二つ聞こえた。樹高さんと、教授。

「なるほど」

小さく、樹高さんが呟いた。

「最近は、ネットでも、呪物が取引されているからねー」

左京さんは、意味深げに言った。


 私は、翌朝には退院出来た。細川君とスッタフ二人は、一円兄ちゃんの病院に移る事になった。一円兄ちゃんは、そういう症例のプロだし、この辺りに置いているより、遠ざけている方が安心だ。黒幕だと思われる、人物に至った事で、樹高さんは公安として動くのか、それとも護国として動くのかが、少し気になった。まだ、アイツには気付かれていない。もし、プロ中のプロの術者なら、私は返り討ちにあって、深手を負っていただろう。

 イゼエナツフミ・井是栄夏史。ここ一年程で、急成長したIT系のベンチャー企業の社長。学生時にノリで起業したらしい。そういう学生は、十年前から何人もいたけれど、殆どが挫折した。そんな中で、井是栄だけが、やり手でマスコミを賑わせていた。そう言う事に興味が無いので、詳しくないけど、名前だけなら聞いた事はある。ネットで調べて、そういう人物だと始めて知った。

ITサービスを中心にしていたが、流行の仮想通貨に手を出したところ、ブームに乗り当てたという。そこから、急激に井是栄の会社は大きくなった。そして、バラエティー番組などにも出る様になった、タレント社長として有名。年齢は、三十代。数年前には、誰も知らない様な小さな会社。それが、急に世間に名前を轟かした。その陰に、金蚕があるとしたら。それに、例のサイトによると、井是栄の回りでは変死者が多いとあった。蠱毒を使って、邪魔者を呪殺しているとしたら。最近は、ネットでも呪物が買えると、左京さんが言っていたのを思いだす。ネットで? あの屋敷を利用するコトも、ネットで情報を見つけたのか? 金蚕は、嫁金蚕をしないと、身を滅ぼすという。金蚕は、人から人に渡る呪物。井是栄は、嫁金蚕を拾ったのか、知らずに譲り受けたのか? 後者なら、前の持ち主は何者だろうか? 屋敷は昔から、蠱毒が行われていて、金蚕とも繋がっている。持ち主が判らないのは、何度も持ち主が変わっているからだろう。ソレは何回も嫁金蚕されて、金蚕は巨大な存在になっている。暴走しかけているというのは、人の欲望を喰って巨大になった。蠱毒の蟲達も、無数に増えている。私の、思い過ごしだといいが。

 私は、宿の部屋で、ボーっとしながら考えていた。今回は、人の業だ。それは、土地神様が恐れる存在を生み出している。無数の蟲と、金蚕。五基の鉄塔で結界を張っていたのなら、少なくても行政の中に、屋敷の存在と危険性を知っている者がいる。知っていて、手を出せないでいる。蠱毒の蟲と金蚕が屋敷にいて、行方不明者が出ているのも、知っているのだ。恐らく、樹高さんは知っていたから、来たんだ。井是栄は、金蚕が如何いうモノか知っていて、持っているのか? だから、変死者が出ているのか。人の欲望を喰い、最大まで巨大化した金蚕。それを、井是栄がコントロール出来るとは思えない。これは、私の推測。でも、もっと詳しい情報を、樹高さんと教授は知っている。細川君達は、巻き込まれた。他の行方不明者も、同じく。その人達は、生きてはいない。私は、ここで、この件から降りたかった。でも「私達」も、既に蠱毒の中に入り込み過ぎている。呪術は専門外。対処のしかたは基本的な事しか、解らない。でも、自分の欲望の為に他人の命を蔑ろにするのは、赦せない。出来るなら、私は、ソイツを殴りたい。

 そんなコトを考えていたら、左京さんが、夕食の時間だと呼びに来た。研修部では、会った事はない。左京さんは、編集長から、よく私の話を聞かされていて、一度、会ってみたかったらしい。

「明日、梯子を使って、外側から中庭に入れるか、試してみましょう」

樹高さんが言う。

「井是栄は?」

私が問う。例のサイトには、まだ蠱毒の情報は出ていない。ただ、井是栄が、この辺り一帯を買収し、メガソーラー発電所を計画しているとは、載っていたが。ここに、時々来ているとしたら?

「井是栄は、専門家に任せます。蠱毒の現場は、屋敷。でも、金蚕は、本人が手元に置いていると思いますが」

樹高さんは、答えた。

「ところで、斎月、大丈夫なのか?」

教授が問う。

「平気です。土地神様にも、頼まれていますし。もし本当に、井是栄が黒幕なら、ぶん殴りたい気分です」

あの顔を思い浮かべると、無性に苛立ちを覚え腹が立つ。これは、直感だ。

「―とりあえず、大丈夫そうだな」

教授が、笑った。


 翌朝。空は、どんよりとしている。空気に澱みを感じるのは、私だけ? 梯子を車に積み、屋敷へと向かう。このウラで、樹高さんの関係者が、井是栄を見張っているのだろう。屋敷に変化は、無かった。張った結界がまだ効いているのか、それとも、別の理由で一時的に『力』を失っているのか。梯子を玄関の横にかける。念の為、玄関は開いておく。廃屋同然なので、屋根を踏み貫かない様に気を付けながら、もう一つの梯子を中庭に降ろす。中庭は、25メートルプール程。小さな日本庭園だ。手入れはされていない。小さな池には、ほとんど水が無い。そんな中に、古ぼけた鳥居と、中庭の三分の一を占める社、というか小屋。それも、ボロボロだった。目的は、その小屋。おそらく、そこが罪人や疫病の人、ヒルコを閉じ込めていた場所。風間さんと左京さんが、屋根の上で見張りをする。マヨヒガ化した屋敷の中から見た中庭は、綺麗な庭園だったのに。荒れ放題の庭だった。良い意味のマヨヒガには、まだ出会っていない。幽世みたいな空間には、よく入り込んでしまうのに。中庭には、腐臭が漂っている感じがした。死穢の気配。恐らく、ここは集落における、負の歴史。その小屋は、朽ちるにまかせるといった感じ。もう長い間、手入れすらされていない。この中庭に、立入った形跡も無かった。小屋を見ていると、地下にあった壺を思い出す。関係性があるのか? 教授が、バールで小屋の扉を強引に開ける。ベキベキと音を立てて木屑が落ちていく。開くと同時に、カビと腐臭が漂ってくる。小屋自体は、土蔵に近い造り。中は、土間と木の床。ボロ布や埃塗れの食器が転がっている。生活感の残っている廃屋みたいで、嫌な感じ。ライトで中を照らす。囲炉裏とかはあるのに、窓は無かった。小屋の中は、大丈夫そうなので、入って調べる。小屋の中を調べて回る。土間の一か所に木の扉があった。そこを開くと、地下へと降りる階段があった。そこを降りると、座敷牢の様な部屋が幾つかあり、その中も生活感が残っていた。ある場所で、教授が足を止めて、一点をライトで照らした。地下の土間に掘られた穴、そこに、無数の骨があった。

「酷いな」

教授が、顔を歪めて呟いた。骨の主は、罪人や病人などだろう。まともに、弔う事もされず、ただ穴の中に棄てられる。その無念。罪穢れを封じた壺を棄てていた洞窟、罪人や疫病、ヒルコを幽閉した小屋。それらが生み出した『負』を恐れた、集落の人は、小屋を中心に家を増築し屋敷の様な構造になった。封じ込めれたと思っていたが、ソレは逆効果で、封印の中で『負』は濃縮された。ソレを屋敷に封じるだけでは、押さえれなくなり、水路を造り人工川を造り、そして、結界の意味を持たせる鉄塔まで建てた。おそらく、周辺を含めた役人などは、知っていたのだ。この山が屋敷が、ある意味の流刑地みたいな事を。その地下の部屋、骨が捨てられている穴の向こう側に、小さな戸があるのが分った。その戸には、古びた札が張ってあった。何が書いていたのかは、もう解らない。その向こうから、あの妙な気配がする。もしかすると、あの部屋に繋がっているのか。そう考えていると、樹高さんと教授が来た。

「相変わらず、何でも見つけるな」

教授が言う。

「多分、この向こうに、壺が安置されていた部屋があります。妙な気配も、あの時と同じですし」

私は言った。自分では、その戸には触りたくない。樹高さんと教授は、顔を見合わせると、戸を押し開いた。おもった通り『あの』部屋へ繋がっていた。あの時と同じまま、部屋の中央に壺が安置されていた。

「これは……」

樹高さんの声色が変わる。明らかに動揺している。私には、ただ、すごくヤバい物にしか視えないし感じない。何が、視えているのだろう。

「凄いな、何十年・百年以上の物か?」

さすがの教授も息を飲む。年代物の呪物って、何だ?

「噂は、本当だったのか。マズイな、コレは現役だ。先日の結界が、まだ効力を残しているから、まだ―」

と言って、私が張った結界の上から、強い結界を樹高さんは造り直した。プロは違う、そう思う。だからといって、その力が欲しいとは思わない。欲しいなら、知識だ。

「樹高さんも、教授も、ここで蠱毒が行われていた事を知っていたのですか?」

「―ええ。その様な場所は、全国各地にありますから。でも、ここは、その中でも危険。おそらく、戦前から使われていた。あの洞窟内にある、罪穢れを封じた壺も、呪具として利用していたのかもしれません。ここなら、力が無くても、基本的な知識があれば使える、そういう場所。来てみて、正解です」

「そんなコトが行われている土地は、穢れて作物などが育たないのでは?」

「この山が、ある意味特殊。閉ざされた土地だから、集落には害は及ばない。昔から、その仕組みを知っていて人々は、忌地として罪穢れを棄てていた。そこに、誰かが目を付けたのが、蠱毒の始り」

樹高さんは、説明してくれた。

「でも、まさか現役で稼働しているとは」

教授は言い、壺を見た。私も壺へと視線を向ける。実体は無いが、無数の蟲が壺の中で蠢いていて、溢れ出ようとしていた。

「結界としての鉄塔を、今、急いで修復しています。大きく強い結界が発動すれば、攻撃に使われる蟲を完全に封じるコトが出来ます。それに、マヨヒガ化と誘い込む力も封じるコトが出来るでしょう。そうすれば、土地神の力も少しは、強まる」

樹高さんは、部屋の中を歩きながら言う。それは、結界を張る呪法。

「でも、金蚕がいない」

「井是栄が、持っているのだろう。何処で誰から、手に入れたかは知らんが。ここの事は知っているみたいだが。おそらく、奴は、自己流。会社の急成長は、金蚕の力。奴の回りで変死した人間が多いのは、金蚕の餌にでもしたのだろう。そういう奴は、気に入らん」

と、教授。何も知らされていなかったのは、私だけ?

「ですね。その金蚕が、百年以上受け継がれてきたモノなら、限界まで育っている。誰かが、意図的にソノ金蚕を井是栄に渡した可能性も高い。でも、その渡した本人は、逃げ切れたと思っただろうけど、生きてはいないでしょう」

深い溜息を吐いて、樹高さんは言った。

―ドロドロの人間の業。考えるだけで、吐き気がする。

「ここを封印すれば、金蚕の餌は減る。蠱毒の壺を滅し、洞窟内の罪穢れを浄化したら、力ある神を勧請して抑えるのがいいかもしれません。ここは、一度、東京に戻って、作戦を立て直した方が良いでしょう」

樹高さんは、何故か私に向かって言う。

「お前、自分で思っている以上に、ボロボロだぞ。氣枯れだ、それは『ケ・ガレ』穢れだ」

教授が、言う。かなり強い口調だった。自分では、そんなつもりは、ないのに。

「とにかく、その案で進めます。勧請する神様は、斎月さんが決めてください」

樹高さんの言葉に、私は、渋々、頷いた。

 私達が、小屋から出て来ると、左京さんが屋根の上から手を振った。梯子を登って、反対側・外側へ。生垣を出ると、空気が少しだけ軽くなった。生垣の外から、樹高さんと風間さんで結界を張る。光る二重のドーム型の様に視えた。


 私達は、東京へ戻る事にした。山と屋敷の監視が必要だと言い、樹高さんの部下達に任せる事になり、入れ替わる様に彼等が来たら戻る。私は、土地神様の社を訪れて、経緯を説明した。土地神様は、大きな力はないけれど、この辺りの土地を護る事と、全てが上手くいくように祈ってくれた。この件は、人の業。その中心に、金蚕を持っている井是栄がいる。呪術絡みは、樹高さん達の仕事。私には無理だ。テレビ局のスタッフ二人と、他の行方不明者は生きてはいない。すでに、金蚕の餌になってしまったのだろう。戻ったら、一通りまとめて、論文や記事の基にする。気力と体力が回復したら、私は協力してくれる神様を探し、個人的に井是栄を探るつもりだ。テレビ局に圧力をかけたのか、放送される事は無い。それにまだ、例のサイトにも、詳しくは載っていない。何処かで、情報が押さえられている感じがした。

 先に帰した、細川君達の体調を気になるけれど、一円兄ちゃんが診てくれるのなら、大丈夫だし。念の為に、樹高さんが造った護符を持たせている。回復しつつある細川君からは、参加したいと言ってきたが、ソコは教授が駄目出しした。

 帰京の車中、左京さんが

「私の家系は、憑物落しや呪物などの保管と管理などをしているの。そういったモノが、金になると知ったというか、ネットの噂を元に、そういう輩が封印していた呪物などを、盗まれた。色々、呪術絡みの事件を追って、回収をしているのだけど、難しいわ。今回も、うちの物が絡んでいるかもしれないと、無理を言って、参入したけど、ハズレだったわ」

と、溜息混じりに話す。

「でも、本物の金蚕の実物を見てみたい。でも、感じからすると、美しい黄金色の蚕では無く、ゲロゲロみたいな蚕だと思う。人間の欲望を極限まで吸収して、ブヨブヨな躰。触れれば、破裂しそうなイメージ」

言って、左京さんは、ゲーっという顔をした。

「破裂する前に見つけないと。破裂してしまえば、やっかいなコトになってしまう。井是栄本人だけなら、いいが。周りの人間も巻き込まれてしまう」

樹高さんが、言った。

「奴一人が、勝手に自滅してくれれば、楽と言えば楽なんだが。極限まで巨大化した金蚕を利用するのは、大陸のプロでも無理だ」

教授が言う。皮肉に、聞こえるのは何故だろう。

どの道『私達』どうにか、しないといけないのだ。

井是栄夏史と金蚕は、教授達に任せる。私には、成す術が無い。その後の事を考える。あの山を浄化させた後、あの山に神様を勧請し祀る。地中奥深くに残っている罪穢れをモノともしない神様を探し、応じてくれるか交渉する。知っている神様を、分社して祀るという手もあるけど、知っている神様は、あの山とは合わない。だから、一から神様を探す処から始めないといけない。考えると、気が重たくなる。人間の罪穢れを喰う様な神様でないと、あの山には祀れない。つまり、荒御霊の神になる。月爪大地水神の様な力を秘めた神様でなくては。完全に浄化させ、蠱毒も人間の業も消えたなら、あの土地神様と同じ様な神様・女神を嫁す方法も。後者の方が、あの土地には良いと思うけれど。どっちにしても、井是栄と金蚕が終わってからだ。

「教授、滞りなく出来ると思いますか?」

「さあな。プロの呪術師は絡んでいないからな。むしろ、生きている人間を使ってくる方がヤバい」

何時もの淡々とした口調。

「井是栄は、裏で自分の気に入らない者や仕事の邪魔者を、反社会の力で排除している黒い噂がある。まあ、表に出ていないだけで事実だ。公安の方も、その動きが前々から気になっていて、捕まえるなら根こそぎ、一気に逮捕したいらしい。奴の下には、半グレ集団で、暴力団とも対立していると。暴力団対、暴力団の抗争はよくあるが、そんな感じだ。あのサイトに出入りしているのなら、その辺りの情報も色々書かれているから、一読しておいて、その辺りの情報も知っていておくといい。呪術よりも、反社連中に注意が必要だ」

樹高さんは、言い

「間違っても先走って、井是栄を追い掛けてはいけない」

と、釘を刺された。それは、反論出来ない。既に、そうしようと思っていたから。人間相手は、あの外道の時だけだったと思う。

「そうだぞ。斎月。唐琴さんからも、お前が暴走しないようにと伝えてくれと、頼まれている」

からかう様に、教授に言われた。唐兄と連絡を、とりあっていたのか。

「千早ちゃん、暴走ジャジャ馬は昔からだったのね。あー、まあ、そうでないと、この世界では、やっていけないわね」

と、オネェ言葉で左京さんは言う。教授達には、普通の言葉で話すのに。

それにしても、本当にただのオカルト物出版社の編集部なのかを、疑いたくなる。必ず本物を扱うコトも、そういうコトに詳しい人や専門とする人ばかりが、集まっているようだし。『本物を求める』ではなく、追求するって感じがする。そう考えると、少し虚しくなった。『そういう世界』でしか、生きれない、その様な人間の場所なのかと。

カミとモノと人間、それを繋ぐ生き方がしたい。古い古い日本が、そうであった様に。そう言えば、以前、潤玲と、よくその様な話をしていたな。私が、怪異に関わる様になってから、巻き込みたく無いが為に、少し距離を置いていたが。この件が、終われば、昔見たいに語り合いたい。流れる景色を見つめて、私は思った。




  エピソード3 人の業と祀られるモノ



 学生企業家として、有名な人物。ITサービス系で伸し上がって来て、流行の仮想通貨を開発して、それが若者を中心に流行って急成長したとか。そこから、老舗企業を強引な買収をしようとして、何度もトラブルを起こしている。強豪なスポーツチームも抱え込もうとして、選手やサポーターと対立。ネット炎上も多い。三十代半ばにして、長者番付にも入るという・井是栄夏史。成金人間は、皆同じに見えてしまうのは、外見ではなくて中身、心の姿が視えてしまうからだろうか。井是栄が、禍々しく感じるのは蠱毒と関係していて、金蚕の持ち主で、金蚕に憑かれているからか。もしくは、生来の性か。欲深人間は、皆共通しているコトなのか。井是栄に対して、探りを入れてみると無数の蟲が視え、気持ちが悪くなる。より深く探りを入れるのは危険と、いうことか。溜息が出ると同時に、疲労感に襲われる。

 例の情報サイトによると、井是栄は金で都内の半グレグループを幾つか配下にしていて、そのひとつのグループは、指定暴力団と対立・抗争になりそうだという。暴力団の一部は、井是栄を快く思っていない。井是栄は、そんな暴力団も手元に置きたいのか、そちらの世界から要注意・敵視されているという。井是栄は、自分の手を汚す事なく敵対する相手を、潰すタイプ。欲の塊が、人間のカタチをしている様なモノ。だから、金蚕に手を出した。例のサイトの存在は、ネット上の『ウワサ』となっている。例のサイトに辿り着ける者は、いないらしい。井是栄の強引なやり方は、マスコミでも取り上げられている。まだ、表には出ていないが、半グレと暴力団の抗争が現実になれば、大問題だし、一般人も巻き込まれる。また井是栄は、政界を目指している。そちらでも、トラブルを起こしていて『公安』にも、目を付けられているという。

 それに、金蚕の持ち主。あの屋敷に関わっているのなら、蠱毒を使って呪殺もしているのかもしれない。抗争とかで死者が出れば、ソレを金蚕の餌にも出来る。色んな意味で危険な人物だ。井是栄の事は、公安でもある樹高さんに、任せるしかない。私が、一人でなんとが出来るコトでは無いし。私は、あの山を浄化させた後に、あの場所と相性と良い神様を探し出す事。


 溜まっている『裏』の論文と、雑誌向けの記事を書きながら、どうやって神様を探すか考えていた。もともと、あの辺りは豊かな土地で農業を中心にしていた。盆地の中心に山があり、その周辺に昔は小さな集落が点在していた。盆地、山や河で他の土地と隔てられていたのだろう。そんな、なかに、あの山がポツンとある。標高は500メートル程。地質学的な事は、判らないけれど、孤立した山が、集落にとっては特別なモノだったのかもしれない。御神体として祀られていても不思議ではないが、神様が祀られていた形跡は無い。その代わりに、忌地として扱われた。山を囲うような用水路からして、山は別世界として考えていた。理由として、山に洞窟があったからだろう。その洞窟の底を、死後の世界、黄泉をして考え、そこに罪穢れを封じた壺を棄てるのが信仰だったのだろう。壺に罪穢れを封じる呪いは、宮中でも行われていた。あの洞窟にあった壺は、何処から入手した物なのか? 棄てるだけで、浄化や場所の封印はされなかった為に、長い年月の末、罪穢れから不浄のモノが生まれてしまった。ソレを恐れた人々は、水路を多く造り山を囲む事で境を封印に利用したと考えられる。時代が進むと、集落内の罪人・疫病・ヒルコなどを幽閉する為に、山の頂に家を建てて幽閉した。罪人はともかく、病人やヒルコは、ろくにケアされる事は無かった。また姥捨て山的な意味もあったのかもしれない。その人々の苦しみ怨嗟がまた、別のモノを生み出した。その二つのモノが混ざり合い一つのモノとなった。ソレは、時折り里へ来ては人を喰っていたのかもしれない。集落の人々は、ソレを封じる為に家を囲う様に新しく家を建てた。それでも、人々は罪穢れを山に棄てた。洞窟の入口が崩落してしまった後も、別な場所から穴を掘り洞窟へ行けるようにした。そんな日々の中、山の頂の家に近付いた人が消えるという事が続いた。ソレを恐れて、また家を増築していく。そして、家は大きくなり屋敷みたいになった。それでも、時折り人が消える。手入れで屋敷に行ったら、まったく別の造りになっていて屋敷の中で迷ってしまったなど、何時しかマヨヒガの様になってしまった。その中に、あのバケモノがいる。マヨヒガは、力をつけたバケモノが作り出し、餌である人を誘い込む。そう考えれば、あの地に伝わる人喰いや神隠しの理由が判る。ある時、その屋敷の事を聞きつけた者がいて、場所とソレを利用しようとし色々と屋敷に手を加えた。蠱毒を行いたい者にとっては、あの屋敷は利用価値の高い場所だったのだろう。そこで、何代にも渡り蠱毒・金蚕が行われていた。洞窟で、左京さんが散らしたモノは、罪穢れから生まれた存在。蠱毒が生み出したバケモノは、また別にいる。あの集落の土地神様が、嫌い恐れるのも解る。神様は基本、人間が生み出した罪穢れを嫌うから。

 屋敷は、怨念などを封じる為に大きくなり、そこで蠱毒を行う様になった。そして、それの影響で屋敷はマヨヒガに似た空間になった。本来なら、あの屋敷で、金蚕蟲を行うのがセオリーだろうけど、井是栄は金蚕を持ち出して、自分の手元に置いている。持ち主不明なのは、誰の持ち物ではないという事。そして、幾代にも渡り金蚕蟲を行う事により、マヨヒガ屋敷は大きくなったと考えられる。井是栄と対立関係にあった人物が、行方不明になっている話は、金蚕の餌にされたと考えれば、納得がいくが。屋敷は、あくまでも媒体で餌を誘い込む呪術が施されていた。でも今は、樹高さん達が結界を張り封印されている。巨万の富をもたらす金蚕には、餌つまり贄が必要。欲に見合うだけの贄が必要。井是栄の欲望を満たすには、餌が人間でないといけない。それだけの『富』を、アイツは手にし、なお求めている。屋敷が封印されている今は、金蚕の餌は手に入らない。手下の半グレに、人を攫わせ殺させて、賄っているのだろうか?

「暴走しかかっている」それが本当なら、金蚕は、井是栄本人や親族縁者を喰いにかかるだろう。調べたところ、金蚕は殺す事が出来ないという。全てを清める炎ですら、金蚕を焼き尽くす事は出来ないらしい。暴走し、主を喰い殺し自己崩壊する。あるいは蛹にでもなるのか? あるいは、次の主が来るまで休眠するのだろうか。それとも、何処かの巨大なイモムシの怪獣みたいになるのか? 一番、良いのは井是栄が金蚕に喰われて共倒れか。

 日本古来の呪術なら、私でも祓うコトが出来るけれど、蠱毒は別の理で複雑な過程を組んでいる。もうそれなら、樹高さん達を信じて任せるしかない。今回の件は、下手をすれば日本の国にも、少なからず影響するだろう。だから、公安や護国の専門家に任せるしかない。私は、日本古来からの信仰を受け継ぎ、護るべき立場。カミやモノを視て声を聴く事に関しては得意でも、別の事、特に今回の様な大陸由来の呪術に関しては、最低限の知識しかない。呪術を勉強し身に付ける、でも、ソレは私には向いていないのだ。私の役目は、カミとモノと人間を繋ぎ橋渡しになるコト。もし、単に人間の罪穢れが生み出したモノだけなら、私でもそれなりに祓えただろう。色々と考えていると、煮詰まってしまい、それと同時に無力さを感じた。


 気分を変える為、キッチンでお茶を淹れる。お茶を啜りながら、ふと食器棚に目が行く。そういえば、あの壺は何処で作られていたのだろうか? あの集落で作られていた形跡は無いし、近くにも陶芸にかんする文化は無い。記録が無いから、辿れない。洞窟の奥にある壺を鑑定すれば、判るかもしれないけれど、ソレは全てが終わった後で無いと危険だし。壺は、掌サイズ。大きい物で、赤子の頭ほど。形も不恰好な物が多かった。その壺の出何処も、探さないといけない。壺などに、穢れを封じるのは平安の宮中で行われていた。そこから、一般の人に広まったと考えられる。もし、宮中に壺を納める職人が、この辺りにいたとしたら? 罪穢れを封じたり、愚痴を封じたりする壺は、ある意味『呪具』なのだ。その様なモノが巨大化したのが、あの屋敷。現世と幽世の間を曖昧にし、時には重なり離れる様な不安定な空間を作りあげてしまった。そこで、出された食べ物を食べてしまった、スタッフは屋敷が選んだ『餌』となってしまった。―黄泉戸喫。せめて、遺体を見つけてあげたいが難しいだろう。屋敷の地下、大きな壺のあった部屋は現世で、蠱毒の呪術場として使われていたのだろう。おそらく、戦前から。集落の中に、その事を知っていて黙認し、屋敷へ近づく事を強く禁じていたのは、その危険性を知っていたから。それは、おそらく政府の中にも知っている者がいて、危険が外に及ばない様に五基の鉄塔を建てた。

 一番始めに、金蚕が行われていた頃は、それほどでもなかったが、嫁金蚕を重ねる事で、屋敷は危険な物となっていった。そして、徐々に手に負えなくなり、色々なカタチの結界が作られた。おそらく、井是栄は金蚕に詳しくなく、簡単に欲望を叶えてくれるチートアイテムみたいに思っているのだろう。前の持ち主が金蚕を手放す時

「ここに、資金と欲望を叶える蟲がいる。君の活躍に期待している」とか言って、渡したのだろう。とりあえず気に入らない相手を、金蚕を使って殺し餌とした事で、始めの望みが叶い味をしめたのだろう。そして、金蚕の虜になった。

それらは、全て私の推論。私が手を出す事では、無い。出せない。だから、樹高さん達『プロ』に任せ、私は勧請する神様捜しに専念する事にする。

 あの山に洞窟を含めた場所に最適で、土地神様とも相性の良い神様。分社でも応じてくれそうな神様。今まで、出逢った神様達をまとめてみたけれど、殆ど無理がある。私の話を聞いてはくれるかもしれないが、応じてはくれない神様ばかり。人の業を気も留めず、穢れにも耐性がある神様は、殆どいない。思い当たる神様はいるけれど……。私は、紙の日本地図を広げる。日本列島・都道府県・市町村と、色々な紙の地図。かなりの量になる。そして、小指の先程のサイズの水晶などのパワーストーン。日本列島の地図に向かい目を閉じて、集中する。そして、直感と同時に石を地図の上に投げた。それを何度も繰返す。列島から都道府県、市町村の地図へ。エリアを絞っていく。最後の地名に石が落ちる。すごく古典的な術だけど、この方法は当たると信じている。石が最後に落ちた地は、あの集落の近くだった。あの辺りに『力』のある神様がいたのか? 何度か、周辺の神様を探して視たけれど気配は感じなかった。もう一度、始めからやり直すと、次に示されたのは『星来村』

だった。あそこには、黄泉津大神が鎮座しているが。確かに、黄泉津大神ならば、あの山を抑えれるし洞窟を黄泉に見立てていたから、違和感は無いと思うのだけど。私は、ネットの地図であの辺りを詳しく調べる。すると、あの集落の北の方に小さなダムがある事が判った。そこは、始めに石が落ちた場所と一致する。今度は、そのダムについて調べてみた。そこには、昔、小さな集落があった事が判る。もし、ダムに沈む前に神社があったのなら。そこの集落の人達の移転に伴い、ダム湖の畔にでも移されているのでは? でも、地図上には鳥居のマークは無い。それに、五基の鉄塔・五芒星の頭がある山の麓だ。何か関係性がある。遠視するにも、結界が関係しているのか視えにくい。でも、ソコが凄く気になる。こうなれば、現地に行くしかない。今回は一人で。その方が勝手が利くし、神様とコンタクトしやすい。車で遠出するのは、久しぶりだ。一番近くの大きな駅まで行き、そこからレンタカーで向かう事にした。

 細川君達が入院していた、A市。この近辺だと一番発展している。しかし、開発が途中で止まってしまっている街と田舎の間の様な場所。寂れているワケではないが、不便。鉄道が通っていない。A市の手前の地区までは、単線があるけれど、朝夕を中心としたダイヤ。バスは、便数が少ないけれど路線は数本ある。交通事情を考えると、やはり車の方がフィールドワークには便利か。そう考えながら、河に沿って北へと向かう。川沿いを走っていると、所々にアユ釣りやキャンプ場の看板があり、釣宿や公園がある。看板はキレイで施設も手入れされている。シーズンには、それなりに賑わっているのだろう。更に北へと進むと、右側に山があり、例の鉄塔が見える。この辺りから、道幅は狭くなり、川沿いの道と左側の山へと向かう道。左側には、ボロボロになったスキー場の看板。道路案内標識に、ダムと公園の名前がある。すれ違う車は、殆どいない。この道は、ダム湖と公園へ続き、その先にある峠を越えて隣県へ抜ける道しかない。川沿いをナビに従って走っていると、ダム湖が見えてきた。ダムの管理施設とダム湖を望む公園。山裾にダム湖があり、その山に鉄塔がある。五芒星の頂点。

 幽かに『神様』の気配がする。―このダム湖が、心霊スポットで無くて良かった―。ダムの管理施設の横に、ダム湖を見渡せる公園がある。そこに石碑があり、水没した集落の名前と年月が刻まれていた。その隣には、周辺の地図と水没した集落の来歴が書いてある看板がある。その地図には、神社は描かれていなかった。気配を探りながら探すしかないかと、考えながら読んでいると、沈んだ集落では、昔、陶芸がちょっとした産業だったと書いてある。陶芸、もしかしたら、ここで造られていた壺が、あの集落へ売られていたのなら? 気配を辿りながら歩いていると、山裾の辺りから気配がする。冬枯れの木々の間に、石造りの鳥居があった。注連縄と紙垂がある。定期的に誰かが手入れをしていて、今も信仰されている。沈んだ集落の人が、近くに住んでいて通っているのだろうか。鳥居の前で、一礼すると気配に動きがあった。気配が、殆ど感じられてなかったのは、眠っていたから? 目を覚ましたのか、強くハッキリとした気配になる。なんとなく『神様』の方も、私に話があるように感じた。風化しかけた石段が、十段程あり、その先に小さな社がある。社に柏手を打ち一礼する。風も無いのに、木々がざわめいた。

「待っていた」

いきなり声を掛けられた。

「あの山を、なんとかしてくれる者を」

―呼ばれていたのか、と思った。私は、これまでの経緯と先の事を説明した。

「あの集落の人間が、ここの集落で造られた壺に罪穢れを封じて、地の底へと棄てていたのは、ずっと昔から知っていた。ソレが生み出した存在も。長年、人の罪穢れが溜まれば、バケモノに変じる事も知っている。でも、ソレを利用する人間の欲望には、始めて遭遇した。ソレによって、アイツが手に負えない存在になった事も。屋敷で行われている、欲望の為の呪術によって生み出されし存在を、アイツはもう、抑える事は辛いだろうな。我としても、気掛かりなのだが」

アイツは、あの集落の土地神様の事を指しているのだろう。神様同士、知り合いなのか。

「そなたらが、あの存在を始末すれば、我は、その話を受け入れよう。だが、ここもまた護らねばならぬ場所。―まあ、何処に在ろうとも、我は幾つもの名で呼ばれているからな」

意味深げに言う。日本の神様は、その様な存在なのだけど。

―ん? この気配、何処かで……。よくよく気配を感じて、気が付いた。

「黄泉津大神様、ですか?」

あの時、石が示した場所は星来村。そこには

「そうだ。気付くのが遅い。だから、言っているだろう、屋敷の存在を消してくれたら、地の底に蟠っている罪穢れは、なんとでも出来ると。地の底は、我の領域なのだから」

ああ。そういうコトだったのか。それじゃあ

「そういうコトだ。今は、あの土地の神として在るのだがな」

と、溜息混じりに言った。なら、相性は言うまでもない。あの土地も、二神が揃えば大丈夫だ。

「まあ、人の世も、こちらも、その辺りのコトは同じ。向こうも一致しておるし、後は、そなたらの働きだ」

なんだか、神様達に良い様に使われている感じもするけれど。他に術は無いし。それに、この神様なら、大丈夫だ。神様との話は、まとまった。後は、樹高さんや教授達が、井是栄を何とかし、金蚕を引き離せれば、今回の件は、終わる。でも、伝承によれば、金蚕は死なない。滅びるモノなのかは、解らない。厳重に封印するか、暴走の果てに自己崩壊でもしてくれれば滅びるのだろうか。


 マンションの部屋へ戻ると、どっと疲れが出た。久しぶりの車の運転のせいだろう。私的に、早く山と屋敷を浄化させたいけれど。それには、まず樹高さん達が、上手くやってくれるのを待たないといけない。テレビをつけると、バラエティ番組が流れていた。ゲストに、アイツが登場していた。井是栄夏史。

共演者は、一緒にいて気付かないのだろうか? 井是栄の回りにいる無数の蟲達に。屋敷にある蠱毒の壺を、井是栄に送りつける。井是栄共々共食いすれば、自滅してくれるのかもしれない。ふと、無謀な考えが浮かんだ。壺を動かす事が、危険なのに。だから、樹高さん達『プロ』に任せるしかないのだ。なんだか、テレビで見ているだけで気分が悪い。私は、テレビを消して、新しい情報が載っていないかと、例のサイトを見てみたけれど、特に目新しいコトは載っていなかった。細川君達も、そろそろ退院できるが『目』を付けられている以上、もう一度、きちんとした御祓いが必要だ。テレビ局の方には、関わらない様にと、圧力をかけている。

 金蚕には、常に餌『贄』が必要。捧げ続けなければ、持ち主を喰う。金蚕と餌の接点である屋敷を封印されている今、餌は自動的に入らない。井是栄を始め、関わりのある者は喰われていくだろう。樹高さんは、ソレを阻止するコトはしないと言っていた。おそらく、井是栄が喰われ自滅してから、最後に手を討つのだろう。


 井是栄夏史は、自分の自宅、都心を一望出来るオクションの最上階フロアから、都心を眺めながら舌打ちをする。

「もっと、オレは伸し上がる。なのに、邪魔が入るのは何故だ。あの場所は、全てを叶えてくれるのでは、なかったのか? 金蚕に、もっと餌を与えなければいけない時なのに。ここで、やるとヘタをすれば足がつく。いや、どうせ、オレだとは判りはしない。あの山の屋敷から、ここの地下に場所が変わっただけだ。餌さえ与えておけば、ここでも充分できる。そのうち、あの土地一帯を、オレは手にいれるのだから」

小瓶の中で蠢く、小さな金色のイモムシを見る。

―アイツのカラダから出てきた、コイツ。それなりの人間に憑けるコトが出来れば、ソイツが餌だ。あのウザい爺にでも、憑けるか。そうすれば、爺が持っている物が、全てオレの物になるのだから。

一枚窓に映る自分を見つめ、井是栄はニヤリと笑った。

 オクションの地下は、住人専用のトランクルーム。機械室などがある。その更に下に、井是栄は専用のスペースがあり、そこで金蚕を飼っている。その金蚕は、戦前から、一財や権力を手にした者達から受継がれてきているモノだという。詳しい奴等はビビッているが、オレは信じていない。『餌』は、どうにでもなる。所詮、世の中、全ては金だ。金さえあれば何でも出来る。餌を集めるのも、金がそれなり掛かるが。まあ、そのうち、その金さえも回収できる。小瓶の中で蠢く金色のイモムシを見る。コイツは、無限にアイツのカラダから出てきている、ソレを気に入らない奴等全員に憑ければ、しばらく『餌』は不要になるか? その上、ソイツらの財や権力もオレの物になる。まあいい。まずは、あの爺に。井是栄は、笑う。巨万の富を生むという金蚕の真の恐ろしさを、知る由も無く。


 それから数日後、例の情報サイトで、ある政財界の大物が変死したという話が載っていた。まだ、ニュースに流れていない。変死、何かに喰われた様な死体となって発見されたとあった。これは、もしやと思っていたら、左京さんから、着信が来た。

「あのサイト見た? あれ、井是栄がヤッたんだよ。アイツの金蚕が、使い魔的なコを生み出したんだよ。ソレを使ったんだと思うよ。教授先生達が、少し前に蚕蟲が生まれたのを知り、樹高さんと見張っていたんだけれど、井是栄の動きが、こっちが思っていたより早かった。それで、皆、驚いている。それに、せっかく、本格的な蠱毒事件として記事にしようとしたら、珍しく編集長に、全てが終わるまでダメと、止められたし。とにかく『本物』しか求めない編集長が、怖い顔して止めるとは、ねぇ」

凄く残念そうに言う。あの編集長が、止めるとは、深刻なのか。

「それって、金蚕が別の金蚕蟲を生むの?」

「それは無いと思うけれど。もともと、金蚕自体は一から蠱毒呪術で造り生み出すモノだけど。年月を重ね嫁金蚕も何度も行われた金蚕だからか、井是栄の欲望が生まれたモノかもしれない。井是栄の欲望に反応し、井是栄の敵対している奴や気に入らない奴へ憑りついた。そして、喰われた。変死した大物爺とも、対立していたというし」

左京さんは、嫌そうにいった。

「ヤバくないですか? 井是栄の欲が新たな蟲を生み、気に入らない奴を餌にしているコトか、暴走の結果なの?」

「多分。樹高さんは『公安』の方を動かしているけれど、下手に動くとマスコミに知られてしまう。自分達は今『公安』ではなく『護国』の立場で動いている。だから、頼むから手出しをしないでくれと、釘を刺されたよ」

物凄く残念そうに、言う。

「まさか、左近さん。蟲が欲しいとか?」

「そう、コレクション。でも、ダメだと。呪力を失い厳重に封印した蟲を、後日に渡すから、ソレで我慢してくれと。まあ、単純に、金ぴかの金色の蚕を見てみたかっただけなんだけれど」

「私は、いいや。イモムシ・ケムシは、無理だわ。遠くから見るのは大丈夫だけど」

私が、そう言うと、電話の向こうで左京さんは、笑っていた。

「まあ。呪物をコレクション・保存管理するのが、家の生業でもあるから。呪物を封印し安置する。それが、他者に渡らない様に管理するのも大変なんだけれどね。それらの物にある伝承とか云われを考えるのが、好きなんだ」

と、左京さん。それから、暫く世間話などをして通話を終えた。

あの編集長が、止める。というのは、それだけコトはヤバいという事か。それとも、表には出せないコトなのか。

 一般的な呪詛とは、原理が違うので返し方も、また違う。ありったけの身代り護符などを身に付けて、こちら側から仕掛けてみるのは、どうかと。井是栄が、蟲・金蚕の一部を、どのように使っているのかが判れば、逆に潰せるかもしれない。我ながら、無謀な考えが浮かぶ。やるとしたら失敗は、赦されない。きっと、皆に怒られるだろう。例え、成功したとしても相手が死ぬので、結果的に殺人か。変死した某氏以外にも、同じような死に方をした業界人や、井是栄周辺の人物がいないか、例のサイトで調べてみる。

 情報サイトによると、井是栄は、半グレ集団を幾つか手下にしていて、指定暴力団との抗争が水面下であると。それは、表にはまだ出ていないが、知っている人は知っている話らしい。対立している人間の変死は蟲によるモノと、半グレに殺させている。半グレは、生身の人間で社会の害悪。個人では、無理。金蚕も、私には無理。そして、暴力団の中でも変死が起きている。その死体は、何かに喰われた様なモノだと。あの屋敷にあった、大きな壺。その中身は見ていない。ただ実体の無い蟲が無数にいた、それだけだった。それも、今は、樹高さん達によって、封印が施されている。井是栄は、蠱毒の毒を作って使っていたのだろうか? ―それは、無いか。井是栄にとって必要なのは、欲望を叶える金蚕だけ。あの屋敷を逆に利用すれば、金蚕もろとも井是栄を何とか出来るのでは。何故か『屋敷』が気になる。単に気にし過ぎなのか。それとも、呼ばれているのか? もし行って、ヘマをして結界を恐してしまうといけない。

―ああ、案外、それを仕組まれているのかもしれない。

今回は、私は何も出来ない。雑誌には、この件に関しては書けない。『悪夢病』の論文は、この件に関わったせいで書き上がっていない。とりあえず、ソレを完成させよう。そのうち教授から連絡があるだろう。


 大学の方は、時季的にゼミとしての活動は殆ど無い。教授自体が、今回の事で、各所へ動いている為に、休講となっている。細川君については、私がゼミ生に説明し、今回の事は危険なので口外しない様に言い聞かせた。ゼミ生に四回生はいない。秋葉ゼミには、就活生はいない。大学院に行って研究を続けるか、実家の神社や寺を継ぐ人ばかりだ。教授から課題を預かっていたので、それをゼミ生に渡していて、それの進捗をチェックするだけ。それと並行しながら、例のサイトで、井是栄周辺を追っている。式神が使えない今回は、やりにくい。ダム湖に沈んだ集落と、あの集落は昔は交流があった。土地が痩せていて作付に向かなかった沈んだ集落では、林業と陶芸が糧だった。そして、それぞれの土地神に合祀されたのが、国生みの二神。ダム湖の集落には、イザナミノミコトである黄泉津大神。そして、あの集落には、イザナギノミコト。もともと夫婦の神様。だから、相性的に問題はないし二神も納得してくれた。

 あとは、井是栄と金蚕か。そのコトを考えると、気が重くなる。ひとつ進んだ事は、井是栄の手下である半グレ集団と対立していた暴力団と伴に『公安』が潰したということ。これは、樹高さんの働きかけもあって一気に潰したのだろう。どの道、何時か潰さなければならない集団だった。その事は、例のサイトには大きく載っていたけれど、まだニュースにはなっていない。この情報元は、何処の誰だろうと、何時も思う。

 現世の理・現代の日本の法では、呪術そのモノを裁く事は出来ない。井是栄の手下を検挙した事で、この先、事態がどう動くのかが注意するべき事かもしれない。井是栄が、如何するのかも、気になる。井是栄の悪行を、暴こうとした人物は、変死している。それは、金蚕によるモノだろう。そこまで、欲に塗れて腐った人間なのだ。井是栄の情報を読んでいるだけで、私は具合が悪くなりそうだった。ソレは、警告なのか? そう思うと、赦せないし、自分の手でケリを付けたくなってしまうが、関われば身を滅ぼしかねない。式神を使わないのは、始めに井是栄に向けて飛ばした式は、金蚕に喰われてしまったから。私が式神を飛ばした事を知った、樹高さんには、強く叱られた。

「井是栄が判らなくても、金蚕は君を視ている。『力』のある君は、金蚕からすれば、他の人間など取るに足りない餌だ」と。

それに、あの屋敷で吐いたのは、蟲の混じった血だった。と、付け加えた。

「始めに入った時から、目を付けられていたんだ」

厳しく言い、自分達の見立てが失敗だったと、樹高さんは、謝った。そして、私は、コトが思っていたより、危険過ぎるコトを理解した。邪悪で穢れた金蚕。もとは、カイコだという。だから「木を隠すなら森」と言う様に、私は「カイコ」の中へ、身を潜める事にした。

 と、ある地方にある『カイコ』を神として祀る神社へ。そこの御神体は『蚕』。だから、その神社にて、井是栄の事が終わるまで、ソレに関する事を全て絶つ。

 私が暫く、身を隠すのは、三月になってもまだ雪が残っている土地。そこにある『蚕』を神として祀ってある神社。その土地特有の信仰。その『蚕』神を信仰している巫女や、養蚕業の人達が信仰する。学生の頃、フィールドワークで訪れて以来、時々来ている場所。その土地にとって『蚕』は、身近な信仰として存在している。その事は、私の一つの研究対象にもなっている。そんな事もあり、話しはすんなり進んだ。もちろん、蚕の神様の力もあった。事が終わるまで。だけど、一応は月末まで、神職代理を務める約束で。蚕の神様と言えば『オシラ様』が有名で、古くから護り継がれてきた。私は『古の信仰』を探し、語り継ぐ事を基本としている。カミとモノと、人を繋ぎたい。それは、きっと初代・流浪の巫女から受継いだモノ。蚕の神様に奉じている間は、私は井是栄の事に一切関わらない。そうする事で、金蚕・蠱毒から、自身を隠す。特に久しい間ではなかったけれど、蚕の神様からは、呆れられた。時々、錦野原女神達の心配する溜息が聴こえていた。情けないと同時に、申し訳ないと思う。その神様達の加護が無ければ、向こう見ずな私に命が幾つあっても足り無い。細川君達の件で、一円兄ちゃんから、唐兄に話は行っているから、唐兄も関われ無いと気付いている。潤玲に関しても、水龍を通じて話をしてもらっている。ヘマをして、私の関係者を巻き込むワケにはいかない。

―あとは、婆ちゃん。春までと告げられている。この様な事態になっていると知ったら、きっと、物凄く叱られてしまうだろう。もう、そんな事も無くなってしまう。

 全てが上手くいき、あの山を屋敷を浄化し、神様を勧請し祀れる様になる事を、私はここから、祈るしかない。



 一方、その頃。井是栄の周りでは、井是栄の親戚縁者を含め身近な人達が、次々に変死していた。情報操作をしていた樹高達も、その様なコトが続くので隠す限界まで来ていて、如何するべきか悩んでいた。それは今や、井是栄と同じオクションの住人までに及んでいた。金蚕は、暴走し、誰構わず井是栄周辺の人間に喰らい付いている状態だった。その事に、井是栄は戸惑いと焦りを感じていた。如何すれば良いか、解らない。ネットで調べても情報は無い。コネなどで、有名霊能者に相談しようとしたら、速攻で断られるか、相手が変死する事態だった。

「巨万の富が、簡単に手に入れられる」そう言って、前の持ち主から屋敷と金蚕を譲り受けた。それと伴に、起業資金も貰った。今では、日々、億単位の金を動かせる。でも、オレの望み全ては叶っていない。上手く金蚕を使えば、国を動かせれる。その話を信じていた。霊感のある人間は、オレを見るなり皆、逃げる。それが、取引相手でも。オレは、信じていない。最近は、金蚕の餌が足りないのか合わないのか、上手くいかない事ばかりだ。前の持ち主とは、連絡すらつかない。このままでは。ネット上の情報が、本当なら、オレは。信じていないぞ。自分が、金蚕で得た利益を数倍にして、誰かに押し付ける。そんな事、出来るワケがない。そうしたら、全てを失い負け組になる。その様な事をするなら、金で何でもする奴等に餌を持って来させれはいい。それとも、ここの住人全てを餌にすれば、いい餌になる。それなりに、財も権力も持っているし地位もある人間が住んでいるのだから。申し分ないじゃあないか。

一枚窓に映る井是栄の姿は、肥えた人間の姿ではなく、人間のカタチをしたイモムシの様だった。

 それを、遠視していた樹高達は、焦りを見せていた。

「時間が、もう無いな」

「アイツ、住人を餌にするとか信じられない。このまま、自滅させても金蚕の方は暴走状態で、近場の人間を喰い始めるだろうし」

樹高は言って、溜息を吐く。

「金蚕は殺せない。全てを浄化する炎ですら効かない。井是栄本人一緒に、火山の火口に棄てるか、深海深くに沈めるか?」

と、秋葉は言う。

「千早ちゃんも、左京ちゃんも遠避けているから、言える話ね。井是栄自身を、喰った金蚕。主無き金蚕が、休眠でもしてくれたなら、その方法は使えるかもしれないけれど、井是栄ごとは、難しいでしょうね」

何故か、オカルト雑誌の編集長が共にいて、小さな古ぼけた瓶を取り出した。

「これに入るサイズだったら、なんとかなったのに」

「何です、それは?」

風間が問う。

「あの屋敷で、初代・金蚕の嫁金蚕に使われた物だと伝えられているけれど、よくよく視ると、別の金蚕の物のようね」

「何故、その様な物を」

「秘密。何か役立ちそうな呪具は、と考えたら、コレだった」

と、編集長は答える。

「いや、さすがにあそこまで、成長したら入りきらないだろう。封じる力も弱いし」

秋葉が言う。

「じゃあ、後味悪くても、井是栄と一緒に金蚕を壺に入れて、火口か海底になるけれど」

編集長は言い返し、樹高と風間を交互に見る。

「―他の人間の命を守るには、その術しかないか。井是栄が手にした財も入れれる物は一緒にして」

眉間にシワを寄せて、樹高は溜息混じりに言った。

「国庫へ入る金は、如何するんだ? 金蚕で手にした金だろう?」

秋葉が樹高に問う。

「それ、破滅させたい奴や国にでも渡せば?」

笑って、編集長は言った。

「おそらく、井是栄の会社も崩壊する。そして、関係者には申し訳無いが、共倒れ的な事が起るだろう。そうすれば、資金は裏で繋がっていた反社会組織へ流れる。放って置けば、そこで自滅が起るはずだ。山の屋敷は、炎による浄化をして、あの山にある人骨を回収。そして、再び浄化の儀を行い、後は、斎月さんが、話しをつけた神様を祀れば、あの集落は安定し活気も戻る」

と、樹高は言い

「井是栄の死体と、封じた金蚕を壺に入れる方法で。海底より、活火山の火口で行きましょう」

息を吐いて、言った。その場にいた、誰も、それに反対する者はいなかった。

 


樹高達が、井是栄の遺体を回収したのは、それから数日後。井是栄と、ほぼ同じ大きさの金蚕は主を失い、部屋の中で蠢いていた処を、護国の者達により封印され、井是栄の遺体と共に大きな壺に貴金属などと伴に納められて厳重に封印が施された。それは、とある活火山の火口に投げ込まれた。世間に報道されたのは、映え映像を恰好つけて撮ろうとした井是栄夏史が、ヘリごと火口へ落ちて行方不明と放送されていた。事実上、死亡と云う意味を込めて。その後、暫く、井是栄と関係があった人間が、自殺や病死が続いた。それは、単なる金蚕の余波で、自然消滅すると、護国の者達は言った。ただ、暫くは監視を続けるの事。そして、あの山の屋敷が、炎によって浄化され、大量の人骨が回収された。その中には、行方不明だったテレビ局のスタッフの骨もあった。そして、二回目の炎による浄化が終わり、屋敷があった場所に、新しい神社が建立された。



  エピローグ


 桜が満開だ。麦の青さが、それを際立てていた。空気の澱みは、もう無くなっていた。五基の巨大な鉄塔は結界だけでなく、この辺りに必要な送電線なので、そのままだ。あの山には、真新しい神社。そこに、イザナミノミコトの事、黄泉津大神を勧請し祀る。参加者は、地元の人達や細川君達。テレビ局のスタッフもいた。教授や樹高さん達と、左京さんや編集長が見守る中、私は神事を執り行った。集落の人達にとって、あの屋敷は負の存在だったし、忘れたい歴史でも、あったのだろう。

 蠱毒の気配も全て消えていた。ソレから生まれた存在も、微塵の気配も無い。炎による浄化が、思った以上に効果があったと、教授が教えてくれた。

今回の事件は『人間の欲望と業』

それは、護国の者である樹高さん達によって、なんとか消し去るコトが出来た。崩れた均衡を直し保つのも、護国の仕事だと、樹高さんは語っていた。


 神事は無事に終わる。 

この土地全体の空気が、明るくなるのを感じた。後は、地元の人達が、信仰を護ってくれれば、大丈夫だ。


 きっと、豊かな土地になるだろう。


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