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 バザーへの寄付はすでに恒例となっている。トゥバルトに確認を取る必要ももうないだろう。領主の彼は今いないし。ワルデン達を通して孤児院とは良好な関係を築いているし。ワルデンと言えば、魔法が強くなっているらしい。畑の収穫量が初めの頃に比べて1.5倍ほどになり、一週間で消費しきれないことが増えてきた。余りそうな野菜をワルデン達に持たせて帰らせているため、孤児院からは感謝されているのだ。あとジェイとケルビーもしっかりと持ち帰っている。もう少しして暖かくなったら別に一面増やし、ナタリーも練習しようかと話が出ていた。

 今日のバザーはいつもと趣旨が違い、『穢獣討伐のため』のバザーだ。売上金の一部は穢獣部隊へ届けられるらしい。そして出品されているものも、穢獣討伐に関わる人のためのものが多く見られた。例えばたくさん物が入りそうな鞄は、通常のものに比べて軽量化魔法が強くかけられている。例えば丈夫そうな靴には防水魔法の上に撥水魔法が重ねられている。例えば魔石はいつもより価格が低めである。客層も町の人と同程度に冒険者もいて、いつもより騒がしかった。場所も南北の大通りで開催されている。

 カレンは孤児院の出店から行き交う冒険者達を眺めていた。どんな服装が適当なのかをチェックするためだ。今までは普段着にカレンが『冒険者セット』と呼んでいる剣帯を着けて依頼を受けていたが、さすがにその格好で討伐参加するのはダメだろう。冒険者と言っても様々な依頼があるので服装はマチマチだが、いくつか共通している部分もあるようだ。膝上短丈のスカートの下にズボン、膝下までのブーツ。剣帯とマントは必須品らしく、目に映る冒険者達は携行していた。


「…よし、準備するか。」


 しばらく人通りを眺めていたカレンは自分に言い聞かせるように呟くとおもむろに立ち上がった。


「ヒョーク様、どうかしたの?」

「あぁ、うん。今日はこれで失礼するね。さっきも言ったけど、穢獣討伐に参加することになったから帰ってくるまでは畑はお休みよ。急に決めてごめんなさい。」

「スチルドクローテでしょ?気を付けてね、ヒョーク様。」

「ありがとう。ナティちゃん達もケガや病気に気を付けて。帰ってきたらまたたくさん作ろうね。ナティちゃん専用の畑も楽しみだし!」

「うん!私、がんばる!」


 子供達に挨拶をして、院長と少し話をして、カレンは孤児院の出店からバザー会場へ足を向けた。冒険者らしき人達が多くいる店を見つけては覗き、必要なものを買う。出店が並ぶ通りを北に歩いていると、中心から外れていくにつれてすれ違う人の数もまばらになっていく。もうそろそろ家に戻って荷造りするかとカレンが踵を返そうとした場所に、目隠しをしている出店があった。足元だけは見えていて中に人がいるのは分かるのだが、何を売っている店か判断できない。気になったカレンはしばらく様子を見る。すると、女性冒険者が出てきた。手には何やら紙切れを持っている。いったい何を売っているのだろうか。入れ違うようにしてカレンは目隠しになっている幕をくぐって中に入った。


「こんにちは。」

「はい…って、せ、聖女様っ!」

「お邪魔します。ここは何を売っているのですか?」


 入ってくるりと見回したが、商品がどこにもない。店番をしている女性に尋ねると、驚いたように大きな声で返事をしたもののすぐに落ち着いた対応に戻った。


「女性冒険者の方用の小物です。あまり人目につくと困るものなのでここには見本しか置いてないんです。お客さんがいらしたら見せて、気に入ってもらえたら別の場所で商品を購入していただく仕組みになっています。」


 女性はそう言うと後ろから箱を出す。蓋を開けて見えた中身にカレンは驚いた。


「こちら、動きやすさを求めた下着です。コルセットの代わりに着けます。上半身全体を締め付けず、胸の揺れを抑えられるんです。膨らみに沿った形で縫製してあるので体の線も綺麗に見せます。」


 丁寧に広げて見せられた下着はカレンが見慣れた形のもので、思わず前のめりになる。


「買います!ください!」

「あ、ありがとうございます。そしたら採寸しますので、腕を上げてもらっていいですか?」

「はい。…私、ずっとこういうのを探していたんです。」

「そうなんですか?下着ってあまり話題にするようなものでもないですし、これも普段は店に並べていないですし、目につきにくかったかもしれませんね。」

「コルセットはどうしても苦手で…。見つけられて嬉しいです!」

「ありがとうございます。締め付けが苦手って言う人は結構いますよね。依頼を受けて激しく動き回っていると余計にそう感じるみたいです。おいくつ用意しましょうか?」

「6枚って可能ですか?」

「もちろんです。もしかして聖女様もスチルドクローテ討伐に参加されるんですか?」

「あー…そうなんです。実は。」

「わっ、どうぞお気をつけてください。でも聖女様がいてくれるのなら安心ですね!」


 女性の言葉にカレンは曖昧に笑う。『聖女』に求められているのは女性が言ったようなことなのだろう。それは理解している。しているが、自分にそれを求めないでほしいと切に願う。


「…足を引っ張らないように頑張ってきます。穢獣が増えているようなので、気を付けてくださいね。」

「ありがとうございます!あ、そう言えば私、一度だけクッキーを買えたことがあるんです。しかも緑魔石のものを!そしたら次の日の売り上げがとても良かったんです!聖女様、ありがとうございます!」


 カレンはクッキーを詰め合わせる時、アイスボックスクッキーを詰め合わせた後で一つだけ魔石クッキーを加えている。アイシングされた魔石クッキーは、領都に住む人々の間で『自分の属性色を食べると聖女様の加護がいただける』と評判だ。

 カレンの気持ちを知らないこの女性は、当たり前のように『聖女の加護』に対しての感謝を口にする。直接カレンに伝えられるのが嬉しいのだろう。そう笑う彼女の緑髪は『聖女様の髪飾り』で纏められていた。カレンはにっこりと笑って話を流す。


「それはあなたの努力の結果ですよ。こちらこそ、髪留めも使ってくれてありがとうございます。ところで聞きたいのですが、その…下半身用の下着もあったりします?」

「はい、こちらです。触ってみてください。伸縮する糸で作った布を使っているので、体に密着します。『苺週間でも集中が切れなくていい』って好評なんですよ。」

「苺週間…?」

「女の子週間です。」

「あぁ、なるほど。苺週間って言うんですね。」


 思わぬところで着慣れた形の下着を見つけたカレンは積極的に女性に購入意思を見せる。上下ともに一週間分を注文した。素材はリネンしかなかったが女性が言うように伸び縮みする布地で、きっと着け心地も慣れたものだろう。もうこれは、普段から着用するしかない。購入するサイズと枚数が記入された紙片を片手に、カレンはうきうきと出店を出た。




「ここは我が封鎖しておこう。カレンが帰るその日まで、何者も侵入できぬよう結界を張っておく。」

「コウ、そんなことできるの!?」

「驚くようなことではない。」

「すごいって!!」

「スイ、カレンといっしょ!」

「エンも!」

「フウも!」

「チイも!」

「おぬしらは留守居だ。森で過ごしていろ。」

「いやだ!カレンといっしょ!」

「ごめんね。今回はお留守番をお願いしてもいい?」

「スイは!?」

「スイもるすいする!」

「スイだけついていくの、ずるい!」

「スイはね、フィスチェレイ男爵様…漁業区域の人に頼まれたの。スチルドクローテがいなくなった後の湖が異常ないか見てほしいって。」

「エンも!エンもいく!」

「フウも!」

「チイも!」

「ごめんなさい。人がたくさんいるところに行くから、あなた達はお留守番をしていた方がいいと思うの。また間違えて狩られそうになっても嫌でしょ?」

「…うん。」

「フウは特にそうだよね。前に間違った人も討伐に参加しているだろうし、エンとチイでフウを守ってあげてほしいな。」

「…わかった!まかせろ!」

「うん。3人で一緒にいてくれれば安心だな。この森なら大丈夫だと思うけど…でももし危ない目に遭いそうになったらどこへなりとも逃げてね!みんなの命が一番大事なんだからね!」

「まかせろ!」

「もりにけっかいはる!」

「だれもはいれない!」


 大きな背嚢に荷物を詰めながらカレンと聖獣達はこの先しばらくの予定を確認し合う。カレンについていくのはコウとスイ。残りの3体は初めのうちこそ『ついてく』と言い張ったが、コウとカレンの説得により森で待つことになった。討伐にどれくらいの日数がかかるか分からないためだ。できるだけ早く帰ってきたいと思っているが…。


「帰ってくるの、待っててくれる?」

「もちろん!」

「カレンのめし、おいしい!」

「カレンのて、きもちいい!」


 『そっかー、ご飯が先かぁ』と苦笑するカレンの周りをエン達はパタパタと飛び回る。討伐に行く前日の夜なのに穏やかな時間を持つことができ、カレンは聖獣に囲まれるようにして眠りについた。

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