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F

 あいつにすんの?と唐突に聞かれてケルビーは目をパチパチと瞬かせた。


「…いきなりだね。」

「そうでもねえだろ。」


 ジェイとケルビーが住む共同住宅は平民街の中でも奥の方にある。大通りから外れた領都でも端の方となると地価も治安も推して測るべきだが、それでも一人で借りるには高すぎる家賃は二人で折半してもギリギリだ。治安の方はオストシエドルング騎兵団穢獣部隊の拠点地が目の前にあるので意外にも落ち着いており、体育会系のうるささを除けば住みやすくもあった。孤児院は25歳で卒院しなければならない。すなわち、施設から追い出されてしまう。そこから先は自分で切り開いていかなければならず、ジェイとケルビーは冒険者の道を選んだ。孤児院にいた頃から冒険者組合に登録をして経験を積んでいたので、卒院も二人の中では住居が変わったぐらいの認識でいる。孤児院では何でも分担作業をしていたので、家事も問題なかった。男所帯の大雑把なものではあるが。むしろ気心の知れる二人暮らし、狭い部屋だが規則のある孤児院より快適な生活を送っている。無造作に置かれた黒パン、塩と少しの胡椒で焼いただけの自分達で仕留めた肉、雑に切った野菜、そしてビエル。いつもと変わらない食事中にジェイが冒頭の質問をしたのだ。


「ちなみに『あいつ』って誰のこと言ってる?」

「確認するまでもねえだろ。」

「はは、カレンのこと?」

「そうだ。」

「だよね。ないよ。どうして?」

「…気に入ってるように見えた。」


 ケルビーの真意を探り切れていないのか、ジェイは正面に座る相棒を訝し気に見る。孤児院で出会ってから二十年以上、ジェイとケルビーはいつも二人で行動していた。喧嘩も大いにしたけれど、いつでもジェイとケルビーは一緒だった。だから互いが何を考えているのかなど、何も聞かずとも察せられる。相棒と言うより半身みたいなものだ。だが、今の質問にどれだけ本音で答えているかジェイは測りかねた。

 ケルビーは女好きだ、とジェイは思っている。本人もそれを否定しない。はたから見ていても目に余るくらい女性に甘いのだ。ジェイが『それじゃお前が損するぜ』と忠告しても、『だって女の子が泣くのは見たくないし』と忠告した方の頭が痛くなるような答えを返してくる。ケルビーは小さな頃からモテた。いつでも女の子に優しく接していればそれも当然だろう。しかし男女の性差を意識しだす年頃になってそう言った意味でもモテるようになっても、ケルビーは特定の相手を作らなかった。ジェイとミラがそれなりの関係になってもケルビーの隣は空いたままだった。だから恋愛には興味ないのかと思っていたのだが、カレンと知り合ってからのケルビーは彼女の姿を見かけると必ず声をかける。とうとう『こいつ』と決めたのかと思えば、一歩を踏み出す気配がない。なのに、他の女に比べて親しく接している。ジェイはケルビーの態度に苛立ち始めていた。元来、白黒はっきりさせたい性格なのだ。口を出すことではないのは分かっているが、ケルビーがカレンと最終的にどんな関係になりたいのかジェイは知っておきたかった。


「気に入ってる、ねえ…確かに気に入ってるよ。だってあんな美人は初めてじゃん!いつもニコニコしてるし、なんかよく知らないけど自立しようとしてるし、料理は上手だし、真面目だし、優しいし!」

「馬鹿正直のお人好しっつーんだろうが。」

「そ。だからカレンはないね。」


 微笑んで言うケルビーにジェイは鼻白む。


「の割にはやけに構ってんじゃねえか。」

「だってあの子、頑張ってるけど地に足がついてないじゃん。」

「聖女様だからだろ。俺ら平民とは違えんだよ。」

「でもカレンも自分は平民だって言ってるし、だとしたら少しぐらい助けてあげても問題ないよな?知り合っちゃったんだし、悪い子じゃないし、妹のようなもんだって。」

「妹、なあ…」

「ジェイこそどうなんだよ?なんだかんだカレンと過ごしているような気がするけど?」


 ニシシと含み笑いをするケルビーを睨み、ジェイはビエルを喉に流し込む。ケルビーの言う通り、間違いなくカレンは美人だ。これまでに出会ったことのないほどの。男なら肩や腰を抱いて町中をこれ見よがしに歩いてみたいものである。黒瞳黒髪はとても目立って存在感があるはずなのにどこかふわふわとしていて実在感がなく、では何もできないのかというと立派に一人暮らしをしている。オストシエドルングで生きていくのに必要な術は持っていないのに、見たこともない繊細なものを作り上げて人々を虜にする技術はあるのだ。聖女とはそういうものなのか。接してみればそこら辺の町娘と大して変わらない気安さで話せるが、端々で無防備な様を垣間見せ危なっかしくもある。地に足がついていない、ケルビーの言い得て妙かもしれない。黙り込んでつらつらと考えていたジェイに、『おーい』と目の前で手を振りながらケルビーが茶化すように話しかけた。


「あれ?もしかしてカレンを意識しちゃった?」

「…あほなこと言うな。あいつは観賞用だ。」

「ほんと、カレン美人だもんねー。それにジェイにはミラがいるし?」

「ふんっ!」

「カレンはねー、いい子だからねー。いい子すぎて俺には無理。でも俺が見ない振りすることであの子が不幸になるのもなんか嫌だ。だから妹みたいなもん。孤児院の子達と一緒だよ。ジェイもでしょ?」

「…だな。」


 ジェイにとってもカレンは親しく話せる異性の一人だ。だが恋愛対象として意識したことはない。結局は同じ考えだったと言うことか。コップのビエルを飲み干してジェイはケルビーを正面から見つめる。いつもと同じ穏やかな瞳に何かを隠している様子は見られない。今はそれでいいとジェイは納得した。

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