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 切れ端だと気づかれないよう絶妙に裁断された大量の布を抱えてウルズラが戻ってくると、熱い議論が再開する。カレンが色の配置を提案し、オッティールトとウルズラが検討するという進め方だったが、おおかたカレンの提案が通る形で配色は決まった。薔薇は淡黄色になった。青魔石が濃い色なので、薔薇で柔らかい印象をつけるのはどうかと言うウルズラの意見が通ったのだ。オッティールトは青薔薇を主張していたが、彼女の髪に埋もれてぼやけてしまうだろう。実際に何枚か髪に当てて本人に確かめてもらうと、オッティールトも納得してウルズラの意見を採用した。


「透魔石はこちらで用意してよろしいでしょうか?」

「ええ、お願いするわ。」

「ランクは青魔石と同じにいたしましょうか?それとも青魔石より一つ落としましょうか?」

「そうねえ…。聖女様、透魔石は小さいものをお使いになる予定ですのよね?」

「はい。」

「それなら同じランクで。ウルズラにお任せしますわ。」

「畏まりました。魔石店舗の指定がないようでございましたら、神殿の魔石店で用意いたします。」

「ええ、構わなくてよ。」

「畏まりました。では、これ以降変更も手直しも致しかねますが、こちらの下描でよろしゅうございますか?」

「ええ。その通りに作っていただけるのでしょう?」

「このお話を受ける際にご了承いただいたことですが、手作りですので多少の差異が出てしまう可能性はございます。もちろん最大限の努力はいたします。」

「そうでしたわね。聖女様、楽しみにしておりますわ。」

「心を込めて作ります。」

「ええ。」


 満足げなオッティールトを乗せた馬車を見送った後、カレンとウルズラは辻馬車を拾って魔石店へ向かう。マジスチェルステインは魔石を加工する職人を確保して待っていた。下描通りの形に加工、追加の魔石、それらを二時間以内に揃えてみせた手腕に感服しつつ、カレンはすべての材料を持ってフッテへ戻る。そこから二週間、優先して仕上げた髪飾りをオッティールトは甚く気に入った。少しの苦情もなく購入される髪飾りに、カレンは安心からほう…と息を緩く吐き出し頬を上げた。しかしオッティールトがいなくなった後で清算をする段階になり、カレンの頬は引き攣ることとなる。


「…よ…よんま…ごせん、は…ぴゃくゲルド…です、か…?」

「ええ。研磨代と追加購入した魔石代など材料費を差し引いた純粋な利益ですわ。45800ゲルド。時間がなくて小振りのものしか作れませんでしたから、こんなものですわね。」

「え…えぇ…?」

「お約束通り、ヒョーク様が八割、私が二割。こちらはヒョーク様が受け取られる分の36640ゲルドですわ。お確かめくださいませ。」


 盆に乗せられた小さい革袋がカレンの前に置かれる。戸惑いながら袋の口を開けて中身を盆に出してみると、銀貨が3枚、銀銅貨は66枚、銅貨が4枚あった。オストシエドルングでひと月暮らすのに必要なのは15枚の銀銅貨。もしかしてとんでもない商売に手を出してしまったのかもしれない。カレンは震える手で硬貨を革袋にしまい、『確かに受け取りました』と小さく呟いた。


「ヒョーク様、慣れてくださいませ。今回は初めてなので様子見でございますのよ?ヒョーク様の腕が確かなことは証明されましたもの、次からはもっと大口のお取引になりますわ。」


 カレンの狼狽え振りをからから笑いながらウルズラは発破をかける。


「それから、こちらは依頼書でございます。このまま冒険者組合に行かれるのでしたら店の馬車をお使いください。」

「…いえ、気持ちを落ち着けたいので歩いていきます。ありがとうございます。」

「そうですの?ヒョーク様がそう仰るのでしたら、まあ…。光の聖獣様、ヒョーク様をお願いいたしますわね。」


 カレンの足元で伏せているコウに話しかけるウルズラを、コウはちらりと一瞥して立ち上がった。短く発せられた一鳴きに促されるようにカレンも立ち上がる。次回までに『仕事着』に合った鞄を用意しておきますわね、と遠回しのダメ出しを背に受けながらカレンはウルズラの店を後にした。ウルズラの店から歩いて5分程度で冒険者組合に到着する。依頼書を提出するのはこれで4回目だ。カレンは受付にいる見覚えのある顔へ依頼書と登録カードを提出し、更新されるのを待った。


「…少々お待ちくださいませ。」


 いつもなら『お疲れ様でした』の言葉がつけて返ってくるはずのカードをまじまじと見られたかと思うと、カレンを受け付けた人はあたふたと奥へ入ってしまった。不備でもあったのだろうか、ウルズラさんがそんなミスをするだろうか?取り留めなくカレンが考えていると、組合長が受付の人が持っていた依頼書とカレンの登録カードを片手に戻ってくる。


「聖女様、少しよろしいでしょうか?」

「え?えぇ、もちろんです。」

「ありがとうございます。こちらへどうぞ。」


 訳が分からないままカレンは組合長の後ろについていく。事務室の一角、扉で区切られたそこは組合長専用の部屋だ。応接ソファに座るよう勧められたカレンの正面に組合長は座ると、手に持っていた依頼書とカレンの登録カードを応接机の上に置いた。


「聖女様は本日の依頼達成でCランクに昇級いたしました。」

「…え!?」


 前置きなく告げられた事実に、カレンは驚いて目を丸くし組合長を凝視する。その反応に組合長はホッと息を吐き出して笑顔を見せた。


「聖女様の感覚が我々と変わらないようで安心しました。」

「…昇級の件ですよね?早すぎませんか?」

「はい、その通りです。」


 組合長は登録カードの種別依頼達成の部分を指でさした。


「聖女様は本日の分を含め、生産が2回、採取が4回、合計で6回の依頼を達成されています。」

「はい。」

「たった6回の依頼達成でCランクまで上がることは聞いたことがありません。」

「と言うより、今日の直接依頼だけでポイントが貯まってしまったのですよね?」

「はい。…さすがに6回でCランクへ昇級するのは、聖女様にとってもよろしくないかと。」

「そうでしょうね。私としては、ウルズラさんからのものは依頼としなくてもいいのですが。」

「いえ、店を構えないお考えなら依頼にした方がよいです。何か問題が起きた時に依頼書が残っていると対処しやすいですので。」

「なるほど…。では魔石店の方も直接依頼で受けていた方がいいのですね?」

「はい。それで、昇級に関して提案させてください。達成回数を、組合としては30回を考えていますが、それで昇級するのはいかがでしょうか。」

「30回ですか?」

「一日1回、一か月で36回。週に一度は休みの日を入れるとして30回です。」

「他の方達もそれぐらいで昇級するのですか?」

「個人差はありますが、毎日依頼をこなすのなら一か月もあれば冒険者生活に慣れるでしょう。その頃と前後してランクも上がる傾向にあります。」

「分かりました。冒険者と日々接している組合長さんの提案なら30回が妥当なところなのでしょうね。異論はありません。」


 と言うか、カレンとしてはランクが上がろうが維持だろうがあまり関係はない。できる範囲でコツコツと続けられればいいのだ。どうせ昇級したところで受ける依頼はランクの低いものなのだろうから。けれど、本音をあえて言う必要はない。カレンは対人用の笑顔をにっこりと貼り付けて組合長に同意した。


「30回でDランクになる、と言うことですね?」

「そうです。」

「分かりました。そうしてください。」

「ありがとうございます。では申し訳ありませんが、聖女様は特別に達成回数での昇級とさせていただきます。ポイントの加算は継続して行います。」

「はい、よろしくお願います。」


 たいていの冒険者はCランク止まりだと言う。しかしカレンの場合はウルズラと提携している限りポイントは青天井だろう。実力が伴わないままBランク、もしかしたらAランクまで到達してしまう可能性も否めない。むしろ達成回数制を提案してもらった方がカレンにとっても良いのだ。登録カードを財布にしまい、組合長の配慮に今一度感謝を伝えた。

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