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「ここで依頼を受けるにはどうしたらいいの?」

「うん?あそこの掲示板からできそうなのを見つけて…って、じゃあ一緒に一つ受けてみる?」


 カレンが冒険者組合に登録したのは自分で稼ぐためだ。贅沢な暮らしをしたいと言うことではなく、自立したいため。そのためには自分で仕事を見つけなくてはならない。今のところ魔石店への納品が定期的な収入になりそうだが毎日納品できるものでもなく、ある程度行き渡ってしまえば収入はほぼなくなると見ていい。ウルズラの方もはじめのうちは物珍しさからの注文はあるだろうが流行とは一時のものであるし、その発信源はアッカーベルグ家だろうからこちらもいつ注文が来なくなるか分からない。だとしたらやはり、自分で仕事を見つけるのが一番確実だ。カレンにはトゥバルトとの契約があるので、来年後半まではオストシエドルングから出ることは叶わない。それまでにどれだけ金銭を溜めることができるだろうか。勝負は始まっている。


「迷惑にならないならお願いしたいな。」

「別に迷惑じゃないって。いっちょ組みますか。ジェイはどうする?」

「することねえしついてく。今夜の酒代ぐらいにはなるだろ。」


 コップに残っていたビエルをぐいっと飲み切り、カレン達は掲示板へ移動した。壁に設置された掲示板はとても大きく、そこにいくつもの依頼書が貼り出されている。おおよそのランク別に分けられている中、カレン達は低ランクが集められた場所に目を向けた。


「町中の依頼はカレン一人でもできるだろうから、今日は除くとして…カレンは何をしてみたい?俺達と一緒だからCランクまで受けられるよ。」

「狩猟系以外でお願いします。」

「何でだ?」

「私が育ったところは命が何より大切って倫理観だったから、生き物を狩るのはどうしても…。だって殺すってことでしょ?」

「けど、あんただって肉や魚を食ってるよな。」

「分かってる、矛盾していることは。だからこそ感謝の心を忘れずに食べなさいって躾けられたし、その気持ちは忘れずにいるつもり。どうしてもって言うなら魚ならできると思うけど…」

「魚はどうして平気なの?」

「平気って言うか…育ったところが海に囲まれてて、川もたくさんあったから。魚の姿そのままの料理はたくさんあったし、魚を捌くこともできるんだけど、動物も鳥もまるごとって言うのはなくて…。ごめん、ここだと我儘になるのは分かってるんだけど…」

「はんっ、自分で調達しなくてもよかったってことだろ?恵まれてんな。」

「そうだね、あっちじゃ当たり前だったんだけど…ここに来て恵まれてたんだなって気づいた。」

「もういいじゃん、ジェイ。そういう国だったんだろ、カレンのいたところは。カレンのせいじゃないって。」

「別に俺はカレンが悪いとは言ってねえだろ。」

「あぁ、ごめん。話がずれちゃったね。とにかく偽善なのは分かっているんだけど、出来るだけ自分の手で何かの命を終わらせたくなくて。ごめんなさい、今はまだ覚悟できない。…依頼受けるのやめにする?」

「魔獣と穢獣以外なら問題ないんだろ?あんたが悪いとは思ってねえし、さっさと決めろ。どれにするんだ?」

「え、いいの?じゃあ…この薬草採取にしてみる。」

「Eランクだけどいいの?」

「うん。あ、でもこの薬草知らないんだけど…」

「教えてあげるから大丈夫。じゃあその依頼書を受付へ持っていこう。」


 ケルビーの指示に従って、カレンが掲示板から依頼書を外す。その横からにゅっと腕を伸ばし、ジェイがもう一枚、二枚と依頼書を剥がした。


「採取依頼は2、3件一気に引き受けた方がいい。」

「それ、ありなの?」

「早いもん勝ちだ。ただし、達成できないとポイントを差っ引かれるから加減に気をつけろ。」

「そうなんだ。教えてくれてありがとう。」


 カレンが持っていた依頼書を取り上げてさっさと受付へ向かうジェイを追いかけようとして、カレンはケルビーに呼び止められた。


「ジェイがごめんね。」

「何のこと?」

「さっきのやり取り。」

「あれは全部本当のことでしょ?ジェイが謝ることじゃないし、ケルビーが謝ることでもない。」

「でもあいつ、口が悪いから。女の子に取るような態度じゃなかった。」

「…まぁ痛いとこつかれたなって思ったけど、事実だからしょうがないよ。反省しなきゃいけないのは私の方。考えを改めなきゃいけないのは分かっているんだけど…甘くてごめんなさい。気遣ってくれてありがとう。」

「二十年も三十年もそんな考えで育ったんならすぐに変えられないって。あんま気にすることないよ。」

「ふふっ、ありがとう。」

「ジェイのあれ、言い過ぎたって後ろめたく思ってる態度だから。ぶっきらぼうで驚いたよね?」

「そんなことないよ。ちゃんと教えてくれてたじゃない。ジェイもケルビーも優しいよね。いつも助けてくれてありがとう。」

「あはっ、女の子から褒められるって嬉しいなー。よし、じゃあ採取に行こう。あの内容だとグレンズワルドだな。」


 ジェイが戻ってくるまでの間にカレンは受付での大まかなやり取りを教えてもらい、三人はグレンズワルドに赴いた。




 冒険者組合の建物から20分ほど歩くとグレンズワルドに着く。さらに10分ほど歩いたところで道から外れて奥へ5分ほど。道を外れたあたりからジェイとケルビーはポイポイと何かを投げていた。なんて森に捨てられた幼い兄妹。


「…それ、何?」

導石(しるべいし)。こうやって歩きながら落としておけば、帰りに迷わなくてすむって便利道具。何種類か色があるから他の人と被ることが滅多にないしね。50個入3ゲルド。五番路のウェルさんのところで絶賛発売中!」


 まんまヘングレだった。方向音痴の身としては、こんな小さな石に頼らなくてはいけないのは心許なさすぎて何と言っていいか分からない。とにかくジェイとケルビーからはぐれてはいけないと自分に固く言い聞かせ、カレンはそそくさと二人の間を陣取った。


「今は寒季だから薬草採取は簡単なんだ。だいたい木から採れるからね。今日は三種類…これとあっちのとそこのだな。ジェイ、向こうの取ってきてよ。」

「へいへい。」


 やる気のないような様子で歩くジェイの後ろ姿を見ていると、ケルビーが近くの木の実を取ってカレンに見せる。


「これが橙黄橘。色が鮮やかで目立つから分かりやすいだろ?鎮痛薬になるんだ。甘く煮詰めて食べても美味しいよ。採取する時はヘタの上の部分を切って取ってね。」

「へぇ、ちょっと気になる。」

「カレンは料理上手だから、挑戦してみたら?味見役するから作る時は教えてね。ジェイが持ってくるのは光沢葉。ツヤツヤしてて上半分がギザギザしてるのが特徴だからこれも見つけやすいと思う。凍傷薬と火傷薬になるんだ。」

「同じ葉っぱを使って真逆の薬になるのって面白いね。」

「ね。どうしてそうなるのか全然知らないけど。で、もう一つが陽慕花。寒季の代表的な花で、この花が咲くと星霜祭の準備が始まるんだよ。」

「星霜祭…?」

「そっか、カレンは知らないのか。聖週は知ってる?」

「うん、どの月にも入ってない週でしょ?」

「そうそう。聖週はほとんどの人が仕事をしないで、新しい年を迎える準備をするんだ。で、聖週の水の日は一日かけて祝うの。次の土の日で体を休めて、新年。すっごい賑わって楽しいよ。」


 年末年始の過ごし方は日本とあまり変わらなさそうだ。後土月に入った今、話に上った聖週まであと数週間。カレンがオストシエドルングへ来た時と違い、厚手の服や外套を手放せないほど気温はぐんと下がっている。


「陽慕花はね、美容薬になるんだ。女の子にかなり人気で栽培もされているんだけど、やっぱり自生している花の方が成分を多く含んでいるらしくてよく依頼が出てるよ。星霜祭では男から好きな子に陽慕花を贈るのが定番。」

「へぇ!じゃあジェイはミラに贈っているのね!?」

「そうなんだよ!あいつ、そういう時はすっごい気障でさー!」

「おいっ!余計なこと言うんじゃねえっ!!」


 大股で戻ってきたジェイがケルビーの頭を小突く。割といい音を立てて揺れるケルビーの頭だったが本人は気に留めるでもなく、『照れちゃってー』とさらにジェイを揶揄った。


「いいか。これが光沢葉、できるだけ軸も残せ。こっちが陽慕花、根っこは取るな。また生えてくるから。分かったな。」

「そんな早口で言ってもカレンが困るでしょー。」

「うっせ!さっさと集めて終わらせるぞ!」


 がなり立てるように説明をしたジェイは一人でまた行ってしまった。カレンも採取を始めようとして気付く。何の道具も持っていないではないか。ナイフも鋏も何も用意していなかった。


「…ケルビー。私、道具を持ってないや。」

「ああ、そっか。そのまま来ちゃったもんね。俺のを貸すよ。帰りに時間があったら、一緒に店へ行ってみる?」

「わ、お願いします!何を買っていいかすら分からないから。値段も見ておきたいし。」

「だろうね。」


 苦笑いしているケルビーは、腰につけた鞄から予備のナイフを取り出してカレンへ渡した。カレンは近くの木に生っている橙黄橘に触れてみる。つるりとした実は親指と人差し指で輪を作ったくらいの大きさで、少し背伸びをしないと届かなかったが何とか一つ切り取る。切り口から柑橘類の爽やかな香りがほのかに鼻を掠め、カレンは思わず微笑んだ。


「カレン、採取依頼は新鮮さが勝負だよ!」


 見ただけで初めてだと分かるカレンの危なっかしい手つきをハラハラと見守り、採取できた喜びを浸る姿に頬を緩ませ、ケルビーはやんわりと採取を続けるように促す。その言葉に意識を戻したカレンは黙々と薬草を取り続けた。

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