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 マジスチェルステインから依頼書を受け取ったカレンは、その足で冒険者組合へ向かった。大通りを挟んで正面なので時間はかからない。夜間以外は常時開いている正面の扉から入ったカレンは、中に見知った人を見つけた。相手もカレンに気づいて軽く手を上げて挨拶をする。


「カレン!」

「こんにちは。」


 一本脚の高テーブルを使っているのはジェイとケルビーだ。二人ともブッテルブロトを片手に何やら話していた。テーブルに置かれている大きめのコップの中にはビエルが入っているのだろう。


「珍しいところで会うね。カレン、組合に何か用事?簡単になら案内できるよ。」

「ありがとう。何日か前に私も冒険者登録してね…」

「あんたが!?」

「そうなの。はじめまして、新米冒険者のカレン・ヒョークです。以後お見知りおきを。」


 おどけて挨拶をするカレンをジェイとケルビーは信じられないと言った目で見る。


「…冗談だろ?」

「冗談じゃないんだよ、これが。」


 そう言ってスカートの隠しから財布を取り出した。この財布もカレンが作ったものだ。ウール生地をコットン生地で包んで丈夫にし、硬貨を種類ごとに分けられるようにいくつも仕切りをつけた、組合カードが入れられる四角い形のガマ口にした。パカッと大きく口が開くガマ口はとても使い勝手がよい。もちろん外側には伝統細工を飾りつけてある。

 そこから固い素材で作られたカードを出して二人の前に置く。冒険者登録をした際にカレンが手にした途端、透明から黒檀色に変化したそれはおそらく透魔石でできているのだろう。登録手数料がそれなりにいい値段だったのにも納得できた。神殿で魔力を測った時と同じように黒いのに煌めいている。『黒いカード』を手にできる人生ではなかったカレンは、高級っぽく見える組合カードに顔がにやけてしまうのを止められなかった。


「…黒のカードなんざ初めて見たぜ…」

「俺も…」

「よろしくね、先輩方。」

「…聖女が後輩とかそれこそ冗談だろ。」

「ジェイひどい。」

「まあまあ、それで?カレンの用事は何?」

「えっと、直接依頼…っていうのを達成したから組合に報告に来たんだけど、これって受付に持っていけばいいんだよね?」

「え!?もう直接依頼を受けてんの!?」

「やっぱ後輩なんかじゃねえぞ、あんたは。」

「ジェイさっきからひどい。」

「いや、でもカレン。カード見る限り初めての依頼じゃない?」

「え?うん、そうだけど。」

「…直接依頼ってある程度信用を得てからじゃないともらえないと思うんだけどな…」

「…あんたが後輩とはぜってえ認めねえ…」


 深々と溜息をついた二人は、それでもカレンを受付まで連れて行った。直接依頼と言うのは、組合を介さずに依頼者と冒険者の間で契約するものである。第三者を間に挟まないので不透明な部分が多い。そこで、不正を出さないために冒険者組合が用意した依頼用紙を提出することになっている。透魔石を粉状にしたものから作られていて、専用のペンでしか書けない。そのペンは魔力を通さないとインクが出てこない仕様になっている。つまり記載されたことは半永久的に残るのだ。


「カレン、依頼書とカードを渡して。」

「お願いします。」

「はい、お預かりします。」


 受付のお姉さんはにこやかに受け取ると、カウンターの隅に置いてある透魔石で作られた盆に依頼書とカレンの組合カードを乗せた。盆の上部に乗せた依頼書の記載事項を読み込むように棒線状の光が上から下へ流れる。そしてその光が盆の下部に乗せてあるカードへ移動した。


「記録が終了いたしました。初めての依頼を無事達成できてよかったですね、おめでとうございます。」

「ありがとうございます。」


 両手に乗せて渡された黒いカードを見ると、『0』が並んでいた部分の一か所が『1』に変更されていた。裏は何も変更していない。エストマルク王国の文字を覚えておいて本当によかった。しげしげとカードを観察していたカレンの慣れてない様子が気になったのか、ケルビーはカレンの顔を覗くように首を傾けながら提案する。


「カードの説明する?」

「え?…あ、うん。お願いします。」

「じゃあテーブルのとこに行こうぜ。」


 三人は高テーブルのところへ移動した。ついでにブッテルブロトとビエルを追加するのも忘れずに。


「…カレン、飲めんだな。」

「あれ?二人の前で飲んだことなかったっけ?」

「ないよ。いっつもちびっ子達と一緒に昼過ぎまでしかいなかったじゃん。」

「言われてみればそうだね。私が育ったところは20歳で飲酒解禁になるの。そもそも飲める家系らしくてねぇ、若い頃は友達と馬鹿みたいに量勝負してたのよ…」

「…若い頃って…あんた、いくつだよ?」

「うん?女に年を聞くの?」

「…あー…いや…」

「まぁ、ここでは隠すほどじゃないらしいから別にいいけど。25だよ。ジェイとケルビーは?」

「そう言えば未成年って言ってたような。こっちの解禁年齢に達しててよかったねー。俺達は31だよ。」


 コップを持ち上げるケルビーに、ジェイとカレンもコップを目の高さに持つ。『乾杯』と挨拶をして、目を合わせながら一口飲んだ。日中から飲酒することに若干の後ろめたさを感じているカレンをよそに、ケルビーとジェイは当たり前のようにブッテルブロトを口に放り込む。考えたら負けだな、とカレンもエビとジャガイモのチーズ乗せのブッテルブロトを齧った。


「じゃあ、カードの説明をしようか。まず表からね。」


 ケルビーが指をさした組合カードの上部中央にはカレンの名前が記されている。


「ここは説明しなくても分かるよね?で、その下の左側のこれが今のランク。カレンは一番下のEランクだから、鉄貨が表示されてるわけ。ちなみに俺はCランクだから銀銅貨。見る?」

「うん。比較させてほしいな。」

「はいよー。」


 腰につけた小さな鞄をごそごそとさせたケルビーはカレンのカードの横に青いカードを並べた。


「…青いのはケルビーが水属性だから?」

「そうそう。」

「ジェイのも見せてよ。」

「並べるもんでもないだろ?…ほら。」

「ありがとう。赤だね。」

「火属性だからな。」

「ジェイも銀銅貨だから…Cランクってこと?」

「ああ。大体こいつと依頼をこなしているから、必然的にそうなるもんだろ。」

「話を続けるね。右側は種別依頼達成の回数とランクが記録されてるんだ。上から薬草や魔石や素材を取ってくる『採取』で、納品まで完了しないと達成にはならないから気を付けて。二つ目が魔獣や穢獣を狩る『討伐』で、倒した後で手に入る魔石を組合に見せれば依頼達成。運がよければ採取の依頼内容と被ってポイントが大量に貰えたりもするんだ。三つ目は移動する依頼者を守る『護衛』。穢獣だけじゃなくて盗賊なんかもいるからね。」

「こわ…。え、エストマルク王国って治安悪いの?」

「オストシエドルングが安定しているだけだよ。カレンもどこか行く時は気を付けて。あ、グレンズワルドにもいるからね。」

「…その時は二人に護衛を頼むことにする。」

「お待ちしていまーす!で、四つ目は土地の調査をする『探索』。これは俺もよく分からないや。五つ目は薬品や魔石加工品などを作る『生産』で、これも納品を完了して依頼達成。カレンはこれだったんだね。何を作ったの?」

「髪留めとか。」

「ああ、聖女の加護があるって噂の?この間のバザーで、一瞬で売れたってやつ?」

「聖女の加護なんかないんだけどね…。あ、そうだ。庭で見つけた魔石なんだけど、結構いいものだったらしくて。本当に分けなくていいの?」

「まだいらねえって。」

「そんなに気になるならあの魔石を使って俺達に聖女の加護を作ってよ。」

「それでいいの?って言うか、加護は本当にないんだって!ただの飾りだよ!」

「はいはい、期待して待ってるぜ。」


 ひらひらと手首を返していなすように返事をするジェイにムッとしながらも、カレンはどんなものにしようかイメージを膨らます。だって、どうせ作るのなら気に入ってもらえるものがいいに決まっているではないか。


「一番下はこれまで以外の『雑務』、ようするに何でも屋みたいなもん。町中での依頼がほとんどで、店番、売り子、掃除に荷物運びとか、誰でもできるようなものが多いかな。ほとんどがEランクだから、カレンはまずここから始めることになるね。」

「なるほど…。」

「種別の回収を記録しているのは、それぞれ得意不得意があるからね。例えばカレンがこのまま生産依頼でDランクに上がったとして、討伐依頼を頼まれても困るでしょ?」

「うん。」

「そんな時に登録カードを見せれば相手も納得する、てか困ってるから依頼を出しているのに失敗されてもだろ?」

「まぁそうだね。分かりやすくていいと思う。裏は?」

「裏は、上が最新の登録場所。最後に依頼達成したのはどこだってのが分かるんだ。左側が初めて登録した場所。大抵は生まれ育った場所で登録するから出身地みたいな感じで見られる。その下が使った支部の履歴みたいなもの。定住しない冒険者がどう移動してきたか大まかに分かるよ。右側は簡単に言えばどんな手柄を立てたかって証明だね。」


 思っていた以上に個人情報が詰まっているではないか。カレンはケルビーの説明を聞きながら秘かに嘆息する。やはりこれ、最悪はあえてカードを使わないでおこう。カレンはまだ情報の少ない黒のカードを眺めながら決心した。

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