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 オストシエドルング領都の商業区画は領地の東西を貫く王都へと続く大通りと、隣国へ続いている南北の大通りに接している。その大通りと大通りが交わる一等地に冒険者組合の建物がある。東西の大通りを挟んだ向かいは神殿だ。冒険者組合は王都本部と各領支部のエストマルク王国全土に展開している組織で、各個人が登録し、依頼を出したり受けたりする場として機能している。一階には受付と依頼がたくさん張り出された大きな掲示板、情報交換ができるような一本脚の高テーブルがいくつか置かれた空間がある。二階には広い事務室が三部屋、個別の相談ができるような部屋が並んでいて、奥まった一室にカレンの姿があった。


「では、説明を致します。本組合はエストマルク王国全土に展開していて、どなたでも登録できます。登録をすれば依頼を出すことができます。依頼を受けることは登録なしでもできるのですが、依頼達成時に発生するポイントを受け取ることができません。ポイントは蓄積されるとランクが上がり、より高度な依頼を受けられるようになります。つまり登録なしで依頼を受け続けていては、どんな実力者であろうと報酬は低いままと言うことです。」

「なるほど…」

「依頼にもランクがあり、難易度や危険性などが上がるほどランクも上がります。当然、報酬も桁上がりです。自分のランクより高い依頼は受けられませんが、低いものは選ぶことができます。つまり、上ランク者である方ほど依頼もご自分に合った選択できるということになります。」

「なるほど…」

「依頼は組合を通さずに個人でも出すことはできます。しかし、それを受けてもらえるかは顔の広さや信用度に直結します。その点、組合を通せば依頼が誰の目にも入るので引き受けてもらえる確率がぐんと上がります。まあ、組合を通して依頼を出せば依頼料が発生する欠点もありますが。組合に登録しておけば依頼内容によってご自分に有利な方を選べるのです。」

「なるほど…」

「先ほど申し上げましたように本組合はエストマルク王国全土に展開しておりますので、別の場所へ移られてもそれまで蓄積されたものをそのまま継続できます。さらにこの国と同盟を組んでいる他国にも同じような組織がありますので、ランクやポイントなどが多少前後することはあるかもしれませんが大差なく引き継ぐことができます。本組合カードは簡単な身分証明になりますので、移動後の生活環境を整える手間も楽になるかと。」


 ここまで順を追って説明しているのは組合長だ。冒険者上がりだと言う彼は仕立ての良い服に身を包んでいる。服も体格の良い彼に着られて幸せだろうが、ところどころきつそうな箇所があってカレンは少しだけ笑いを零してしまった。もちろん内心で、である。その上ランク冒険者であった組合長が、唐突に恐る恐ると言った様子で口を開く。


「…ところで、聖女様。どこかへご移動される予定でもあるのですか?」

「え?あぁ、いいえ。今のところその予定はありません。実は装飾品を作ってほしいと頼まれまして。金銭のやり取りをすることになるので身分を証明できない私は組合に所属した方がいいだろう、と助言いただいたのです。」


 カレンは聖女と呼ばれているが、『聖女』は職業ではない。今のカレンを端的に言えばフリーターである。住居はあるが、いつ取り上げられるか分からない。仕事も融通してもらっているが、いつ切られるか分からない。全て辺境伯の心ひとつである。先日のトゥバルトとの一件で、カレンは自分の足元の不安定さに恐怖していた。そこに冒険者組合の話を聞いて、支部を訪れたのである。


「そうでしたか!」


 あからさまに安心した組合長はそれまで浅く座っていた応接ソファに深く座り直し、緊張を解いた。事務員が用意した飲み物はすでに温くなっていたが、それを一気に飲み干し代わりを言いつける。


「装飾品と言うと、前回のバザーの髪留めですか?実は私もあの場にいたのです。もう一歩と言うところで売り切れてしまって、一緒にいた妻にねちねちと…ああいえ、妻を残念がらせてしまいました。そうですか、本当に販売してくれるのですね。」

「…具体的なことは何も決まっていませんが。」

「そういうことでしたら、私としては登録されることをお勧めします。どのような形態で販売するのか分からないですが、金銭が絡むことでしたら組合に登録しておけば、何かあった時に組合がお手伝いできることもありますので。」

「後ろ盾になっていただけると言うことですか?」

「聖女様だけでなく登録者全員の、ですが。揉め事の仲裁を引き受けますし、事件や事故などの原因調査と対処も致します。登録された暁には、分からないことや困ったことがありましたら何でも相談してください。」


 組合長の言葉はカレンに響いた。『登録者全員の』とわざわざ注釈をつけたのは普段からそれを意識しているからだろう。誰でも登録できると言うことは、冒険者には貴族も平民もいるはずである。どこかに偏ることない公平さをカレンは組合長の言葉の中に見つけた。それでも懸念はいくつもある。それをカレンは質問した。


「お聞きしたいのですが、冒険者組合自体はどこかの傘下に入っているのでしょうか?例えば貴族のどなたか様ですとか、王国の一機関ですとか…」

「本組合は独立組織です。厳密に言えば、この国は王制ですから国王陛下直々のお言葉は拝命致します。しかし基本的に依頼としてお受けするので、断ることも不可能ではありません。冒険者達は実力主義が多いので権力を振りかざされることを嫌います。貴族の方はそれを知っていますし、冒険者に背を向けられても困るので、介入されることはあまりないです。危険度の高い依頼には王国の騎士団、各領地の騎兵団と協力して当たることもありますが、対等な立場です。」

「ここではいかがでしょう?」

「オストシエドルング支部は独立性が他支部より強いと言われています。ご領主様も当支部を尊重してくださっています。ご当主になられる前は冒険者登録をされていた時期もあるのですよ。」

「と言うことは、登録を解除することもできるのですか?」

「はい。その場合、高齢や結婚を理由に引退されることがほとんどです。けれど強制的に依頼を受けさせられることは滅多にありませんから、大体の方が登録したままでいます。日中で終えられるような依頼を受けて家計の足しにする奥様方や、健康のために簡単な依頼を受けるご高齢の方も多いです。登録を解除するとそれまでの全てが抹消されるのでお気を付けください。」

「個人情報はどこに保管されるのですか?」

「各個人の組合カードと組合本部です。連動しているのでカードの情報が更新されたら本部の情報も自動的に書き換えられます。」

「情報保護はどうなっていますか?」

「情報保護ですか…?より良い依頼を得るためにランクや達成数は開示した方がいいと思うのですが、隠す理由があるのでしょうか?あの、失礼ですが、聖女様のお知りになりたいことは一体…」


 不思議がり戸惑いを見せる組合長に、カレンは何でもないですと曖昧に笑った。どうやら個人情報を保護するという概念がないらしい。むしろ積極的に見せるものだと言う考えに、カレンの方も戸惑う。


「…組合長さんは組合カードを持っていらっしゃいますか?」

「はい。」

「見せていただいてもいいでしょうか?」

「もちろんです。」


 即座にカレンの前に置かれたのは手のひらほどの大きさのカードだった。そこには名前、所属組合名、ランクなどが記載されている。裏にもいくつか記されていたが、これを見る限り、漏洩されては困る個人情報は名前と多少の経歴くらいだろう。組合長が言うようにランクや成果などは開示してしかるべきものだ。冒険者になりたいわけでもないし、上のランクを目指すつもりもないし、最悪カードを使わないようにすればいいかと結論付け、カレンは登録することを決めた。

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