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032

 昼食はナタリアと約束した通りパン祭りを開催した。あらかじめ大量に作っておいたパンを平皿いっぱいに乗せて食卓へ運ぶ。ただ焼いただけのプチパンだが、白パンを食べたいと言っていたナタリア達に喜ばれた。ジャム、バター、卵フィリング、ポテトサラダ、ウィンナーも付け合わせれば、ナタリア達は前回と同じように『おいしい!おいしい!!』と楽しんで食べた。


「ヒョーク様!もうちょっとしたらまたバザーがあるの!ヒョーク様、また来てくれる?」

「そうなの?それじゃ、お邪魔させてもらおうかな。」

「やったー!!」

「辺境伯様からお話があれば、だから絶対とは言えないけどね。でも遊びに行くだけでいいならお邪魔させてもらってもいい?」


 バザー会場は人がたくさん来ていて盛況だった。あの時はさっと見て回っただけなので、今度はじっくりと見て回りたい。ミラやミリと行けるならきゃっきゃして楽しみたい。思いを馳せて口元を緩ませるカレンに、ジェイやケルビーはやや引いた視線を向けた。


「そうだ!ジェイとケルビーって魔石店の人達と仲はいい?」

「まあ悪くはねえぞ。チビの頃から知られてるし、魔石とか手に入れた時はあそこに買い取ってもらってるからな。」

「神殿敷地内は親戚って感じだよ。孤児院から出てあそこで働いている人も何人かいるし。何で?」

「粒魔石があるなら欲しいなぁと思って。取り扱ってる?」

「だから粒魔石は売りもんにならねえんだって。2階に行きゃ転がってんだろ。」

「タダでもらえないって!それなら手持ちの魔石と交換してくれるかな?」

「それは魔石店にとっても願ったり叶ったりだと思うけど。」

「ジェイとケルビーがうまく口きいてくれる?」

「話通すことぐらいはできるだろうけど…カレンが望むようにはいかないかもしれねえぞ?それでいいなら今から行くか?」

「わ、嬉しい。じゃあ、食べ終わったら早速お願いします。」


 畑から集めて綺麗に洗った魔石を色別にいくつかずつハンカチに包んで、籠に入れる。孤児院まで子供達を送ってから魔石店へ向かった。ジェイとケルビーが店長に話を持ち掛けると、即座に交渉は成立する。


「お手持ちの魔石と交換は必要ありません。こちらも片付けの手間が減りますので、すべてお持ちください。これからもたくさん出ますので、どうぞそちらもお持ちいただければ。それでは申し訳ない?そのようなことはないのですが…では、穢魔石が届いた時に穢れを取り除いていただけますか?大神官様のお仕事を奪ってしまう?いいえ、もともと大神官様のご厚意に甘えていたのです。聖女様…ヒョーク様と呼ばせていただきますね、ヒョーク様が穢れを見事に取り除かれるのは大神官様も知っていることです。『ぜひお願いします』と仰られると思いますよ。ですから、穢魔石の処理をお願いいたします。」


 カレンは心配を否定され、大神官を巻き込んで感謝され、それでいいのかと思うほど簡単な依頼で粒魔石を籠いっぱい手に入れた。貰いすぎて恐ろしいぐらいだ。神殿に寄って穢魔石の件を確認すると、店長が予測したように大神官から『間違いなくそちらの方が店のためになるでしょうから、よろしくお願いします』と任されるような形になった。ジェイとケルビーとは神殿を出たところで別れ、その足で城館へ向かう。会う約束をしていなかったがトゥバルトとすんなり面会することができた。バザーのことを尋ねれば『近々話をしようと考えていたところだ。また寄付してほしい』と頼まれ、断る理由がないので承諾する。ついでに魔石店での一件を話し、マーラの勉強相手以外の仕事をしてもいいか質問すると、光の日に支障を出さなければ好きなようにしていいと許可を与えられた。




「カレン、なにをするのだ?」


 食卓の上にごちゃっと広げたものを見て聖獣達が寄ってくる。その小さな翼が生み出す微風も今は避けたいもので、カレンは飛ばされないように手で押さえながら聖獣達に答えた。


「お守りをね、作ろうと思うの。すっごく細かい作業になるから、できるだけ風を作らないでほしいんだ。お願いできる?」

「まかせろ!」

「ありがとう。この机から離れたところだったら大丈夫だからね。」

「カレン、これらを使うのか?『お守り』とやらはカレンの身を守るものではないのか?我が与えた魔石を使わぬのか?」

「あれは大きすぎて。それに綺麗だから加工するのがもったいなくて。でも…あ、ねえコウ。あれをギュッと凝縮することってできる?できればこれくらいの大きさにしてほしいんだけど。」


 そう言って親指の指先から第一関節までを指したカレンに、コウが頷く。亜空間から以前貰った白魔石を取り出すと、コウは口から光を放った。拳大の白魔石が圧縮されるように小さくなっていく。そしてカレンの手のひらの上にはこれまで以上に奥深い光沢を纏う真珠が鎮座した。内側から力が湧き出てくるような強烈ささえ感じるてらりとした輝きに思わず凝視すれば、まるで鏡のようにカレン自身が見つめ返してくる。こんなに惹きつけられる宝石を見たことがない。しかも見事な雫型に、カレンは感嘆の溜息をついた。


「…絶対納得いくものを作る!肌身離さない!」

「そうしてくれ。」

「でもこれ用の材料を今日は用意してないから、また今度ね。絶対最高のものを作りたいもの!」

「結局使わぬのではないか…まあ、楽しみにしていよう。」


 亜空間に白魔石をしまい直したカレンに、コウは納得いかないように眉を顰める。しかしこの宝石はカレンにとって唯一のもの。中途半端に作るなど、カレン自身許せるものではない。


「カレン、ませきがひつようなのか?」

「うん。でも小さいのはここにあるから…」

「エンのませき、カレンを守る!」

「フウのも!」

「スイのも!」

「チイのも!」

「みんな作ってくれるの?わ、嬉しい!じゃあ、みんなには粒魔石を2つずつ作ってほしいな。」

「ちいさすぎる!」

「その代わり、うんと魔力を込めてよ。そしたらいつもみんながそばにいるって安心できるから。」

「わかった!」

「では我も新たに作るとしよう。それに我のだけがないと言うのは許せぬからな。」


 力を溜めるように聖獣達がエネルギーを溜めるように身を縮ませた後、五色の閃光が現れる。それらが消えて聖獣達の足元には色濃く光る粒魔石があった。


「うわ…綺麗!」

「カレン、これをつかえ!」

「これも!」


 得意げに持ってくる聖獣達に礼を言って、カレンは椅子に座った。材料は日中に町で買い揃えてある。日本にあったのと全く同じものを用意することはできなかったが、遜色があるわけでもない。布を切り分けて、小さな一枚一枚を抓んで折って抓んで折って。パーツを揃えたら土台に貼り付けていく。この世界の糊は透魔石の粉を混ぜ加えてあり、魔力を流し込めば強力接着剤並みにくっつく。魔力を使わずに仮止め状態で形を整えてから魔力を送って固定すれば、麦粒くらいの花が出来上がった。花びらの形を変えてもう一つ、花びらの重ねを変えてもう一つ、半球状も一つ、中心に聖獣達の魔石を貼り、葉も作る。カレンの祖国で数百年受け継がれている可憐さと華やぎを楽しませてくれる伝統細工だ。出来上がったそれらを今度は細い木製の土台に装飾していく。バランスを考えながら花を配置したら、隙間には余った花びらや葉、コウに頼んでより小さく作ってもらった濃厚に輝く白魔石をこれでもかと詰めていく。糊に魔力を送り込んで固定し、ついでに何からも悪影響を受けないようにカレンは防御魔法を三回重ねてかけた。イメージはありとあらゆるものを完全防御できるバリアだ。バリアは無敵なのだ!試しに指輪の裏側になる部分に水をかけてみたが、瞬時に滲みることなく弾いたのできっちり効いているのだろう。満足気に微笑んだカレンは、完成した指輪を中指にはめた。


「できた!」


 世界でたった一つ、布でできた麦粒ほどの花がちりばめられた指輪をカレンは天にかざすようにしてじっと見つめた。淡色の花びらに囲まれて、花芯にはエン達がくれた魔石がきらめいている。コウが作った魔石は花の周りで朝露のように。予算の都合で木製の土台を選んだが、金属と違う柔らかさと温かみがあっていいものだ。この布細工はカレンの趣味の一つで、細かい作業は時間を忘れて没頭できる。血の根底に流れているのかもしれない伝統を愛する製作が、こんなにも慰めてくれるものだとは思いもしなかった。故郷が身を守ってくれるように感じることができる趣味、カレンの私的流行は当分続きそうだ。

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