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 みんなでわいわいと昼食を取った後、ジェイとケルビーの多大なる努力により完成させた畝に作物を植えていく。宣言通り、この先二人は手を出さないようだ。少し離れたところの地面に直座りして楽な姿勢を取りながら、『しっかりやれよー』と何とも気の抜ける見守りをしていた。


「複薯、人参、玉葱、赤茄、萵苣、青椒、蕪。でいいんだよね?」

「うん。でも時季がバラバラじゃない?今からいっぺんに作付けしても大丈夫なの?」

「それの練習をここでさせてもらえるんでしょ?俺、頑張る!…失敗したらごめんなさいだけど。」


 ワルデンが眉を下げる。まだ失敗すると決まったわけでもないのに、真面目な性格のせいかすでに責任を取る覚悟をしているようだ。つられるようにナタリアとワルテンも表情を厳しくした。いやいや、悲愴な顔をするのはまだ早いからっ!カレンは慌てて『大丈夫だよ』と何が大丈夫なのか意味が分からない慰めを口にする。


「…失敗したっていいんだよ。私も『あるといいなぁ』ぐらいの気持ちだし。もともと一人でするはずだったんだから、デン君達が手伝ってくれるだけでとても助かっているの。ここの畑でたくさん練習して!」

「ありがとう。ナティ、テン、植えるよ。」


 ワルデンはそばに置いてあった麻袋から小さな革の巾着袋をいくつも取り出し、付札を見て中身を確認する。


「それは何?」

「種だよ。ジェイ兄とケル兄が農家から少しずつもらってきてくれたんだ。ヒョーク様、どれくらい収穫できるか確かめたいから赤茄と青椒は一粒ずつでもいい?」

「うん、いいよ。たくさんできるといいね。」

「じゃあナティはあっちに赤茄と青椒。テンはその奥に萵苣と複薯。俺はここに人参と蕪と玉葱。」

「複薯も1個じゃなくていいの?」

「複薯は毎日食べるでしょ?たくさんあったほうがいいと思って。」

「そっか、なるほどね。私は何をすればいい?」

「ヒョーク様はジェイ兄とケル兄と一緒に見てて。俺達だけでやる!」

「え、でも…」

「練習させてくれるんでしょ?俺、すぐに働けるようになりたいから!」

「…そう。じゃあお任せします。お願いね。」

「うん!」


 しぶしぶと畝から離れてジェイ達の側へ移動したカレンを、二人は首を傾げながら迎え入れる。ワルデンとの会話を説明すれば『ちびのくせにいっぱしの口振りしやがる』とどこか嬉しそうに笑った。


「種、ありがとう。農家さんから貰ってくれたって?」

「孤児院の奴らと行ったついでにな。残りもんだって言ってたから気にすることねえぞ。ファビアンの旦那、『聖女様のお役に立てる』って鼻を高くしてた。」

「いい人なんだよ。孤児院の子達を働かせてくれたり、卒院児を積極的に雇ってくれたり、売り物にならないものを寄付してくれたり。」

「そうなんだ。うん、赤の他人に商売道具のはずの種を分けてくれるぐらいだもん。いい人なんだろうね。お礼と言うか、お返ししたいんだけど、どんなものが喜ばれそうか分かる?」

「別にいいんじゃね?」

「うーん…でも私の気持ち的に貰いっぱなしっていうのも…」

「じゃあ、あのクッキーの詰め合わせにしたら?」


 …そんなに価値のあるものなのか、あのクッキーは。カレンは遠い目をする。自分の中では趣味の一つでしかないのに。好意的に受け入れてもらえて嬉しいのは自明のことだが、何かの対価に値するほどのものではないと思っている。せいぜい仲の良い友達の家に遊びに行く時の手土産ぐらいのものであろう。本当に『お返し』となるのか、そして喜んでもらえるのか…?カレンは心の中で唸る。


「…ちょっと考えておく。」

「何もしなくてもいいと思うけどな。」

「だからそれは私の気持ちの問題で…」

「真面目だねえ。」

「お前は緩すぎ。」

「ひどいっ!ジェイは適当すぎなくせにっ!!」

「ふふっ。あ、さっき集めた魔石は山分けでいい?」

「…だから真面目過ぎんだろ。この森はカレンのものなんだから、あの魔石も全部カレンのものだろ?」

「何で!?掘り出したのはジェイとケルビーじゃない。」

「知ってる?この森、今は『ヘイリゲルワルド』って呼ばれてるんだよ。聖獣と聖女が住む聖なる森。聖なる物は聖なる人のものってね。」

「いや、でも…」

「いいから取っておけ。どうしても金に困ったら、俺らも遠慮なく分けてもらうから。」

「だね。本当に遠慮しないよ、俺らは。」

「ぜひそうして。」


 友人となってそれほど日数は経ていない。その二人が重い雰囲気にならないよう茶目っ気たっぷりに気遣ってくれるものだから。カレンは邪気なく笑うのだった。話しながら見守っていた子供達も作付けを終えたらしい。『終わったー!』と呼ぶ声に三人で畝の側へ行った。


「頑張ったな、三人とも。」

「うん!上手に植えられたでしょ!?」

「まあ悪くないな。」

「ありがとう、デン君、ナティちゃん、テン君。」

「じゃあ、デン。仕上げだ。」

「うん!」


 ジェイの促しに、ワルデンはナタリアがしたように両手のひらを畑へ向ける。その横でテンも畑の上に両手のひらを向けた。


「命を育む地よ、その身に新たな息吹をもたらせ、その身に豊穣の喜びを!」

「命を恵みし水よ、この地にその祝福を!」


 ワルデンの手から黄の光が生まれる。それが畑へ吸い込まれていった。テンの手からは青の光が生まれ、空中に広がる。光はゆらりと揺れて水滴を作った。シャワーのように落ちて畝を潤していく、が。


「…ちょっと足りないな。」


 カレンの横で見守っていたケルビーが苦笑すると、片手を畑に向けてテンと同じ言葉を呟く。追加の恵みが降り注いだ畑はしっかりと土の色を変えた。


「テンはもっと練習が必要だな。ワルデンは実り具合を見ないと何とも言えねえが。」

「でも悪くなかったよ、テン。カレンの畑を借りて練習を繰り返せばすぐにうまくなるさ。」

「うん!」


 本人も成長途中の自覚はあるのだろう、卑屈になることもなくワルテンが笑顔で頷く。まだ8歳、これからいくらでも腕を磨けばいいのだ。『ありがとうね』と全員に感謝して出来上がったばかりの畑を眺めていると、聖獣達がパタパタと飛んできた。


「カレン、めしのもとできた!?」

「まだだよ。これから育てていくんだから。」

「どれくらい?」

「あした?」

「明日は無理だよ。一年ぐらいかかると思うよ。」

「おそい!」

「おそすぎる!」


 聖獣達が一斉に抗議する。しかしこれは自然が相手のことだし、人間の力ではどうしようもないことだし。どう説明して納得してもらおうかカレンが考えていると、チイが勢いよく森の中へ飛び込む。少しして戻ってきたチイは黄魔石を4つ持っていた。


「カレン、これをうめて。」

「埋める?どこに?」

「めしのもとのそば。」

「畑に?」

「これでかこむ。」

「畑を?」


 早くと急かすチイに、頭の中は疑問でいっぱいだったがカレンは言われるままに畑の四隅に黄魔石を埋めた。途端に畝から小さな緑が顔を出す。


「チイのかご!」


 えへん!見事な擬態語がチイの背後に見えた気がする。心なしか胸を反らしているようにも見えるチイがふんすと鼻を鳴らすと、畝の表面に緑の面積が増えた。ぐっと顎を上げると今度は上へ。これはアレか、両手を合わせて天へ突き上げたほうがいいのだろうか?チイに傘を持たせた方がいいのだろうか!?


「…畑に土の聖獣の加護をつけるとか…さすが聖女様だぜ…」

「…この調子だと一週間ぐらいで収穫できそうだね…」


 ははは…とカラカラに乾いた笑い声を発するジェイとケルビーに、なぜか申し訳なさが勝ってそっと視線を逸らす。けして、決してカレンが原因ではないはずなのだが。純粋な瞳で熱視線を送る子供達にますます気をよくしたのか、チイがもう一度顎を上げる。また少し芽が伸びた。今夜は独楽に乗って空中散歩に行くべきなのだろうか…。

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