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魔王城の守り

……………………


 ──魔王城の守り



「これがドローンが偵察した魔王城付近の映像だ」


 セラフィーネがそう告げて軍用規格のタブレット端末に映像を表示する。


 そこには魔王城を守るように展開する3体の龍の姿が映っていた。


「龍か。随分な警備だな」


「ああ。物々しい警備と言っていい。この龍たちが結界となっていて、魔王城への空間転移による突入を阻止している。魔王城に踏み込むにはこの龍をどうにかしなけれならん。幸いにして相手の数は3体、こちらも3人だ」


 アベルが唸るのに、セラフィーネがそう告げて返した。


「まあ、サクッと片付けちゃおう。いつまでも前座に構う必要はない」


 ローラがそう告げて龍たちの様子を眺める。


「そうだな。では、担当を決めるぞ。この赤い龍は誰がやる?」


「俺がやろう。恐らく火龍だろう。俺の好みの相手だ」


「では私はこの地味な色の奴をやろう。恐らくは土龍だろうな」


 セラフィーネが尋ねるのにアベルが声を上げる。


「それじゃ消去法でボクがこの水色の奴か。まあ、いいとも」


 それぞれの担当が決まった。


 アベルは火龍を、セラフィーネは土龍を、ローラは水龍を。


「それではこれから空間転移で魔王城の前面に出るぞ。準備はいいな?」


「準備万端だ」


「ボクも問題ないよ」


 セラフィーネが確認するのにアベルたちがそう告げて返す。


「あのー……。本当に僕も行かなきゃいけないんですか?」


 そこで声を上げたのはクリスだった。


 人狼、魔女、吸血鬼が揃った中で、クリスだけが一般人である。


「当然だよ。君はボクの非常食なんだから。付いてきて貰わないと困る」


「けど、これから相当不味い戦いに行くんですよね。僕がいると邪魔じゃないですか」


「邪魔じゃないよー。むしろ、大助かりだから」


 クリスの困惑した言葉にローラがそう告げる。


「それじゃあ、そろそろ始めようよ。パーティーがお待ちかねだ」


「ああ。転移するとしよう」


 ローラが冗談めかして告げるのに、セラフィーネが魔法陣を広げる。


「俺たちに勝利を」


「我々に勝利を」


「ボクらに勝利を」


 3人はそれぞれそう告げると、空間転移を始めた。


……………………


……………………


「よっと!」


 セラフィーネの魔法陣は地上より僅かに高い位置に転移させていた。


 アベルたちは地面に降り立ち、魔王城の方角を見渡す。


 荒涼とした東部の大地の中に廃城のごとき城がそびえている。


 それはかつてこの東部を治めていた王国の城だった。その王国が滅び、魔族たちが大陸東部を完全に制圧したのにあたって、この城が魔王城となったのである。


 そして、その魔王城の周りに赤、黄、青の龍が円を描いて舞っていた。


「膨大な魔力だな。景色が歪んで見える」


「やる気が湧いてくるぜ」


 セラフィーネが告げるように3匹の龍の魔力は膨大で、その周辺の景色を歪ませていた。魔王城に展開された結界というのも、この3匹の龍によるもので間違いなさそうだ。


「では、予定通りだ。アベルは火龍を。ローラは水龍を。私は土龍を受け持つ。3体全て撃破出来たら、魔王城に突入だ。それぞれの担当する龍を確実に葬り去れ」


「任せといてー。適当にやっちゃおう」


 セラフィーネの言葉にローラが強くうなずく。


「それじゃあ、始めようぜ!」


「ああ。始めるとしよう」


 アベルが号令をかけ、戦闘が始まった。


 アベルたちは互いに協力し合うということはしない。


 それぞれがそれぞれの戦いを繰り広げ、それが結果的に協力したようなことになるのである。今回の龍との対決もその通りだ。アベルたちは3匹の龍をそれぞれが1匹ずつ相手する。互いに協力してともに龍を倒そうとはしない。


 彼らの中では未だに進行中なのだ。世界最強の勇者決定戦は。


「いよいよあなたの懐に殴り込んできましたよ、魔王ロキ」


 フォーラントが上空からアベルたちの様子を眺めて告げる。


「あなたが思ったようなゲームとは違う結果になるかもしれません。それでも結果は結果として受け入れてもらいますよ。ゲームとはそういうものなのですから」


 フォーラントはそう告げると空間の隙間の中に姿を消した。


……………………


……………………


 先制攻撃を仕掛けたのはアベルたちの側だった。


 アベルが思いっきり火龍の腹部に拳を叩き込み、火龍の体が揺さぶられる。火龍はぐるりと向きを変えるとアベルの方を向き、その蛇のような体から炎を噴射した。


「温い、温い、温い!」


 アベルは炎を全身で受け止めると、人狼としての本性を現し、火龍の前に仁王立ちした。その体は少しの火傷もなく、アベルは平然としていた。


「もっと派手に行こうぜ!」


 アベルはそう告げて火龍に殴りかかる。


 火龍は身を捻って攻撃を回避し、魔王城の方を目指して飛行する。


「こら! 待て! 逃げるな!」


 アベルは逃走を始めた火龍を追撃する。


 だが、火龍はただ逃走したわけではなかった。


 アベルの目の前に土龍と水龍が立ちふさがる。


 誘いこまれたのだ。


「セラフィーネ! ローラ!」


 アベルが叫ぶと、土龍の頭が爆発し、水龍の体に無数の蝙蝠が襲撃をかける。


「それは私の獲物だ、アベル」


「そっちはボクのね」


 セラフィーネは“変換型電磁投射砲マギネティック・ランチャー”を土龍の頭に叩き込み、ローラは魔力で形成した蝙蝠で水龍を襲わせていた。


「任せたぜ。待てや、龍! 逃げるな!」


 土龍と水龍をセラフィーネとローラに任せてアベルは火龍を追撃する。


 火龍の体が痙攣を起こし、異様な雄たけびが響いたのは次の瞬間だった。


「なんだ?」


 アベルは火龍の姿をまじまじと観察する。


 すると異変に気付いた。


 火龍の頭にダークエルフの半身が生えていたのである。


「貴様、この間のダークエルフか!」


「その通りだ。“呪殺のクラーマー”。魔王ロキ陛下の命により、貴様らをここで葬り去る。覚悟するがいい!」


 “呪殺のクラーマー”は火龍と融合していた。その異様な姿と膨大な魔力の圧力が見るものを威圧する。だが、アベルはこの程度のことでひるむ男ではない。


「弱点が分かりやすくなったって後悔するなよ!」


 アベルは大きく飛翔し、火龍の頭部からアベルを見下ろす“呪殺のクラーマー”に襲い掛かった。爪が“呪殺のクラーマー”を叩き切るかと思われたその時、その爪が何かしらの障壁に弾かれて、跳ね返された。


「結界か!」


「その通り! この火龍の無尽蔵の魔力があればこの程度のことは容易なこと!」


 アベルが一旦退くのに、“呪殺のクラーマー”がそう告げる。


「そして、このようなこともできる」


 “呪殺のクラーマー”が魔導書を開き、アベルの方に魔法陣を展開する。


「ぐうっ……! またこの重たい奴か……!」


「ハハハッ! 今度こそ押しつぶされてしまうがいい!」


 以前の“呪殺のクラーマー”と違って、今の火龍と融合した“呪殺のクラーマー”には膨大な魔力がある。その魔力を繊細にコントロールしてやれば、この間の呪いよりももっと強力な呪いが繰り出せるというわけだ。


「この程度で俺を止めようなんて、思うなよ……!」


 アベルは一歩、一歩前に出て“呪殺のクラーマー”に迫る。


「ならば、焼き殺してやる」


 “呪殺のクラーマー”が融合している火龍がその顎門を大きく開き、アベルに向けて炎を蠢かせる。その炎が今のまともな防御が取れないアベルに命中すれば、アベルとて大きな打撃を受けることにつながるだろう。


 そして、“呪殺のクラーマー”が炎を放った。


 炎の渦はアベルに迫り、アベルの身が焼かれようとしたとき──。


「アベル殿!」


 炎はアベルに達さなかった。


「ハイデマリー!? どうしてここに……」


「アベル殿たちが魔王城に殴り込みをかけると聞いて思わず来てしまった。今は少しでも助力が必要であろう?」


 アベルの危機に訪れたのはハイデマリー王女だった。


「ああ。少しでも戦力があればありがたい。一緒にやってくれるか?」


「当然だ。誘ってくれなかったから拗ねるところであったぞ」


 アベルが告げるのに、ハイデマリー王女が二ッと笑った。


「じゃあ、行くか! あの火龍をぶちのめしてやろうぜ!」


「やってやろう!」


 アベルとハイデマリー王女が同時に火龍に向けて駆ける。


「少し数が増えたぐらいで何が変わるというのだ。押しつぶされてしまえ」


 “呪殺のクラーマー”はそう告げて、さらなる呪いを放つ。


「無駄だ、無駄!」


「効かぬ!」


 だが、どういうわけかアベルたちには攻撃が通用していない。


「どういうことだ……!?」


 “呪殺のクラーマー”はさらに呪いを放つもハイデマリー王女も動きも、アベルの動きも止められない。呪いは効力を発揮しているはずなのに、効いていないのだ。


「“呪殺のクラーマー”! 覚悟しろ!」


「まだだ! まだやられぬわ!」


 “呪殺のクラーマー”はアベルたちの手出しできない高高度に飛翔する。


「現れよ、もう1体の龍よ!」


 “呪殺のクラーマー”がそう叫ぶと、火龍の胴体が割れ、火龍の中からもう1体の火龍が生まれた。魔力で形成された竜の分身体だ。今の2対1という状況を覆すために、“呪殺のクラーマー”が考えた手段がこれであった。


 だが、このやり方には致命的な過ちがある。


「増えたところでどうとでもなる!」


「甘い!」


 分裂した火龍がハイデマリー王女によって引き裂かれ、アベルによって殴りつけられる。火龍は雄たけびを上げて炎をまき散らすも、その炎はアベルたちには達さない。火炎放射の威力が落ちているのだ。


 そう、分裂した分、魔力濃度が薄まり、結界は薄くなり、火炎放射の威力も落ちた。つまり“呪殺のクラーマー”は自らの手で火龍を弱体化させてしまったのだ。


「焼き殺せ!」


 だが、2匹揃えば1体分の火龍だ。火炎放射はアベルたちを足止めする。


「ハイデマリー! 貴様には向こうの火龍を任せていいか! 俺はあのダークエルフがくっついた火龍を叩く!」


「任された!」


 アベルが叫び、ハイデマリー王女が応じる。


「行くぜ!」


 アベルは炎の中を突撃していく。


 その身を焼きそうな炎の中を突き進み、“呪殺のクラーマー”を目指す。


「おのれ……! まだ、私には……!」


「そこまでだ! “呪殺のクラーマー”!」


 アベルの拳が唸り、“呪殺のクラーマー”を殴り倒す。


 アベルの拳は何度も叩き込まれ、“呪殺のクラーマー”は瞬く間にズタズタにされた。彼女の宿っている火龍も同じように衝撃を受けて、炎が止まっている。


「トドメだ!」


 アベルの拳が“呪殺のクラーマー”の胸を貫く。


「ゴフッ……!」


 “呪殺のクラーマー”は大量の血を吐き、その動きが止まった。


「申し訳ありません、魔王ロキ陛下……。力及ばず……」


 そう告げて、“呪殺のクラーマー”は倒れると、その体もろとも火龍とともに焼けて散った。その体は灰となり、風に流されていく。


「アベル殿! こちらも仕留めたぞ!」


「よし、ハイデマリー。俺たちの勝利だ」


 アベルたちは勝利した。


 では、残りのふたりはどうなっているのだろうか?


……………………

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