骸骨島の戦い
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──骸骨島の戦い
「敵はこの骸骨島に拠点を構えている」
セラフィーネはマルグリットの城でそう告げる。
「“深海のブリッグズ”もここにいる。ここから各地の海洋魔族に指示を出している。つまり、ここには敵が大挙して存在しているというわけだ」
骸骨島はこのノートベルクから北東に向けて約800キロ近く進んだところだった。
鹿児島から沖縄ほどまでの距離だ。
そこに骸骨島というものが存在する。骸骨島という名前の由来は、その島の形が頭蓋骨のような形をしているからである。
その島に“深海のブリッグズ”がいる。
「敵の規模からして、こちらの戦力3隻だけでは足りないだろう。小型の海洋魔族や大型の海洋魔族がいるだろうし、ASWの必要性はそれなり以上のものになるだろう。護衛艦はもっと増やさねばなるまい」
骸骨島は海洋魔族たちの拠点になっている。
小型の海洋魔族たちや、大型の海洋魔族たちがいるだろう。
そして、何より骸骨島には“深海のブリッグズ”という巨大な海洋魔族がいる。
「作戦はこうだ」
セラフィーネが骸骨島の地図を広げる。
「まず巡航ミサイルで島を攻撃。魔族たちのパニックを誘う。それから哨戒ヘリを使って前方の安全を確認しつつ、目標を捜索。目標を発見し次第、全艦艇に装備した07式SUMで目標を一斉攻撃」
セラフィーネが骸骨島の付近の地図に護衛艦を示すマーカーと哨戒ヘリを示すマーカーを置く。護衛艦の数は6隻。横一列の陣形を維持して、骸骨島に向かっている。
「目標が浮上し、こちらへの攻撃を企図した場合は90式SSM及び艦砲で目標を攻撃。これを肉片になるまで完全に攻撃する」
セラフィーネはそう告げて集まった面子を見渡す。
3人の船長。副船長と航海士たち。そして、マルグリットとフォーラント。
それだけの人間しかセラフィーネは集めなかった。
知るべきは作戦に参加する人間だけでいい。本来ならフォーラントも除外するべきところだが、フォーラントは“今のところ”は味方である。
「なあ、分かりやすく説明してくれないか?」
「つまり、まず骸骨島を更地にし、そこから溢れてきた魔族ごと“深海のブリッグズ”をあの艦艇の全ての火力を以てして吹き飛ばす。そういうことだ」
「分かった。まずは骸骨島を叩くんだな?」
「そういうことだ。火器の管制はほぼこちらで行う。そちらは万が一の場合に備えていろ。旗艦である私の艦艇が沈むことや、小型の海洋魔族が船に乗り込んできた場合などにな。艦艇の船舷には重機関銃が据え付けてあるし、艦内には武装したゴーレムが配置されているが、何事にも常に万が一という場合がある。備えろ」
スヴェンが尋ねるのにセラフィーネが鋭い目でそう告げて返す。
セラフィーネは慎重な女だ。
アベルほど考えなしでもないし、ローラほど楽観的でもない。
常に失敗の可能性を考える。常に失敗した場合の次の手を考える。そうであるからこそ、アベルやローラのように世界で最初の人狼であったり真祖吸血鬼であったりと生まれた時から最強の素質を持たずとも、最強の一角まで上り詰めたのだ。
もちろん、そんな彼女も絶対に起きないだろう心配をして、自分の行動を制約するような愚かしい真似はしない。動くときは大胆に。敵に最大の揺さぶりをかける。
「作戦は以上だ。他に何か知りたいことはあるか?」
「俺はないね。あんたとなら上手くやれる」
セラフィーネの言葉にグスタフがそう告げる。
「俺は乗るぞ。“深海のブリッグズ”さえいなくなれば、また自由に海を航海できる」
スヴェンも頷いた。
「私も異論はない」
最後にルートヴィヒが頷く。
「結構だ。では、盟主殿に作戦前の激励を頼もうか」
セラフィーネがそう告げて、マグリットを見る。
「え、え? あたし? あたしからは頑張ってくれとしか言いようがないんだけど」
「それでも人の上に立つ人間か? 全く、貴様にはもう何も期待せん」
「分かった、分かったよ! 盟主として命じます。これまで我々に屈辱を与えてきた“深海のブリッグズ”をなんとしても打ち倒し、全員が揃って帰還しなさい。これは命令です。お願いや祈りではありません。任務を果たし、無事の帰還を」
マルグリットはそう告げてセラフィーネと船長たちを見渡した。
「上出来だ」
「ありがと。けど、こういうのが嫌で盟主の地位は遠慮してたのにな」
セラフィーネの言葉にマルグリットが肩をすくめる。
「さて、では諸君。敵を叩きのめすぞ。これまでやられた分。、やり返せ」
セラフィーネの言葉に全員が頷いた。
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護衛艦はさらに3隻追加されて、合計6隻の艦隊となった。
追加の3隻は完全に無人化されており、人は乗り込んでいない。
旗艦の無人子機として艦隊行動に従い、軍用AIと霊的存在が艦艇の指揮を執る。ダメージコントロールや艦内警備はゴーレムが行う予定だ。
6隻の艦隊は海面下の敵への警戒を密にしながら、骸骨島に迫った。
そして、午後3時。6隻の艦隊は骸骨島を巡航ミサイルの射程内に収めた。
そのままさらに接近し、旗艦ゼーアドラー号からドローンを射出すると、ドローンからの骸骨島の映像が各艦のCICのモニター画面に表示された。
「これが骸骨島か。確かに角度によっては人の頭蓋骨に見えるな」
骸骨島にはふたつの泉とひとつの湾があり、それがシミュラクラ現象によって骸骨の形を連想させていた。だが、直上から見渡すとそれはかなり歪なものであった。
「“深海のブリッグズ”はどこに?」
「湾と湖が繋がっていて、湖の方に潜んでいるということだ。大規模な海底洞窟があるらしくてな。それを叩くのが作戦の第一段階だ」
セラフィーネはそう告げると犬歯を僅かに舐めた。興奮している証拠だ。
「タクティカル・トマホークII発射準備。目標データは入力した通りだ」
「イエス、マム。タクティカル・トマホークII発射準備」
セラフィーネの言葉に霊的存在が応じる。
タクティカル・トマホークIIはタクティカル・トマホークの威力向上版で、弾頭質量と誘導性能が強化されている。今回の場合はドローンが収集した情報を基にTERCOMと画像誘導が行われる。
何をどうしているのかと言えば地図を渡された巡航ミサイルちゃんは地図に従って飛行し、目標のお店の写真からそのお店に突っ込むというわけである。本来なら衛星が画像データーを送るのだが、ドローンでも代替可能なように改良が施されている。
「タクティカル・トマホークII。発射」
「タクティカル・トマホークII。発射」
そして、あきづき型護衛艦のVLSからタクティカル・トマホークIIが発射される。6隻の護衛艦が旗艦からの指揮を受け付け、次々に巡航ミサイルを空に放っていく。空に放たれた巡航ミサイルは空中で方向転換し、骸骨島へと静かに飛翔する。この手の巡航ミサイルを迎撃することは不可能ではないが、SAMを装備していない魔王軍にとっては止めようのない代物だ。
「弾着まで5、4、3、2、1。弾着、今」
ドローンの映像に巡航ミサイルが一斉に骸骨島で炸裂する様子が捉えられた。
激しい衝撃が骸骨島を破壊し、湖が引き裂かれ、地形が変わる。
「タクティカル・トマホークII、第二波発射用意」
「イエス、マム。タクティカル・トマホークII、第二波発射用意」
それから巡航ミサイルによる攻撃は2度追加で行われた。
巡航ミサイル、計18発を叩き込まれた骸骨島はもう骸骨の姿をしていない。
「作戦を第二段階へ移行。哨戒ヘリを出せ」
そして、作戦は第二段階に突入した。
第二段階。
哨戒ヘリで骸骨島周辺を捜索しつつ、目標を発見し次第、艦隊は07式|SUM《垂直発射魚雷投射ロケット》で攻撃を行う。6隻の艦艇から哨戒ヘリが飛び立ち、骸骨島を目指して飛行していく。この時点ではまだ艦隊の存在は敵に知られていないはずだ。
「哨戒ヘリからの映像、入ります」
霊的存在がそう告げ、骸骨島周辺でASWを開始する哨戒ヘリの様子が映された。哨戒ヘリも無人化されており、ディッピングソナーがヘリから海面に降ろされ、軍用AIの弾き出した最適な飛行ルートとデータ処理によって海底の様子を探る。
『複数の海面下を移動する目標を検出。小型目標64、大型目標1』
「大型目標に向けてSUM発射」
軍用AIの機械音声を受けてセラフィーネがそう指示を出す。
「諸元入力完了。SUM発射」
そして、霊的存在がトリガーを引く。
再びVLSが開かれ、今度はSUMが目標の海域に向けて飛行していく。既に哨戒ヘリは一時退避している。攻撃が不発に終われば今度は哨戒ヘリから短魚雷が投下される手はずだ。結果はもうしばらく待たなければならない。
「SUM、魚雷投下。魚雷、目標を追跡中」
「当たったら教えろ」
セラフィーネはそう告げてじっくりと命中の瞬間を待つ。
「目標に命中するも、目標なおも行動中。ピンガーのような音響を検出」
「おやおや。やるつもりのようだな」
霊的存在の報告にセラフィーネがにやりと笑った。
「全哨戒ヘリは順次魚雷を投下」
6発の魚雷に耐えたが、もう6発ならばどうだ?
「目標に命中するも、目標なおも行動中。こちらに向けて30ノットの速度で接近中」
「悪くない。そう簡単に獲物にくたばられても楽しくない。やる気を見せてみろ」
セラフィーネは霊的存在の報告により一層の笑みを浮かべる。
「相変わらずですね、セラフィーネ。あなたはいつもそんな感じですよ」
「そうか? アベルよりはましだと思うがな」
「どっちもどっちですよ。で、これからの策は?」
「水中から引き摺り出す」
フォーラントがクスクス笑うのに、セラフィーネはそう告げた。
「SUM発射。奴を水中から叩き出せ」
セラフィーネの目論見はこうだ。
“深海のブリッグズ”と思しき目標に向けて連続してSUMを発射。海中での活動を困難なものに追い込み、水中から出てこざるを得ない状況を作り出す。
そして、出てきたところを艦砲と対艦ミサイルで滅多打ちにし、更にはセラフィーネ自身の魔術で肉片しか残らない状況にする。
全てが終わった後には美味しいイカの塩辛の出来上がりだ。
「全魚雷命中。目標浮上を開始。深度500、400、300、200、100……」
「私は後部デッキに出る。後は自動で行え」
「イエス、マム」
セラフィーネは霊的存在にそう告げると後部デッキに向かった。
「き、危険なのでは?」
「だからこそやる価値がある。危険のない軍事作戦などただのドミノだ」
ルードヴィヒがCICを出ていくセラフィーネに告げるのにセラフィーネはそう返した。
「目標浮上」
そして、霊的存在が海底の王者の出現を報告した。
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