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君に伝えたい言葉

作者: 千夜狩猫

彼女はクラスのアイドルだった。

だけど急に遠い外国へ引っ越す事になったと聞いた時、彼は何も言えなかった。

みんなは気のきいた言葉をかけているけど、彼は伝えたい言葉が浮かばなかった。

(こういう時、物語の主人公ならカッコいいセリフが言えるのに・・・)


時が過ぎ、彼女はクラスからいなくなった。

そして彼は物語を書き始めた。

伝えたい思いを伝えられなかったその悔しさが彼を掻き立てた。


彼は彼女に対して抱いていた感情のすべてを物語に叩きこんだ。

恋に友情、憧れに嫉妬、羨望に劣等感、怒りに哀しみ・・・

自分が伝えたい思いは何だったのか、それを見つける為に彼は誰に見せるでもなく書き続けた。


物語の数が100を超え、百万言を尽くしたあたり、月日で1年の歳月が過ぎた頃。

彼女が一時日本に戻って来るという話を耳にした。

そして当時のクラスメンバーで集まろうという事になり、彼もまた声をかけられた。


久々に見た彼女は変わらずに魅力的であるばかりか少しだけ大人になった様に思えた。

かつてのクラスメイト達が代わる代わる話しかけていく中、彼だけはずっと話しかけずにいた。


そして別れの時、クラスメイト達からもらった花束を大事そうに抱える彼女に初めて彼は声をかける。

「去年、お別れの時に言えなかった言葉があるんだ」

そう言いながら彼は、彼女に一枚のSDカードを手渡した。


「僕も頑張るから、君も頑張れ!」


後日、彼女から携帯にメールが届いた。誰かにアドレスを聞いたようだ。

メールの中身はただ一言。


『ありがとう』


SDカードの中身は彼が書きためた物語全てであった。

100万を超える言葉の先に彼が見つけた言葉。それがあの時の最後の一言だった。

彼女があの物語すべてを読んだのかはわからない。

彼があらゆる感情をぶつけた先に見つけ出した言葉。

それに返された言葉。


『ありがとう』


その一言だけで彼は今までにない充足感を得るのであった・・・。




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