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重い愛を受け止める器を持て

なんか後書きが三人の内誰かの秘密を書くための場になっている気がする

「如月君、ハインリッヒさん。君たちは何をしてるんだ」

「……あ?」


 急に第三者の声を聞き、建斗はようやく意識を現世に戻した。気が付けば十分か二十分程度ヴィーシャと共に居たようで、太陽の向きが若干違う。腕時計を確認したら確かに時間が思ったよりも過ぎていた。

 だがそんな事は関係ない。今の建斗はヴィーシャとの時間を邪魔された事にご立腹だった。

 邪魔すんな。そう言いたかったが、建斗は返事代わりに一言だけ言葉を口にすると、いつの間にか目の前に立っていた人物に視線を合わせた。

 そこに居たのは眼鏡でクラス委員をやっている同級生、橋本だ。


「……んだよ、邪魔すんな橋本」

「邪魔するなじゃないだろう。君は訓練にも参加せずにこんな所で何をしているんだ」

「何って……チッ」


 まさか恋人とイチャイチャしてましたという訳にもいかず、いつの間にか眠りに就いてしまっているヴィーシャの頭を起こさないように動かして一人でも寝れるような体制にさせてから立ち上がった。


「はぁ……あのな、橋本。俺はディムロスさんから訓練に参加しなくてもいいって言われてんだ。だからどこで何してようが勝手だろうが」

「君はそれが戦力外通告を受けていると気が付かないのか?」


 あぁ、そういう風に見ていたのね、と建斗は橋本に対して若干呆れを含んだ視線を飛ばした。

 確かにその通りだ。建斗の事を噂通りに受け取ってからこの状況を見れば確かにその通りだろう。ヴィーシャの隣に座る前の建斗だったら笑いながら受け流していたが、生憎今の建斗はかなりイラついている。故に舌打ちが出た。


「……で? それがなんかお前に関係あるか?」

「関係って……僕達は勇者としてここに呼び出されてそのために訓練してるんだぞ!? なのに君は訓練に一切参加せず、最初の体力テストもズルをして……」

「ズル? はーん、ズルねぇ。で、俺はどんなズルをしたってんだ?」

「どんなって……」

「わりぃけど、俺の能力はこいつだけだ。そして隣にはゼナが居たし道中には騎士が倒れたら即回収できるように立っていた。だってのに俺はどうやってズルをしたって? 是非とも教えてほしいんだが?」


 建斗の質問に対して橋本は何も言葉を返せない。

 それもそうだ。建斗がズルをしてランニングを突破したなんて、普通に考えれば不可能にも程がある。建斗は実際のあの道を走ったし、能力という能力は無い。強いて言うならば最初の世界で身に付けたヴァリアントソードの召喚くらいだ。

 だと言うのにどうやってズルをしたのか。まさかゼナに背負ってもらったとでも言うつもりなのだろうか。それこそ不可能だ。第一そんな事をしたらディムロスが何て言うか分からない。

 もっとねちっこく色々と言ってやろうかと建斗の心の中に黒い物が生まれたが、橋本の困ったような表情を見てすぐにそれを引っ込めた。

 いくら何でもこの程度の事でイラつき過ぎだ。それにここで自分が本当に強いという事を示してしまっては矢面に立たされる可能性もある。あくまでも自分は落ちこぼれとしてここを追放されるなり役立たずとして馬車の奥にしまわれるなりしたらいいのだ。


「……まぁ、そんな感じだ。別にズルしたってのを信じてもいいが、俺はしてねぇよ」

「いや、その、ごめん。僕の方こそ、よく考えればその通りだった」

「俺の方こそ悪い。ちょっとイラついてキツイ言葉を言っちまった。もっと言いようはあった」

「それは僕の方だ。ちょっと見苦しい嫉妬でこんな事言っちゃって……本当は違う事を言いたかったのに」

「は? 嫉妬?」


 建斗の額に怒りの四つこぶが一つだけ浮かんだ。

 これは、つまるところ。


「なんだ? お前、ヴィーシャに惚れてんのか?」

「だ、だってハインリッヒさんは綺麗な人だし性格もいいし文武両道で――」


 顔を赤くしながら橋本がそんな事を口にした瞬間だった。

 ――目にも止まらぬ速さで建斗が腰に差していたヴァリアントソードの刀身が橋本の首に触れた。正しく一瞬。瞬きをしたその一瞬だけで建斗はその数工程もある動作を完了させていた。

 橋本がそれを認識できたのは剣を突きつけられてから大体五秒後の事だった。自分の首に触れている冷たい石の感触にようやく自分が剣を首に押し当てられているのだと気が付いた。


「確かにヴィーシャって可愛いよなぁ。性格もいいし、文武も両道。分かるよ? ヴィーシャに惚れるその気持ち。痛いほどわかる」

「き、如月、君?」

「けどさぁ、下心満載の手でヴィーシャに触られたら困るんだよ。お前、ヴィーシャに何しようとした? 何をしたいと思った? 俺を引っぺがして手籠めにしたいとか思ったか?」

「な、なにも、そこまで、する気じゃ……た、ただ好きになっただけで……」


 橋本の言葉を聞いてから建斗は橋本の顔を覗き見た。

 口元を見て、目を見て。そしてようやくその言葉が嘘じゃないと理解してから建斗はヴァリアントソードを引っ込めて腰に戻した。


「それならいいんだよ、それなら。いや、悪いな橋本。ヴィーシャに近づく悪い虫は今まで何人も居たからつい癖でな」

「く、癖……?」

「おう、癖。だってさ、中学の時にあいつが俺んトコ来てからあいつって色んな奴から告白されるわ入りたくもない部活に無理矢理誘われるわで大変でなぁ。で、告白に関しては断ると今度は女子から変な苛めも受けるし。それでヴィーシャにまいられても困るから変な事考えた輩は大体俺が脅してんの。あ、ゼナの方もな? だからつい癖でやっちまった。わりーわりー」


 いつものように笑う建斗だったが、橋本は最早生きているという実感が無かった。

 先ほどの建斗は明らかにいつもの建斗ではなかった。人を殺す事すらやぶさかではない。そんな事を本気で思っているような無機質な目。最も、その目は建斗の演技なのだが、もしヴィーシャに本気で手を出す人間が居たら建斗は即座にその人間を両断する事だろう。

 我ながら愛が重い。建斗は笑いながらそんな事を思った。


「……ちなみに、他にヴィーシャに気がある奴はいるのか? あとゼナに気がある奴も。いたら教えてほしいなぁ?」


 高校に入ってからはそういう事も少なくなってきたのであまりセコムチックな事はしていなかったのだが、クラス内に変な事を考えている奴が居るのなら即座に叩き斬らねばならない。

 自分の平穏? 魔王を倒すのを押し付ける? そんな事よりもヴィーシャとゼナの安全だ。彼女達の安全が魔王を倒さなければ確保できないのなら建斗は今からでも魔王を殺しに行く。


「い、いや、僕の知る限りは……ただ、柳田達はよくハインリッヒさんの事を彼女にできたらいいのにとか言ってたし……あと他にもカサヴェテスさんの事とか……」

「殺すわ」

「ちょ、如月君!? 流石に無理に手を出そうとかはしてないみたいだから落ち着こう如月君!?」


 クラス内にヴィーシャとゼナに気がある人間が数人いる。それを聞いただけで十分だ。

 まず不穏因子を排除しそれから……と考えたところで自分の握っている物を思い出し、すぐにその思考を排除する。

 いけないいけない。自分はそんなくだらない事をする人間ではない。


「…………冗談だよ、橋本。だから羽交い絞めなんてすんな」

「いや、目が殺人鬼のソレだったのを自覚してくれ!?」

「汚物は殺さなきゃ……」

「また何か言ってるし!?」

「守るために殺らなきゃ……」

「そんな変な使命感を感じるな!!」


 勿論謝ってからはふざけているのだが、案外橋本の反応が面白くてふざけるのを止められない。結局それから建斗が止まったのは三分ほど経ってからであり、建斗を止めるために叫びまくった橋本は疲労困憊だ。

 笑いながら謝って橋本の復活まで待つと、橋本は若干息を切らしながらも口を開く。


「全く……本当はもっと別の事を言いたかったのに……」

「別の事?」


 どうやら橋本が来たのは別件についてだったらしい。

 そういえば嫉妬で見苦しい事をとか言っていたような言っていなかったような。


「あぁ。本当は如月君が追放とかされるって伝えに来たんだ」

「ほう?」


 そして舞い込んできた話は建斗からしたら待っていましたと言わんばかりの言葉だった。そろそろ役立たずをのさばらせておくわけにはいかないという思考に至ったか。だとしたらここまで無能を装った意味があった。


「来週、城下町から離れた場所にある森の中で異常に増えた魔物を狩る実戦形式の訓練をするっていうのがさっき言い伝えられたんだ」

「へぇ。それで?」

「その時に柳田君が如月君の事をそこで見限りつけようって言いだして。もし如月君が結果を残せなかったらここを追い出してしまおうって」

「ん、まぁ妥当なトコだろ」


 いつまでも役立たずを置いていてはいざという時に足を引っ張られる可能性が高い。故に見限りを付けると言うのは当たり前の事だ。建斗が攻めるような事ではない。

 ただ、本当に追放という形を取るとは思わなかった。仮に建斗が本当に落ちこぼれだったとして、そんな建斗を追放して建斗が生き残っていけると思っているのだろうか。いや、思っていないだろう。そもそも死という物を身近に感じていないからこそそう言えるのだろう。ふざけて追放されたらー、とか言っていたがまさか本当に考え無しにそうしてくるとは。


「でも、如月君は実は強いみたいだし、安心した。これなら追放されるなんて事は……」

「いや、追放される気だけど? その方がやれること一杯で楽しいからな」


 まずはこの世界で生きていく上での基盤を作らなければならない。今まではその日暮らしをしていたが、今回は森の中で狩猟民族となって野菜などを栽培して獣を狩って生きていくと言うのもいいかもしれない。

 二度目の世界と四度目の世界にあったギルドや冒険者と言うシステムがあるのならそれに登録して荒稼ぎして後はニートしているのもいいかもしれない。

 夢が広がる。救世主という運命に縛られない異世界生活に夢がもう広がりまくる。ヴィーシャとゼナと一緒にそんな風に退廃的に暮らすのは胸が躍るという物だ。


「んじゃ、ヴィーシャとゼナを連れてどこに行こうか。そこんとこ相談しとかないとな」

「いや、あの二人は追放なんてされないけど……」

「俺が連れてくんだよ。それに、俺が言わなくてもあいつらは勝手についてくる」

「多分、みんなはそれを許さないと思う」

「……は?」


 建斗の目がまた怖くなった。

 しかし橋本は自分の考えを口にする。


「カサヴェテスさんは力があるし、ハインリッヒさんの回復の力は凄いって聞いたから……だから、如月君だけを追い出して二人は行かせないと、思う」

「……ほーん? ふーん? はーん? わかった。誰から斬ったら納得させられる?」

「だからさっきから物騒過ぎないか!?」


 許さない? 知った事か。

 こちとらもう一生巻き込まれたくないと思った異世界の魔王討伐に付き合わされているんだ。それを自らの意志で捨てられずにどうする。

 そもそも建斗達は魔王を倒すという行為に対して乗った覚えはない。渋々流れに身を任せているだけで建斗達はこの一か月間、一切魔王討伐に乗り気になった覚えはない。精々尻拭いや失敗した時は代わりに戦おうと思っただけだし、それを口には出していない。

 すぐに建斗は殺意を落ち着かせて一度咳払いをしてから自分の意見を口にする。


「あのな、お前らが乗り気な所悪いけど、俺達は魔王討伐なんてしたくないんだよ。お前らが勝手に言ったから巻き込まれてるだけで俺達三人はそんな事を望んじゃいない」

「いや、でも君たちは元の世界に帰るために戦うって……」

「言ってないよな? 最初の時も俺は文句こそ言ったが納得はしていない。お前らが勝手に盛り上がってやるって決めただけだ。いや、確かにそんな事をしたくないって最初に言わなかった俺達が悪いよ? けどやりたくない奴に強制させるってのはどうよ」

「じゃ、じゃあ地球に戻りたくないのか!?」

「戻るさ。けど、そのためにこうやってやりたくもない事したいわけじゃねぇんだよ、俺達」


 建斗の言葉に橋本は言葉を詰まらせた。

 確かに、その通りだ。やる気の無い者をそのままにしていても何もいい事は無い。それに、建斗をやる気がなくサボっているのだから追い出すというのならやる気が無いらしいヴィーシャとゼナを囲んでも建斗と同じようにサボられるだけだ。

 黙る橋本にそれに、と建斗は言葉を付け加えた。


「実力行使で二人を止めようとしても、無駄だぞ。さっきの俺の動きに反応できないんならゼナに反応なんてできるわけがない。それにヴィーシャの回復があるのならゼナはかなり強いぞ。今この状態なら俺が最弱なのはお前らの想像通りだからな」


 最弱でアレだけの速さで動く事ができる。

 ならばゼナは? その二人を味方にしている建斗は? 凄まじい回復を二人に与えるヴィーシャがその後ろに居るのなら?

 素人の橋本でもわかる。この三人が本気を出したら、クラスメイト達が本気で囲んでも薙ぎ倒されるだけだ。自分達が何をされたのか自覚する前に、だ。


「……じゃ、じゃあ。如月君達がそんなに強いんなら、僕達を引っ張ったらよかったじゃないか! そうしたらこんなめんどくさい事も起きなかったのに!」

「うん、それもそうだ。正論だよ、橋本。全く持ってその通りだ。確かに俺達はお前らを引っ張っていく程度はできるさ」


 でもな、と建斗は先ほどまでのふざけた笑顔とは違い、少し苦し気な笑顔を浮かべた。


「俺達さ、もう疲れちまってんだ。何でかは言えないけど……もう俺達は魔王討伐と救世に躍起になれないくらい疲れちまってんだよ。だから、今回くらいは休みたいのさ。折角お前らみたいなこの世界を救って元の世界に帰るって明確な目標を持った奴らがいるんだから……だからもう俺達を放っておいてくれないか?」


 本当に疲れ切ったような声を出す彼に対し、橋本はもう何も言えなかった。

 既に四度も世界を救い、戦い抜いてきた建斗はもう疲れてしまった。自分達がやらなければならないのならば、やろう。それしかないのだから。

 しかし、今この場には建斗達以外にも戦う者がいる。戦おうとしている者がいる。かつて訪れたほぼ壊滅していた世界とは違い、しっかりと戦おうとしている者が居る。ならば、彼らに任せて自分達はもう休みたい。

 老兵は死なず去るのみ。

 もう建斗達は戦いすぎた。だからもう去ってしまいたい。それが建斗達の想いなのだ。


「……分かった。如月君達に何があったのか、僕は聞かないし、邪魔もしない。けど、僕にできるのはこれくらいだ」

「ん、いいよ、それで。ありがとな、橋本」


 後はこっちで何とかする。情報が無いのとあるのとではできる事は格段に違うという事は建斗は今までの人生でよく分かっている。故に、橋本にはこれ以上何も言わなかった。


「……ちなみに、如月君はハインリッヒさんと付き合っていたり?」

「さてな。まぁご想像にお任せするが、憶測で変な事言わないようにな。変な事言ったらまたこの剣がお前の首に向かう事になるから」

「い、以後気を付けます……」


 そして橋本の恋は見事建斗の手によって砕かれたのであった。哀れ橋本。しかしヴィーシャは既に彼氏持ちである。建斗に知られず告白しても玉砕するだけであった。


「……相変わらず建斗くんの愛、重すぎ……」


 なお、実は途中から目を覚ましていたヴィーシャではあったが、まぁ恋人が自分の事を大切にしてくれているというのには変わりないので文句の一つも言わずに寝たふりをしていましたとさ。

 ちなみにゼナはちょうちょを追いかけていたら城を出て城下町に出てしまい、そのまま迷子となって夕方ごろに半泣きになっている所を発見された。

建斗の秘密

実はヴィーシャ、ゼナのセコムをしていた。


ゼナの秘密

実は色を知らない純粋な子。でもイチャラブを見るのは好き

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