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文句は言える時に言いましょう

前回からの続き。話の進みが遅いが自分の癖なので悪いな。長文に付き合ってもらう

 歩いて数分。案内された部屋は長いテーブルが一つある大きな部屋であり、クラスメイト達はそれぞれ用意されていた椅子に座っていき、所謂誕生日席には煌びやかな椅子が一つあり、そこに王様が座りますよという雰囲気がバリバリ出ている。

 席に座ってからもクラスメイト達の私語は消える事無く、これからを心配する者、早く帰りたいと言う者、楽観的に状況を見て笑う者、ぶつくさと何か呟いている者とやっている事は千差万別だ。

 そんな中、唯一の異世界転移経験者である建斗、ヴィーシャ、ゼナは三人で並んで座って大きな溜め息を一つ吐いてからさて、の一言で気持ちを切り替えた。


「このタイプの異世界転移は俺は二度目だけど、ヴィーシャとゼナは初めてだよな?」

「うん。確か建斗くんの最初の異世界転移はあの状況でおじさんとおばさんが人質にされたんだよね」

「あぁ。でも、今回はそれが無かった」

「じゃあ、信じられる国?」

「うーん、どうだろ? 他の異世界でもわたし達に首輪をかけようって企む国はあったから」

「まぁ現状は周りに合わせるか。嫌になったら即脱走で」


 一応三人の中ではリーダー的な役目を取ることが多い建斗の言葉にヴィーシャとゼナは異議なしの言葉を口にした。

 流石に五度目、四度目の異世界転移ともなれば最初はストレスで精神をやられてもすぐに持ち前の慣れで作戦の立案も、誰が敵で誰が味方かの判断もできてしまうものだ。二度目まではそんな事もなかったんだけどなぁ、と三人が遠い目をした辺りでドアの前に立っていた衛兵が口を開いた。


「これより王が姿を現される! 無駄な私語は慎むように!」

「……勝手に呼び出しといて何言ってんだか」


 衛兵の言葉にボソッとヴィーシャが毒を吐いたが建斗が苦笑しつつまぁまぁと肩を叩いてヴィーシャの黒い何かを何とか押しとどめる。もう聖女としてキラキラして純粋無垢だった彼女の姿はどこにもない。今の彼女は心の中に黒い物を留めた口の悪い年頃の少女である。しかし惚れた弱み故に建斗はあまり強く出れないのである。

 ヴィーシャがまだまだ毒を吐きそうなのをゼナが彼女の口を抑えてなんとか黙らせていると、先ほど玉座らしき椅子に座って最初に声をかけてきた男が入ってきて誕生日席に座った。やはり彼が王だったらしい。


「まずは我らが声に答え、この地に来てくださったことに心よりの礼を言わせてもらおう、異界の勇者達よ」


 異界の勇者。そう呼べる存在は建斗、ヴィーシャ、ゼナだけだ。そして、勇者という存在として当てはまる者を選りすぐるのならば、建斗だけ(・・)だ。しかしそれを知る者は居ないためざわつきが発生する。

 が、すぐに先ほど大臣と呼ばれた男が発した咳払いによって鎮静する。


「あの……僕達、勇者なんて人柄じゃないんですけど……全員ただの学生ですし」


 だが、その中の一人がそんな声を上げた。眼鏡をかけた彼は確かクラス委員をやっておりクラスのまとめ役として色々と頑張っていた記憶が建斗にはある。名前は確か橋本だったか。


「いや、あの召喚陣は勇者としての適性が一番高い者の下に現れその適正がある者のみを通す召喚陣だ。こうしてここに呼ばれた以上、お主達は勇者としてここに呼び出された」

「……そういえば先生いなくない?」

「あ、ほんとだ」

「気づかなかった……」


 クラスメイト達はざわざわとするが、建斗はその中で一人青い顔をしていた。

 勇者として一番適性が高い者。つまるところ、救世を成し遂げて勇者になった者。そんなの地球上では建斗しか存在しないだろう。何故なら彼は四度も世界を救ってきた救世主。しかも彼は勇者として認められる証だって今も持っている。

 そうすると、この状況は確実に。


「……建斗くん?」

「……けんと」

「いや、待ってくれ。こんなん予想できないって。っつかあんなガバガバな条件じゃどう足掻いても俺が異世界転移の対象になるの間違いない……あ、もう言い訳無理だわ勘弁してくれよ……」


 いや、そんなはずない。それもこれもこんな状況を引き起こそうとした人間のせいだって。そんな風に言い訳を口にする建斗だったが、まぁその通りだ。その通りなのだが、もう荒んだ心しか持ち合わせていないヴィーシャとゼナは非難の目を建斗に浴びせる。

 それと同時にヴィーシャの信仰先の切り替えは何とか保留となった。


「とりあえずあっちに帰ったら駅前のデラックスバケツパフェ奢りだからね?」

「ゼナも。あと映画とゲーセンも一緒に行こ」

「はい、全額俺が出させていただきます……」


 一応建斗も二人を光に包まれる瞬間になりふり構わず叩き飛ばして異世界転移から守るとかやりようはあったのだから甘んじてバツは受け止めることにした。まぁバツはバツでも実際は愛しい恋人とデートに行くというバツと戦友と共に食事に行って映画に行くというだけの優しいバツなので建斗的には特に厳しいとは感じないバツなのだが。

 そんな三人の内緒話はそのままにクラスメイトと王様の会話は続いていく。


「この世界は今、魔王と呼ばれる存在によって人類が滅亡の危機に瀕しているのだ……」

「まーた魔王……」


 ボソッとゼナが毒を吐いた。しかし誰にも聞こえなかったので誰も何も言わなかった。


「もう人類側の国には魔王討伐に兵を出す余裕もない。だから、古の時代より伝わっていた勇者召喚の召喚術を使い勇者を召喚したのだ」

「で、でも僕達に戦うなんて事……」

「少なくともあの召喚陣を通る時に何かしらの力が備わるハズだ。確か文献では勇者はその力を無意識下で自覚し、一度戦乱に身を置けばその力を解放したと伝わっている」

「はー、最近の異世界転移ってすっげー親切……」


 今度は建斗が呟いた。

 彼は召喚陣を通っても何も力が手に入らず文字通り身一つで最初の世界を救った男だ。そんな彼と比べたらその召喚陣を通ってここに召喚されたクラスメイト達はかなり親切な事をしてもらっている。


「そんな眉唾みたいな話……」

「うおっ、なんか火が出た!」

「こっちも!」


 橋本のそんな事信じられないと言わんばかりの言葉はすぐに仲間内で否定された。クラスメイトの一人が手から炎の球を出し、掌の上で浮かせているのだ。そしてそのすぐ後に今度は別の女子生徒の手から炎の球が飛び出し掌の上で浮いた。

 その光景に他のクラスメイト達は驚き、すぐに自分も自分もと試しだす。が、すぐにそれをクラス委員の青年が今は静かに! と止めて話の続きをするために王様の方へと向き直る。

 ちなみに建斗達は特に何もなかったらしく、前と同じ力は使えるがそれ以外の力は使えないという現実にガッカリして溜め息を吐いていた。


「身勝手な頼みではあるが、どうかこの世界を救うために力を貸してほしい」

「いや、そんな事急に言われても……」


 橋本がその言葉にまごつく。

 当たり前だ。そんな事唐突に言われて決められる訳が無い。故に、仕方ないと建斗は一人口を開くことにした。


「ホントに身勝手だよな、急に連れてきて急に知りもしない人のために戦えって。ちょっと虫がいいんじゃないの?」


 わざと憎たらしい感じに言葉を紡げば、案の定座っている王様の隣に立っている大臣が口を開く。


「貴様! 王がこうして頼み込んでいるのになんという言葉を! 無礼者!!」

「いや、俺はあんたらがどこの誰なのか知らねぇし。王って言われてもよく分かんないっての」


 クラスメイト達に自分達の判断をさせるために口を開いたはずがなんか変にこじれそうだ。ヴィーシャとゼナが両隣から建斗の足を踏んで無理矢理口論に発展しそうな口を一旦閉じるように指示し、建斗はそれを受けて目線で謝ってから改めて口を開く。


「要するに王様。あんた、俺達に魔王ってやつとあんたらの代理として戦ってほしいって言うんだろ? いつ死んでもおかしくない戦いをしろって言うんだろ?」

「それは……その通りだ」

「なら少なくとも俺はお断りだ。別に参加したい奴は参加すりゃいいけど、したくないやつだってこの中には居る。だから参加したい奴だけを残して他は返してくれ。こっちにだって都合ってのがある」


 いつもはこうやってハキハキと自分の意見を口にしないし授業中もクラス内での話し合いの最中も基本的に本ばっかり読んでいる建斗がこうも自分の意見を口にしているのはクラスメイト達からしたら珍しいのか、奇特な物を見る目で建斗を見ている。

 対して王様は苦し気な表情を浮かべ、数秒後に口を開いた。


「それは……できぬ。あれは召喚する事はできれど送り返す機能は備わっていない」


 やっぱりな、という建斗の言葉は直後に起こったクラスメイト達のパニックによる喧騒で掻き消された。

 それも仕方のない事だ。知りも知らない場所に呼び出されて知りも知らない人のために戦えと言われ、はいそうですかと納得して戦うなんてできやしない。

 しかし建斗達にとっては予想通り。返してください、分かりましたで済むような問題ではない事は重々承知している。まぁヴィーシャの信仰している神に自分達だけ元の世界に返してくれとあの神がしでかしたことをつらつらと並べて頼み込んでみれば、少なくとも建斗達だけはすぐに帰れるとは思うのだが。


「だが、魔王の城にはこの世のありとあらゆる魔法が記された本が隠されているという。その本にもしかしたら異界より召喚した者を送り返す魔法が載っているかもしれん」


 絶望を突きつけてから希望を突きつける。そこに自分達の目的をさり気なく突っ込む事によりこちらに対してのっぴきならない状況を作り出す。

 なんとも汚い手だ。というか起死回生の希望の在処が流石に都合よすぎる。

 どう思う? 真っ黒。

 そんなアイコンタクトによる建斗達の会話は誰にも分からないが、希望を目の前に吊るされた若者たちは違う。


「じゃ、じゃあ魔王を倒しさえしたら……!」

「き、きっと倒せるよ! だってこんなすごい力もあるんだし!」

「お、俺が最強になって魔王を倒して主人公になって……ふひひひひ」


 もう動機が二種類くらいに分かれている気もしなくはないが、どうやら目の前の安価な希望に釣られてクラスメイト達は戦う道を選択するらしい。

 まぁ、それ以外に道が考えられなかったと言うのが正しいか。前後左右が分からないこの状況下で第三者から延ばされた道にすがるしかないのは建斗もよく分かる。経験者として何度もうなずける事だ。

 だが、それは楽観的としか建斗は言いようがない。建斗やヴィーシャ達のように強くてニューゲーム状態ならまだしも、確実にレベル1程度の強さしかない状態でそんな事を言うのは明らかに楽観的だ。それも仕方のない事なのではあるが。


「では、お主らは我らのために力を貸してくれるという事でいいのか?」


 その言葉に飛び交う肯定の言葉。建斗の最初の異世界転移ではなかった活気だ。

 楽観的で甘い考えだ。もしかしたら些細な事で全滅だってあり得るかもしれない考え。だが、ここには建斗、ヴィーシャ、ゼナの世界を何度も救った救世主一行が居る。最悪の場合は自分達で動けばいいと考えているので、本人たちの知らない所で安全策はしっかりと張られている。


「では、今日の所はこれで解散としよう。明日からは勇者達には戦いに赴くための訓練をしてもらう事となるが大丈夫か?」

「は、はい。強くなって絶対に魔王を倒して見せます!」

「その心意義や良し。大臣よ、彼らに部屋を与えてやれ」

「はい。しかし、勇者の方々の数が予想よりも多いため数人は相部屋となってしまう事は先に承知の方を」


 そうしてクラスメイト達の救世の戦いと、ついでに建斗、ヴィーシャ、ゼナの五度目、四度目となる救世の戦いはこうして幕を開けるのであった――

書くこと無いんで適当にキャラ設定乗せときます。


如月建斗

一浪済みの高校二年生。めんどくさがりだがやる事はやるタイプで正義漢なのだが、秘密が多すぎるのでその秘密を共有しているヴィーシャ、ゼナ以外とはあまり関係を持ちたがらない。救世主、英雄といった二つ名を行く先々で付けられていたりする。ヴィーシャとは付き合っており、ゼナとは悪友関係。三人の中では切り札の火力が段違いである最強。


ヴィーシャ

実は建斗と同じ年齢で高校二年生なので一浪している設定。かつて聖女として崇められていた存在であり、性格も容姿も聖女という名に相応しい少女。しかし幾度もの異世界転移によりやさぐれてしまい、若干性格がキツイ時がある。建斗と付き合っておりゼナとは友人関係。神の奇跡を起こして回復も防御もできるサポーターとしての最強。


ゼナ

二度目の世界から建斗達の仲間になった少女。ゼナも一浪している設定。魔物に育てられた経緯があり、身体能力が軽くバグっている。かなりマイペースでおっとりした少女ではあるが結構しっかりしている部分が多い。戦闘になると実は……? 二人とは戦友、友人関係。身体能力お化けなので純粋な力業等では最強。

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