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相手に切り札を使わせず勝利しましょう

今回でマリシャス戦は決着。そもそもゼナはまだ全然本気じゃないし建斗もまだ切り札を切ってないので、この手札が切られたら今まで互角以下だったマリシャスが耐えられる訳ないという

「これで、終わりよ!!」


 直後、轟音と閃光。

 鼓膜が破れるのではないかと思う程の音と目を焼く閃光。それが建斗とゼナを飲み込み、炸裂した。

 勝った。マリシャスは確信した。

 死んだ。橋本達は絶望した。

 だが、ヴィーシャは違った。

 甘い。甘すぎる。あの程度であの二人を殺すなど、甘すぎる。あの二人を殺したいのなら、あの数十倍の爆発を絨毯爆撃するべきだと。


「『獣化フェンリル・オルタナティブ』」


 凛とした声が響いた。

 その直後、爆発そのものが引き裂かれる。

 魔法が消滅し、音が消え、光が失われ、その内側から黒き獣が現れる。


「ゼナは、フェンリル。誇り高き神獣、フェンリルの娘にして、その名を継ぐもう一匹のフェンリル」


 白き神獣、フェンリル。彼女が残したたった一人の娘は、その力のほぼ全てを継承し、成長し続けている。

 神すら殺してみせた誇り高き獣を、たかが爆撃の一つで殺せるわけがない。


「なっ……!? ひ、人が、狼にっ……!?」


 そう、これこそが本来の獣化。ブレーキをかける事により中途半端にフェンリルの力を引き出していく獣化とは違い、自らを完全にフェンリルへと変化させるゼナの切り札にして獣化本来の形態。


「この姿になった以上、もう手加減はできない。潔く死ね」


 黒き神獣、フェンリル・オルタナティブ。それこそがゼナの真の姿。

 四足を地に付けた状態でも建斗とほぼ身長が変わらない巨大な体躯と、今までの獣化よりも遥かに鋭さを増した爪と牙。肉体そのものがフェンリルと化した事によりゼナの身体能力は人間を遥かに超えた物へと変わる。

 それが与える驚愕は、マリシャスだけではなく橋本達にも降り注いだ。


「か、カサヴェテスさんが、お、狼に!?」

「っていうかデカっ!? しかもカッコいい!」

『…………』


 斎藤と田淵が驚きに声を上げ、橋本と日暮はあの可愛らしいというイメージが強かったクラスメイトがあんな厳つい狼に変化した事に開いた口が塞がらない。

 だが、ディムロスだけは違った。彼だけは、ゼナの姿を見て恐怖していた。

 彼女の体からあふれ出る強者としての雰囲気。敵対したら最後、生き残れるとは微塵も思えないその雰囲気はマリシャスすら越え、何か別の次元に存在する生き物を見ている気にすらなった。

 恐ろしい。もしあれが自分たちの敵になったらと思うと、恐ろしいにも程がある。

 きっとこの世界に、あれを止められる存在は居ない。例え国一つを相手にしても蹂躙の限りを尽くし世を破滅へと誘うだろう。

 ディムロスにはゼナの漆黒の体毛と黄色の瞳が恐ろしくて仕方なかった。


「あれほどの……あれほどの力を、あんな少女が……」

「ゼナちゃんは神を倒した魔物の力をほぼ全て引き継いでいるんです。だから、今のゼナちゃんは神様が相手でも殺して見せる程の力を秘めている。そんなあの子があの程度の爆発で傷付く可能性なんてありませんし、あの四天王の人の攻撃で倒れるなんてあり得ません」


 漆黒の神獣。その力は見なくても分かる。

 だが、彼女は建斗に従っている。彼女が建斗を従えているのではなく、建斗が彼女を従えさせている。建斗が中心となり、神獣たる少女と奇跡を起こす少女を引っ張っている。

 なら、それを引っ張る彼は? 彼は一体どれほどの力を持っている?

 彼女を切り札ではなく手ごまの一つとして扱える彼は、一体何なんだ?


「っ……! そんなこけおどしなんかに!!」

「こけおどしかどうかは、試してみるといい」


 ようやく意識を現世に戻したマリシャスが指を鳴らす。それだけで地を炎が走っていき、ゼナの体を炎が包み込む。

 だが、ゼナがその首を軽く振ると、炎は内側からはじけ飛んだ。


「……この程度?」

「くっ、馬鹿にしてくれて……! 地獄の地を焼く焔の星よ、今こそこの地に現れ全てを焼き払わんッ!!」


 マリシャスはゼナの挑発に乗り、建斗が斬り裂いたあの巨大な炎球を作り出す魔法を唱え、ゼナの頭上にそれを作り出した。

 だが、ゼナはそれをつまらなさそうに見上げ、その口を開き、吠えた。


『グルアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 咆哮。それが最早質量を持ち炎球へと襲い掛かる。

 それだけで炎球は掻き消え、火の粉が舞い散る。


「そ、そんな……私の魔法があれだけで……」


 圧倒的。いや、圧倒という言葉すら生ぬるい。

 ゼナは今までマリシャスが隙を突くことによって使う事ができた魔法の事如くを僅かな行動で消し飛ばし、彼女の手札がこれ以上意味を成さないとその身に刻み込んでいる。

 だが、それでもマリシャスには誇りがある。

 四天王という魔族の中でも十本指には入る猛者として誇りが。劣等種たる人間よりも遥かに優れている種族としての誇りが。

 故に、負けられない。負けられるわけがない。


「今度は、ゼナの番」


 だが、そんなモノ、ゼナには関係ない。

 故に無常。故に無慈悲。今度はゼナがこの戦いを終わらせにかかる。

 ゼナが一瞬身構えたと思った次の瞬間だった。彼女は地を蹴り、目にも止まらぬ速さでマリシャスへと肉薄。彼女が反応する前にゼナはマリシャスの体へと齧りついた。


「い゛っ!? ああああぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁ!!?」


 マリシャスの悲鳴が響く。

 マリシャスの腹へと齧りつき、そのまま持ち上げたゼナはマリシャスを振り回しながら一気に顎の力を強めていく。

 柔らかな皮膚と肉を突き破る感触が牙を伝い、血がゼナの口の中へと流れ込む。それでもゼナは一切顎に加える力を緩めず、そのままマリシャスの体を真っ二つに噛み切ってしまわんとする。

 が、痛みに叫ぶマリシャスはほぼ無意識に生き残るための術を取った。


「我がっ、肉体をぉぉ! かの地へと、飛び戻さんんんん!!」


 痛みに喘ぎながらの詠唱。その詠唱は、ゼナ達が聞き取れなかった小規模転移の詠唱だった。

 詠唱完了と同時に発動。それによりマリシャスの体はゼナから離れた場所へと現れた。


「くぅぅぅ……いったい……いたい、いたい……!! よくも、よくも人間ごときがこの私にぃ!!」


 なんとかゼナの顎から抜け出したマリシャスだったが、その体は既に満身創痍。

 腹にはゼナの牙の分だけ穴が開いており、そこからは血が流れ続けている。今すぐにでも適切な治療を受けなければ死んでしまう程の傷だが、それでもマリシャスは引かない。いや、引けない。

 自分が展開したこの空間は、彼女も言った通り中に存在する人間か魔族、どちらかが死亡するまで決して解かれることは無い。例外として建斗のように斬り裂いて脱出、侵入が可能だが、マリシャスにはそれは不可能だ。

 故に、戦うしかない。この勝ち目のない戦いを、続けるしかない。

 自分の魔法の中でも最大火力を持つ魔法を叩き込んでゼナを確実に仕留めるしかない。そう思い至ったからこそマリシャスは半分ヤケになりながらも詠唱を口にして。


「お前さぁ。まさか俺の事、既に死んだとか思ってねぇよな?」


 建斗の声を聞き、肝が冷えた。

 どこから? そう思考する前に体は既に動いており、後ろへと視線を巡らせていた。

 そこに居たのは、ゼナと同じように無傷の建斗。あの爆発をゼナ同様に何かしらの方法で耐えた建斗だった。


「ど、うして……!?」

「ゼナは体で耐えたけど、俺は魔法を斬った。そんだけだって事で授業料を貰っていきな!」


 そして、斬撃。

 建斗の一撃がマリシャスの体に吸い込まれ、左わき腹から右肩にかけて一気にマリシャスの体に裂傷が生まれる。


「ぐああぁぁぁぁぁぁ!!? お前ぇ……!! 人間が……人間ごときに、この私がこんなに追い詰められるなんて……!!」


 マリシャスの痛みを含んだ声。

 既にマリシャスは虫の息。彼女の勝ちの目はもう薄れている。いや、無いと言ってもいいだろう。

 神速の動きを見せるゼナと、神出鬼没の建斗。更に彼女は知らないがその裏にはどんな傷も治してしまう奇跡を起こすヴィーシャ。この三人の内どれかを殺さないと勝ち目はないが、それをするための手札が最早無い。

 故に、マリシャスの詰み。故に、建斗達の勝ち。

 だが、建斗は降り抜いた剣を肩に乗せると、マリシャスへ口を開いた。


「おい、魔族の四天王。お前らが戦う理由は何だ?」

「たたかう、理由ですって……?」

「あぁ」


 建斗の言葉は真剣だった。

 彼は知る必要がある。魔族が戦う理由を。マリシャスがこうして橋本達を襲った理由を。


「そんなの……劣等種たる人間をこの世から駆除するため! この世に存在する種族は魔族だけでいい! だから蹂躙して侵略して根絶やしにする!! お前達人間は強くもない癖に目障りなのよ!! だから消す!!」


 魔族とは、魔王を唯一の王として崇める人間の『超越種』であり、人間を『蹂躙』し尽くし『侵略』し、『根絶やし』にしようとする種族。

 この世界のバランスを崩そうとする存在。

 放っておけばこの世界を乱し、混乱させ、破滅へと導く存在。


「……そうか。残念だ。お前達がしているのが戦争なら。種族間の生存を懸けた仕方ない戦争なら、俺はお前を殺さずに済んだ。だが、人を滅亡させるためだけの一方的な蹂躙って言うんなら、俺は容赦しない。逆も然りだ」


 如月建斗は、勇者であり、英雄であり。それ以前に、救世主だ。

 世界を救い、バランスをあるべき状態へと戻すための存在。彼はその役目を果たすためにヴァリアントソードの担い手となっている。

 一度目の世界は、同じような状況だった。魔族という種族が、人間たちを蹂躙し破滅させるための娯楽のような侵略があった。故に、建斗は全てを知ってからも魔王と戦った。

 二度目の世界は、魔族ではなく魔物を従える魔王による全世界の生き物を蹂躙し根絶やしにする計画があった。故に彼は魔王と戦った。

 そして三度目の世界は、魔王率いる魔族と幾つかの国に分かれた人間たちの、限りある土地、限りある資源、限りある食料。それらを懸けた種族間の生存戦争だった。故に彼はどちらにも手を貸さず、中立的立場としてヴィーシャの奇跡を中心にしてその戦争の原因を排除し世界を救った。

 四度目の世界は、魔族が人間に滅ぼされかけている世界だった。彼は当初それを知らず魔王を倒さんとしたが、事情を知ってからすぐに人間達を脅し、魔族の安全を確かな物とし、魔族が滅ぼされない絶妙なバランスを作り上げ世界を救った。

 そして五度目のこの世界は、一度目と同じような世界。力ある魔族が人間を破滅へ誘おうとする世界。

 ――ならば、建斗が斬る相手は決まった。


「ヴァリアントソード・アルタイル!!」


 ヴァリアントソード・アルタイルの刀身を横にし掲げ、その刀身の根元へと建斗は手を添える。


「全能ッ! 解放ッ!!」


 叫び、ゆっくりとその手を徐々に根元から先端へ、手を動かしていく。

 そして彼の手が触れていた部分は白銀ではなく青白く発光を始め、スパークが刀身を迸る。


「な、なによ……なんなのよ、その力は!!?」


 ヴァリアントソードから感じるのは、魔力なんかではない。

 もっと別のナニか。言葉では言い表せないような、別次元の力。それが建斗が刀身をなぞっていくと同時に徐々に徐々に解放されていく。

 そして彼の手が先端へと達し、ヴァリアントソードの刀身全てが青白く発光し、スパークが迸る。その圧倒的な力を秘めた剣を彼は頭上へと掲げ、そしてゆっくりとヴァリアントソードを持った腕を回して満月のような円の軌道を描き、剣が左側を向いた瞬間に剣を軽く横へ振り抜き、右側で脇構えをする。


「トドメだ、四天王マリシャス!」

「こんな……こんな所で!! こんなちんけな奴らに私が負けるなんて事、あるものかあああああああああ!!」


 マリシャスが己の中にある全ての魔力を使ってでも建斗の攻撃を防ごうとする。

 だが、建斗はそんなものを気にせずに一歩、二歩と歩を進め。


「ハァッ!!」


 声を出し、マリシャスとの間にあった決して短くない距離を一瞬にして詰めた。

 剣の間合い。だがその間合いの間に壁は出現させる事ができる。一撃が振るわれる前に壁が出せる。それで防いで、零距離で軽い魔法だろうと顔面に叩き込み建斗を殺す。そのヴィジョンを見て、マリシャスは笑みを浮かべた。

 だが。


「斬ッ!!」


 建斗の右から左へと振るった剣戟は見る事すら叶わず、しかしマリシャスへと当たらなかった。

 だが、剣が振るわれた事により発せられた波動が、マリシャスの全てを打ち消した。

 魔力も、発動しようとした魔法も、体内にまだ微かにあった魔力も。何もかもを根こそぎ消し飛ばし、マリシャスから抵抗のための手段を完全に消し飛ばして見せた。更にその波動は一瞬ではあるがマリシャスの体から自由すらも奪った。

 動かない。動けない。体が石のように固まって動けない。そんな状況下でも建斗は一切の躊躇なく、横に振り抜いた剣を上段へと構えもう一歩、剣が絶対に当たる間合いへと踏み込んだ。

 そう、これこそが建斗が最強たる証。

 神速の速さで相手の懐へと踏み込み、同じく神速の一閃から生み出された波動で相手の抵抗するための手段全てを消し飛ばし、しかも体の自由まで奪って完全な隙を自らの手で生み出し確殺の一撃を叩き込む、建斗の二つ目の技にして切り札。

 未だこれをくらい生きた者は誰一人としていない。ゼナですら避ける事も防ぐことも叶わない、建斗が最強である所以である文字通りの必殺技。


「インパルスッ!! アルタイルノヴァァァァァァァァァッ!!」


 インパルスアルタイルノヴァ。

 十字に剣を振るい確実に相手を殺す一撃が、マリシャスへと叩き込まれ、建斗はそれと同時にマリシャスの背後へと躍り出た。


「何故……何故、人間がここまでの力を……」

「世界を救うために強くなった。大切なものを守りぬくために勇気を持った。そうやって必死に足掻き続け得た力だ。破壊のための力よりも強いのは、当たり前だ」


 そして建斗が右手に持ったヴァリアントソード・アルタイルの鍔を、左手でそっと閉じた。

 パチン。そんな音と共に鍔が閉じられると同時にヴァリアントソード・アルタイルの剣が石化し、その輝きを無くす。

 それが合図となり、マリシャスの体が手足の先端から徐々に粒子となって空へと溶けていき、十秒も経たない内に彼女の体は黄金の粒子となって空へと溶けていった。


「悪が在るなら、俺は在る。悪が在るなら、俺が斬る……ってな」


 いつか考えた口上を口にし、建斗は石化したヴァリアントソードを腰へと吊るした。

 こうして魔王直属の四天王の一人、マリシャスの討伐は成されたのであった。

今回で出てきた二人の技についての設定をば。


インパルスアルタイルノヴァ

建斗が相手を確殺するために編み出した建斗の切り札。これを一発でも耐えた者は今まで一人もいない。

ヴァリアントソード・アルタイルの全能力を解放し、それを制御するために溜めが必要であり、前動作はヴァリアントソードの制御を行っているという証。

横に振り抜くことで相手に衝撃を与え、その衝撃により建斗基準での特別な力を全て取り除き、更に一時的に相手の体を硬直させ、縦の一閃を確実に叩き込むという文字通りの必殺技。

また、斬られた相手はそのまま粒子となって消滅するため例え不死でも斬れない相手でも一方的に消滅させる事ができるため、どんな者だろうと当たれば即死する。


獣化

ゼナの本来の獣化。第一形態、第二形態はわざと獣化にストッパーをかけて不完全なものにする事で獣化の力を段階的に引き出している、本来想定していない用途なのでデメリットとして精神の高揚や野生化がある。しかし獣化によりフェンリル・オルタナティブとなればそれらは消え、逆に冷静になるため獣化第一形態、獣化第二形態と比べても戦闘力は格段に向上している。


建斗、ゼナの秘密

まだ中二病を患っている


ヴィーシャの秘密

ヴィーシャ「暇なまま終わっちゃったよ……」

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