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絶望には立ち向かい勝機を掴みましょう

今回は橋本達VS魔族さん。レディーファイッ!!

 魔族。橋本は指揮官として敵を知るために既に知っていたが、他のメンツはそれを知らなかった。だが、ディムロスの声から魔族という種族の女は敵だと言う事が分かる。

 魔族。この世界の魔王が率いている種族。魔王を唯一の王として崇める人間の『超越種』。それが魔族であり、この世界の人間を『蹂躙』し尽くし『侵略』し、『根絶やし』にしようとする種族。

 その特徴は、額の結晶と耳。それ以外は人間と変わらないが、底が変わっているが故に人間を超越している。それだけのスペックがある。


「そうよ。私は貴方達が言う所の魔族。人間という不完全な存在の上に立つ超越種」

「どうして勇者の事が……!」

「貴方達の情報なんて私達にとっては筒抜けよ? 特に、魔王様が直々にお選びになった幹部、四天王の一人たるこの私、マリシャス様にはねぇ?」

「四天王……だと!?」


 ディムロスが驚き、そして橋本も冷や汗をかく。

 四天王という存在は、橋本も耳にした。魔族の中でも特に戦闘能力の高い四人の事を指す言葉であり、かつて四天王一人と国一つが戦争した時は四天王一人を倒すだけで国の戦力が七割以上蹂躙され、その後立て直す事ができず国が滅びたという文献がある程の戦闘力を秘める存在。

 一人戦略兵器。それが四天王と呼ばれる存在。


「は、橋本君。色々と分からない事が出てきたんだけど……魔族って敵なんだよね?」

「それで合ってる。詳しい説明は生きて帰れたら……」

「そ、それで四天王ってどれだけ強いの……?」

「……ドラゴ〇ボール、分かる?」

「一応は……」

「魔人〇ウを魔王としたら、完全体の〇ルくらいかなぁ」

「それ詰んでない?」

「八割方」


 大体それぐらいの戦力。それに対してこちらはどうだ?

 反抗という言葉が馬鹿らしくなる程度には戦力差がある。あれが四天王と名乗った時点で打てる手は打ったが、果たして間に合うかどうか。

 田淵がこっそりと後ろに下がって半透明な壁を触るが、かなり硬い。試しに全力で蹴ってみてもビクともしない程度には硬い。


「あら、そっちの子、無駄よ。これは一度展開したら中に居る魔族か人間のどちらかが居なくならない限り消えることは無いのよ。残念だけど貴方達はここで死ぬのよ」


 サーっと斎藤と田淵の顔色が青くなっていく。日暮の姿が見えやしない。あの野郎どこか行きやがったな。そして肝心の戦力たるディムロスともう一人の御者をしていた騎士は恐らく戦力不足。四天王を倒すには決定的に足りない。

 橋本の頭でグルグルと戦況の理解とそれを打破するための手を探す思考が回る。しかし、分からない。どうしたらいいのか。

 だが、ここで言えるのは。


「で、ディムロスさん! 俺達も手伝いますから、時間を稼ぎましょう! 時間が稼げれば対策ができるハズです! 時間さえ、時間さえあれば!!」

「……どっちにしろ、惨めに足掻くしかないようだな。せめて腕の一本は冥途の土産として貰っていく!」

「あら、覚悟は決まった? なら、惨たらしく殺してあげるわ!」

「くっ……野生の中ボスなんて理不尽すぎる!!」


 そして両者が同時に動こうとした時だった。

 マリシャスの背後の空間が歪み、そこから日暮が現れたのは。

 手に毒を塗ったナイフを持ち、今にもその首を掻き切らんとするためにナイフを振るっている。

 あの陰キャ、逃げてなかったのか、と橋本が内心で口悪く褒め、そして勝機が一瞬にして生まれた事に歓喜したが、マリシャスは不敵な笑みを浮かべているのみ。


「無駄よ。私の魔法は貴方程度の隠密、捕えているわ」

「っ!? うげぇっ!!?」


 マリシャスが軽く手を動かした。

 それだけでマリシャスの背後の地面から尖った岩が生え、それが日暮の胸を強打する。幸いにも胸当てがあったためそのまま刺し貫かれるということは無かったが、相当な衝撃故に日暮が声を上げながら吹き飛ぶ。

 しかし、魔法を使った瞬間こそ好機。そう見たディムロスが剣を片手に颯爽と走り出すが、それでもマリシャスは笑っている。


「馬鹿ねぇ。この程度の魔法を使った程度で間を置くわけがないじゃない。紫電よ、愚か者に鉄槌を」

「なっ、ぐおおおおおおお!!?」


 詠唱と共に指が弾かれる。たったそれだけでまるで空から降り注ぐ雷の如き紫電がマリシャスの眼前から飛び、ディムロスの体を焼く。

 橋本達が当たれば即死するかもしれないような威力だが、ディムロスは耐えてみせた。


「ぐっ……! だがこの程度で倒れはせんぞ、四天王!!」

「なら、これはどうかしら? 獄炎よ、焼き払え。疾風よ、薙ぎ払え」

「さ、させないよ! 守りの盾よ、大地の力と呼応しその形を成せ!!」


 そして直後に放たれる指パッチンと同時の炎。それが風により速度と火力を増やしてディムロスに迫るが、斎藤がそれに少しだけ遅れて発動した魔法がディムロスの前に土の壁を作り出して彼を守る。

 しかし、土が炎に耐えられたのは僅か一秒程度。一秒という短い時間で炎はその勢いだけで土の壁を破壊し質量を持って貫通する。

 それを読んでいたディムロスが横に転がって避けるが、あの壁がなかったら確実に体を焼かれていた。


「うそっ……あれでちょっとしか持たないなんて……」


 そして先ほどの土の壁は斎藤が魔法で作れる壁の中ではトップクラスに硬い壁だ。そもそも詠唱の長さ的にも彼女の魔法の方が強度は高いハズだった。

 詠唱の量は込められた魔力の量。魔法発動の対価とも言えるものだ。故に、発動のための時間が長ければ長い程魔法の力は増していく。だと言うのに、彼女の魔法は一言二言程度の、斎藤ならちっちゃな炎の球やそよ風を吹かせる事しかできない程度の詠唱の魔法で破壊された。

 そこにあるのは、魔法使いとしての絶対的な差。何をどうしても勝てないと言う絶望だった。


「だが、守る事はできた! 故に近づいたぞ、四天王!!」


 しかしその絶望を足場にディムロスは何とか四天王に対して接近する事ができた。

 既に剣の間合い。剣を振れば当たる距離。つまりは剣士の間合いであり魔法使いの間合いではない。故に、ここに勝機がある。

 剣閃。銀に磨かれた刀身がマリシャスへと振るわれるが、しかしマリシャスはそれを羽根のようにふわりと動くだけで避けて見せた。

 だが、一階避けられた程度では怯まない。それだけで驚いていたら絶対に勝つことなどできないから。故に、ディムロスは魔法を発動させる隙を与えないために更なる連撃を加える。

 しかし、当たらない。一撃一撃が人間の中でもトップクラスに磨かれた剣閃だが、マリシャスには届かない。だが、それでも構わない。相手を一人に釘付けにできるのなら、それだけで十分だ。

 一対一に集中しているのならば、気配を消した人間の不意打ちに気付けるわけがない。

 故に、橋本、日暮、田淵が既に動いていた。


「このまま不意打ちで……!」

「っ……!」

「我が手に宿れ、灼熱の炎。黄昏よりも赤きその豪炎は愚者を滅する裁きの炎とならんことを……!!」


 橋本のディムロスを視界の遮りに使いながらの突進。日暮の再び背後からの不意打ちと同時の挟撃。そして田淵が静かに詠唱し発動させた炎の魔法。

 流石に三つ同時の不意打ち。これをディムロスの剣戟を躱しながら躱す手段は存在しない。そんな確信と共に橋本、日暮が飛び出し、田淵が魔法をディムロス、橋本、日暮を巻き込むつもりで放つ。

 当たる。そんな確信が四人の中にはあった。

 だが、甘い。そんな思考をできる程度にはマリシャスは余裕だった。


「言ったでしょう? 私の魔法は貴方達程度の隠密、捕えているって」


 そして、指が鳴った。

 それだけで背後から近づいていた日暮が雷に焼かれ、ディムロスが炎の球を叩き込まれて吹き飛び、橋本が風の刃に全身を切り刻まれ、田淵の炎が水に簡単に打ち消された。

 たった指パッチン一つで多方面からの攻撃を簡単に迎撃してみせた。


「し、びれ……ぇ……」

「み、見えなかった……」

「で、ディムロスさん! 水よ!!」

「ぐぅっ……! す、すまん、助かった……!」


 雷に焼かれ吹き飛んだ日暮はそのまま痺れから起き上がる事ができず、橋本は全身から血を流しながら倒れ、火だるまになったディムロスは斎藤の魔法によってなんとか鎮火してもらい、そのまま焼け死なずに済んだ。

 だが、今ので分かった。

 マリシャスは強い。強すぎる。この場に居る全員がどう足掻いても勝てない程度には。隠れて壁の破壊をしようとしていた騎士もその惨状を見て腰が抜けてしまっている。


「……貴方達、弱過ぎよ。魔王様に言ってわざわざ来てみたら、こんなひよっこ達だったなんて。正直ガッカリ」

「な、んだと……!!」

「もう少し強かったらもっと遊んであげたけど、私、つまらない遊びはしないタチなの」


 マリシャスは失望を含めた声でそう言うと、手を空に向かって掲げた。


「地獄の地を焼く焔の星よ。今こそこの地に現れ全てを焼き払わん」


 詠唱。その詠唱によって、マリシャスが手を振り上げた先が明るくなった。


「ば、馬鹿な……」

「そんな漫画みたいな……」


 そこにできあがったのは、小さな太陽とすら言える炎の球体だった。

 赤を通り越し白く光るその巨大な球は、人間を軽く焼き尽くしてしまう程度の熱量を秘めているだろう。しかも、その球体はかなり巨大であり、背後に居る日暮以外の全員を焼き殺せる程度には大きい。

 そんな物を防ぐ手段は、無い。斎藤も田淵も、どれだけ詠唱してもあれを消化するための水も、防ぐための土も、動かすための風も、相殺するための炎も出せやしない。

 故に、詰み。


「それじゃあね。ばいばーい」


 そして、遊んでいた友達と別れる程度の軽いノリで、手は振るわれ、太陽が落ちてきた。

 近づいてくる毎に肌を焼く熱量に例え防御しようと水をかけようと耐え切れないという現実を思い知る。

 斎藤と田淵はもう諦めたのか、座り込んでしまい、ディムロスはなんとか前に立つが、あれに触れた瞬間蒸発するだろう。

 だが、橋本だけは信じていた。

 自分が最初に切った手札が。敵を倒すのではなく時間を稼ぐことに重点を置こうとした理由が来ることを。

 既に吹いた笛が、この時にその効果をもたらす事を。


「――アルタイルスラッシュ!!」


 ――太陽は、真っ二つに分かれ、四散した。

 肌を焼く熱が無くなり、代わりに地面には巨大な斬撃の跡が残る。そして、降り立つのは三つの影。


「――悪いが選手交代だ。俺の友人に手ェ出したんだ。相応の覚悟は、できてんだろうな?」


 白銀の剣を輝かせ、降り立つ青年。

 身近な杖を手に、降り立つ少女。

 獣から人間へと変化し、降り立つ少女。

 橋本が呼んだ最後の切り札が降り立った瞬間である。

建斗、ヴィーシャの秘密

ゼ  ナ  で  来  た


ゼナの秘密

徒  歩  で  来  た

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