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魔法世代  作者: ヒース
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第1章 それは十七年前の日常

 今日もあの兄妹がテレビに映っている。

 もう、皆の目に馴染んだその姿と声、それは一種のカリスマであったか。

 妹の口から流れ出る優しげな旋律を背に、兄が右手を高々と掲げる。そこにあるのは黄金の球体。

 兄が手を振り降ろすと、その球体は、覆面に全身黒タイツ姿の男だか女だかよくわからない集団に突っ込んでいく。

 一瞬の間。そして……爆発。

「手加減はしておいた」

 決めゼリフを言い放つ兄。背後では兄に最後を任せていた妹がうんうんと大きくうなずいている。

 未来的なデザインの衣服は、裾が羽根のように広がっている。兄が鋭角的なのに対して妹はフワリと軽々しい。

「お兄ちゃん、今日も快勝だったね」

 語尾はハートマークがつくほど可愛らしいもの。ちゃっかりととったポーズもこれまた可愛らしい。

 そのまま画面はロングに変わり、爆発の余韻が残る荒野の俯瞰になる。

 一瞬の暗転。次に場面は学校の教室。

 兄は制服姿で、当然のように妹も制服姿。

 女子生徒に囲まれている兄は、それでいてクール。妹もこちらは男子生徒に囲まれているが、どうやらふざけあっているようだ。

 なんでもない普通の学校生活が約一分。その後にエンディングテーマとテロップ。

 それが終わると突如流れるなにかのコマーシャル。

 一分半の間を置いての次回予告。またも覆面全身タイツたちと戦う兄妹の姿。

 次回予告のタイトルが六秒表示されて、最後に兄妹を背景にしてのエンドマーク。

 こうしてまた今週が終わりを迎え、来週が待ち遠しくなる。


 場所は変わって、特に有名でもない病院。産婦人科。

 ベッドの上には産まれたての赤ん坊。今はゆっくりと寝息を立てている。

 看護婦たちが子供の顔を見て、小声で囁き合う。チラチラと見るのは、名前のない名札。


 さらに場所は変わって、市役所。

 たった今受け取った届け出を目の端でチラと見て、受け取った男は「ふぅ」と声に出して溜め息をついた。

「先輩、もしかしてまたですか?」

 彼の部下がどこか笑いを含んだ調子で彼に問う。

 男は困ったように頭を掻き「ああ」とひとこと。

 続いて口に出た言葉は、その場にいる全員の予想とピタリ同じだった。

「……『勇気』だ」

 一瞬の沈黙。そして、ざわめき。

 先ほど彼に声をかけた後輩が、やはりどこか楽しげに、

「またですかぁ?」

 部下の呆れた声だけが市役所に響く。

 そして次の来訪者。求めてきたのは先ほどの届け出と同じ物。

 男は、記述方法を説明しながら、軽くこめかみを揉んでいた。

 彼の背後に小さく後輩の声が届く。

「また『勇気』でしょうかね?」

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