表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

タンポポとシマリス



「ひどいよ、タンポポさん。いっしょに(よる)のお(つき)さまを()ようってやくそくしたのに、自分(じぶん)だけねちゃうなんて!」


 つぎの()のあさ、タンポポはシマリスにおこられました。


 だけど、夕方(ゆうがた)になってお()さまがしずんでしまうと、タンポポはどうしてもねむくて、ねむくて、はなびらを(ひろ)げておくことができなかったのです。


「わたし、ちょっとだけ()をとじたつもりだったのよ? ねむるつもりなんてなかったの」


 タンポポはほんとうに、すこしだけ(やす)むつもりだったのです。

 けれど、つぎに()をあけたときには、(そら)はすっかり(あか)るくなっていて、自分(じぶん)でもおどろいたのです。


 シマリスはタンポポの()いわけをきいても、ぷくりとほっぺをふくらませたままでした。


「ほんとうにごめんなさい、シマリスさん。……これじゃあわたし、(よる)のお(つき)さまを()ることなんてできないわね」


 タンポポがひらきかけのあたまを、しょんぼり()げながらあやまると、シマリスはむうっと、はなづらにシワをよせて(なに)かをかんがえはじめました。

 だまってしまったシマリスに、タンポポはあたまを()げてたずねます。


「シマリスさん、まだわたしのことおこってる?」


「まだちょっとおこってるけど、そうじゃなくて。タンポポさんがどうやったら()きていられるかってかんがえているんだ」


 シマリスの()ったことにおどろいて、タンポポはひらきかけていたはなびらを、ぽわんとまあるくさかせました。


 シマリスはタンポポのことをおこっているのに、タンポポのためにいっしょうけんめいかんがえてくれているのです。


 そう(おも)うと、タンポポの(こころ)はぽかぽかして、なんだかくすぐったいような気持(きも)ちになりました。


「タンポポさんは(あか)るくないとねむくなっちゃうんだよね? だったら、まわりを(あか)るくしておいたら、ねむくならずに()きていられるんじゃないかな」


 タンポポはいままで、お()さまがのぼれば(はな)びらをひらき、お()さまがしずめばとじるという生活(せいかつ)をおくってきました。


 お()さまと(おな)じくらい(あか)るいものなんて、タンポポにはあると(おも)えません。


「ぼくはきのうタンポポさんがねむったあとも、ちょっとだけ()きてたんだよ。だけどあのあとは、くもがでてきちゃってお(つき)さまには()えなかったんだ」


 きのうの(よる)、お(つき)さまのないまっくらな(そら)()たシマリスは、がっかりしてしまったようです。


 つまらなくなったシマリスは、すあなへかえろうと()にのぼったとき、(もり)()こうに(あか)るい(ひかり)がたくさんあつまっているばしょを()つけたのだとおしえてくれました。


「あそこから(ひかり)()けてもらえたら、タンポポさんだって(よる)のお(つき)さまがでてくるまで()きていられるんじゃないかしら」


「まぁ、(よる)になると(あか)るくなるものがあるの? ちっともしらなかったわ」


 タンポポがすっかりかんしんしてそう()うと、()をよくしたシマリスはタンポポのまわりを(はし)りはじめました。


「じゃあ、ぼくはあそこから()かりをわけてもらってくるよ。タンポポさんはここでまっててね!」


「えぇ、まってるわ。きっと()かりを()つけてきてね」


 タンポポに()おくられながら、シマリスは(もり)のおくへときえて()きました。そしてそのあと何日(なんにち)も、すがたを()せなくなったのです。


 シマリスがケガでもしたのではないかと、タンポポはずっとしんぱいしていました。


 それから三日目(みっかめ)のあさ、()をさましたタンポポのまわりには、()なれないものがたくさんおかれてありました。


「いったいこれは、なにかしら?」


 タンポポがふわりとあたまをかしげると、みどり(いろ)(はこ)()こうに、ふわふわのちゃいろいしっぽが()えました。


 うれしくなったタンポポは、(おお)きな(こえ)でよびかけます。


「まぁ、シマリスさんなの? しんぱいしていたのよ、いままでどこへいっていたの?」


 タンポポの(こえ)がきこえたのでしょうか、(はこ)()こうに()えていたしっぽがくるんとまあるくなりました。


「ふあぁ、おはよう、タンポポさん」


 ねぼけまなこを()ちあげて、ぷるぷる(からだ)をふるわせたシマリスのすがたが()えると、不安(ふあん)でさびしかった気持(きも)ちが、いっぺんにふきとびます。

 タンポポはにっこりとわらいかけました。


 かおをあらって()をさましたシマリスは、ぴんとむねをはると、じまんげにひげを(うご)かします。


()てよこれ! これがあればぜったいに、タンポポさんだって(よる)のお(つき)さまに()えると(おも)うよ」


 そう()ったシマリスは、みどり(いろ)(はこ)によりかかって、(はこ)のあたまをぺちぺちとたたいてみせました。

 どうやらこのたくさんの(はこ)は、シマリスがここへおいたもののようです。


 だけどこのみどり(いろ)(はこ)は、シマリスよりもだいぶ(おお)きいものでした。

 いったいどうやって、ここまではこんで()たのでしょう。


 タンポポがたずねると、シマリスはあたまをかきかき、()かけていたあいだのことを(はな)してきかせてくれました。


「じつは、フクロウじいさんに手伝(てつだ)ってもらったんだ。ここまではこぶのも、ぜんぶフクロウじいさんがやってくれたんだよ」


 フクロウという(とり)がこの(もり)にいることは、おしゃべりなカラスやスズメたちからきいているので、タンポポだってしっています。


 けれどフクロウは、(あか)るいうちはねていて(よる)()きるそうなので、タンポポはいちども()ったことがありません。


「フクロウじいさんはとってもものしりなんだ。タンポポさんが(よる)のお(つき)さまを()るために、()かりがほしいんだって()ったら、(よる)のあいだずっと(あか)るいままにしておくべんりなものがあるって、おしえてくれたんだよ」


 シマリスが(もり)()こうに()つけたのは、人間(にんげん)()(まち)()かりだったのです。


 シマリスも、(まち)へいって()かりを()つけたまではよかったのです。

 だけど(ちい)さなシマリスでもはこべるような()かりは、すぐには()つけられませんでした。


 こまってしまったシマリスが(もり)へもどろうとしたところで、フクロウじいさんに(こえ)をかけられたのです。


 フクロウじいさんが(まち)にある人間(にんげん)のいえと、タンポポのいるばしょをなんどもいったり()たりをくりかえして()かりをはこんでくれたのだと、シマリスはおしえてくれました。


「まぁ、フクロウじいさんって、とてもいいフクロウなのね!」


「そうさ。フクロウじいさんは、いいフクロウなんだ。ほかのフクロウみたいに、ぼくをおいかけてくるようなこと、ぜったいにしないもん。これでやっとタンポポさんも、(よる)のお(つき)さまに会えるね」


 そう()ってわらうシマリスに、タンポポもほほえみをかえします。


 その()夕方(ゆうがた)、お()さまがゆっくりとかたむきはじめると、タンポポはやっぱりねむたくなってきました。


 タンポポはなんだかもうしわけない気持(きも)ちになってあやまります。


「シマリスさん、ごめんなさい。わたしやっぱり、きょうも()きていられそうにないわ」


「もう(すこ)しがんばって、きっとだいじょうぶ。もうすぐだから」


 シマリスにはげまされても、お()さまの(ひかり)がかげると、タンポポの(はな)びらは、とじよう、とじようとかってに(うご)いてしまうのです。


「あっ、ほら!()かりがついたよ」


挿絵(By みてみん)


 シマリスがうれしそうな(こえ)をあげたので、タンポポはねむいのをいっしょうけんめいがまんして、シマリスに()()けました。

 すると、シマリスがはこんできたみどり(いろ)(はこ)のまん(なか)が、すこしずつ(あか)るくなっているではありませんか。


「まぁ、ほんとうに()かるくなった!」


 おどろいたおかげで、タンポポのねむけもちょっとだけふきとんだようです。


 だけどそこにある(ひかり)は、お()さまのあのきらきらとした(ひかり)にはかないそうにありません。

 (はこ)のなかにある弱々(よわよわ)しい(ひかり)は、(いま)にもきえてしまいそうに()えます。


「だいじょうぶ。この(ひかり)はね、すこしじかんがたつと、もっともっと(あか)るくなるんだから」


「ほんとうに?」


 タンポポとシマリスがおしゃべりをしているうちに、あたりはすっかりくらくなっていました。

 (ゆう)やけもあと(すこ)しでおわりそうです。


 そして、シマリスの()ったとおり、くらくなればなるほど、みどり(いろ)(はこ)(あか)るく(ひか)っていきました。


 それが(ひと)つや(ふた)つではありません。

 ぜんぶで(じゅっ)コもの()かりが、タンポポのまわりに(あつ)められていたのです。


 それは人間(にんげん)がはつめいした、お()さまの(ちから)(あつ)めておくきかいでした。

 ひるまにためたお()さまの力で、(よる)(あか)るい(ひか)りをともらせることができるのです。


 ランタンの(かたち)をしたソーラーライトは、(そら)がくらくなればなるほど、(あか)るさをましていきました。


「タンポポさん、どう? まだ()きてる?」


「えぇ、まだだいじょうぶ。()きてるわ。シマリスさんとフクロウじいさんのおかげで、きょうこそ、(よる)のお(つき)さまが()られそうよ」


 ほんとうは、とてもねむくて、やっとのことで()きているタンポポでしたが、きょうのねむさはこれまでのように、がまんできないほどではありません。


「ホトトギスさんの()った、わたしとにているお(つき)さまって、どんなすがたなのかしら……」


 ぼんやりとそうタンポポがつぶやいたとき、シマリスが(おお)きな(こえ)をあげてお(やま)をゆびさしました。


()て、タンポポさん、お(やま)()こうが明るくなってきた!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ