タンポポとホトトギス
ある、はれた日のこと。
タンポポが気持ちよく風にゆれていると、木のえだにとまり羽を休めていたホトトギスから、声をかけられました。
「タンポポさん、きみってお月さまとにているね」
それをきいて、タンポポはとてもおどろきました。
「わたしがお月さまとにているですって?」
タンポポの知っているお月さまは、いつだって白い色をしています。
それにくらべて、タンポポの花はどう見てもきいろです。
お月さまの白とタンポポのきいろではぜんぜんちがう色なのに、ホトトギスはなぜこんなことを言うのでしょう。
それに、みんなに元気をくれるお陽さまとはちがって、お月さまはいつもひっそりとしずかにしているので、いるのかいないのかもわからないほどなのです。
だからタンポポは、『お月さまとにている』なんて言われても、ちっともうれしくありません。
「しつれいしちゃうわ。ホトトギスさんは、わたしがほんとうにあんな色をしているように見えるの?」
「おやおや、おこっているのかい? ぼくはにてると思ったからそう言っただけなのに」
ホトトギスはあきれたようにそう言うと、木のえだをはねあげて、とんでいってしまいました。
タンポポはおかしなことを言うホトトギスがいなくなってホッとしました。
だけど、ホトトギスに言われたことが気になってしかたありません。
そこでタンポポは、木の下でキノコを食べていたシマリスにもきいてみることにしました。
きっといまの話をシマリスもきいていたにちがいないと思ったのです。
「ねぇ、シマリスさん。わたしってお月さまとにているかしら?」
「もぐもぐ、お月さまだって? ぼくってあんまりお空を見たりしないからなあ。ホトトギスさんがにてるって言うんだからにてるのかもね」
食べるのにむちゅうだったシマリスは、そっけなく、そうこたえました。
「なんですって? わたしって、あんなに白くてさびしそうに見えるのかしら」
シマリスからかえったこたえは、タンポポがきたいしていたものではありません。
それまで自分がいちばんきれいだと思っていた気持ちが、だんだんしぼんでいくようです。
タンポポはなんだか、かなしくなりました。まだお陽さまが空のてっぺんにいるというのに、すっかりしょんぼりしています。
「あれ? タンポポさんったらどうしたの?元気がないみたい」
さいごの石づきまでしっかり食いらげたシマリスは、やっとタンポポのようすに気がつきました。
「だってわたし、お月さまとにているって言われて、がっかりしちゃったんだもの」
「ふうん、どうしてがっかりしちゃったのさ。タンポポさんはお月さまがきらいなの?」
シマリスは食べのこしがないかかくにんしたあとで、もういちどタンポポのほうを向きます。
「そうじゃないわ。そうじゃないけど……」
タンポポはべつにお月さまのことがきらいなわけではありません。
だけど、お月さまとにているなんて言われても、ちっともうれしくないのです。
すっかり元気のなくなったタンポポを見て、シマリスはかわいそうだと思いました。
「お月さまのことをよく知っているだれかにきいたら、タンポポさんとお月さまがにているかどうかわかるんじゃない?」
「まぁ、それはいいかんがえだわ! さっそくきいてみましょう」
タンポポはお手伝いをしてくれるというシマリスといっしょに、みんなにお月さまのことをききました。
けれど、みんなの知っているお月さまは、タンポポが知っているお月さまとかわらないようです。
お月さまはいつだって、いつのまにか空の上にいるのです。
だれにきいても、お陽さまの光にかくれるようにぽつんと白い色をしていて、さみしそうにうかんでいる、という話ばかりがきこえてきます。
「やっぱり、お月さまって白いのよ。それにいつも一人ぼっちなんだわ」
タンポポは、まるで自分までひとりぼっちなんだと言われたような気持ちになりました。
うつむいてしまったタンポポに、シマリスはなにも言えなくなってしまいます。
タンポポのまわりがしずかになったところで、きげんのわるそうな声がきこえてました。
「まったく、こんなまっぴるまっから、うるさいタンポポとシマリスだねぇ。まだこんなにおてんとさんが高いっていうのに起こさないでおくれよ」
タンポポとシマリスはびっくりてあたりを見まわしますが、ちかくにはだれのすがたも見えません。
「だれ? どこからわたしたちに話しかけているの?」
「……あ、あそこ! はっぱのうらで何かが動いたみたい!」
シマリスがそう言って、ギンドロのはっぱをひっくりかえしてみると、そこには羽を広げたままじっとしている、小さな ガ のすがたがありました。
「あんたがお月さんににてるかどうかなんて、自分でたしかめればいいことじゃないか。あんたがお月さんをその目で見てみれば、ホトトギスの言ったことがほんとうかどうかわかるだろ」
どうやらこの ガ は、ずっとはっぱのうらでタンポポの話をきいていたようです。
「お月さまのことは、わたしいつだって見ているわ」
タンポポがそう言いかえすと、 ガ はバカにしたようにチロリとしょっかくを動かしました。
「あんたが見ているのは、ひるまのお月さんだろ。あたしが言ってんのは夜のお月さんのことさ。さぁ、もうしずかにしておくれ。あたしゃ、ねむいんだ」
小さな ガ は、そう言って羽をふるわせると、ぴたりと動かなくなりました。
どうやら、ねむってしまったようです。
「夜のお月さま? ひるまのお月さまと夜のお月さまでは、何かちがうの?」
タンポポがシマリスにそうたずねると、そっとはっぱをもとにもどしていたシマリスは、首をよこにふりました。
「さあね。ぼくはねるのが早いから、夜のことはしらないよ」
「わたしだって、いつもお陽さまが見えなくなる前に花をとじてしまうもの。夜のお月さまがひるまとはちがうかもしれないなんて、かんがえたこともなかったわ」
タンポポとシマリスは、空にうかぶお月さまをさがしました。
空のすみっこで見つけたお月さまは、いつもどおりの白い色です。
だけど、きょうのお月さまは、きのうよりちょっとふくらんでいるようにも見えました。
「ホトトギスさんがにているって言ったのは、もしかしたら、夜のお月さまのことだったのかしら?」
ガ は、もう何もこたえてくれません。
ガ はホトトギスが言ったことをまちがっていないと思ったのかしら。
だから、自分でたしかめればいい、なんて言ったのかしら。
タンポポはしきりにあたまをゆらして、なやみます。
はんたいに、タンポポのつぶやきをきいたシマリスは、きっとそうにちがいないと力づよくうなづきました。
「うん、たぶんホトトギスさんは、夜のお月さまとタンポポさんがにてると思ったにちがいないよ。タンポポさんが気になるのなら、夜のお月さまを見てみるべきだと、ぼくは思うな」
シマリスは、さっきキノコを食べながらおしゃべりしていたときよりも、ずっとしんけんなかおでそう言います。
タンポポはそんなシマリスを見て、みんなの言うことをしんじてみようときめました。
「わたし、今日はずっと起きてて、夜のお月さまを見てみることにする!」
タンポポが強いちょうしでそう言うと、シマリスも大きくうなづきました。そして、ぼくもいっしょに起きているからと、やくそくしてくれたのです。
どうやら、シマリスも夜のお月さまを、いちど見てみたいとかんがえているようです。
「シマリスさんがいっしょにいてくれたら、とても心づよいわ。じゃあ、きょうはここでいっしょに夜になるのをまちましょう」
タンポポとシマリスは、なんだかとても楽しくなって、いろいろなおしゃべりをして夜になるのをまちました。
ところが、夕方になると、タンポポはねむいのをがまんすることができなくなってしまったのです。
円雅さまよりイラスト入りタイトルロゴをいただきました。
可愛らしいイラストをありがとうございます!