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序話


 男は暗い、黒い煉瓦作り部屋に呆然と立っていた。


 眼前の光景を目にすれば、何人も立ち尽くす事象を、彼は見ていた。


 眼前に、中年の女が居た。


 目がうつろに狂気を帯び、口元が微かに震えていたが、どうやら”笑っている”が妥当であろう。


 髪は荒れ放題に飛んでおり、衣服ももはや襤褸切れとしか言えない代物を着ている。


 否、男が驚いていたのは彼女の姿ではない。彼女の行動に恐怖していた。


 彼女がしていたのは、椅子に座っている何者かを楽しむかのごとく、ナイフで肌を滑らせている。


 その”何者”かは顔を丹念に裂かれた痕が重なり、顔の原型を留めていなかった。


 しかし頭の形をよく見ると、人ではない。


 上下の顎と鼻らしきものが突出していて、頭上には何かが生えていたらしき盛り上がった部分がある。


 男は思った。「(犬だ!)」


 しかし頭より下は、人の形をしており、衣服を纏っている。


 その者も前者の女と同様、襤褸切れを着ている。


 言葉では言い尽くせぬ目の前の惨状を前に、男は声を失い、たたずんでいた。


 「はふ、はふ・・・」


 男、否、犬人は呻き出した。


 顔の原型を留めていない為、剥き出しになった筋が無造作に張りあがるだけで目での表情を確認できない。


 ただ、”痛み”に呻いているのであろう。


 それしか考えられない。


 男は思った。


 咄嗟に男は左手にあるドアノブに手を差し出した。


 無意識に起こした行動だ。


 誰もが当たり前に思うだろう・・・。


 逃げる!!


 男はドアノブを無造作に捻り、外へ飛び出した。


 女と犬人はこちらに目もくれない。


 追いかける様子もなく、男は確認をする気もなく我武者羅に走り出した。


 何処まで走ったのだろう、男は四角い巨大な螺旋階段の吹き抜けの一番下にいた。


 安全になったと本能が判断したのか、男は走るのを止め、様々な模様が散りばめられたタイルに両膝をついた。


 そこで頭が回転した。


 男は後頭部を両手で抱え、呻きだした。


 先程の拷問のような事象が頭から離れられない。


 頭上の四角い螺旋階段にウェーブがかかり、回り出した。


 余りにも残虐な出来事が眼前に起きたので、混乱している。


 あれこれ言葉を並べての混乱ではなく、一つの事に悩みすぎて混乱しているわけでもない。



 ただ混乱している・・・。


 それだけだった。



 回転が更に激しくなり、男は耐え切れずその場で前のめりに倒れた・・・。











 男は起きた。


 上体を勢い良く起こし、声が堰いていた。


 その男、アーネストはすぐさま枕元にあったロザリオを無造作に掴み、右手で胸元に当てた。


 「神よ、神よ・・・!」


 アーネストは十字架を当て続け、必死に小声で唱え続けた。


 男はこの夢に1ヶ月近くも苦しめられている。








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