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66話 ギルドで




 雨が止み地表に薄く霧がかかる中、濡れた道を泥飛沫を上げながら向かって来る魔物の群。


「警備隊、偃月の陣を取れ、中央は俺がとる!」

「「はっ!」」


 警備隊は無駄の無い動きで、門を中心に陣形を取り始める。一糸乱れぬ動きとはこの事だな。

 まるで軍隊のようだ――あっ、軍隊か。


 迫り来る魔物の群れが近づくにつれ、赤い鎧を纏った逃げて来る衛兵の姿がチラホラと見える。

 ディオール商会の集めた衛兵だ。

 逃げて来ているという事は失敗したのか?


「ニケル、あの衛兵から話を聞きたい! 魔物に呑み込まれる前に助けるぞ!」


 ウエッツの言葉で、カルに視線を送る。


「いいけど、あんまり魔力を使ったら落とし穴作れないからね」


 そうボヤくカルは両手を前に突き出すと、魔物の群れと衛兵の間に炎の壁を作り上げる。

 だが一瞬怯みはしたものの、魔物はおかまいなしに炎を突き抜けてくる。


「ティルテュ、グランツ、行くぞ!」


 駆け出した俺たちは、魔物の群れへと突入する。

 すでに衛兵は魔物の群れに呑み込まれようとしている。

 カルがサポートし、ウエッツの化け物じみた斧捌きが、一振りで数体の魔犬(ガルム)を吹き飛ばす。

 相変わらず化け物じみた怪力だな。


「おい、大丈夫か?」

「はぁ、はぁ、た、助かった」


 息を切らし、傷だらけの衛兵を助け出すと、一旦警備隊が前に出て会話の時間を稼いでくれる。


「一体どうなった? 魔導砲はどうした」


 捲したてるウエッツに、衛兵は怯みながらもおずおずと答えだす。


「さ、作戦は失敗だ。ま、魔導砲は命中したんだ。で、でもあのゴーレムは止まりやしない。お、俺たちは壊滅。もう生き残りも殆どいねぇ」

「ちっ、魔導砲が効かないだと。もういい、さっさと街に逃げろ」


 衛兵は足を絡ませながらも街を目指して逃げて行く。


「どうするんだウエッツ?」

「どうもこうもない。落とし穴を開けるんだろ?」

「本気かよ!?」


 くそっ、落とし穴なんて言った馬鹿はどいつだ!

 ーーいや、採用した馬鹿は誰だ!


 俺が後悔していると、流石は国境警備隊にウエッツ。

 魔物の先発隊とも言えるヘルハウンドと魔犬(ガルム)をなぎ倒していく。

 グリフォンまでいたようだが、カルが難なく全滅させていた。

 そして最後の一体を切り落とすと、信じられないものを目にする。


「こ、これは予想以上のデカさだぞ……」


 霧が薄くなり、数キロ先に見えるのは想像を超える大きさの古代の巨人(エイシェントゴーレム)

 みんなが息を呑むのが分かる。


 とてもじゃないが落とし穴なんて浅はかな作戦が、成功すると思えない。

 ウエッツに諦めようと視線を投げかけると、察してくれたのか小さく頷いてくれた。


「これより陥穽作戦に移行する。気を引き締めろ!」

「「はっ!」」

「マジかよ!?」


 思わず心の声を出してしまった。

 こいつら本気か?

 あれだよ、あれはもう小さな山だよ?


「我々が活路を開く。カルとお嬢ちゃんは魔力を温存して」

「あのさ」

「――ウエッツ君!」


 俺が反対意見を出そうとすると、地面に手を当てたカルがその言葉を遮る。


「残念だけど落とし穴は作れないよ」


 カルは立ち上がると、ウエッツに詰め寄る。


「どういう事だ?」

「ほら気付かない? もう地面がぬかるんで無いでしょ?」


 言われて地面を見ると、確かに水分はどこへやら、乾燥した大地が広がっている。


「僕もね、気にはなってたんだよね。あれだけの巨体だし、ここに来るまでに色んな場所を通って来たでしょ? その割には足止めされる事なくファミス君の予想通りの時間にここに来たなって」


 何やらウエッツやミケバム辺りは「まさか!?」って顔をしているが、俺にはカルが何を言っているかがさっぱり分からない。


「マスター、どういう事っすか?」

「……今カルが話すからしっかり聞きなさい」

「……了解っす」


「すごいよね、アレを作った人って。分解して調べたいなぁ」


 好奇心に満ちた顔をしているカルに「ちゃんと教えてあげなさい」と伝える俺って優しいなぁ。


「いいニケル君?」


 いや俺じゃなくて、パティとか、ほらティルテュとかにだよ。


「あの古代の巨人(エイシェントゴーレム)には多分、自分の荷重を支えるだけの支持力を持たせる地形魔法が施されたるんだよ」

「支持力か……」


 支持力ってなんだっけ?


「つまり、ここら一帯には地面を固める魔法をかけられているから、落とし穴を掘ろうとしたって無理って事だよ。多分僕が全力で土魔法を使っても、大した穴は作れないって事」


 落とし穴作戦を決行する前に失敗なのはありがた……仕方ないが、悲観そうではなく喜びに満ちた顔のカルは間違ってると思うぞ。


「ウエッツ、どうするんだ?」

「……最悪だな。退却しながらあのデカ物を誘導出来るかどうか……か」


 考える時間も惜しい所に、伝令から他の場所の報告が行われる。


「地点一、サイクロプスなどの大型の魔物多数襲来。苦戦中との事です!」

「地点ニ、ガーゴイルなどの魔物多数。こちらも苦戦中です!」

「地点三、こちらはケロベロスなど魔獣多数。現在徐々に押されています。至急応援を!」

「街内に侵入した魔物と交戦する街民を確認。こちらも応援及び救出が必要です!」


 完全に負け戦状態だ。

 退却して富裕層区域で籠城するしか選択肢は無いだろう。

 もっとも古代の巨人(エイシェントゴーレム)が富裕層区域に来たらアウトだが。

 流石のウエッツも苦悶の表情が見える。


 その時、俺の袖が引っ張られる。

 横を見ると真剣な表情のパティがいた。


「マスター、ここは逃げちゃダメっす」

「パティ、でもな」

「なんでか分かんないっすけど、逃げちゃダメっす。この古代の巨人(エイシェントゴーレム)はここで倒さなくちゃダメっす」


 ここまで強い口調のパティは初めてで、俺はもとより全員が面食らっている。


「パティ、アレを倒すって言っても、倒す手段が――」

「自分がいるっすよ! 大丈夫っす。自分がマスターを守るっすよ!」


 あぁ、これは絶対に言うことを曲げない時のパティだ。

 しかし、俺を守るねぇ。

 パティの声には根拠も何も無いのに信じる気持ちにさせる、不思議な響きがあった。


 はぁ、死んだら恨むからな。


 俺はパティの頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。


「しゃあない。それじゃあパティに守って貰うか。その代わり……俺がパティを守ってやる」

「はいっす!」


 満面の笑みを返すパティ。

 こんな笑顔を見せられれば、どんな敵でも倒してやるって気持ちになっちゃうじゃないか。


「ウエッツ! 今から俺たちは古代の巨人(エイシェントゴーレム)に突っ込むぞ!」

「――どうするつもりだ?」


 俺は横にいるパティの頭をポンポンと叩いて手を乗せる。


「うちの最終破壊兵器がぶっ壊すんだとよ」


 ウエッツは一度呆気にとられた後、高らかに笑い声をあげた。


「はっはっはっ。そういえば、そう言ってたな。仕方ねぇ。付き合ってやる」


 一瞬空気が緩むが、残酷な伝令の情報が飛び込むんでくる。


「地点三、もう保ちません! 至急応援を!」

「富裕層区域付近に魔物確認! 現在C級ギルドが交戦中ですが、応援を!」


 古代の巨人(エイシェントゴーレム)どころの話じゃない。

 このままだと街民にも甚大な被害が出る。


「くそっ! 人手が足りん!」


 その時――


「ニケルさん! 僕が――」


 強い意志を持ったウィブの顔。

 言葉は止まってしまったが、言いたい事は顔に書いてある。


「まったく、今から古代の巨人(エイシェントゴーレム)に突っ込もうって時によぉ。……行ってこい、ウィブ」

「――はいっ!」


 この状況でイースを取るかねぇ。

 でも、まぁ、それもいい。

 そうだな……。


「ウエッツ、ファミス! 今からウィブ、グランツ、ティルテュを応援に向かわす! ウィブに三地点を、ティルテュに街内で戦闘している街民救出を、グランツに富裕層区域に向かって貰う! 警備兵を貸してくれ!」

「――ちょっと、ニケル、アタシの力は必要無いってこと?」


 ティルテュは怒りを露わに睨みつけてくる。

 そりゃ今からみんなで突っ込もうって言ったそばから、他地点の救援に行けでは納得いかないのも分かる。


 だが、古代の巨人(エイシェントゴーレム)に突っ込むのは俺とパティ、カルでいい。

 ウィブはともかく、この街の地理に明るくA級ギルドマスター並みの実力と頭を張れる存在なんて、ティルテュとグランツしかいない。


「ティルテュ……。お前を信じてるから頼むんだ。俺達が古代の巨人(エイシェントゴーレム)を倒してる間に街が壊滅って訳にはいかないだろ?」

「……分かったわよ」

「グランツもいいな?」

「分かった。街の事は任せておけ。その代わりちゃんと仕留めて……生きて確かめに来い」


 グランツは軽く俺の胸元に拳を当てる。

 ティルテュは自分の頰を叩いて気合いを入れ直しているのだが、やり過ぎだ。頰が赤くなるほどしなきゃいいのに。


「ニケル! こいつ達を連れて行け! うちの精鋭だ!」


 ファミスの前には各8名づつ、三つのチームが揃っていた。

 俺はみんなを見回すと、クトゥに手を掛けニッコリと笑った。


「んじゃ、今夜は宴会だな」

「……遅れたら承知しないからね!」

「今日の料理は腕を振るいますよ!」

「自分も手伝うっす!」

「俺が味付けを担当してやろう」

「僕はウィブ君の味付けがいいよ」


 そして笑い声がこだますると、お互いの握りこぶしを突き合わせる。


「「じゃ、またギルドで!」」





 そして俺達はそれぞれの戦場へと向かうのだった。







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