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60話 意味が分からない




「最近ギルドのみんながえらく優しいんだよな」


 依頼が早く終わらせた俺はキーセルム雑貨店にやって来ていた。

 ギルドに戻ろうかと思ったのだが、ヘイテスから色々話を聞きたかったのだ。

 父親の心構えってやつを伝授してもらおうって訳だな。


「それはニケルが頑張ってるからだろ? みんなちゃんと見てくれてるんだよ」

「そりゃ少しは働いてるけどさ、ほら父親になるなら当たり前だろ? なのにグランツやティルテュは小言も言わなくなって心配ばかりしてくるし、ウィブは俺にだけ一品おかずを多く作るしさ、なんか違和感っていうか、ぎこちないんだよね」

「そ、そうか。気のせいだろ? で、今日はどうしたんだ?」


 心なしかヘイテスにもぎこちなさを感じる。

 まぁいい、ヘイテスには相談したい事が山ほどあるんだ。


「ヘイテスって、ほらオスカーって名前はいつ頃決めたんだ?」

「名前か? 名前は生まれてからだぞ」

「本当に?」

「生まれるまで男か女かも分からないだろ?」

「確かにそうなんだけどさ」


 そうか、生まれた後か。

 一応候補だけは今のうちに作っておこう。


「まだ妊娠1ヶ月くらいなんだろ? 流石に早すぎだぞ」

「でも他にも色々あるからさ。先に考えておかないとね。出産準備もそうだし、家も建てなきゃいけないし」

「――ぶっふっー! げほっ、がはっ」


 ヘイテスが急にむせだす。

 何か変な事を言っただろうか?


「ニ、ニケル、家ってなんだ? お前ギルドに住んでるんだろ?」

「何言ってるんだ、ギルドは危険だろ? 竜の咆哮(ドラゴンクライ)の時のような事が起こったらどうするんだ? もう不動産屋には探して貰ってるんだ」


 ヘイテスが何やら汗をかき始めると、奥からアネッサが出てくる。

 その手にはオスカーが抱きかかえられているのだが、いやぁ可愛いなぁ。

 俺の子供もきっと可愛いだろうなぁ。

 思わず口元が緩んでしまう。


「ちょっとニケル、いい加減にしなさい!」


 おぉう、アネッサが怒ってる。

 まずい事言ったのだろうか?


「いい? 妊娠1ヶ月なんて不安定なのよ? そこに期待ばっかり押し付けたらパトリシアが可哀想よ。嬉しいのは分かるけど、ちょっと自分の思いばかり優先してるんじゃないの?」


 その言葉は俺の心に深く突き刺さる。

 確かにそうだ。

 最近パティの表情が暗く見えるのは、俺が余計なプレッシャーを与えているからだったのか。


 俺は馬鹿だ……。

 子供ばかりに目が行って、きちんとパティを見ていただろうか?


「……そうだな。すまん。ギルドに戻って謝ってくる」

「――ちょ、ニケル!」


 俺は抑えきれない自責の念に駆られてギルドへと走り出した。






「パティ、すまなかった」


 俺はパティの部屋に入るなり土下座する。


「マ、マスター、どうしたっすか?」

「俺は子供のことばかり考えて、パティの気持ちを考えてなかった。本当にすまなかった」

「ちょっと、マスター、やめて欲しいっす。……違うっす。謝らなきゃいけないのは自分の方っす」


 パティの言葉に顔を上げると、今にも泣き出しそうな顔がそこにあった。

 パティは一度俯くと、覚悟を決めたように顔を上げる。


「実は子供っすけど……」

「子供がどうしたんだ?」

「本当は」

「――ニケルさん! 緊急事態です! ニケルさんは何処にいますか?」


 パティの声を遮ってシェフリアの声が割り込んでくる。

 シェフリアにしては慌てた声だが、今の俺にはパティとの話の方が大事だ。


「マ、マスター、呼んでるっすよ」

「後でいいよ。俺はパティの話を聞きたいんだ」


 パティはいつになく真剣な表情になると、大きく息を吐き出す。


「実は」

「――ニケルさん、ここでしたか! 今すぐ組合まで来て下さい」


 パティの言葉を待たずして、シェフリアが勢いよく扉を開けて入ってくる。

 慌てぶりから察するに、本当に緊急の用なのだろう。

 だが……。


「すまないシェフリア。少しパティと話があるんだ。少し待ってて貰えないか?」

「それどころじゃ無いんです。もう妊娠騒動(おままごと)はいいんですよ!」

「――えっ? えっ。えっ!?」


 何?

 意味が分からない。


「ご、ごめんシェフリア。ま、ままごとって?」

「だから誰が考えたってパトリシアさんが妊娠してるわけ無いでしょ? そんな事はいいんです! ――あぁ、もう、子供が欲しいんなら今度協力しますから、とにかく早く来て下さい!」


 パティが妊娠してない?

 えっ、ごめん。本当に意味が分からないんだけど?


 扉越しに立っているグランツとティルテュに視線をやると、顔を背けられる。


「マスター、ごめんなさいっす」


 叫ぶパティに魂を抜かれた俺は、シェフリアに引きずられていくのであった。






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