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43話 結婚出来る?




 日が落ち、辺りが暗くなる頃に獣人の村に着くと、カルの回復魔法が脚光を浴びている。


 そう。到着して僅か10分で、獣人の英雄は俺からカルにすげ変わっていた。

 そりゃあカルを呼びに行ったのは俺だよ? でも、このやるせない気持ちは何だろう。

 カルもかなりの負傷者の数に魔力を使い果たし、今は獣人のお姉ちゃんの膝枕にて就寝中。く、悔しくなんか無いんだからな!



 獣人達の準備も終わり、夜空に満天の星が煌めき出すと、俺達への感謝の宴が始まった。

 至る所に篝火が焚かれ、村の中央広場にいくつも並んだテーブルに料理と酒が次々と置かれていく。

 獣人の歓喜の遠吠えがこだまし、踊り出す者まで現れ始めた。


 尚、サウスは族長とイースの前で正座をさせられ説教中である。




「獣人の村とはな。普通入れる場所では無いぞ」


 グランツは獣人に酌をされつつ酒を飲んでいるが、その顔には驚きと興奮が見て取れる。

 パティは手頃な獣人の子供を捕まえてはモフモフに没頭している。

 ウィブは獣人の料理に興味があるのか、調理を手伝っているようだ。



「隣いいですか?」


 声の方を振り向くと、お酒と料理を持ったシェフリアが立っていた。

 俺が隣の椅子を引くと、料理をテーブルに置き「ありがとうございます」と微笑んでくる。


「ニケルさん達といると色んな体験が出来ますね」

「そりゃ組合の受付だけじゃ、こんな体験は出来ないよね」

「私、昔傭兵だったんですよ? でもこんなに楽しい体験をしたことは無かったです。ニケルさんのギルドが羨ましいですよ」


 シェフリアが昔傭兵だったなんて初耳だ。そういえばマクサナ平原に来るときも、この獣人の村に来るときも、難なく付いてきていたな。


「傭兵だったんだ? どうして組合に入ったの?」

「えっーと、内緒です」


 人差し指を口にあて、悪戯っぽく笑う仕草に一瞬見惚れてしまった。くっ、強力な破壊力だ。

 シェフリアと話をしているとバタバタとこちらに駆けてくる足音が聞こえる。


「ニケルしゃーん」


 俺目掛けてダイブしてくるノース。

 小さな体をキャッチすると、頭を擦り付けなが抱きついてくる。


「ニケルしゃん、本当にありがとうでしゅ」

「ノースの頼みだったからな」


 ノースは俺の膝の上にちょこんと座って、料理を食べ始める。


「この子がイーストリアさんの言っていた、ニケルさんが助けた子ですか?」

「そうでしゅ。ノースって言うでしゅ。お姉しゃんは誰でしゅか? ニケルしゃんの奥さんでしゅか?」


 俺が食べていた物を盛大に吹き出すと、シェフリアは顔を真っ赤にさせて「ち、違います」と全力で否定していた。いや、事実はどうあれ悪い気分にはならない。


 そんな俺達を尻目に、少し離れた場所では「次、かかって来なさい!」と、ティルテュが獣人相手に組手をしている。

 周りにはノックアウトされた獣人が何人か横たわっていた。


「よーし、次はアタイが相手だ!」

「望むところよ!」


 サウスの説教が済んだのか、イースとティルテュの組手が始まる。

 イースは獣化しておらず、ティルテュも拳に魔法を纏ってはいないが、周りの獣人達は大盛り上がりだ。

 両者互角の様相で激しい戦いをするが、結局引き分けで幕を閉じた。


 戦い終わったイースは俺を見つけると、こちらに歩いてくる。ティルテュはどれだけ血の気が多いのか、次の挑戦者を募ってるし。


「アイツ強いな。アタイのギルドに欲しいぐらいだ」

「ダメですよ。ティルテュさんは蜥蜴の尻尾(テイルオブリザード)の大事な一員なんですから」


 俺より早く反応したのはシェフリアだった。


「それは残念だな。で、シェフリアは何でニケルと一緒にいるんだ? 組合辞めたのか? あぁ、ニケルと付き合ってるのか?」


 また顔を赤らめて否定するシェフリア。

 しかしイースといいノースといい、獣人ってのは男女が一緒にいると、くっつけたがる性質なのだろうか?


「あーあ、アタイもどっかにいい男が居れば……」

「ニケルさん。料理の追加です。獣人料理をアレンジしてみました」


 ふとイースの後ろには、ウィブが美味そうな肉料理を両手に乗せて持って来ていた。

 肉にタップリかかったキノコソースが、食欲を増進させる香りを漂わせている。

 前を見ると、イースがモジモジしている。


「宜しかったらどうぞ」


 ウィブは肉料理が欲しくてモジモジしてると思ったのか、イースの前に料理を差し出す。


「あ、ありがとうございます。じ、自己紹介がまだだったね。アタイ……私はイーストリアって言います。えっと、あ、あなたがこの料理を?」

「あっ、僕もちゃんと紹介してなかったですね。ウィブといいます。少々アレンジしましたのでお口に合うか分かりませんが、熱いうちに食べて下さいね」


 ティルテュ並のガサツさはどこへやら、誰だコイツは?

 顔を赤らめ獣耳をパタパタさせ、尻尾が左右に激しく振られている。

 言葉遣いまでもが乙女のようだ。

 誰が見ても丸分かりの反応。

 ノースですら「イースお姉しゃん惚れまちたね。お姉しゃんは家庭的な男が大好きでしゅから」と解説していた。


 ウィブが調理に戻ってもイースの顔は紅潮したままだ。


「大丈夫か?」


 一応声を掛けると、テーブルを叩き立ち上がるイース。


「おい。どうやったらウィブと結婚出来る?」


 俯きながらボソボソと、でも聞こえる声で話すイース。

 結婚ってあなた、ウィブと会って2時間程だよ?


「おい。ニケルがギルドマスターなんだろ? 族長みたいなもんなんだろ? 許可をくれ! 出産を前提に結婚したい!」

「そんなもん俺が決めれる訳ないだろ?」

「――何!?」


 どうやら獣人の結婚概念は人とは大きく違うようだ。

 惚れたから結婚。その相手の頭に許可を取るのが通例とでもいうのだろうか?

 結婚を前提にお付き合いは聞いた事はあるが、出産を前提にって――結婚は過程か?

 イースのギルドが心配になって来た。こいつのギルドに入れば婚期を逃す奴等が続出では無いだろうか?


 シェフリアはイースに人間の結婚概念を詳しく教えている。後は任せておこう。


「そういえばノース。イースはお前の姉ちゃんなのか?」

「? 獣人族はみんな家族でしゅよ?」


 なるほど。そういう感覚なのか。

 どこの家で産まれようが獣人族は全体で家族だって意味なんだろう。皆が親であり子であり兄弟って事か。

 よく見ればイースもノースもサウスも耳の形が違う。

 てっきり似ている名前だから兄弟なんだと勘違いしていた。


「アタイ、ちょっと手伝って来るよ」


 シェフリアに何かを吹き込まれたイースは、ウィブの手伝いに去って行った。


「なんか良いですね。自分の気持ちに真っ直ぐ行動出来る人って羨ましいです」

「まぁ、あそこまで真っ直ぐだと見ていて気持ち良いな。まっ、単純って――」

「マスター、穴あきタイツ貰ったっす! お尻に穴が開いてる奴っす!」


 シェフリアとの穏やかな話をぶった斬るパティの叫び。

 もちろん、ギルドメンバーにはパティが魔族である事は話してあるので、なんとなくでも理解して貰えるだろう。

 だがシェフリアは知らない。

 じつに頭の痛くなる案件が発生してしまった。


「穴あきタイツって何でしょうね?」

「あははは、な、何でしょうねぇ?」


 シェフリアの顔が怖い。

 顔が笑っているのに目が全く笑っていない。冬なのに冷や汗が止まらない。

 まるで無知の少女に変態な要望を押し付けるギルドマスターを見る目だ。

 危険をいち早く感じたティルテュがパティを確保して口を押さえているが、さてどうしたものか。

 俺が冷や汗をかいていると、シェフリアが顔を近づけて耳元で囁く。


「パトリシアさんが魔族なのは知ってますよ。魔族に尻尾が在ることも。これでも傭兵組合の受付ですから。でも、獣人族が魔族を良く思っているかは分かりませんから、早くパトリシアさんの所へ行った方がいいですよ」


 シェフリアはすっと顔を離すと、軽くウインクをする。

 知っていたなら助かったが、あの視線は一体何だったんだろうか?

 俺の狼狽える姿を見たかったのだろうか? 

 いや、それどころじゃない。

 俺は急いでパティの所へ向かう。


「パティ、なんで穴あきタイツの流れになるんだよ!」

「みんな尻尾出してるっすから、羨ましくなったっす。頂戴ってお願いしたらくれたっすよ」

「そんなの着て外は歩けないだろ? お返ししなさい」

「えぇぇぇー。うぅ、念願の穴開きタイツ……」


 パティは愕然としているが、放って置けば次は穴開きパンツとか言い出すに違いない。危険の芽は心を鬼にしてでも早めに摘まなければならない。


「ちなみに貰った獣人に魔族とか尻尾が生えてるとかは話したのか?」

「うぅ、穴開きタイツ……。そんな事言わないっす。マスターと二人だけの秘密っす」


 ホッと胸をなでおろす。

 多少変な話だが、言ってないなら誤魔化せるだろう。

 しかし、ギルドメンバーもシェフリアさえも知っている事だ。

 二人だけの秘密では無いのだが、半べそ気味のパティには黙っておこう。




 一難去った俺がパティを連れて席に戻ろうとすると、族長に捕まり感謝の言葉と酒を大量に受けるのだった。








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