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38話 狩り勝負



 窓からは夕焼けの光が差し込まれている。

 流石に今から狩り勝負は無理だろうとの判断で、翌日の早朝から開始すると決められていった。


「この時期に狩り勝負って言っても獲物は少ないだろ? 他の勝負にしない?」


 俺の訴えには誰も反応を示さない。

 どうやら俺の言葉には、耳避けの魔法がかけられているようだ。

 そして何も無かったかのように勝負の詳細がグランツ、ティルテュによって決められていく。


魔鹿(ジャックス)なんかどう? 高級肉だし」

「あぁ、確かに調理のしがいがあるな。ブーブー鳥なんかも良いぞ」


 蚊帳の外に出されて話を聞いてる限りは、『何を食べたいか?』にすり変わっている気がする。

 気がつけばシェフリアさえも「私まだ食べたことないんですよ」なんて話に加わっている。


 結局お題は南のマクサナ草原に住む『ギッシュ』と言う獣に決まった。

 その肉は超高級で、一流料理店で高い金を払わなければ食べることは出来ない貴重な食材。

 素人の俺でも聞いたことがある名前だ。


 ギッシュは危険度Dの魔物ですら補食の対象にする獰猛な獣。

 もちろん遭遇して戦っても勝てるが、見つけ出すのは困難を極めるだろう。ギッシュは群れを作らず、気配を殺して獲物を刈る草原のハンターだ。おいそれと見つかる獣ではない。

 ましてや対戦相手は狩猟に長けた獣人。


 俺が悩んでるうちに、ギルドメンバーとシェフリアの興味は、ギッシュをいかにして美味しく食べるのかに傾いてしまった。誰も俺の応援などしていない。

 彼等にとってはどちらが獲物をゲットしてきても大差ないのだろう。その食材を手に入れる事が目的となってしまっているのだ。


 


 サウスは「また早朝に来るぜ」と一言残してギルドから去っていく。

 来た時とは別人の様な表情は、真剣そのものだった。相手が俺なんだから油断してくれりゃいいのに。

 まぁ、いいさ、敗けは決定。適当に相手して「君、凄いね。ハンターになれるんじゃないの? あっ、俺? 俺は剣士だから狩猟とかはちょっとね」とか開き直って有耶無耶にする作戦で行こう。


 盛り上がっている皆を他所に、自分の部屋で寝ようと階段を昇る。


「ニケル、明日はちゃんと起きなさいよ」

「はいはい」


 さっ、寝よう。

 ティルテュの忠告を聞き流しながら、暖かいベッドへと向かうのだった。











「うぅぅ。寒い」

「なんだ? この程度で寒いなんて軟弱だぜ」


 いや、君も寒そうだから。震えながら鼻水出てるからね。

 俺は今、くそ寒い空っ風が吹くマクサナ平原に立っている。

 夜が明ける前にティルテュに叩き起こされたので、「やっぱり俺はパスで」と言って再びベッドに潜り込んだのだが、渾身の踵落としを食らわされた。

 多分肋骨にヒビが入ってると思うよ?

 動きの鈍った俺は、グランツに引きずられながらここまで連れてこられた訳だ。


 周りを見渡すとタメ息しか出てこない。

 俺の目の前には何処で買ったのか、巨大なテントが立てられている。

 テントにはカルの魔法障壁が張られ、寒さ対策もバッチリだ。

 中には料理の器機が並べられ、「テントの中でも安心の焚き火魔道具」なるものまで設置されている。

 ちなみに俺とサウスに向けて、テントの入り口には「ギッシュを捕まえるまで入室禁止」と、御触書まで貼られる始末だ。


「いいか? 制限時間は日が落ちるまでだ。先にギッシュを捕まえて此処まで持って来れば勝ちだ。日が落ちるまでに二人とも捕まえられなければ引き分け。明日の延長戦に入る」

「いいぜ」

「えっ? 引き分けで終わりでいいんじゃ……何でもない」


 グランツに、いやギルド員全員に睨まれて言葉を引っ込める。

 奴等の目は「ギッシュを食いたいんだよ」と物語っている。


「二人の意気込みを信用して監視は行わない。正々堂々の勝負を願っている。さっ、開始だ」

「うおぉぉぉぉ」


 開始の合図を聞いて、雄叫びを上げながら走り出すサウスだが、俺にはついて行けない。

 とは言っても此処に居る訳にもいかず歩き始めたのだが、後ろからは何故か楽しそうな会話が聞こえてくる。


「ここで待つのも暇よね。そう言えばこの前こんなゲーム買ったのよね。みんなでしない?」

「楽しそうっすけど、自分おなかが空いたっす」

「僕もお腹減ったよ」

「だな。いつ食材が届くか分からんから、ゲームでもしながら何か摘まむか」

「じゃあ軽く食べれる物作りますね。食材は色々ありますからリクエストあったら言って下さいね」

「あっ、私も料理の勉強したいのでお手伝いしますよ」


 俺は木枯らしに吹かれなから「……神様。俺、帰ってもいいよね?」そう呟くのだった。






「はぁ、そろそろサウスが捕まえてないかな? でもなぁ、まだ戻るには早いかなぁ」


 開始から30分。既に俺の心は折れている。いや、朝から折れているか。

 俺の呟きを聞いたのか、クトゥが鈍く光る。


「……クトゥってギッシュの居場所とか分からない?」


 またしても鈍く光るクトゥ。


 ――えっ? もしかして分かるの!?

 

 俺はクトゥを地面に立てて手を離す。

 パタリと東の方向に倒れるクトゥ。

 念を入れてもう一度同じように手を離すと、やはり寸分違わず同じ東の方向に倒れる。


「まじか! 凄いぞクトゥ。俺の味方はお前だけだ」


 クトゥの道案内に従って進んでいると、だんだん木々の生茂る森へと入り込む。

 はて? ギッシュって草原に生息しているんじゃなかったっけ? まぁいいか。

 クトゥは森の奥へ奥へと誘っていく。

 更に奥へと進むとクトゥが強く青白い光を放つ。


「クトゥ、ここにいるのか?」


 俺は心を踊らせたが、そこにいたのはギッシュでは無かった。

 震えながらうずくまる小さな生き物。

 見た目は小さな男の子。

 その男の子には犬のような耳が頭に乗っかっていた。

 ……そう獣人だ。


「えーっと、クトゥ?」


 クトゥは微かに鈍く光るだけだ。

 よし、帰ろう。

 回れ右して帰ろうとすると、視界の片隅に男の子が入ってしまう。

 俺は深いため息をついた。


「あー、くそっ。恨むぞクトゥ」


 震える獣人の男の子を抱きかかえる。

 ビクッと体を反応させるが暴れたりはしなかった。いや、するだけの体力が無かったのかもしれない。

 よく見れば身体中擦り傷だらけだ。

 非常用に持ち歩いていた回復薬を半ば強引に飲ませると、獣人の男の子は自分の体が癒されたことに気付いたようだ。


「おい、俺の言葉が分かるか?」


 男の子はコクコクと頷く。


「名前は?」

「ノース……でしゅ」

「ノース、ここで何してたんだ? 家には一人で帰れるよな?」


 たまたま怪我をしてここに居ただけで、「一人で家に帰ります」って言って欲しい所なんだが。


「無理でしゅ。村には魔物がいっぱいでしゅ。ノースは必死に逃げてきたでしゅ」


 ……はぁ、やっぱり面倒事だ。聞かなきゃ良かった。

 ノースの純真な目がSOSを訴えている。

 この面倒事遭遇率は一体なんなんだろう?

 誰の呪いだ?


「助けて欲しいでしゅ。お願いでしゅ」


 言ってやりたい「子供が大人にお願いしたら、何でも聞いてくれると思うなよ!」と、そう叫びたい。


「はぁ、1時間程歩いた所に仲間がいる。呼びに行くぞ」


 俺がノースを抱えて歩き出そうとすると、ノースはしがみついてくる。


「ダメでしゅ。早くしないと、みなしゃん殺されちゃうでしゅ」

「はぁ? 俺一人で助けに行けって事か?」

「そうでしゅ。時間がないでしゅ。俺しゃんだけが頼りでしゅ」


 頭が痛い。

 どうしてこうなる?

 クトゥさんや、俺に恨みがあるのかい?

 せめて助けを求めるのがオッサンやババアだったら断れるのに……。


「ああー、もうっ! ノース。村への道はどっちだ?」

「こっちでしゅ」


 ノースを負ぶうと指差す方に向かって走り出す。


「ノース、言っておくが俺の名前はニケルだ! 俺って名前じゃ無いならな!」

「ニケルしゃん、分かったでしゅ」


 俺は息を切らせながら、足場の悪い森の中を後悔しながら走るのだった。







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