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32話 青く光る剣



 体内を締め付けられ、揺さぶられる感覚。

 揺れが収まると暗闇の中にいた。

 冷んやりとした空気が体を包み込む。

 そばにカルとアンジェリカが居る事は、なんとなく気配で分かる。


「古の契約ぺリスの名において命ずる、光よ、その輝きをもって照らせ。光灯(ライト)


 アンジェリカの声が響くと、光の玉が出現し、辺りを照らし出す。

 どうやら結構な広さの部屋にいるようだ。


「す、すごいわね」


 アンジェリカが驚くのも無理もない。

 まるで普段から使われているかの様相だ。幽玄と佇む祭壇に、神々しい女神の像。その横には一対の守護獣の像が膝をついて女神を崇めている。

 豪華な装飾などはないが、なんとも神秘的な空間だ。


「ニケル君、あそこに扉があるね」

「はいはい。分かってるって」


 カルの指さす先を見れば、壁のくぼみに扉が見える。

 要は俺に開けろと言ってるのだ。


 仕方なく取っ手に手を掛けると、抵抗なく扉は開いていく。

 中には様々な道具や本に武器、鎧。

 張り詰めたような空気を感じるのは、魔法属性を持つものが存在するのだろう。

 魔法属性を持つ道具などは、すべからく異様な気配を発するものだ。

 希少な魔法属性のあるものは、取引値段も断然高い。これを持ち帰れば、一攫千金も夢ではない。


 その中に、まるで「私を手にとって」と呼びかけているような、一振りの剣が目に付く。大した装飾もない黒い刀身の剣。

 不意に剣を取ろうと手が伸びてしまう。

 触れた瞬間――身体を締め付ける見えない何かが侵入してくる。パティに精気を吸われた時の様な倦怠感が来襲し、剣は鈍い光を発する。

 あれっ? もしかして呪いの剣?


「ニケル君、ちょっとどいててね」


 カルが袋に様々な道具や武器、鎧を吸い込んでいく。

 俺は剣を手放そうとするが、意思に反してピクリとも動かない。手から離せないんだ。これって本気でヤバイかも?


 カルは1/3程を吸い込むと「これ以上は入らないね」なんて言っているが、俺はそれどころではない。

 徐々に倦怠感が増していく。


「ちょっと、それどうするつもりなの?」

「僕の戦利品だよ」

「――そんなことしていいわけないでしょ!」


 カルとアンジェリカが口論しているが、耳に入る言葉が遠ざかっていく。


「ニケルも何か言ってよ! ……二ケル?」


 やっとアンジェリカが俺の異変に気付いたようだ。慌てて俺に駆け寄ってくる。


「あれっ? それって魔剣だよ。ダメだよ二ケル君」


 カルは俺を見て楽しそうに笑っているだけだ。「なんとかしろよ」と言いたいのに喉から声が上がってこない。


「ちょ、ちょっと、大丈夫?」


 アンジェリカが支えてくれるが、力は抜けていくばかりだ。

 もしかして、俺の人生終わりですか?

 あぁ、視界がボヤけていく。い、意識が……。


 半ば諦めた瞬間、剣が青く光る。

 不思議な事に光と共に意識が戻り、倦怠感は収まっていく。


「良かったね。その剣、満腹になったみたいだね。これでその剣は二ケル君のものだよ」


 カルが手を翳してくれると、全快とはいかないものの、体は大分楽になってくる。やはり回復魔法とは便利なものだ。

 剣を見ると、もう光っている様子はない。

 不気味に感じる剣をそっと床に置いて距離をとったのだが……。

 

 あ、あれ? 

 目の錯覚か? 剣が床を這うように、ズルズルとこっちに近づいて来るではないか。


「お、おい。どうなってんだ?」

「だから言ったよね。その剣は二ケル君のものだよ」


 呆然としているアンジェリカの方を見ると、我に返ったのか、説明をしてくれる。


「わ、私も文献で読んだことがある程度だけど、生気を吸う魔剣のようね。魔剣に生気を吸い尽くされれば死。魔剣に認められれば従属の関係になるらしいわ。並大抵の生気の持ち主では扱う事が出来ないって書いてあったけど。正直戯言だと思っていたから詳しくは調べてないわ……」


 もしかして、パティに精気を何度も吸われてきたお陰で、免疫でもできていたのだろうか? 

 もう一度手に取ると、挨拶の代わりのように剣が青白い光を放つ。


「じゃあ、そろそろ戻ろうか」


 何食わぬ顔で袋をしまって部屋を出て行くカル。

 アンジェリカも「ちょっと待ちなさいよ」と追いかけていく。

 部屋にはまだたくさんの道具等が置かれているが、さっきの剣の例もある。とてもじゃないが、持って帰ろうって気にはなれなかった。


「後は、組合にお任せするよ」

「ちゃんと袋の中身は返しなさいよ」

「無理」


 どうやらカルの目的はお宝だけだったみたいだな。祭壇や女神の像を調べる気は更々無いようだ。

 アンジェリカは調べたそうだが、流石に一人になってまでは調べたりはしないだろう。

 魔方陣まで近付くと、頭の片隅に何かが引っ掛かる。なんだろう、この違和感。

 後ろを振り向いて祭壇を眺める。……何も変わっていない。


「何かおかしくないか?」

「えっ、何がよ?」


 アンジェリカは同じく祭壇を眺める。

 カルは俺の言葉を無視して、魔方陣に乗っていた。

 光の渦がゆっくりとカルを包み込んでいく。


「気のせいかな?」

「そうね。祭壇も女神像も変な所はないと思うけど。守護獣像も……」


 アンジェリカがそこまで言った瞬間、お互い目を見合わせる。


「さ、さっきまで膝をついて女神像の方に向いてたわよね?」

「す、少なくともこっちを見ちゃいなかったよな?」


 後退りするように魔方陣に近付く。

 視線の先では、石化が解ける様に守護獣像が色付き始めていた。

 鷲頭の守護獣に山羊頭の守護獣。

 ――その赤い眼が見開く。


「逃げるぞ!」


 アンジェリカの腕を引っ張り魔方陣に飛び乗る。光の渦が螺旋を描き始めるが、まだ転移は始まらない。

 目に見えて守護獣が動き出し、その遅い動きが徐々に滑らかになっていく。


「早く早く早く早くー!」


 アンジェリカが焦り出す。一歩一歩近付いてくる守護獣達。動きは速まり、距離が縮まる。

 守護獣が部屋の半分を越えると、体を光が包み、揺さぶる感覚が襲ってくる。




 揺れが収まると、目の前にはカルとジェーンがいる。


「「た、助かったぁ」」


 思わずアンジェリカと抱き合っていた。何とか窮地を脱した安堵が力を奪っていく。


「どうしたんですか?」

「ま、魔物よ。ぞ、像が動き出したの」

「えー、女神の像が?」

「カル、違うんだ。女神像の横に守護獣像があっただろ? あれが動き出したんだ」

「ちょっと見たいな」


 魔方陣に再び乗ろうとするカルをアンジェリカと二人で引き止める。

 勘弁してくれ。


「そんなに凄いものだったんですか?」


 ジェーンは興味深そうに尋ねてくるが、あれは怖いなんてものじゃない。

 魔物にはない恐怖を感じた。

 説明しようとすると、突然魔方陣が輝き始める。

 ……まさかね。

 魔方陣に二体のシルエットが浮かび上がっていた。


「――逃げるぞ!」


 アンジェリカがジェーンの手を引き、俺がカルを担いで逃げる。

 カルはバタバタと暴れているが、構ってる暇はない。


「クォォォォン」


 守護獣のものだろう雄叫びが、遺跡内に鳴り響く。

 ようやく遺跡の外に辿り着くと、すぐ後ろから守護獣の嘶きが聞こえてくる。


 くそっ、何処まで追って来る気だ。

 振り向き、剣を抜いて構えると、3mはあろう巨体の鷲と山羊の守護獣が迫っていた。


「うわぁ。守護者(ガーディアン)だ」


 カルののほほんとした言葉と共に、戦いの火蓋は切って落とさるのだった。






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