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26話 槍使いと女装剣士

 上空に見えるのは飛竜の群れ。

 空を覆い尽くすとはこの事だな。


「スランバーク、姿の見えない傭兵は居たのか?」

「あぁ、当たりだな。怖がる牙(スプーギーファング)の二人組みが見当たらない。最近入った奴らで、セイムって剣士とビリオラって槍使いだな。腕は確からしいぞ」

「剣士と槍使いとなると、魔道具で操っている可能性が高いな。さっさと見つけて片付けねぇと壊滅だぞ」


 確かに上空の飛竜を抑えるには人数が足りない。

 警備隊20名に幻葬(ファントム)のギルド員が9名。あとはティルテュとパティか。

 魔術士組合から2名も参加してくれているが、飛竜の数に対して少なすぎる。

 犯人探しに時間を食えば、今朝どころじゃない被害が出てしまうだろう。

 出発しようとすると、パティが腕を引っ張ってきた。


「マスター、この笛の音って誰が吹いてるっすか?」

「んっ? 笛?」

「この甲高い笛の音っす。この耳障りな音っす」


 パティが面白い事を言い出す。

 ティルテュやスランバーク、ファミスを見ても「何言ってるんだ?」って顔をしている。

 俺も耳を澄ましてみるが笛の音なんて聴こえない。

 不意にティルテュが顔を近づけ、俺の耳元で囁いてくる。


「もしかしてパティは魔族だから、飛竜を呼んでる音が聴こえてるんじゃ無いの?」

「……かもしれないな」


 この場でパティが魔族だと知っているのは、俺とティルテュだけだ。

 仮にパティに聴こえている笛の音が飛竜を呼び寄せている元凶ならば、もう犯人探しは終わったも同然だ。


「スランバーク、すまんがパティは俺と一緒に行く事にする。いいか?」

「分かった。こっちも筆頭ギルドの面子がある。持ちこたえてみせるさ」


 パティは飛竜にトドメを刺す事の出来る優秀なフィニッシャーだ。

 戦術的に厳しくなるだろうが、ここはこちらを優先させて貰うしかない。


「パティ、音の方向に案内してくれ。ファミス行くぞ」

「了解っす。こっちっす!」


 徐々に姿が大きく見えてくる飛竜をみんなに任せ、音の発信源目指して走り出す。

 その時、視界の片隅にグランツとウィブの姿が見えた。

 エーカーと一緒に退避しているはずなのになんで?

 何故ここにいるのか話を聞きたかったが、今はそんな時間は無い。

 振り返らずにパティの後に続くのだった。



「こっちっす。だんだん音が大きくなってきたっす」

「――このまま行くと……まさかな」


 ファミスの動揺も仕方ないだろう。

 パティが向かっている先は、さっきまで俺たちが居た方向。

 ある意味狡猾だが、馬鹿にされている気分だ。


「あそこっすね」

「ちっ、コケにしやがって」


 パティの指差す先には見えるのは、予想通り警備隊本部だった。


「ファミスあんまり熱くなるなよ。パティ下がってろ、後の始末は俺とファミスに任せておけ」

「了解っす」


 背後からは爆発音と揺れが伝わってくる。

 飛竜との交戦が始まったのだろう。


「うぉぉぉぉぉ!」


 ファミスが雄叫びを上げて警備隊本部に殴り込みに入ろうとすると、扉が開き二人の男が出て来た。


「へぇ、バレてたんだ? よく分かったね」

「流石は討伐大隊統括と言った所よね。でもアタシ達を相手にするには人数が少な過ぎるわ」


 ファミスを前にしても落ち着いた様子の二人組は、薄ら笑いを浮かべている。

 小さな体躯で無邪気な槍使いに、女装している恰幅のよい剣士。

 見事なまでの凸凹コンビだ。

 だが奴らの態度は油断しているからじゃ無い、自分達の力に絶対の自信がある証拠だ。


「お前らは許さねぇ、洗いざらい話してから死ね!」

「ふっふっ、怖い怖い」


 ファミスは剣を構えると力強く踏み込み、突きを放つ。

 だが、ファミスの剣がオカマ剣士に届く前に、槍使いの一撃がファミスの胴を払っていた。


「おっさん。言っておくけど、俺ら飛竜の何倍も強いからね。後悔するなよ」

「ビリオラ、ダンディーなおじ様には敬意を持たなきゃダメよ」


 コイツらふざけたコンビだが自信を持つだけの事はある。



「ぐっ、ふざけやがって」


 鬼の形相になるファミスを見て、無防備な尻を蹴り飛ばす。


「何しやがる!」

「ファミス、落ち着け。頭に血が上り過ぎだ。猪みたいに突っ込むなよ」

「くっ、分かってる。俺は槍使いを仕留める。剣士の方は任せたぞ」


 オカマ剣士の方を見ると、「優しくしてね」と投げキッスをしてくる始末だ。

 戦いたくない相手だが、逃げ道は無いようだ。


「うぉぉぉぉお!」

「来いよ、オッサン!」


 激しく切り結ぶ二人を尻目に、オカマ剣士へと声をかける。


「どうだろう? 降参しない?」

「んふっ、あなた面白いわね。この状況でそんなコト言えるなんて大したタマね。そうねぇ、降参は出来ないけど、あなた私の好みだから命だけは助けてあげてもいいわよ? 後でたっぷり可愛がってあげる」


 それはご遠慮願いたい……。

 俺は愛用する鉄の剣に手をかける。人が相手ならこれで充分だ。下手に使って借りた剣が刃こぼれしたら

困るし。


「あら、交渉決裂ね。残念だけど――さようなら」


 オカマ剣士は言葉を発すると同時に俺の背後に回り込むと、躊躇なく剣を振り下ろしてくる。


「がっ!?」


 スピードに自信があったのだろうが油断しすぎだ。

 腹に肘の一撃を受け、そのままゆっくりと倒れ込むオカマ剣士。

 俺が踵を返してファミスの後ろに立つと、槍使いは驚愕の声を荒げる。


「なっ!? セイムはどうしたんだ?」

「んっ? あっちで気絶してるぞ。女装はいいが、防具の着込みが甘すぎだろ?」

「そんな筈はねぇ。あいつはA級のトップクラスの剣士なんだぞ!」


 慌てて剣士の方を振り向いて唖然となる槍使い。


「――お、お前何者なんだ?」

「ただのE級ギルドの傭兵だ。ファミス、俺は魔道具の停止に向かうけど、手助けした方がいいか?」

「コイツ位は俺がカタをつける。手出し無用だ」

「じゃ、任せたぞ。パティ、ついて来い」


 俺の呼び出しに笑顔で駆けてくるパティ。

 動揺してる槍使いはファミスに押されているし、問題無いだろう。




 建物の中に入ると、奇妙な形をした魔道具はすぐに見つかった。

 人の頭程の大きさの……石?

 楕円の形をした魔道具は、静かに振動している。


「これだよな……」

「マスター、これうるさいっす。早く止めて欲しいっす」


 さて困った。

 これはどうやって止めるのだろうか?

 手を翳そうが、ひっくり返そうが振動は止まらない。

 スイッチらしい物が無いので、魔力による操作が必要なのかもしれないが、残念ながら俺にそんな技術は無い。


「……パティ、これに魔力を流して見てくれ」

「分かったっす」


 パティが魔道具に手を置くと、手のひらから白い光が煌く。

 すると魔道具はガタガタと音を立てるほどに激しく振動を始めてしまった。

 あれ? これってやばくない?

 パティにはかなりの不快な音が聴こえるのか、苦悶の表情で耳を抑え、座り込んでしまう。


「マスター、やばいっす! メチャクチャうるさいっす」

「――パ、パティ、この魔道具の魔力は吸えるか?」

「無理っす! 耳から手を離せないっす!」


 俺にはその音は聞こえないが、いつになくパティが大声を出しているので、かなりの音量が聞こえているのだろう。

 代わりに耳を押さえてやると、パティは頷き再び魔道具に手を伸ばす。

 見た目は手を置いているだけなのだが、魔道具の振動は徐々に収まり、最後にはピクリとも動かなくなった。


「うぅぅぅ、耳が痛いっす。不味い魔力っす」


 半べそをかいているパティの頭をゴリゴリ撫でて「よくやったな」と褒めてやると、ここぞとばかりにおんぶを要求された。

 パティを背負い外に出ると、ファミスも決着がついた様で槍使いは大の字に伸びていた。


「ファミス、魔道具は止めたぞ」

「こっちも終わった。スランバークの方が心配だ。コイツらを縛ってすぐに向かうぞ」


 魔道具が止まったからといって、飛竜がどうなったのかは分からない。

 上空に飛竜の姿が一切見えないのが、不気味さを感じさせる。





「――なんだこれ!?」


 スランバークの所に辿り着くと奇妙な光景が広がっている。

 そこらかしこで地面で横たわる飛竜の群れ。


「俺にも分からないが、突然飛竜が苦しみ出したら泡吹いて気絶していったんだ。何かしたのか?」


 どうやらパティが魔道具に魔力を注入した時に増幅された音は、飛竜にとって最悪の音波攻撃になったようだ。

 上空から飛竜が立て続けに落ちていくさまは、実に摩訶不思議な光景だったらしい。


「これで一件落着……かな?」

「警備隊! 今のうちに全ての飛竜にトドメを刺すぞ!」


 ファミスの号令の下、警備隊によって全ての飛竜が始末されていく。

 子供の飛竜を殺すのも可哀想な話ではあるが、ここで情けはかけられない。


 こうしてハマウンドの町の飛竜討伐は終わりを迎えるのであった。



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