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23話 心の友

「ファミス統括、ディオール商会の補給物資が到着しました」

「見えてるんだ、分かっている」


 窓際で補給隊の到着を眺める男は、小さな砂利玉を手に取って不敵に笑う。


「お迎えに上がらなくて大丈夫なんですか?」

「ミケバムが迎えに行ってるんだ、問題ない」


 ファミスは部下の方へは振り向きもせずに、輸送隊から顔を逸らさない。

 砂利玉を人差し指で弾き出しては、新しい砂利玉を器から取り出している。


「部隊長、ファミス統括は何をしてるんですか?」


 報告をした部隊長に付き添っていた部下が小声で質問する。

 補給物資を待っていた現状ならば、ハマウンド警備大隊統括であるファミスが出迎えるのが筋なのだが、その統括は薄ら笑いを浮かべて見ているだけ。

 部下にはとても不思議で不謹慎に思えていた。


「統括の悪い癖でな、傭兵を見ると遠くから砂利粒をぶつけては反応を楽しんでるんだ。その反応が傭兵の力量よって違うから面白いらしい」


 実に傍迷惑な悪癖である。

 部隊長の言葉を聞きファミスを見ると、確かに恐ろしいスピードで何かが飛んでいってる。

 いや話を聞いた後なので、飛んで行ってるのだろうと想像しているだけだ。

 目で追えるスピードでは無かった。


「あのお嬢ちゃんも傭兵か? 流石にマズイか……。後はあの黒髪の兄ちゃんだけだな。もっと護衛を増やしゃ面白いのにな」


 ブツブツと独りごちると指先が動く。だがその直後、ファミスの表情は凍り付いていた。


「ファミス統括いかがしましたか?」


 思わず部隊長が問いかける程に、顔を強張らせ目を見開いて動きが止まっていた。


「――こりゃ、参ったな」


 ファミスがこの遊びを始めてから、咄嗟に避けようとした者、ガードしようとした者は少なからず存在した。

 だが狙った黒髪の青年は、あろうことか指で砂利玉をキャッチして見せたのだ。

 そして出所であるこの建物を見ている。

 ファミスは子供のような無邪気な笑顔を作り、身を翻す。


「おい、俺は輸送隊の出迎えに行ってくる。補給物資がすぐに処理出来るように警備隊を集めろ」

「は、はい」


 ファミスは役職の割には動かない人間だと有名である。

 その戦闘能力や指揮能力は王国警備隊の中でも飛び抜けているのだが、その力が遺憾無く発揮される事は少ない。

 何せ全ての物事の基準が「面白いか、面白く無いか」の男である。

 この様な指示を出すのが珍しい事なのだ。

 部隊長は不安を覚えながらも、警備隊を集め出すのであった。





 ――――――――――


 俺達が荷物を受け渡しするために倉庫に向かっていると、新たに警備隊の一団が出迎えにきた。

 その数はミケバムが出迎えた時より多く、緊張感に包まれているのが分かる。


「補給物資の輸送、お疲れさん」

「えっ? ファミス統括!?」


 案内してくれていたミケバムが統括と呼んでいる以上、この40歳ぐらいの厳つい男が最高責任者なのだろう。ミケバムが驚いているのだから、予定外の出迎えのようだ。

 刈り上げられた金髪に青い瞳。鍛え上げられた肉体は、軽装の上からでもハッキリ見てとれる。

 普通、王国の兵士は軽微ながらも鎧を着用しているのだが、傭兵と言われても違和感がない風体だ。

 顔や身体の至るところに刻まれている傷が、その勇猛さを語っている。


「ミケバム、ディオール商会の方との物資のやり取りにはコイツらも使え。回復薬を最優先で怪我人に渡してくれ。料理人の方は指定の場所へ案内して調理の準備を進めてくれ。娼婦の方はディオール商会の一任で構わない」

「は、はい」


 一瞬でこの場の空気を制した男は、次々と大まかだが要所を締めた指示を出していく。統括と言われるだけあって、有無を言わさない迫力だ。

 統括は一通りの指示を出し終えると、やりきった感いっぱいの顔付きでこちらに歩いて来た。


「護衛、ご苦労だったな。後の処理は任せておけば大丈夫だ。近くにゆっくり休める警備隊の詰め所がある。そこで疲れを癒してくれ」

「えっ? 俺たち?」


 ただの護衛に気を使いすぎている気がする。

 明らかに俺に向かって話し掛けてきているが、ホモなのだろうか?

 マジマジと顔を見たが、知り合いでもないし身に覚えがない。いや……もしかすると。

 先ほどキャッチした砂利玉をポイっとファミスに投げると、嬉しそうに口角を上げる。

 なるほど。どうやら先ほどの悪戯の犯人が名乗り出てきたらしい。


「なるほどね……。エーカーさん、いいかな?」

「後の処理は任せて下さい。とりあえず護衛はここまでで大丈夫です。折角のお誘いですから、ゆっくりしてきて下さい」


 断る理由も無いので招待にお呼ばれするとしよう。だがグランツの足が止まる。


「ニケル。俺とウィブの依頼は今からだ。別行動にはなるが、調理の準備をしたいと思う。問題無いか?」


 確かにグランツとウィブは今からが依頼の時間だ。

 ウィブに調理をさせる事で気を紛らわせるつもりなのかもしれない。


「俺も調理場や宿を見てから行くよ。ファミス統括だっけ? ちょっと下見してから伺わせて貰うよ」

「そうか。あそこにある背の高い建物が警備隊の詰所だ。いつでも来てくれ」

「分かった」

 

 ファミスが指差した先には二階建ての大きな建物が見える。この男が悪戯をしていた場所だ。

 一旦ファミスと別れると、俺たちの泊まる宿に案内される。少ない荷物を部屋に押し込むと、次に調理場所へと連れていかれる。

 エーカーは警備隊と荷物の受け渡しに行っているが、もう1人のディオール商会の人が器具、食材の説明やここでの依頼の詳細を説明してくれた。


 早速準備に取り掛かるグランツとウィブ。

 心なしか重い表情が緩んだウィブを見て、少し安心した。

 後はグランツに任せるとしよう。

 

「じゃあ警備隊の所に行くとするか」


 ティルテュとパティに声をかけると、パティが俺の袖を引っ張ってくる。


「マスター、自分もグランツ殿とウィブ殿の手伝いをしたいっす」


 パティが珍しい事を言い出した。

 いつも俺についてきていたパティが、別行動を願い出たのは初めてじゃないだろうか?

 気にすることじゃないのだが、手伝う気になるのは良い事だ。

  

「じゃあ頼もうかな。グランツやウィブの邪魔しちゃダメだぞ」

「大丈夫っす」


 笑顔で胸を張る姿に一抹の不安が過るが、暴走しないと信じよう。

 結局俺とティルテュは二人だけで、警備隊の詰所へと向かうのだった。


 詰所に着いたが、警備隊の大半が輸送物資の処理に行っているせいか、周りに人は少ない。

 外に待機していた警備兵にあらましを伝えると、応接室へと案内される。


「ニケル、アタシは寝るわよ」


 入る早々にティルテュはそういい放つと、装備品を脱ぎ捨て薄着になり、ソファーを1つ占領してしまう。

 やはり肝の座った女だ。


「よく来たな。ソファーでは寝にくいだろ? ちゃんと寝る部屋を用意するぞ」

「初対面よ。流石にニケルの居ない所じゃ寝れないわよ。何処でも寝れるから気にしなくていいわ」


 確かに王国警備隊とは言っても所詮は男。

 迂闊に信用出来ないわな。


「そりゃもっともな話だ。せめて掛け布団位は用意させてくれよ?」


 ファミスはそう言って部下に掛け布団を用意するように指示を出していた。

 ティルテュは掛け布団を待つ事なく、ソファーにダイブして寝てしまった。


「何か食べ物か飲み物を用意するか? 欲しいものがあったら言ってくれ」

「冷たい飲み物が欲しいな。って良いのか? 俺はただの輸送隊の護衛だぞ?」

「いいんだ、俺はお前が気に入った。ここじゃその理由だけで充分だ」


 砂利玉一つキャッチしただけで、えらく気に入られたな。

 俺はキンキンに冷えた果樹水を貰うと一気に飲み干す。


「いい飲みっぷりだ。ディオール商会の護衛って言うとベルティ街のギルドだな? なんてギルド名なんだ?」

「うちか? うちは蜥蜴の尻尾(テイルオブリザード)ってE級ギルドだ」

「E級? お前がか?」

「そうだけど」


 明らかに驚いた顔で俺を覗き込む。そう言われたってE級にすら最近やっと上れた所なんだが。


「まぁ、いい。そういえば自己紹介がまだだったな。俺はファミス。ファミス=イザベルトだ。一応ここの飛竜討伐大隊統括をしている」

「俺はニケル=ヴェスタだ。ファミスは王国警備隊なんだろ? 王国の鎧は着ないのか?」

「俺はあんな無駄に重いものは好かん。男なら必要最低限の装備で充分だろ? 最近の奴ときたら装備にこだわる奴ばかりだが、何も分かっちゃいない。実に嘆かわしい事だ」

「分かるぞ。装備なんて結局は使い手の使い方1つでどうにでもなるだろ? どんな物でも使い熟すのが男ってもんだ」

「ニケルもそう思うか?」


 視線が絡み俺とファミスはガッチリ握手を交わす。

 こんな所に心の友がいたのか……。


 そして話はお互いの愚痴話へと拡がって行くのであった。




人物紹介その10


名前 ファミス=イザベルト

種族 人間

性別 男

年齢 43歳

身長 179cm

体重 81kg


※国境警備隊統括の金髪、青い瞳の男。その顔や体には幾つもの傷があり、鍛え上げられた筋肉と共に歴戦の強者の風体をしている。

王国からの信頼も厚いが、スイッチのオンオフが激しい。

興味のあることには120%の結果を出すが、興味がなければ動かない事で有名。

実は超絶美人の奥さんと、3人の息子、5人の娘を持つ大家族の大黒柱である。

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