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18話 面接の行方

「遅れてすいません。面接を受けに来ましたウィブと言います」


 入り口に立つのは、少女と見間違いそうになる風貌の少年。

 装備こそ軽装を着込んでいるのだが、その顔立ちはどう見ても傭兵っぽくない。

 グランツを見て一瞬顔が赤くなったが、まさかそっち系じゃないよね?

 だがその場違いとも思われる存在が、グランツの料理が作り出した緊張感を一気に和らげる。


「ウィブさん、ありがとうございます」


 シェフリアが頭を下げると、お辞儀を返してくる

少年。

 俺は手招きして呼びよせると、早速本題に取り掛かる。


「面接は始まっているからね、早速だけどテストさせて貰うよ。先ずここにある料理を一口食べてみてくれ」

「は、はい」


 先ずは味覚調査をしないとね。グランツの時と同じ轍は踏まんよ。

 ウィブは一口ずつ口に運ぶと、一瞬渋い顔をする。

 おっ、味覚は正常なようだ。


「正直に感じた事を言ってくれ」

「は、はい。食べやすい素材の大きさ、火の通りを均一にする為の隠し包丁は素晴らしいと思います。……ですが味付けが」


 グランツが眉をピクリと上げる。

 グランツ、事実を受け止める事も料理人の修行の一環だよ。


「不味いっすよね?」


 歯に衣を着せない奴だ。

 パティに誘導しないよう嗜める。


「ま、不味いと言うか、斬新だと思います。甘味をシロップで応用していたり、この炒め物は味噌を隠し味にクメンとターメリックを使っていますよね? クメンが前面出すぎていてバランスを崩していますが。それから……」


 この少年が何を言っているのか、さっぱり分からない。調味料の事を話しているんだろうが、聞いたことの無い物ばかりだ。

 パティと買い出しに行った時、片っ端から見もせずカゴに入れてたもんな。


 グランツは「おっ、分かるのか?」と、ご機嫌な顔になっている。

 少年の饒舌は止まらない。分量の対比がどうとか、素材を炒める順番がどうとか、温度がどうとか、未知の言葉を使っているようだ。


「わ、分かった。ウィブ、これと同じものを美味しく作れるか?」

「は、はい。僕の腕ではここまで綺麗に素材を切れませんが、やってみます」

「いや、素材はグランツが切ってくれ。味付けを頼む。グランツもいいな?」

「……分かった」


 一緒にさせる事でグランツの留飲も下がるだろう。

 厨房へと向かう2人。後に続くパティとティルテュは先程の失敗をふまえた監視をするのだろう。


「あの少年はあんなに若いのに料理人志望なの?」

「ウィブさんは元々E級ギルドにいた傭兵でした。ただ、その、戦闘には向いて無かったらしく、ギルドを戦力外通告されたそうです。本人は傭兵希望なんですが、戦力外通告が付いた為になかなか入れて貰えるギルドが無かったんです。今回は料理担当でもギルドに所属したいとお話を聞いて、こちらを紹介しました」

「そっか。ギルドに入りたくても、入れない奴もいるんだな」


 待つこと20分。

 先程と同じメニューが机に並ぶ。

 見た目はほぼ一緒。さっきと違うのは食欲を激しく刺激する匂いくらいか。


「それじゃあ頂くよ」


 先程のトラウマがある。がっついて食べたりはしない。恐る恐る一口分だけを口に入れるのだが――。


 ふっ、ふっはっはっ、はっはっはっはっ。

 これは笑いしか出ないぞ。

 なんだ、この美味さ? そこいらの飯屋を遥かに凌駕している。


「嘘、美味しい」

「むちゃくちゃ美味しいっす」


 暴走列車共も舌鼓を打っている。

 シェフリアの表情も、さっきとまるで違う。

 箸が止まらない。

 パティの言葉じゃないが、さっきの料理がティルテュなら、今度の料理はシェフリアだ。見た目も中身も抜群だ。

 ……視線だけで俺の良からぬ考えを察知したのか、再びつま先に重力がかかる。


 グランツにも勧めると「くっ、これ程とは」と素直に認めていた。味覚音痴すら唸らせるとは、ウィブ侮りがたし。

 料理は完食。答えを出さなきゃいけない時間に突入するのだった。






「どうするのよ」


 ティルテュが俺を突っつく。

 間違いなく軍配はウィブに上がる。が、グランツに「不味いんで、今回は縁が無かったと言うことで」とも言い辛い。ウィブも本当は傭兵希望って聞いちゃったしな。


 何か糸口がある筈だ……。

 俺は箸を皿に置き、グランツとウィブを見据えた。


「グランツ、ウィブ、ありがとう。今から今回の面接の結果を話す。異論があるかもしれないが、最後まで聞いてくれ。グランツもギルドに入る気が無いとしても聞いてくれ」


 グランツとウィブの頷きを確認して話を進める。


「先ずはグランツ、見事な包丁捌きだった。味付けは斬新かつ大胆なものだ。ウィブは包丁捌きこそ見ていないが、その味付けには眼を見張るものがあった。包丁捌きでグランツ、味付けでウィブに軍配が上がったと思っている」


 グランツを傷つけないよう、気を張りながら話す。ウィブには本当に味付けしかさせてないから、言いようが無いんだけどね。


「ウィブは本来なら傭兵希望だそうだな?」

「えっ、あっ、はい」

「うん。そこでだ、ギルドとしては2人を合格だと判断する」


 周りが一瞬静寂に包まれる。ティルテュに至っては「何いってんの?」って顔をしている。パティは変わらずポカン顔だ。

 まぁ、続きを聞きたまえ。


「グランツにはウィブが、味付けの極意を教えてやって欲しい。ウィブにはグランツが包丁捌き、いや戦う術を教えてやって欲しい。元はA級のエースだったんだろ? 指導が出来るはずだ。つまり、料理人、傭兵として、お互いがお互いに足りない部分を支え合って欲しい」


 どうこれ? 美味しい料理を食べられるし、ウィブを鍛える面倒をグランツに押し付けられる。一石二鳥だよね?


「給金はウィブが依頼に出れる様になる迄は、一人金貨1枚。他に食材費として金貨1枚。特別な食材や必要な物は別途追加金を出す。どうだろう? 考えてみてほしい」


 グランツは目を閉じて、考えに浸っている。

 一方のウィブは……。


「僕には願っても無い話ですが、もしグランツさんが断った場合はどうなるんでしょうか?」


 その時は料理人として精を出してくれ。って言ったら傷付くかな。


「……その時は」

「いや、引き受けよう。但し1つだけ条件がある」


 俺の言葉を遮って、グランツの眼が開かれる。


「俺には傭兵として心残りが1つある。俺の右腕と右脚を奪った魔物『赤い悪魔(ケアリア)』。その依頼が出た場合、このギルドで受けてくれ。例えこのギルドで受けられない依頼だとしても、その情報は必ず教えて欲しい。それが条件だ」

「……分かった。約束する。組合にも必ずその旨は伝えておくよ」


 一瞬シェフリアの顔が厳しいものになった。余程の危険度の魔物なんだろうか?


「じゃあ、二人共ギルドに入るっすか? 自分、二階級特進っすか?」

「よろしくね、グランツ、ウィブ」


 二階級特進はよく分からんが、パティは大喜びだ。

 ティルテュはグランツとウィブに優しい微笑みで握手を求めていた。俺にもその優しさを分けて欲しいものだ。


「グランツ、ウィブ。早速組合でギルド員登録をしたいけどいいかな?」

「問題無い」

「大丈夫です」

「あっ、私、必要な書類持って来てますよ」


 シェフリアは必要な書類を全て持って来てくれていたようだ。どんだけ頼りになるんだ。


「ギルド昇格の申請だけは、組合でしか出来ないですからね」

「分かった。そうだな、せっかくだから今日は二人の歓迎パーティーでもしないか? 今から俺はシェフリアと組合に行ってくる。その間にグランツとウィブで旨い料理を作ってくれ。パティとティルテュは買い出しな」


「了解っす」

「分かった」

「分かりました」

「仕方ないわね」


 思い思いの返事が返ってくる。


「じゃ、行こうかシェフリア」

「はい」



 そう、これでギルド員は一気に四名。

 グランツとウィブを新たに加えて、晴れてE級に昇格だ。






人物紹介その9


名前 ウィブ=タリアトス

種族 人間

性別 男(見た目は少女)

年齢 17歳

身長 169cm

体重 57kg

※金髪、青眼の少年。中性的な顔立ちは、美少女と間違えられる事もしばしばある。戦闘センスに欠けていると通達され、ギルドを解雇された。料理の腕は天才料理人と呼ばれる姉に仕込まれ、一流料亭でも料理長レベル。

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