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15話 第一次正妻大戦

「どきなさい」

「邪魔っす」


 ティルテュの炎を纏った拳が、オーガの腹で爆ぜる。パティも光る拳で応戦し、オーガに風穴を空け吹き飛ばしている。だいぶ威力の調整に慣れてきたようだ。

 しかし、危険度Dの魔物を一撃か。

 後ろから見ていると、二人の戦い方は一緒だ。拳に魔力を貯めて一撃必殺。

 意外と似た者同士かも。



 一直線に目標を目指す二人。どちらもお目当ての獲物に辿り着いたようだ。

 俺も残ったオーガを1匹ずつ殲滅していく。

 オーガはそれほど硬い魔物では無い。急所に必要な分だけ斬撃を浴びせれば、自ずと倒れていく。

 いくら身体能力が高くても連携をとられなければ驚異を感じるほどではない。


 オーガを片付け二人の様子を探る。

 パティは素早いオーガロードの動きに、攻撃する機会を見出せずに苦戦している。

 ティルテュの方はオーガロード2体。

 俺の知っているティルテュならオーガロード2体でも何とか互角以上に戦える筈なんだが、ここまで蓄積された疲労で動きが鈍い。

 オーガロードの猛攻を捌ききれずに左腕はぶら下がり血が滴っている。このままなら負けるな。


「ティルテュ、1体貸せ」


 ティルテュとオーガロードの間に入り込むと「邪魔しないで」と怒られたが、このまま放っておく訳にはいかないでしょ?

 向き合ったオーガロードも、標的を俺に替えて戦斧(バトルアックス)を振り下ろしてくる。


 チッっと音を立てて俺の籠手を擦っていく。

 おっと、危ねぇ。オーガの倍増しのスピードだ。油断したら一気に持っていかれちまう。修正、修正。


 オーガロードの巨体が迫り、再び戦斧が振り下ろされる。

 半歩ズレて剣で軌道を逸らすが、剣を持っていた腕ごと持っていかれそうになる。想像以上の怪力だ。

 追い打つように凪ぎ払いの攻撃が襲う。

 キィィンと異様な金属音が響き渡った。剣の半分から先が無い。折られている。

 あーぁ、俺の愛剣が……。


「また買い直しか」


 一旦後方に下がると、ナイフを構える。使い捨ての相棒を見ると、残り半分もヒビが入ってお役ご免の状態だ。

 別れを惜しみつつ喉を狙って投げつけると、オーガロードは戦斧を返してそれを弾く。だがその一瞬が命取りだ。

 既にオーガロードは俺のナイフの間合い内。戦斧を持つ手を狙う。手首を返していた分だけ反応が遅い。

 血を飛散させながらオーガロードの手首から先がゆっくりと落ちていく。

 オーガロードが自分の手首を見た時には、ナイフが頸動脈を掻き切っていた。


 血と粘液が飛び散り、その巨体はドスンと地に伏した。




「ふぅ」


 パティとティルテュはどうだ? 無事か?


 ティルテュは互角に戦っているが左腕が機能せず、片手の状態で攻めあぐねている。

 パティは苦戦中だ。目立った怪我はないが、珍しく息が上がっている。魔力も残り少ないのだろう。

 パトリシアパンチを放てば防御など関係ない。自分の武器の特性を上手く使えば勝てる相手なのに、まだまだ戦い方が甘い。

 ここまで来たら手を出さない訳にはいかないな。


 俺はパティと戦うオーガロードの後ろに回り込んで脹ら脛を切りつける。突然の乱入者の斬撃で足から力が抜け落ち、ガクンと膝が折れる。


「パティ、今だ。全力で行け!」

「は、はいっす。全力乙女破壊拳(パトリシアパンチ)っす」


 目映(まばゆ)い光が拳に集まると、オーガロードの身体を撃ち抜く。

 激しく吹き飛ぶオーガロード。その身体には、やはり風穴が空いていた。

 倒れ込むパティに駆け寄りたい所だが、今はティルテュだ。


 ティルテュに振り下ろされた戦斧が地面に突き刺さる。だが、その戦斧が持ち上げられる事は無かった。

 俺のナイフが、その両手を地面に楔を打つように打ち込まれたからだ。

 オーガロードの顔が無防備に上げられる。


「ちょっと、手助け無用よ」

「じゃあさっさと決めてくれ」

「もうっ、てぇあぁぁぁ!」


 炎を纏った全力の右拳が顔面にめり込む。肉の焼けただれる嫌な臭いが漂う。

 顔の原型を留めていないオーガロードは、ゆっくりと倒れていった。




「終わったな。大丈夫か?」


 ティルテュの身体は満身創痍だ。そこらじゅうに血の跡が見え、右拳も火傷で爛れている。自分で相殺出来ない威力の炎を、纏った一撃だったんだろう。


「へっちゃらよ。それよりあの子は大丈夫なの?」

「ただの魔力切れだろうな」


 パティの所に戻ると案の定、決まり文句が飛び出した。


「マ、マスター、魔力切れっす。精気が欲しいっす」


 多分回復薬でも大丈夫だとは思うが、俺は有無を言わせずティルテュの顔を精気吸引機に突っ込んだ。

 説明が面倒……というより、ティルテュには自分自身で味わって理解してもらうのが一番だ。


「さっ、たんと吸え」

「もがっ」


 なんて言ってるかは分からない。

 暴れていたティルテュの元気が萎んでいく姿は、端から見てるとシュールなものだ。

 顔を離すと、多少元気を取り戻したパティが「ご馳走様っす」と両手を合わしていた。

 このまま陸に打ち上げられた魚の如く、蠢めくティルテュを鑑賞しててもいいのだが、そのツケはきっと10倍返しで戻って来るだろう。

 強度の目眩を感じているであろうティルテュを抱えて回復薬を飲ませてやる。

 

 指先がピクリと動いたかと思えば殴られた。

 ひどい! この暴力女め! ちゃんとアフターケアしたじゃないか!

 

「ちょっと、ちゃんと説明して頂戴」


 説明するからその振り上げた拳を下ろして頂けませんかね?


 殴られた頰を押さえながら、ティルテュにパティが魔族であること、手や口から精気を吸ってエネルギーに替える事が出来る事を説明した。



「じゃあ、肌を重ねたっていうのは」

「それはマスターと……もがもかもが」

「パティのエネルギー補填の為だな。まぁ、誤解はパティの説明不足が原因って事だ」


 パティに余計なことは喋らせない。ここで一気にカタをつけるんだ。パティが魔族という予想外の展開で有耶無耶にしちゃえ作戦だ。


「そっか、そうだったんだ。ごめん、ニケル、パティ」

「もがもかもが」


 ふぅ。これにて一件落着。若干一名がもがもが言ってるが無視だ。だが、最後にもうひとつ。コイツらに釘を刺すなら今がチャンスだ。


「いいか、今回は死んでもおかしく無かったんだぞ。体調が万全で連携を取れていたら、楽にこなせた依頼なんだ。十分に反省してくれ」

「うん。ごめん」

「はいっす」


 急にしおらしくなる二人。

 あれっ、何これ? 気持ちいい。

 どうにもならない暴走列車達が大人しく俺の言葉を聞く快感。病み付きになりそうだ。


「じゃ、仲直りしてくれ」


 仲直りして、これからは俺に従順に敬意を持って接してくれたまえ。


「ティルテュ殿悪かったっす。勝負は引き分けって事で許して欲しいっす」

「こっちこそごめんね、パティ。美味しい所は、全部ニケルに持ってかれちゃったしね。今回は引き分けね」


 硬い友情の握手を交わす二人。うん、計画通りだ。



「次は勝つっす」

「望む所よ」


 えっ? あれっ、仲良く引き分けで大団円じゃないの?

 次もあるの?

 君たち俺の話を聞いてた?


 こうして二人は熱い友情(ライバル)の握手を交わし、果てしない聖戦に身を投じるのだった。




人物紹介その6


名前 ティルテュ=クエリスタ

種族 人間 

性別 女

年齢 20歳

身長 161cm

体重 49kg


※青髪、青眼の美女。髪は短く耳を隠す程度にしてるのは、戦闘に邪魔だからとの事。魔法と武闘を融合させたスタイルを得意としている。「美女の形をしたゴリラ」とはニケル談。

思い込んだら一直線の性格で、それをやりきる芯も併せ持っている。

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