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14話 勝負

 どのくらい気絶していたのだろうか。

 

 魔法道具の灯りで大広間はボンヤリと明るいが、窓を見れば外は真っ暗だ。

 玄関近くに置かれた荷物の山は、俺が気絶している内に配送業者が持って来たのだろう。


 未だに全身が痺れている。

 服をめくって腹を見ると、焼け爛れた拳の跡がくっきりと浮かび上がっていた。

 はぁ、今日買って来た回復薬を早速使う事になるとは。

 あれ高いのに。


 打ち込んだ本人は、パティと何やら言い争っている。


「自分はマスターがファーストキスの相手だったっす」

「あ、アタシだってニケルが初めての相手だったわよ。『君だけを一生愛す』って言われたわ」


 何を言い争ってるんだろうか?

 あの精気を吸った行動をファーストキスと呼んでもいいのだろうか?

 ティルテュの話にしたって、昔、溺れたティルテュに人工呼吸しただけ。

 そもそも、愛すなんて言葉を発した記憶は無い。


「絶対に自分の方がマスターとの相性はいいっすよ!」

「じゃあニケルの事どれだけ分かってるっていうのよ?」


 二人して敵意剥き出しで睨み合ってるけど、とにかく俺の話はやめて欲しいなぁ。


「何でも知ってるっす。部屋が汚くて、脱いだ服でも洗濯が面倒だってまた着てるっす。他にも穴の空いた靴下を履いてたり、とりあえず説明が面倒そうな時は頭撫でておけばいいって思ってるっす!」

「またまだね。足は臭いし、たまに鼻毛は飛び出てるし、密かに抜け毛を気にしてるのは知ってるの? 他にも常識人ぶってる割には知識も無いし、俺は頭がいいって思ってるのによく騙されるわ! もっと言えば自分で気付かれて無いと思ってるけど、美人を見れば鼻の下を伸ばすし、視線は直ぐに胸にいくし、その時の緩みきった顔が気持ち悪いんだからね!」

 

 あれっ? 何でだろう? 涙が出てきた。

 これ何の大会? 悪口言っても俺の心が痛むだけだよ?

 えーっと、ほらもっとなんかさぁ、俺のいい所を言い合うシーンだよね?


「それぐらい知ってるっす!」


 えぇっ!? 俺ってパティにそう思われていたのか?

 今までチョロいなって思わせといて、実は手のひらで遊ばれてたのか!? 人間不信、いや魔族不信に陥りそうだ。


「くっ、言葉じゃ埒が明かないわ。勝負よ! ニケルの横に立つにはそれ相応の実力が必要よ。明日、組合で依頼を受けるわ。どちらがより多くの魔物を倒したかで勝負よ!」

「望む所っす!」

「勝った方が正室。負けた方が側室。いいわね!」

「絶対勝つっす。側室はティルテュ殿の方っす!」


 散々俺を貶めておいてそこなの!? 普通負けたら出て行くとかだよね?

 どうして勝っても負けても嫁になるのが前提なのか、理解出来ない。

 俺の意思は? って言うか君達、俺の事ボロクソに言ってたじゃないか。

 あれか? 「この人私がついてないとダメだから」の定理か?


 付き合いきれないな。さっ、寝よう。悪い夢だ。


「いいわね!」

「いいっすね!」


 怒気を纏った二人が、こちりを睨みつけてくる。

 俺は小さく「は、はい」としか答えられなかった。


 ティルテュは勝手に二階に上がると、扉を次々と開けていく。そして俺のベッドが置かれた部屋を見つけると、中に入り大きな音を立てて扉を閉めてしまう。

 パティも自分の部屋へと入って行った。

 残された俺には布団も何も無い。


「さっ、片付けるかな」


 痺れる身体を引きずって、一人むなしく日用品の山を片づけるのだった。








 朝、硬い木のベンチから起きると、外からは「はっ、てやっ」と鍛錬している声が聞こえる。

 ティルテュだな。相変わらずの鍛錬マニアだ。

 二階からは「たぁっす。ちょいやぁっす」との声が。

 パティも負けじと鍛錬中か。

 じゃあ俺はもう一眠りしようかな。


 眠りにつこうと再びベンチに横になると、騒がしく扉が開かれる。


「ニケル、組合に行くわよ」


 いや、まだ朝早いから。もうちょとゆっくりとしない?

 上から殺気を感じる。

 見上げると、パティが装備万端で立っていた。


「マスター、行くっすよ」


 はぁ、嫌だ。俺を巻き込まないで欲しい。

 俺はガックリと肩を落とした。





 二人の後をトボトボ歩く。

 顔を合わしては、「「ふんっ」」っとそっぽを向くパティとティルテュ。

 居心地の悪い空気の中、組合に到着。

 流石は組合、こんな朝早くだろうが扉は開かれていた。


 中を覗くとウエッツがいる。今はこの男が救世主に見えてしまう。

 頼む、この現状を何とかしてくれ。

 俺より早くティルテュがウエッツに喰ってかかる。


「ウエッツ、依頼書を出して」

「なんだ? 朝っぱらからやる気出してどうした?」

「ウエッツ殿、依頼書を見せて欲しいっす」


 二人はウエッツから依頼書を取り上げると、勝負の依頼を探している。

「これじゃ勝負にならない」とか、「求めてるのと違うっす」とか、言いたい放題喚いている。


「おはよう、ウエッツ」

「おはようさん。どうしたんだ? ティルテュにお嬢ちゃんまで」


 俺は正直に昨日の話を伝えた。


「くっくっくっ。やっぱお前らは面白れーな。ちょっと待ってろ」


 ウエッツは一度奥に引っ込むと、1枚の依頼書を持って帰ってきた。


「ティルテュ、お嬢ちゃん。俺が公平な依頼を出してやる」


 ティルテュもパティも依頼書を投げ出して、ウエッツの所に駆け寄る。

 その散らばった依頼書は俺が片づけるのか?


「いいか、蜥蜴の尻尾(テイルオブリザード)はF級ギルドだ。本来はF級の依頼しか出来ない。が、俺がお前らの為に特別な依頼を出してやる」


 バンっと机に出された依頼書を、食い入る様に見つめる二人。


「オーガロードね。中々いいの持って来るじゃない」

「3匹っすか。2匹倒した方が勝ちっすね」

「ちょ、ちょっと待て。オーガロード? 危険度Bの魔物だぞ?」


 慌てて二人を止める。危険度Bの魔物3体なんて、難易度はA。B級ギルドでも死人が出るレベルだ。ウエッツは何を考えてるんだ。どう考えても俺にしわ寄せがくるんだぞ!

 そんな思いと裏腹に、ウエッツが俺に耳打ちする。


「流石に内緒で出す依頼だ。正式な依頼料は出せんが、金貨20枚でどうだ?」


 正直言えば、かなり値切られてる気はする。だがF級ギルドの俺達が、こんな上級依頼を受ける事は出来ないのが現実な訳で、F級依頼50回相当分の依頼料は魅力的だ。

 俺はウエッツと握手を交わした。


 オーガロードと言えば俊敏で力も強く、魔法こそ使ってこないが武器を器用に使う知能も兼ね備えている魔物だ。


 ティルテュは……まぁ、多分2体ぐらいなら大丈夫だろう。

 パティは……あのパンチが当たれば一撃だろう。

 後は俺のサポート次第か。

 はぁ、欲を言えば回復系の魔術師がギルドに欲しいな。




 依頼の場所はアツル村から更に2日先のパイヤの町。

 その町の近くにある洞窟で発見されたらしい。



 俺達はヘイテスから安く譲って貰った野営の道具を持ち、強行軍並の速さでパイヤの町へと向かう事になる。


 その道中は過酷なものだった。

 二人は常にピリピリしてるし、話しかけても返事も来ない。

 パティは、俺に精気を貰うのはルール違反だと思ったのか、食事を食べていた。

 もっとも、まだ慣れるには時間が足りない。直ぐにトイレタイムだ。


 ろくな休息も取らずにパイヤの町に着いた時には、お互いの体力も精神もすり減っていた。


 なのに依頼主に会うと、休みもせずにそのまま洞窟へ。

 疲れも取れてなければ、気も休まってない。


 洞窟は簡単に見つかり、オーガロードの姿も確認出来た。

 問題なのはオーガロードの周りには、付き従うオーガが10匹程いた事だ。

 普通のオーガでも危険度Dの魔物。

 普通は一旦引いて、休息をとり作戦を練る状況だ。

 俺が「引くぞ」と言いかけると。


「アタシは右のオーガロードから行くわ」

「自分は左のオーガロードから行くっす」

「真ん中のは早いもの勝ちだからね」

「分かってるっす」


 もはや二人の目にはオーガロードしか見えてない。

 ってーと、あれか? 俺が10匹のオーガを相手をしながらサポートか?

 勘弁してくれ。


「一旦引き返すぞ」


 二人に強めに命令する。

 が、時既に遅し。


「たぁぁぁ」

「やるっす」


 左右から洞窟へ駆け出す姿があった。


 マジか!?


 あぁ、神さま、俺だけ引き返してもいいですかね?

 えっ、ダメ?


 俺は仕方なく走り出した。




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