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10話 微笑ましい程仲が良い

 街を出て歩くこと2時間。見渡す限りの平原に辿り着いた。

 日は落ち辺りは暗くなったが、月明かりと星明かりが幻想的な世界を映し出している。


 近くに立つ一本の木に馬の手綱を括り付けると、アネッサが火の魔法で焚き火を起こしてくれる。やっぱり魔法は便利だね。


「アネッサ殿、スゴいっす! まるで魔法みたいっす!」

「えっ? え、えぇ」


 まるでというより魔法そのものなんだが。魔法講座は……アネッサに振るとしよう。

 興奮気味のパティをよそに、ヘイテスが慣れた手つきでテントを張っている。


「なんだ、二張りも用意したのか」

「お前達で一張りあった方が気が楽だろ?」


 てっきり男用と女用かと思っていたが、ギルド毎に一張りずつなのか。

 予想以上にヘイテスは俺達に気を使っているようだ。


「ヘイテスとアネッサが問題なければ一張りでいい。その方が見張りも楽だろ?」

「俺達は問題ないが、いいのか?」

「いいぞ」


 十分に広いテントだ。何処かの村長の様に、時と場所を考えず致さなかったら問題ない。

 アネッサは食事の準備を始めているが、パティはその傍らで「スゴいっす! スゴいっす!」を連発しながら邪魔してるようにしか見えない。


「パティ、感激してないで皿でも並べてろ」

「はいっす」


 骨組みだった机を組み立てると、パティが皿を並べていく。

 その皿にアネッサが、スパイスを付けて炙った干し肉や、パンを盛り付ける。ふと酸味のきいた匂いがするので焚き火を見ると、鍋でトマトスープが煮込まれていた。


 ヘイテスがテントを組み上げると、遅めの晩飯の時間が始まる。

 そう言えば、パティ食べられるだろうか?

 チラリとパティを見ると雰囲気に流されてか、「ウマいっす」を連発しながらパンや干し肉を頬張っている。


「見張りは、ニケル、俺、アネッサとパトリシアは二人一組の順番でいいな?」


 食事を取りながら、今後の行動の流れを再確認していく。

 野営時は早めの就寝が基本。

 当然夜の間は交代で見張りが必要になる為だ。

 比較的安全性を保てる魔法結界を張る魔道具も存在するが、誰でも買えるような安価な代物では無い。

 話を進めていくと、急にパティが立ち上がる。


「どうした?」

「ちょっ、ちょっとトイレっす」

「……アネッサ、頼む」


 腹を壊したな。やはり止めておくべきだった。

 アネッサに付き添われてパティが用を足しに席を外れる。

 二人の姿が暗闇に消えると、ヘイテスがポツリと言葉をこぼしだした。


「ニケル、すまんな」

「……急にどうした?」


 突然の謝罪の言葉に驚いてしまう。

 ヘイテスは遠い目をしながら語りだす。


「どこまで気づいてるかは分からんが、俺達は入るギルドを間違えた。……俺はこの依頼をこなしてギルドを辞める。いや、この依頼を最後に傭兵稼業を辞めようかと思ってる。俺の……俺達の不始末に付き合わせてすまんな」

「気にするな。こっちのギルドの不始末でもある」


 ヘイテスは苦笑いを浮かべると、コーヒーの入ったカップを手に取る。


「俺の実家はベルティ街の雑貨屋でな、親父もいい歳だし家を継ごうと思ってるんだ。俺に傭兵は向いてない。今回の事で良く分かったよ」

「そうか……」


 ヘイテスがこんな話を俺にしてくるとは、思ってもいなかった。

 相当精神的に追い詰められているんだろうか? それとも心の内を誰かに話したかったのか……。


「ふぁぁ、キツかったっす」


 スッキリした顔のパティと、呆れ顔のアネッサが戻ってきた。


「ちょっとニケル、レディの(たしな)みってものを教えておきなさいよ」

「いや、俺には無理だろ?」

「はぁ、全くもうっ!」


 アネッサは何か言いたそうだが、俺はそれ以上聞きたくなかった。

 まぁ、何となく想像はつくのだが。アネッサにパティの年齢を言ったら卒倒するかもしれないな。


「さっ、片付けを終わらせて寝るとしよう」


 片付けを終わらせると、俺を残して三人はテントへと入って行く。




 見張りを始めてどのくらい経っただろうか?

 見慣れた銀髪がテントを抜け出して、焚き火を囲む俺の横に腰掛ける。


「まだ起きてたのか? 寝るのも傭兵の仕事だぞ」

「自分一週間位寝なくても大丈夫っすから」


 笑顔でそう答えているが、俺の知る限り寝てばかりいる気がすり。


「ヘイテスとアネッサは?」

「寝てるっす。……マスター、ヘイテス殿もアネッサ殿もいい人っすね。自分昨日まで勘違いしてたっす」

「……そうだな」


 正直俺も、ヘイテスとアネッサを見る目が違っている。

 ヘイテスは何かと気を利かせてくるし、アネッサもパティに対して面倒見が良い。

 昔一緒に依頼をしてた時は、俺には合わないとしか思ってなかった。 

 あの二人が変わったのか、それとも俺が変わったのか……。


「自分蜥蜴の尻尾(テイルオブリザード)で、ヘイテス殿とアネッサ殿とたくさん依頼がしたかったっす」


 アネッサが何か話したのか、それとも違う空気を感じ取ったのか、パティは星空を眺めながら小さな声で呟いていた。 

 無言の時間が続き、木の燃える音が心地よく鳴り響いている。


「さっ、もう寝ろ。俺もしばらくしたらヘイテスと交代だ」

「……マスター、おやすみっす」


 パティは名残惜しそうに立ち上がると、テントへと戻っていった。


 何事もなく夜は更け、交代の時間になる。

 さっきからアクビの連発だ……眠い。

 そろそろ起こしに行こうと思っていたら、ヘイテスがテントから出てきた。


「そろそろ交代しよう。変わったことはあったか?」

「何もなかったよ……と言いたい所だが、分かりづらい所にもう一組いるな」


 俺は闇の向こうを指差す。


「そうか……多分俺達の()()()だな。分かった。気を付ける」

「あぁ、何かあったら起こしてくれ」


 テントに入るとスヤスヤと眠るアネッサと、腹を出して大の字に寝そべっているパティ。

 夏場とはいえみっともない。パティの腹に薄地の布をかけると俺も眠りにつくのだった。







 まただ。

 体にのし掛かる重みと暑さで目が覚める。

 案の定、俺の上にはパティがいた。

 というか、コイツ見張りじゃないのか?


「おい、パティ」


 体を揺らすと、寝ぼけ眼がうっすらと開いていく。


「はぅぅう、おはようっす、マスター」

「お前見張りはどうした?」


 俺の言葉に飛び上がるパティ。


「えっ、えっ? 自分見張りしてないっす。なんでっすか?」


 テントの中を見渡すと、アネッサの姿はもちろんヘイテスの姿もない。

 パティが騒いでいると、テントの入り口が開きヘイテスが顔を出す。


「おはよう。あー……あんまり仲良さげに寝てたんでな、起こさなかったんだ」

「……すまん」


 パティは見張りが出来なかった事にショックを受けてるようだが、俺は恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいだ。


「二人とも起きた? 朝ごはん出来たわよ」


 ヘイテスの後ろから顔を覗かせたアネッサが、こちらを見て微笑んでいる。

 昨日と比べても顔色が良い。

 テントの隙間から香ばしいチーズの臭いが入り込み、お腹を刺激する。



「あなた達って、ホントに微笑ましい程仲が良いわね」

「そうっす。自分とマスターは仲良しっす」


 パティはこちらを見て顔を赤らめているが、アネッサの言葉は兄妹の様に仲が良いって意味だと思うぞ。それよりも見張りをしなかった反省をして欲しいものだ。


 テントを出てチーズのたっぷりかかったパンを食べていると、ヘイテスが依頼の話をし始める。


「組合からの情報だとボブゴブリンの群れが目撃されたのは、ここから南に2時間程の所だ。先ずはその場所に向かおうと思う。いつ戦闘になっても大丈夫な様に、俺、アネッサ、パトリシア、ニケルの順で進もう。パトリシアには馬の手綱を任せるぞ」

「分かった」

「分かったっす」


 流石に依頼の話ともなると、みんなの顔に緊張が走る。

 間違いなく、ボブゴブリンとの接触はあるだろう。気を引き締めなくてはならない。



 朝食を終え荷物を纏めると隊列を組んで南へと歩きだす。

 その1時間後、俺達はボブゴブリンに接触する事になった。




人物紹介その5


名前 アネッサ=ヤンダリー

種族 人間

性別 女

年齢 26歳

身長 160cm

体重 49kg

※火属性の魔法を得意とする、ソバカスが印象的な茶髪、茶瞳の魔術師。

多少人見知り気質があるせいか馴れるまでは冷たく高飛車な印象を与えやすいが、本質は面倒見の良い姉御肌。

そろそろ結婚をしたいと願望があるのだが、ヘイテスからのプロポーズはまだらしい。

『蜥蜴の尻尾』の元ギルド員。

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