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第16話「セルウァーの覚悟」

    第16話「セルウァーの覚悟」


 あれから、アモルはやはり疲れていたのだろう。ぐっすりと寝入ってしまう。だが、その表情はとても幸せそうでこっちまで幸せな気分になるぐらいだ。


 しっかし、まさかプロポーズすることになるとは思わなかったな。ああ、頬がまだ熱いや。


 本当に人生何が起きるか分からないモノである。


 でも、アモルに約束したんだ。絶対に幸せにするって。だから、何が何でもアモルのことを解放させてあげないとな。


 セルウァーがそんなことを考えていると、「()()()()()」とアモルの寝言が聞こえて、セルウァーの顔は再び破顔するのだった。


***********************


「行くのか」


「ああ、アモルのこと頼むな」


「それは構わないが、アモルに言って行かなくていいのか?」


「アモルにバレたら全力で止められるさ。それにアモルのことだ、こんなことを知ったら自分に責任があると思って自分のことを責めるだろうしさ」


「まあ、確かにそれは否定できんな」


「そう言う訳でアモルにこのことを言う訳にはいかないんだよ」


 テッラが納得する様子を見て、セルウァーは笑うと「それじゃあ、行ってくるよ」と再度答えて、【ウィンクルム・ウィーヌム】を後にしようとした。が、それは出来なかった。何故なら、表に出た途端、「セルウァー」と名を呼ばれたのだ。

 

 果たしてそれはアモルだった。


「あっアモル! 起きてたのか」


「起きて歯を磨こうとしたら、セルウァーが出て行くのが見えたから」


 アモルの言う通り、アモルの格好は寝間着のままだし、髪の毛も地毛の綺麗な銀髪だ。なので、慌てて出てきたことが伺えた。


 セルウァーはそんなアモルの姿を見て、それもそうかと感じてしまう。今は明け方の五時なため、普通ならアモルだって寝ている時間だしな。その時間をわざと狙ったのだが、空振りに終わってしまったな。


「どこか行くんですか?」


「ああ、ちょっとギルドに頼まれた仕事をこなしに行くんだ。いつ帰るかはわからないけど、なるべく早く帰ってくるようにするから待っててくれるか」


「待ってます。だから、ちゃんと帰って来て下さいね」


「ああ、約束する。ちゃんとアモルの所に絶対に帰ってくるよ」


 セルウァーが笑いかければ、アモルも微笑んだ。


「それじゃあ、行ってくるよ」


「はい、いってらっしゃいです」


 セルウァーはそれに手を上げて応えると、そのまま西門に向けて歩き出したのだ。


***********************


「それでティア。頼んでいた情報は掴めたか?」


「お姉さんを舐めてもらっては困るな」


「いや別に舐めたことなんて一度もないんだけど」


「ニッシッシ。冗談はさておき情報はしっかり掴んでいるよ。アモルちゃんを追っている、コルセア商会の手の者は、今はこの街の隣町である【グロール】に滞在している」


「しっかし、よくもまあこんな短時間でそんなことを調べられるよな」


「それが情報屋だからな」


「でも、いいのか。こんなことに協力してもらって。これからやることは明らかに情報屋の仕事ではないと思うんだけどな」


「別に構わないさ。お姉さんだって今回の一件は見過ごせないと思っているんだしな」


「そっか。なら、よかったよ」


 セルウァーとティアの二人は、今まさに隣町である【グロール】に向かっている真っ最中だった。【グロール】へは西門から真っ直ぐ伸びている一本道を行けばいけるので、この街から【グロール】へ出かける者も多かった。


 追っ手を酒場に来させるよりは、こちらからコンタクトを取って話を付けた方が手っ取り早いと思ったからだった。


「でも、今回奴らの情報を集めるのは簡単だったよ」


「そうなのか?」


「ああ、だって奴ら自分たちはコルセア商会の使いである。なので、一番いい部屋をとか、一番いい料理を出せとかって騒いでいたらしい」


 それはまあ何とも、


「間抜けな話だな」


「まったくだ。追っ手ならもっと追っ手らしくしろっての。けど、そう言う奴らの方がやりやすいかもしれないな。君の交渉術じゃ不安も残るし」


「ほっとっけ! 口下手で悪うございましたよ」


 そんな軽口を叩きながら、歩いていると【グロール】が見えてくる。


「さてと気張っていきますか」


「あまり、肩の力を入れすぎるなよ」


「そっちこそ」


***********************


 奴らが泊まっていると言う宿はすぐに見つかった。


「ここだよな」


「ここだな」


 まさに分かりやすい宿だった。そこはこの街で一番高い宿だったからだ。


「ここまで来ると本当のアホだな。そいつらは」


「逆に考えれば、探す手間が省けてよかったじゃないか」


「まあ、それもそうか」


「さてと、行こうか」


「分かってるって」


 セルウァーは頷くと、その宿の扉を開けて中へ入って行く。


「と言うか、そもそもここに奴らがいるのか? もうチェックアウトしている可能性だってあるんじゃないのか」


 セルウァーは今さながらのことを思ってしまう。


「それは心配ないはずさ。この街から【バルジャン】まで行くには、お姉さんが来たあの道以外に行く方法はない。そこで奴らの姿は見なかった。だから、奴らはこの街から出ていないってことになるはずだ」


「なるほどな。確かにその理屈は通るか」


 セルウァーは納得しながら、この宿の中にあったイートインスペースで、朝食を摂っている所だった。


 今朝はすぐにでも動けるように、簡単なオムレツとサラダにパンを頼んでいた。綺麗に作られたオムレツを見て、アモルが俺の為に作ってくれたオムレツを思い出した。


 あの時のオムレツは、確かにいま目の前にあるオムレツよりは綺麗には出来てはいなかった。けど、このオムレツを見て、セルウァーはアモルが作ってくれたオムレツがいいと思ってしまったのだ。


 早くこの件を片付けて、アモルの所に帰りたいと強く思ってしまう。


「奴らが出てきたぞ」


 ティアの言葉にセルウァーはハッとなってしまう。


 ティア言う通り、二階から二人組が降りてくる所だった。


「奴らがそうなのか?」


「ああ、あの二人組が今回コルセア商会が送り込んだ刺客みたいだぜ」


 セルウァーとティアは頷き合うと、目の前の朝食を掻きこむと、慌てて宿の外に出て奴らを待ち伏せすることにする。


 万が一にでも宿の中で暴れられては、周りにかなりの迷惑になると思ったからだ。


 しばらく建物の陰に隠れていると、件の二人組が出てきたので、セルウァーとティアはその二人に接近して声をかけた。


「ちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですかね」


 セルウァーは二人に組の前に躍り出ると、そう声をかけた。


「何だ?」


 二人組のうちの一人――四十代半ばぐらいの浅黒い肌をした男性だった。


「お二人はコルセア商会の使いの人たちなんですよね?」


 セルウァーの言葉に二人は顔を見合わせるが、さっきと同じ男性が答えた。


「如何にも。私はコルセア商会所属・ゾーア・ミルセスだ。それで君は私に何か用があるのかな?」


 セルウァーは深呼吸をしてから、続きの言葉を口にした。


「コルセア商会の奴隷であるアモル・フェーリークスを保護している。至急、アモル・フェーリークスの主人で会った人に会わせてはもらえないだろうか」


***********************


 あれから、セルウァーとティアはゾーアと名乗った人物に連れられて、コルセア商会の本部・応接間にいた。


 セルウァーは【ターソン】の街では、奴隷泥棒として指名手配されていた。なので、普通に【ターソン】の街に入ることはほぼほぼ不可能だと考えていた。なので、使いの者を上手く利用すれば何とか【ターソン】の街に入り込めるのではないかと考えたのだ。それに、運が良ければアモルを買ったと言う主人にも会えると思ったのだ。


 そして、その考えは見事に当たり、こうもあっさりと目的の二つを達成することが出来たのだ。


 本番はここからだよな。


 セルウァーは応接間で、その主人が来るのを待ちながらゆっくりと心臓を落ち着かせていた。


 ここでの話し合いで、これからのアモルの人生が決まっちまう。抜かるなよ俺!


 セルウァーが気合いを入れ直すのと同時ぐらいに、応接間の扉が開きそこから五十代ぐらいの男性が入ってくる。


 着ているスーツやアクセサリーなど、何もかもが高級そうなそれに包まれている為、その人がアモルの主人であることが一目でわかった。


 セルウァーとティアは形だけ、その男性に礼をしておく。男性はそれを手で制すと腰を落とすような仕草を見せたので、セルウァーとティアは再び着席する。


 そして、その男性も自分の後ろに部下みたいな人物を控えさせるとセルウァーたちの前に腰を下ろした。


「私がこの商会の会長を務めている、アルザ・コルセアだ。以後お見知りおきを」


「セルウァー・モッリス。傭兵だ」


「サピエンティア・ザイン」


「ほう、君が私の大切な奴隷(コレクション)を盗んだって言う傭兵か」


 アルザの琥珀色の瞳が細められ、こちらを睨みつけるような視線を向けてくる。


「盗んだって言うには語弊があるけど、そちらの認識で間違っていない」


 アルザの物言いにものすごくイラッときたセルウァーであったが、何とかその怒りを押し留めて、そう言葉を返す。


「それで私の奴隷は今どこにいる?」


「アモルは今【バルジャン】の街で保護しています」


「保護……か。なるほどそう来たか。それで、私の奴隷はいつ返してくれるのかな? あの奴隷は私が五年前に買い上げた。つまり、あれは私の所有物だ。だから、私には返してもらう権利がある。当然の権利だと思わないか」


 抑揚にそう語るアルザを見て、セルウァーはやっぱりそう来るよねと感じてしまう。


 セルウァーは一度、ティアと顔を見合わせると言葉を続けた。


「そのことでお話と言うか、交渉があります」


「交渉? それは何だね」


「アモルを俺に譲っては下さいませんか? もちろん、タダでとは言いません。アモルを買った時と同じ金額をお支払いいたします」


 今度はアルザが驚く番だった。


「おいおい、冗談はやめてくれよ。あの奴隷は私がいくら出して買ったと思っているんだ。君みたいな端くれの傭兵が買えるような値段ではないのだよ!」


「おいくらですか?」


 セルウァーは構わず続けると、アルザはぎりぎりと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、その値段を口にした。


 確かにアモルの値段は法外もいいところの値段だった。普通、それだけの金があれば家が一件建つんではないだろうか。


「分かっただろう! とても君みたいな小僧が買える値段ではないんだ! だから、とっとと私の奴隷を返してもらえないかな!」


 そして、それだけの大金を叩いてまで買ったということは、それだけこの男がアモルに執着しているということだ。


 う~ん、まさかそこまでの値段を叩いて買っていたとは思わなかったけど……あいつに頼るのは癪だが、この際しょうがないか。


「少し待ってもらえませんか」


「えっ?」


 セルウァーの言葉にアルザは本気で驚いた表情を浮かべている。


 そんなアルザをしり目に、セルウァーは通信するための小型の機械を取り出すと、あるとことに連絡を入れる。


『ほほう。お主から連絡してくるとは珍しいの』


 果たしてそれは、【バルジャン】のギルド総会・ギルドマスターのグラディウス・ミーレスその人だった。


「まあな。急用が出来たんでな。頼りたくはないが、あんた頼みになっちまったんだ」


『ほう、あれほど儂に恩は売りたくないとか言っていたのにな』


「それはそれだ。この際専属契約でも何でも結んでやるから、正直に答えてくれ。俺が昔倒した危険魔獣、合計三体の残っている報酬金ってどれぐらいになるんだ?」


 セルウァーは倒した時の報酬は、ほぼほぼもらってはいなかった。だから、正確な報酬額も把握していないのだ。それに、たまたま倒せただけであったため報酬をもらうのも何か違うと思ってずっともらっていなかったのだ。だが、この際そんなことは言っていられない。


『だいたい、これぐらいにはなるな』


 その金額を聞いてセルウァーは驚いてしまう。


「そんなになるのか」


『当たり前じゃ。あれだけの魔獣を倒したのだから当然の金額じゃな』


「まあいいや。そしたら、それを至急コルセア商会に送ってくれ。事情は後で話すから」


『それは構わんが、お主本当に専属契約してくれるのじゃな?』


「ああ、約束する」


 セルウァーはそれだけ伝えると、通話を切った。


 正直、それでも足りないと思ってグラディウスに最悪借金でもして、何とか金を集めようと思っていたのだが、予想以上の報酬金額でアモルのお金を払ってもお釣りがくる金額だったのだ。


「これでお金は用意できました。だから、アモルは俺に譲ってもらえますよね」


 アルザはただただ口をあんぐりと開けることしか出来なかった。


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