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略奪ノ王〜鍛冶屋スキルで剣王目指す〜  作者: 玄武 水滉
第2章 港町 ユリーシア編
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商人の馬車

 




 僕がイナ村を出発してから1日が経った。

 大した魔獣も現れず、無事に焚き火も出来た。一応今の所は順調だと言える。まぁ、1日目が終わっただけなんだけどね。

 森の中を歩いているので、正直方向があっているのかは分からないが、どこかに着いたら着いたでユリーシアに方向転換すれば良い。時間に縛られてる訳でもないし。

 幸いなことにこの森で現れる魔獣は図鑑で見て覚えていたし、難なく対処出来た。木に擬態していた『トレンター』に、小さい鼠の様な『エモルマ』。何れも『デコイホーン』に比べれば然程危険性のない魔獣だ。まぁ『エモルマ』に食料を取られたのは驚いたけど。


「よしっ、水でも汲もうかな」


 持っていた水筒に水を入れる。ここに川が流れていて助かった。父さんには食料よりも水の確保を優先しろって言われてたし。

 そういえばだけど、僕の食料は基本的に木の実か魔獣だ。魔獣と言っても火にかければそれなりに食べられる。美味しいのとまずいのに分かれるけどね。

 焚き火は貰った火打ち石で点けている。普通は魔法で火を点けるらしいんだけど、僕には出来ないしね。父さんもこれで点けてたんだってさ。

 魔獣の気配もないし、とりあえずこの川の側で休憩を取ろう。そう思った時だった。


「ワオォォォォォォオオオォォオオンッッ!!!!!」


「遠吠え!?あっちの方からだ!」


 森一体に遠吠えが響き渡った。恐らくだけど『ハイウルフ』の遠吠えだ。

『ハイウルフ』は個々の戦闘力は大して高くないものの、その真骨頂は群れることにあるそうだ。頭の良い『ハイウルフ』は襲えそうな相手を選び、集団で狩りをする。その相手は大体弱い魔獣であったり、馬車であったり。兎に角餌になりそうなものしか襲わない。


「然程遠くないし……人間が襲われてたら大変だ!」


 魔獣同士の争いなら手を出す必要はないけど、襲われているのが馬車とかだったらまずい。僕一人の手で戦えるかは分からないけど、馬車には決まって護衛の冒険者を積む。僕にでもその冒険者のサポートぐらいは出来るはずだ。

 僕は遠吠えのした方向へ走り始めた。








 ー









「ううわぁああ!助けてくれぇ!!!!」


 僕が遠吠えの聞こえた方に向かうと、『ハイウルフ』に馬車が囲まれていた。冒険者を雇ったりはしなかったのか!?

 そして声の主、馬車の後方に座っていたのは一人の小太りの青年だった。僕よりかは歳上だと思う。

 だが、魔獣と対峙した事はなかったのか、馬を叩く様のムチを必死に振るっているだけだ。あれでは牽制にもなってない。

 僕は隠れていた木の陰から飛び出し、一匹の『ハイウルフ』を背後から斬りつけた。振り下ろした剣は背中を深々と斬り裂き、そしてその『ハイウルフ』はぴくりとも動かなくなった。


「よし!後五匹だ」


「お、おい!助けに来てくれたのか!?」


「今のうちに逃げて下さい!『ハイウルフ』は馬車よりも全然早い!僕がヘイトを集めている間に早く!」


 僕は小太りの青年に向かって叫んだ。『ハイウルフ』のぎらりとした牙が太陽に照らされて鈍く光る。

 残りの『ハイウルフ』は五匹。一匹は不意打ちで倒せたが、残りの五匹は倒せるか分からない。逃げてくれればいい……いや、それでは馬車が襲われてしまう。そうなると()()を使う事も視野に入れないと……。

 小太りの青年が、持っていたムチで馬を引っ叩いた。馬の鳴き声が聞こえると同時に、馬車は砂煙を立てて走って行った。


「じゃあな!助けてくれてありがとよ!」


「はい!」

後ろを向いて小太りの青年が叫ぶ。

 ……よし、これで馬車に襲う事もなくなった。後は、僕がこの『ハイウルフ』を倒すだけだ。

 剣を構える。僕を囲む様に位置取った『ハイウルフ』は、どうやら僕を倒せる程度の存在だと認定したらしい。なら、その予想を覆して倒すだけ。


「ヴォォォオオオンンンッッッ!」


『ハイウルフ』が吠えると、それを合図にそれぞれ別な方向から一斉に飛びかかって来た。

 右左前方から一匹ずつ。背後には二匹。逃げられない様に上手く飛びかかって来ている。

 左手でポケットから折れた剣を取り出し、『ハイウルフ』の背後に行く様に地面に滑らした。

 直ぐさま《原点回帰》を発動し、背後に瞬間移動した。

『ハイウルフ』達は突然消えた僕に驚いている様だったが、そんな事を御構い無しに背後から斬り裂く。


「二匹目……!」


 喜ぶ僕だったがそれも束の間、再び飛びかかって来た『ハイウルフ』を慌てて避けて、そして牙で頰を斬り裂かれた。

 痛いと思いつつも、次が来るので一旦『ハイウルフ』から距離を取る。


「いっつつ……」


 手で触ってみると、かなり深く斬られた様だ。頰からたらりと血が垂れていた。

 《原点回帰》して直した短剣を腰に付けていた鞘にしまい、両手で剣を構えた。両手で剣を扱った方が多数戦は有利なのだが、僕には扱えない。

 もう《原点回帰》は出来ない。折れている剣が必要だが、僕が持っているロングソードも生憎折れる様な素振りは見せないし、わざと折るなんてのも無理だ。というかやりたくないしね。

 必死に頭を回転させて状況を打破する方法を考えるが、妙案は思い浮かばない。

 どうしようか悩んでいる時も『ハイウルフ』達が待ってくれる筈もなく、何とか躱しつつも少しずつ体力が削られていく。

 ギィン!と鉄が擦り合う音が森に響いた。僕の剣と『ハイウルフ』の牙が擦り合わさった音だ。

 そしてその後ロングソードは弾かれ、手の届かない所まで弾かれてしまった。


「くそっ……!!!」


 もし魔法剣ならばという考えが浮かんでしまった。

 魔法剣ならば直ぐ様次の魔法剣を生み出して戦う事が出来る。だからこそ、鉱物性の剣は弱い。弾かれてしまったら、手から離れて仕舞えば僕には何も出来ない。

 短剣を逆手に構えて『ハイウルフ』と睨み合う。剣を失った事で、『ハイウルフ』達は益々闘気を燃やし始めた。勝機が見えたとでも言わんばかりに吠える『ハイウルフ』。

 ここで諦めたら父さんにも母さんにも、ミリアやローンにも悲しい思いをさせてしまう。これは父さんとの模擬戦じゃないんだ。実践の、命を奪う戦いだ。

 短剣を握る手に力が篭る。まだ僕の心は諦めていない!

 飛びかかって来た『ハイウルフ』を斬り裂こうと短剣を思いっきり振った所で、


「オラァ!!!!!どけどけぇええええ!!!!!!」


 突然の地鳴りと共に、僕の目の前を馬車が通り過ぎて行った。『ハイウルフ』達を巻き込む様に。

 僕の方しか見ていなかった『ハイウルフ』が避けられる筈もなく、馬車に轢かれて轟音と共に森の中に飛ばされて行った。


 僕がぽかーんとしていると、馬車が戻ってきて、そして僕の目の前で止まった。先ほどの小太りの青年が乗っていた馬車だ。

 どうだと言わんばかりの青年のサムズアップを見た後、緊張の糸が切れたのか膝の力が抜けた。


「お、おい!?大丈夫か……って結構血が出てんな。待ってろ、今ポーション飲ませてやるからな」


「ありがとうございます……所で何で戻って来たんですか?」


 地面にうつ伏せになりながら僕は青年に聞いた。

「お、あったあった」という声が聞こえた後、僕は青年に無理やり起こされた。

 青年は手に持った緑色の液体の入った瓶を僕の口に突き刺すと、恥ずかしそうに頰を掻きながら言った。


「だって、助けてくれたやつが死んじまったら目覚めが悪いだろ?」


 みるみるうちに塞がっていく傷に驚きながら、僕は空になった瓶を青年に返した。

 僕から瓶を受け取った青年は、馬車の中に空き瓶を置くと、見た目によらず身軽に馬の背後に飛び乗った。


「なぁ、何処に向かってんだ?」


「ええと……ユリーシアの方に」


「それじゃあ乗せてやるよ。助けて貰ったお礼だ」


「いやいや、僕も助けて貰ったし、ポーションまで貰って……」


 めんどくさそうに髪の毛を掻き毟り、青年は僕の襟首を掴んで馬車に放り投げた。


「こういう時はささっと乗るんだよ。変な所で気を使わなくていいっつーの」


「ありがとうございます」


 なんかお礼を言って落ち着いたら眠くなって来た……。あんなに強い魔獣と戦うのは久しぶりだし、想像以上に神経をすり減らしていたのかもしれない。青年には悪いけど、馬車の中で寝かせてもらおう。


「それでお前名前は?俺はラギっつーもんなんだけどって寝てんのかよ!!?自己紹介してた俺が恥ずかしいじゃねーか!!」












感想やブクマお待ちしております!!!!!

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