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必殺技



お久しぶりです。









 僕が父さんと模擬戦を始めてから一年が経った。

 と言っても大した変わりはなく、素振りをして走り込みをして模擬戦をするの繰り返しだ。

 変化があったとすれば、僕の体が少し筋肉質になった事だろうか。それ以外の変化は特に無い。

 あ、そういえば模擬戦の時に使った瞬間移動もどき《原点回帰》だけど、実践にはあまり向かなそうだという結論に至った。

 まず、自分が武器として認識している物が壊れた時にしか発動出来ないため、ごく普通に使う機会はないだろう。裏を取りたい時に使えない。自由の効かない技だ。勿論木の棒を折って使うってのも無理だ。

 そして武器の一部分を持っていないと使えない。これが何と言っても難点だ。最初は投げナイフを使えばいいんじゃないかと思ったりもしたけど、壊れた破片を拾ってからじゃないと《原点回帰》は使えない事が分かった。

 以上から、僕と父さんは普通に使う技ではないと判断した。逆に、武器が壊れてチャンスと思っている敵の意表を突ける裏技でもある。時と場合によるという奴だ。


 勿論だけど変化があったのは僕だけじゃない。ミリアとローンもだ。

 ミリアは『魔才』のスキルのおかげか、メキメキと魔法が上達しているそうだ。ミリアは自身が魔法を使っている所を見られるのが好きじゃないのか、僕は見せて貰った事はないけど。

 勿論魔法だけじゃなくて容姿も大分変わったと思う。元々母親譲りの整った顔をしていたが、最近は可愛いというよりかは綺麗という言葉が似合う様になってきたと思う。でも時々見せる笑顔がまだ可愛い。

 一方のローンは相変わらずボーッとしている事が多いが、彼もスキルの練習を始めたらしい。

 ローンのスキルは『守護』。攻撃する事が出来なくなる代わりに、守る事に特化した才能が育つらしい。世界でも中々いない珍しいスキルなんだとか。

 僕よりも大きかった身長は更に伸び、彼の父さんから壁って言われていた。確かに僕から見ても壁に見える。悪口じゃないよ?


「よし、アラン。今日も模擬戦するぞ」


「分かったよ、父さん」


 今まで使っていた木刀は既に小さくなって部屋に飾ってある。

 代わりに今使っているのは、ロングソードを模した木刀だ。僕がデコイホーンの目に突き刺した剣と同じ種類だ。素材が違うってだけで。

 あの頃は両手で持っていたけど、今は片手でも十二分に振るえる。そう考えてみると、特訓の成果は出ていたと思う。

 一方の父さんは、現役時代使っていたバスターソードを模した木刀だ。両手持ちが主流で、一撃で薙ぎ払うのが一般的だとか。

 振りにくそうだが、父さん曰く「こっちの方が使い慣れてる」との事らしい。実際父さんの動きは剣を変えた程度で遅くなった気配はない。強いて言えば立ち回りが変わったぐらいか。

 ロングソードは堅実な動きが要求される。短剣ほど威力が低いわけではないが、バスターソードほど強い訳でもない。長期戦に持って行きやすく、盾も持てる為じっくりと削る戦法がお似合いだとか。

 一方バスターソードは一撃で仕留めるタイプの剣だ。だが、一撃で倒せる敵など早々いない。だからパーティーを組んだりして、敵を一撃で怯ませるという役割があるとか。勿論一撃の重さで言えばお墨付きだ。


 模擬戦が始まると同時に、父さんは木刀を地面に突き刺した。これまで色々な構え方を見てきたが、こんな構えをするのは初めてだった。いや、構えと言っていいのかすらも分からない。素人の僕から見ても無防備だった。

 じりじりと距離を詰めるが、父さんは一向に動く気配はない。寧ろ此方を見てニヤニヤしている。


「どうした、かかってこないのか?」


 …………なんかカチンときた。何をして来るのか分からない以上、僕には真正面から戦うしか方法がない。ならばその策を正面突破するだけだ。大丈夫、一年間剣を振ってきた。父さんはきっと僕の事を舐めているだろうから、その余裕の表情を崩す!


「勝負ありだな」


 だが、結果的に負けたのは僕だった。突風が辺りに吹き荒れる。

 僕が木刀を構えて走り出したその瞬間、僕の首筋には父さんの木刀が当てられていた。きっと鉄の剣だったら、僕の首は飛んでいただろう。それも気付かぬうちに。

 がくりと膝が折れた。

 これが父さんの実力。凄いと思うと同時に、自分では追いつけないのではないかという錯覚に陥った。先程までの自身は木っ端微塵に打ち砕かれて、只々手から滑り落ちた木刀を眺めるしかなかった。

 父さんが見えない剣を持ってたという訳ではない。現に父さんがいた所には、しっかりと木刀の刺さっていた跡が残っていた。

 つまり父さんはバスターソードを目に見えない速度で振るった。たったそれだけ。


「くそっ…………!」


 遠い。

 あまりにも遠い。

 父さんが遠い。剣王様が遠い。


「くそッ!!!!!!」


 誰かを守る剣が遠い……!!!!















「それでアランは落ち込んでるのね」


「まぁね……情けないけど。少しでも追いつけると思った自分が恥ずかしいよ」


 ミリアは此方を心配そうに眺めながらそう言った。

 父さんに負けた僕はすっかり気が滅入ってしまった。ここで踏ん張ればーとか言いそうだけど、一年間の努力が一瞬で折られたのは流石にキツい。

 自分の努力は無駄だったのか。父さんに剣を当てられたのも、父さんが手を抜いていたからなのか。《原点回帰》も実は見えていて、子供の僕を喜ばせる為にあえて驚いたというのか。


「それって反則じゃない?」


「えっ?」


「反則……ってのは違うけど、前にアランのお母さんが言ってたの。アランのお父さんは魔法に関して言えば最悪で、魔法適性も低かったらしいの」


 僕の魔法適性が低いのは父さん譲りだったのか。


「でも、魔法適性が低いからって魔法が使えない訳じゃないの。正確に言えば、使える魔法が少ないってだけなの」


「……なんで魔法の話を?」


「さっきのアランのお父さんが消えた様に見えたって話、それ多分魔法よ」


 あれが魔法?剣を消す魔法、いやそれじゃあ僕の仮説が成り立たない。 父さんは剣を目にも見えないスピードで振るった。そうでなければ僕自身の時間を遅くした事ぐらいしか考えられない。でも、本で読んだ限りだと、時間を操る魔法は禁呪で、使う人も使える人もほぼいないとか。

 他に目に見えないスピードでバスターソードを振るう方法……もしかして。


「強化魔法陣とか?」


「うーん、違うと思う。魔法陣自体、適性が低いと書けないもの。それにアランのお母さんは別な事を言ってたわ」


 強化魔法陣という魔法がある。魔法陣の中に大量の魔力を閉じ込めておいて、それを故意に割る事で出力を出す魔法だと。強化(ブースト)とも呼ばれていて、魔法戦士がよく扱うらしい。と言っても戦闘で使う機会はあまりなく、主に移動に使うらしいが。


「確か……強化付与(エンチャント)だったかな」


「強化付与?」


「そう。魔力を無作為に放出して、全身に纏わせる魔法だとか。魔法というか、魔法を習う上に置いて初歩中の初歩。誰にでも出来る魔法らしいわよ」


 そんなばかな。僕の顔は誰が見ても分かるくらいには呆気にとられている。あの父さんの瞬間移動が初歩中の初歩?それはつまり誰にでも出来るという事。魔法王が作った『魔法武具』と同じく仕組みのない魔法。

 だが、ミリアの話が本当ならば僕にも出来るはずだ。そう考えたら希望が湧いてきた。


「ねぇミリア。僕にも出来るかな」


「出来る」


 即答したミリアに僕は少し驚いた。

 ミリアは僕の魔法適性の低さを知っている。それでも恩恵に恵まれなかった僕が、才能に裏切られた僕が出来ると彼女は信じているのだ。そう思うと少し涙が出て来た。

 初めは才能がなくて、周りからは剣の道に進む事をやめろと言われて。


「出来るよ。アランなら」


 それでも諦められなくて。


「だってアランが頑張ってるのは見てきたもの」


 才能がなくたって剣王様みたいな人になれるって信じて。


「ずっとずーっと見てきたもの!」


 がむしゃらに走って、気が付けばここまで来ていた。

 才能がなくたって、ここまで来れた。

 世界中には多くの強者がいるはずだし、僕の力なんてちっぽけなものだ。傷一つつける事すら出来ない。

 それでも着実に一歩ずつ進んでいる。それは紛れも無い事実だ。


「ありがとうミリア。僕、頑張るよ!!」


 父さんに必殺技を切らせる所まで来た。なら次は僕がその必殺技で父さんを斬るまで。

 俄然やる気が湧いて来た。

 だからこそ、僕は言わねばならない。


「あのねミリア」


 これは誰にも譲れない。僕の人生初の反抗期を許してもらえるとは限らないけれど、それでも僕はもう一歩を踏み出したい。


「僕は魔法学園には行かないよ」


 僕がもっともっと走り出すために。






勉強辛いので投稿は基本的に遅れます。ご理解の程よろしくお願いします。

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