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剣を握る-1

ちょくちょく気がついた所は修正作業してます。




「よし、おはようアラン。とりあえず寝惚けたままじゃ危ないから顔洗ってくるんだ」


「は〜い……」


 日がやっと山の上から登ってきた頃、僕は父さんに起こされて家の庭にいた。

 だが、早起きに慣れていない所為かまだ眠い……。父さんに言われてとりあえず顔を洗う事にした。

 流し場に置いてある石製の壺の中の水を手で掬う。ひんやりとした水が僕の手の器を満たしていく内に、少しずつだけど意識がはっきりしてきた。

 というか水が冷た過ぎないか?水を顔につけてみるが、いつになく冷たい気がする。まだ季節も寒季ではないし、どうしてこんなに冷たいのだろう?

 流し場から戻ってくると父さんが腰に剣を差して待っていた。


「よし、目が覚めたなアラン」


「ねぇ父さん。なんかいつになく水が冷たかったと思うんだけど……」


「よく気がついたな」


 父さんは僕を流し場まで連れて来ると、壺の中に手を入れた。

 そして何かを探す様に手を動かした後、壺から出したその手には透明な塊が握られていた。


「氷……?でもなんで?」


 氷ができる様な季節ではない。じゃあ一体なんで……?

 父さんは氷を再び壺に戻すと、庭へと歩きながら話してくれた。


「あれは母さんがやったんだよ」


「母さんが?」


「おう。冷たい水の方が目が覚めやすいって言ってさ、魔法で作ってくれたんだ。なんせ俺は魔法は使えないからな!」


 笑う父さんだったが、僕はそれよりも母さんが協力をしてくれている事に少し嬉しく思った。あれだけ反対して、最後は父さんの適当な言い分で折れただけなのに。でもきっと魔法の練習もやらされるんだろうな。


「よし、それじゃあ早速練習するぞ」


 そう言って父さんが投げてきたのは一本の剣だった。宛ら木刀と言ったところだろうか。僕が見た事のある剣と同じ大きさで、鋼鉄製の剣よりかは軽いけどそれに比べれば少し重い。勿論切れる様な刃は付いていない。


「よし、それじゃあまずその木刀を100回振ってみろ」


「はい!」


「おおう、少しぐらいは文句言ってくれないと子供相手してる気がしないな……」


 早速木刀を構える。剣を構えているという感覚が体全体に伝わってくる。

 両手で握るが、父さんの言う通りにあまり強く握らず。かと言って弱過ぎず。

 頭の上まで上げた剣を一心に振り下ろす。

 木刀が弱気ながらも空気を斬り裂いた音がした。その音に感激していると、父さんがいいぞと言わんばかりに親指を立てていた。


 そして楽しくなった僕は後先考えずに全力で木刀を振り始めたのだ。それが後々大変になる事はつゆ知らずに。











 ー













「おーう!アラン!お前今日やけに見かけるなぁ!」


「あっ……おはようございます……」


「ガハハハハ!!!もうそれ20回目だぞ!」


 疲れた。

 木刀を100回振り終え腕が痛む中、父さんは直ぐに村を20周して来る様に言ったのだ。

 最初こそは痛みに負けるかとやる気が湧いていたものの、僕はその辛さを見誤っていた。

 なんといってもきつい。日が昇るにつれてどんどん暑くなるし、水を飲んでも直ぐに渇いてしまう。それに加えて足の痛み。農作業を手伝ってたとは言え、自分は少し体力があると過信していた。

 だが実際は全然駄目だった。小さい村ではないが、一回だけ行ったことがある街に比べればちっぽけな村だ。

 牛飼いのおじさんに笑われて、なんとか家の庭に滑り込む僕。父さんは庭に一人で仁王立ちしていた。ずっとここで立って待っていたのだろうか。


「父さん……って寝てるし」


 子供思いの親ではなくてただ眠いだけだった様だ。

 だがそんな父さんに構っている程の体力は僕に残されていなく、水を飲もうと家に入った。


「アラン、お帰り」


「母さん……水ない?」


「はいはい」


 料理している母さんに水を頼んだ僕は、疲れきった体をテーブルに投げ出していた。

 すると、目の前に水の入ったコップが置かれた。顔を上げると母さんがニコニコしながら僕を見ていた。


「どう?練習は?」


「結構きついよ……」


「やめたい?」


「ううん」


 僕は母さんの言葉を否定すると、席から立ち上がって庭で寝ている父さんを起こしに行く事にした。

 この程度でやめてたまるか。僕は剣王様になるんだ。素振りして村を走っただけで諦めるなんて絶対にしない。

 それでも、目の端に映った母さんの少し悲しそうな顔は忘れられない。昨日折れたとは言え、やはり僕には魔法の道に進んで欲しいのだろう。

 でもごめん母さん、僕は剣の道に進むよ。だからこんな所で挫けないよ。


「父さん」


「……ん?おぉ、アラン。どうした」


「20周終わったけど……」


「それじゃあ今日はお疲れ」


 え?と思わず首を傾げてしまった。そして僕が何を言いたいのか悟ったのか、父さんは笑いながら僕の頭を撫でてきた。


「多分なぁ、もう暫くすると全身が痛くなるはずだ。だから今日は終わり。明日に備えてゆっくり休め」


「今も痛いんだけど……」


「それは疲れてるからだな。もっと根本、筋肉が痛くなるはずだ。それを耐えて練習すれば、その内痛くなくなるはずだ」


 今も結構痛いんだけど……これよりももっと痛くなるのか。川の水とかで冷やして来ようかな。まだ朝食も食べてないし、この後は暇だろう。うん、そうしよう。


「後、週の終わりには父さんと模擬戦してもらうからな」


「え……!?」


 無理無理!!なんで剣を握ったばっかりの子供と、熟練の父さんが戦わなければならないのさ。そんなの戦う前から決着が付いてるでしょ!


「因みに毎回週終わりには父さんと模擬戦だ。まだ素振りしかしてないが、模擬戦の中で自分なりの戦い方を身につけてもらうぞ」


 そんな無茶な!と思う反面、僕は心なしかわくわくしていた。

 素振りでもない本当の戦い。相手を負かす為の剣を実際に父さん相手に振るう。

 デコイホーン相手ではあんなに怖がっていたのに、父さん相手ではわくわくしている自分がいる。慢心しているのか?いや、恐らくだけど見た目の差があると思う。

 殺すぞオーラ満載のデコイホーンと、いつも笑っている父さん。ぱっと見どっちが怖いかなんて比べれば殆ど全員がデコイホーンと言うだろう。

 でも父さんは実施にデコイホーンを倒している。それ程の実力はあるという事だ。本当に倒してるよな……?でもあの声は父さんじゃなくて剣王様だと思うんだけどな……。

 でもやっぱり僕にはこの父さんが強そうには見えなかった。まぁしょうがないよね。だって母さんの方が怖いから。


「それから明日から素振りの回数と村を回る回数を増やしていくからな。今日は休めよ。隠れて素振りとかもやめろ。いいな?」


「はい!」


「元気が良いけど空元気って感じだな。それじゃあ母さんのご飯食べにいくぞ!」


 やっぱり父さんは怖くない。逆に怖い父さんを見たくないってのがあるかもしれない。


 でもそんな僕の願いは週末の模擬戦によって裏切られる事になる。












 ー










 朝食を食べ終わった後、僕は手足を冷やしに川に来ていた。

 イナ村の中を流れる小川。その流れに足を突っ込み、僕はボーッとしていた。というか父さんの言っていた痛みが遂に現れた。足の中がズキズキと痛む感じだ。

 川の中で脹脛を揉んでいるとなにかと気持ちがいい。川の近くを通りかかった村人に変な目で見られながらも、僕は一心不乱に脹脛を揉んだ。決して変な意味じゃないからね?


「あっ!アラン!」


 背後から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り返ってみると、プラチナブロンドの少女が立っていた。

 その少女、ミリアは僕の隣に腰を下ろすと何をしているの?と言わんばかりに僕の顔を覗いてきた。


「実は……」


 僕は今日あった事をミリアに話した。素振りを始めた事、村の中を走り回ったら足が痛くなった事。そしてそれが今になってもっと痛くなった事。

 ミリアは話の一つ一つを心配そうな瞳で聞いていた。


「大丈夫?」


「うん、なんとかね。それよりもミリアは怪我なかった?」


 僕がそう聞くと、ミリアは悲しそうに目を伏せた。きっと僕が気を失った事を聞いて自分を責めているんだろう。

 その必要はないのに。僕が怒ったからミリアは森の中に入って、僕がミリアを庇ったから僕は気を失っただけなのに。

 ミリアはみんなに優しい。だからこうして自分を責めるんだろう。

 ミリアは首をぶんぶん振ると、意を決した様に僕の目を見た。そしていつにない笑顔で僕に微笑んだ。


「アラン、ありがとう」


「え?」


「こういう時は男の子は謝るよりも感謝した方が嬉しいってお母さんが言ってたの!」


 その笑顔を僕は直視出来なかった。何というか、顔が熱い。なんでだろう、何時もミリアの顔を見てきたはずなのに。今日に限って見れない。

 きっと僕が疲れているからだろう。やっぱり父さんの言う通りに休んだ方が良いね。


「それにね、私を逃がしてくれた時のアラン。とってもかっこよかったよ!」


 顔が赤くなるのが自分でも分かる程には、僕の顔は熱を帯びていた。きっと太陽が照っている所為だ。うん、そうに違いない。


「ミリア、こっちこそありがとう。こんな僕と仲直りしてくれて」


「うん……!」


 何とか熱くなる顔を抑えてミリアを見たものの、やっぱり笑顔を向けられると直視出来ない。

 それを紛らわすかの様に川の中に浸かっている足をばたばたさせていると、突然僕の真横から声がかかった。ミリアではない、男の声だ。


「誰も、気がつかない。俺、悲しい」


「ローン!びっくりした!いつからここにいたの?」


「アラン、来る前」


「そ、そうなんだ。気がつかなくてごめん」


 ボーッとした僕と同じ年の友達、ローンが悲哀漂う顔をして座っていた。彼の話によれば僕よりずっと前からいたらしいけど、全く気が付かなかった。ごめんよ、ローン。

 ミリアも気がついてなかったのか、ローンを見てびっくりしていた。そしてそれを見たローンがより一層落ち込んでいた。


「そ、そうだ!お母さんがケーキを焼くって言ってたの!アランもローンも来ない?」


「いいね!ローンは?」


「行く」


 決まりね!と言ったミリアは、村の道を走っていく。そしてそれを追いかける様に僕も立ち上がるが、足の痛みでよろけてしまう。が、それに気がついたローンが支えてくれた。

 ありがとうと言うと無言で頷いたローンは、僕を背負い始めた。


「ローン、一人でも歩けるよ!」


「心配」


 そう言ったローンは、僕を背負って無言でミリアの後を追いかけた。

 心配してくれているローンに感謝しつつ、僕は明日の練習に向けて一休みする事にした。




よかったら感想やブクマよろしくお願いします!!

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