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小さな英雄-3

毎日投稿をなんとか続けています……!







 目が覚めたら自室のベッドで寝ていた。近くの窓から見える景色、見馴れた本棚。うん、間違いない。僕の部屋だ。

 でも確か僕は森の中にいたはず。もしかしてミリアが呼んできてくれた人に運ばれたんだろうか。それなら後でお礼を言わなきゃ。


「ん?」


 ふと起きようとしたら、左手が重い事に気がついた。いや、誰かが僕の左手首を握ってる……?

 布団をめくって見ると、ミリアが僕の手首を掴んで寝ていた。


「良く寝てるな……」


 穏やかな顔で寝ているミリアの頭を思わず撫でていると、彼女の目がぱちりと開いた。


「ふみゅ……?」


「ミリア!」


「あ、アラン……ってアラン!!?起きたの!」


 僕が起きている事に驚いたのか、がばりと起き上がったミリアが僕の肩を掴んできた。


「大丈夫!?怪我は?どこか痛い所はない!?」


「大丈夫だよミリア……とりあえず揺さぶるのやめて……」


「あっ、ごめん。ってそれよりも叔母さん呼んでくるね」


 そう言ったミリアは慌ただしく部屋のドアを開けて出て行った。

 ふぅ。と僕は一息つく。

 ミリアを無事に逃がせたのは良かったが、その後気を失ってしまうのはいけなかった。下手すれば、餌になっていたのは僕だったかも知れない。あの時、助けに来た人がいなければ。

 一体誰なのか。それはあの一言で分かった。

 剣王様だ。透き通る様な声をしたその人は、意識を失った僕を助けてくれた。

 その事に感謝しつつ、僕は自分の行動に悔しさを感じていた。

 ミリアを失いたくない。その一心で突撃したが、今度は僕がミリアの前からいなくなる所だったのだ。

 情けない。自分の弱さに僕は気付かされた。デコイホーンは確かにこの辺りでは強い魔獣だが、この大きい大陸の中では弱小の部類に入るだろう。実際、僕が読んだ図鑑の中ではもっと強そうな魔物達が沢山いた。

 あの場では子供だからという言い訳は通じない。僕は一匹の生き物に剣の先を向けたのだ。命を奪うぞ、という明確なサインをデコイホーンに向けたのだ。

 それがどうか。手は震えて、膝が笑う。こんな事じゃ剣王は愚か、冒険者の端くれにもなれない。


「アランー?ちょっとこっちに来てくれる?」


「……はい」


 ドアが少し開いて、母さんの特徴的な銀髪がちょろりと見えた。

 母さんの声だ。その声が何時もに増して低い。きっと僕が危ない事をしたから怒っているのだろう。

 しょうがない。僕が今こうして生きているのは奇跡に近い。それは僕自身が一番良く分かっているつもりだ。

 怒りをぶつけられる事に対して覚悟を決めた僕は、自室のドアを開けた。


 その先のテーブルには母さんが作ったであろう料理が並んでいた。

 暖かい芋のスープに、自家製のパン。それに大きな肉の塊も並んでいた。

 そして椅子に座る母さん。それと父さんがいつになく真面目な顔をして座っていた。

 いつも笑っている父さんだが、今日はやはり彼も怒っているらしい。


「アラン」


「はい……」


 僕をギロリと睨む父さん。どんな怒号も一心に受け止める覚悟をした僕は顔を上げた。

 だが、父さんの顔には笑顔が浮かんでいた。


「良くやった!!」


「え……?」


「とりあえず今は母さんの飯食べてーってもしかして怒られるなんて思ってたのか?」


 ニヤニヤしながら僕を見てくる父さん。怒られる心配をしていた僕が馬鹿みたいだ。


「確かにまだ10歳のお前が森の守護獣に挑んだのは正直馬鹿だ」


 分かっているが、やはり面と向かって言われると心に来る。

 でもなぁ、と言った父さんの口元は笑っていた。


「ミリアちゃんを助けられたんだろ?だったら良いじゃないか!」


「……はいっ!」


「そうだそうだ俯いてないで飯食え!母さんの作った飯は美味いぞ!」


 そんなのは分かってる。それでもスープを一口含んだ瞬間に、涙が溢れてきた。

 怖かった。死ぬかと思った。それでも僕はちゃんと家に帰ってきて、こうして温かいご飯を食べている。笑顔の父さんと、父さんの前では何時もむすっとしている母さんと一緒に。その単純な事が、とても嬉しくて嬉しくて……。


 涙が止まらなかった。













 ー











「落ち着いたか?」


「ありがとう父さん。落ち着いたよ」


「そうかそうか」


 そう言った僕は、ホットミルクを口に含んだ。仄かな甘みが僕の口の中に漂う。

 その余韻に浸っていると、父さんが口を開いた。


「なぁアラン。お前さ、剣を練習してみないか?」


「え?」


 突然に提案に慌てる。

 僕にとっては願ってもない提案だ!父さんも昔は有名な冒険者として活動していたと聞くし、僕がデコイホーンの目に突き刺した剣は実は父さんの物だったりする。

 その冒険者が年老いたとはいえ、実際に魔物と戦っていた人から習えるのだ。僕は直ぐにテーブルすれすれまで頭を下げた。


「お願いしますっ!」


「お、おぉ……そこまでやる気があると逆に怖いな……」


 若干引いている父さんなんて関係無しに僕は頭を下げ続ける。

 すると声を掛けてきたのは父さんではなく、今まで黙っていた母さんだった。


「ダメ」


「なんで……?」


 否定から入った母さんに思わず頭を上げて尋ねる。

 そして提案を否定する母さんの目は、いつになく冷えていた。


「アラン。いい?もう剣の時代は終わったの。魔法剣なんてあるかも知れないけど、そんなの使ってるのは極一部なの。今は魔法の時代なのよ」


「それでも……ッ!」


「おいおい、母さん流石に厳しくないか?」


 追い込まれる僕に助け舟を出したのは父さんだった。剣を握っていた父さんなら上手く母さんを言い包められるかも知れない。


「アランは剣をやりたいって言ってるんだ。本人の意思に任せるのが1番だろ?」


「いいえ、ここは心を鬼にしてでも否定する場面よ。剣しか振れない父さんは黙ってて」


「……はいはい」


 折れるの早いよ父さん!もう少し粘ってくれても良いじゃないか。

 母さんは僕の将来を考えて魔法の道に進む事を望んでいる。確かに魔法の職に就けば、将来安泰だろう。

 でも、それじゃあダメなんだ。僕が剣王様みたくなる為には剣が必要なんだ。


「母さん、僕は……!」


「あーーー!!!!良いこと考えた!!!」


 何だよ父さん!突然大声なんて上げて!!

 母さんが不快そうに顔を歪めて、父さんを睨んだ。

 若干気圧される父さんだったが、それでも諦めずに母さんに言った。


「運動の一環としてさ、素振りをやらせようと思う。そうすればアランは剣を振れるし、魔法の勉強も出来るだろ?そんで後の事はその後考えれば良い」


 良い提案だと思うが、僕は素振りがしたくて剣の師事を父さんに頼んだ訳じゃない。僕は真面目にやりたいのに……。

 それでもこの場を切り抜けるには最善の一手だ。


「分かったわ……」


 母さんが諦めたのか遂に折れた。

 父さんはニカーっと笑うと、食べ終わった食器を流し場に運び始めた。

 僕も食事を終えたのだが、どうしようもない心の蟠りが残っていた。でもこれを発散する方法は思いつかない。なので疲れも溜まっているし、早めに寝る事にした。


「おやすみ」


「おやすみアラン」


 母さんの声を背後で聞き、僕は自室のドアを閉めた。

 ふかふかのベッドにダイブする。ボフンと一回跳ねた僕は、毛布に包まって色々な事を考えた。

 スキルを貰った事。ミリアを泣かせてしまった事。森の守護獣と戦って、意識を失った事。父さんから素振りだが剣の師事をしてもらう様になった事。濃い1日だったと自分でも思う。


 と、部屋のドアがノックされた。

 どうぞー。と返すと、入ってきたのは父さんだった。


「父さんどうしたの?」


「よしアラン、声小さめでいくぞ」


「?」


 首を傾げる僕に対して、父さんは口を僕の耳元に近づけてひそひそと話し始めた。


「さっきはとりあえず母さんを退ける為にあんな事言ったが、もう少し実践的な事もしたいだろ?」


「えっ……?」


 何で父さんは分かったのだろうか。そしてそんな心情が顔に出ていたのか、父さんはやっぱりと呟いた。

 そしてニヤッと笑うと、僕に提案してきた。


「明日から母さんの目を盗んでこっそり練習しようと思うんだがどうだ?アランがその気なら父さんはやっても良いんだが」


「やる!」


「ちょっ!声でかいって!母さんにバレるだろ?」


 素敵な提案に思わず大声を出してしまった。母さんにバレればきっと怒られるので静かにしよう。怒った母さんはデコイホーンよりも怖いからね。

 父さんは一本の剣を僕に見せてきた。それは紛れもなく僕がデコイホーンの目に突き刺したものだった。


「この剣はな、昔父さんが冒険者していた頃の剣なんだ」


 ぽつぽつと昔話を始めた父さん。その目は何か寂しそうに遠くを見つめていた。


「父さんにはな、好きな子がいたんだ。その子の事を守りたくて剣を鍛えたんだ。そしたらその子は俺よりずっと強くなってたんだよ」


 笑う父さん。懐かしそうに話す父さんだったが、剣を掴んでいる手が強く鞘を握った気がした。


「それでも俺がずっと守るんだと必死に剣の練習に励んだんだ。それでもその子には敵わなくってなぁ……」


「………………」


「そりゃあ悔しかった。後何年か早く剣の練習を始めてれば勝てたかもな」


 なんて言葉をかけたらいいか分からなかった。10歳の僕が語るにはまだ早すぎて、只々聞くことしか出来なかった。


「なぁアラン。お前は強くなりたいか?」


「え?」


「ミリアちゃんを守れる様に強くなりたいか?」


 僕はそこで素直に頷く事が出来なかった。

 確かに彼女がもう泣く事が、恐怖に怯える事がない様に守ってあげたい。大切な人だから。

 でも僕は剣王様に憧れて、その強さに追いつく為に剣の練習をしたい。


「僕は剣王様みたいに強くなりたい……」


 気がついた時には口から漏れていた。慌てて塞ぐも時既に遅し。

 父さんはうんうんと頷くと、剣を地面に置いて頭を撫でた。


「いいかアラン、確かに剣王は強い。でもその強さはどこから来たと思う?いっぱい練習したからか?スキルのおかげか?どっちも違うんだ」


「それじゃあ何で……?」


「それはな、剣王の背後には沢山の人がいたんだ。大切な人、何時も応援してくれる人。その全てを剣王は背負って戦っていたんだ」


 ゾッとした。

 一人人を守るだけでも、失う事の怖さに怯えるのに。剣王様はどれだけの人を背負っていたというのか。


「それこそが剣王の強さだ。皆を守れる程の強さ。そしてアランが目指すのもそれだ。世界中の人を守れとは言わない。全てを背負えなんて無責任な事も言わない。ただ一人、大切な大切なミリアちゃんを守れるだけの強さを身に付けるんだ。それが剣王になるって事だ」


「父さん……」


 剣王様はやっぱり凄い人だった。そして軽い言葉で剣王様みたいになりたいと言っていた自分を恥じた。

 だから今はそんなに強くないけど、一人でも良いから守れるぐらいの強さを身に付けてやると心に誓った。

 父さんはいつになく真面目な顔で話した後、再び僕の頭を撫でた。そして話す事は終わったのか、剣を持ってドアを開けようとした。


「あ、そうだ。デコイホーン倒したの俺だから」


「え……助けてくれてありがとう、父さん」


「……おう、それじゃあお休み」


 てっきり剣王様だと思ってた……まさか父さんだったなんて。

 それでも助けてくれた事に変わりはない。しっかりと父さんにお礼を言った。


 明日の訓練を楽しみに思う中、相当疲れていたのか僕の意識は直ぐに落ちた。


 絶対に剣王になってやる……!!!














 ー










「父さん?」


「か、母さんじゃないか!ほらほらさっさと俺らも寝よう!」


「アランに昔話してた様だけど……」


「ん?結末が知りたいの?」


 男がそう言った直後、突如として男の足元が凍りついた。

 冷たっ!というと次は氷に炎が灯った。側から見ていると幻想的で綺麗だが、やられている本人はたまったもんじゃない。

 すぐさま助ける様に男が懇願すると、氷と炎は徐々に消えていった。


「……結局あの子は剣の道に進むのね」


「確かに魔法の方が安定してる。でも、本人の意思を捻じ曲げてまでやらせる事じゃないと思うんだよなぁ」


「そうだけど。それにしてもあなたがここまで抵抗するなんて珍しいんじゃない?」


 何時も女の言いなりになっている男だったが、確かに何時もに比べれば抵抗して自分の意見を通した節がある。

 照れ臭そうに頭をかく男。


「いやーあれだけ本人がやる気なんだからさ。やっぱり応援して助けてあげるのが親の役目かなって」


「……もう良いわ。さっさと寝ましょ」


 皿洗いが終わったのか、さっさと自身の寝室に戻ろうとする女。

 だがその前に男が立ち塞がる。

 不機嫌そうに顔を歪めた女に対して男はやけに得意げそうだ。


「どうしたの?」


 男は無言で女を抱えると、寝室のドアを開けようとした。

 女は一体何をしたいのかを察し、慌てて男の腕から逃れようとした。


「アランが起きちゃうから!」


 それでも無言で女を運ぶ男に対して、遂に強気に出る事にした女。


「ベッドの上でも私の方が強いって証明してやるわよ……!!!」


 そしてその夜、アランは謎の声によりあまり寝れなかったそうだ。




下ネタを言って叩かれるシーンとかも書きたかったんですけど、ボツになりました。

感想やブクマ、お待ちしております!

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