小さな英雄-2
23時投稿に間に合った……!
三つ編みされたプラチナブロンドが輝く少女 ミリア=クリルは、その顔を涙でいっぱいにしながら森の中を歩いていた。
目指すは昔話の中で読んだ中結びの花。
物語の中に存在する一輪の花。そもそも現実に咲いているかも分からないのに、ミリアの足が止まる事は無かった。まるで何処にあるか分かっているかの様に。
だがミリアは昔アランから聞いた事があった。
森の奥、綺麗な泉の側に一輪の花が咲いている事を。それも物語で言ってた様に綺麗な花である事を。それが中結びの花である確証は持てなかったが、きっとそうだと信じていた。
泉の位置は分かる。ならばミリアは迷わない。アランと仲直りをする為に、その花を必ず摘み取らないといけないのだ。
暫く歩くと目の前に綺麗な泉が見えてきた。透き通る様な水に、陽の光が煌めいている。
そしてミリアは泉まで駆けていき、必死に一輪の花を見つけた。
だが、見つからない。
結局は昔話だ。そんな花ある訳が無い。そう思ったミリアの目に再び涙が浮かんできた。
「これじゃあ仲直り出来ない……」
それでもミリアの目は諦めていなかった。
ごしごしと袖で涙を拭き、泉の周りをもう一度探してみる。
と、泉の側に一輪の花が咲いていた。まるで自らが発光しているかの様に輝く花。
それを見たミリアは慌てて花の側に駆け寄って行く。
一つ一つの花弁が煌めいている一輪の花。地面に太陽が咲いたかの様に思わせる花を見て、ミリアはこれが中結びの花だと確信した。
そしてミリアは花を抜いた。
「グオォォォォォォォオオオオオ!!!!!!!!」
突如として周囲に響き渡る轟音。
体を跳ねさせて怯えるミリア。だが、その肝心の轟音の主の姿が見えない。
まだ森の奥にいるのか。いや、それにしては声が遠い。
そしてミリアの目の前の地面が突然隆起した。
轟音の主は地面の底から現れた。
それは大きな猪だった。ずんぐりとした巨躯に、猪の象徴である湾曲した角。是れで一突きされれば、死は免れないだろう。
そして森の守護獣は真紅の双眼でミリアを睨んでいた。まるで『その花を抜いたな!』と言わんばかりに。
「あ……ぁ……」
声が出ない。今までとは比べものにならない程の恐怖がミリアを襲う。悪戯をして親に怒られるなんて比じゃない。明確な死の香りが、ミリアを地面に縛り付けていた。
「………………!!!」
森の守護獣はミリアに狙いを定め、ギリリと足に力を溜めた。
そして森の守護獣がその巨躯を大砲の様に射出させーー
ミリアに当たる直前に、突然彼女は地面に押し倒された。
頭上スレスレを飛び越えて行く森の守護獣。
「大丈夫!!?」
「アラン!!」
赤い髪の少年がミリアを守るかの様に覆い被さっていた。
アランと呼ばれた少年は、真紅の瞳を向けて来る森の守護獣に対して剣先を向けた。左手でミリアを庇う様に伸ばしながら。
「グルルルルォォォォ」
唸る森の守護獣に対して、アランは震える手で剣を向ける。
怖い。
怖い。
それでも彼女がいなくなる方が怖い。
「かかってこいッ!!!」
さぁ構えろ少年。
「ブモォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!」
是れが剣王への第一歩だ。
ー
弾丸の様に飛び込んで来る森の守護獣を紙一重で躱す。
あっぶな……今の動き殆ど見えなかった……。この動きを延々と繰り返されれば、死ぬのは僕の方だ。
「ミリア逃げろ!!!!」
「アランを置いてなんて……」
「早く村に帰って大人達を……って!!!」
服の袖がの守護獣の角に引っかかったのか、ビリリ!と音を立てて破れた。そして皮膚がぱっくりと割れて、血がツーと腕を伝う。
「アラン!!!」
「早くッ!!!!」
怪我を見て駆け寄って来るミリアを大声で追い返す。
意を決したのか、村へと駆けて行くミリア。
一先ず逃げさせる事は出来た。後はこの森の守護獣をどうするかだ。
森の守護獣を見て、僕はふと図鑑に載っていた一体の魔獣を思い出した。
《魔猪 デコイホーン》
頭上に生えている花を囮にして、近寄ってきた者を食らう魔猪。生える花は環境にもよるが、綺麗な花が咲くらしい。探知魔法を使わないと見つからない厄介な魔獣。
恐らくミリアが抜いた花もデコイホーンの囮だ。
今思えば本当に危機一髪だった。後少し遅れていれば、ミリアはデコイホーンに食われていただろう。
「目は慣れてきたけど、体力が保たない……!!」
畑仕事を手伝っていたから最低限の体力があるが、大人の冒険者に比べればちっぽけな程度だ。
一方デコイホーンの方は、森の守護獣と呼ばれるだけあってまだまだ元気そうだ。鼻から蒸気が溢れ出ている。
「くそッ……!!」
このまま逃げ回ってもいずれ僕が先に力尽きるだろう。そうなれば死ぬ事は免れない。
頭をフル回転させて考える。この状況を打破する最善の一手を。
そこで僕は右手に持っている剣が目に入った。父が冒険者をしている時に使っていたという剣だ。良く磨かれて斬れ味の良さそうな剣だ。
これで一矢報いるしかない。でも、どうやって?
僕には剣才のスキルは無い。あるのは剣を作る鍛冶屋のスキルだけだ。
でもそこで出来ないと言うのか?違うだろアラン=ユーグンシュタイン!!
なんでミリアを助けにきた!!?
なんでわざわざ危険を犯して森の中に飛び込んだ!!?
「僕はミリアと仲直りするって決めたんだ!」
彼女を失うのが怖かったからだろ!!!?
剣を構える右手に力が篭る。目の前の敵を穿とうと剣が煌めく。
狙うのはデコイホーンの赤い目だ。力の無い僕でも柔らかい目だったら傷つけられる。
でも目を狙うには、口の両脇から生えている角を避けないといけない。避けるのに失敗すれば貫かれてしまう。
心臓の鼓動が止まらない。緊張と死への恐怖で膝が笑う。
それでも僕は村に帰らないといけない。帰ってミリアに謝らないといけないんだ!
「うおぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!」
「ブモォォォオオオオオォォオオオオ!!!!」
文字通り猪突猛進。僕に向かって一直線い走って来るデコイホーン。
死神の鎌にも見える角が迫る。
そして角は空気を斬り裂いて、僕の背後の木に深く突き刺さった。
今しかない!
角が抜けないデコイホーン。
そして僕は今も睨んで来る真紅の瞳に剣を突き立てた。
「ブ、ブモォォォォオオオオオオオオオ!!!!!!」
「やったッ……!!?」
そして次の瞬間には、僕の体は木に叩きつけられていた。
激しい痛みで飛び掛ける意識の中、痛みで暴れたデコイホーンの体当たりで吹き飛んだのだと分かった。
「ま……ずい…………」
相当なダメージを負ったらしく、目の前が真っ暗になってきた。
そして僕は薄れる意識の中、目に剣が突き刺さったデコイホーンが僕に向かって走って来る光景を見た。
そして、
「頑張ったね」
耳元で囁かれた一言によって、僕の意識は暗闇の中に落ちていった。
これで10歳とは。書いていた自分が驚きです。
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