ユリーシアへ
詳しい事は後書きで書きます。一先ず受験受かりました。やったね。
「そういえばラギ、主の体はどうしたの?」
「あー、今俺の『万物保管』に入ってるけど。もしかしてなんか必要だったか?」
「いや、処理した方が良かったかなって思ったけど。ラギが持ってるなら大丈夫」
「あいつは高く売れそうだったしな。バラバラにして売るつもりだぜ」
港町ユリーシアへ馬車を進めながら他愛の無い話をする二人。
無事に森の主を倒したアランは、順調な旅を続けていた。
道中偶に魔獣に襲われる時もあったが、アランでも難なく対処出来る程度だった。
ハイウルフ達は群れのリーダーを失ったため、活動がやや消極的になったが、『ガーウェス』が己が率いると言っていたので問題はないだろう。
ユリーシアも近くなってきたのか、海の良い匂いが漂ってきた。潮っぽい、独特な匂いだ。
「そういやアランは『鍛冶屋』なんだっけか?」
「うん。確かにそうだけど」
「なら牙とかはお前が持っとけ」
鞭で馬の尻を叩いていたラギから一本の牙が飛んできた。アランが慌てて掴むと、手の中には太陽の光を反射する程鋭く輝く牙があった。間違いなく森の主の牙だ。
アラン達が散々苦労して倒した森の主だったが、アランには一つ気になる点があった。それは自分達程度が倒せた事だった。
アラン達はお世辞にも強いとはいえない。下手をすればそこら辺にいる魔獣相手でも大怪我を負うことはあるし、奇跡が起きても森の主は倒せなかっただろう。
それには理由があった。
(まさかガーウェスが弱らせてたなんて……)
そう、あの伝説の狼 ガーウェスが主を弱らせていたのだ。というか、狼達にとってガーウェスの存在自体が能力を弱らせる様なものなのだとか。
そこら辺の理由はアランには詳しくは分からないが、それが理由で森の主は酷く弱っていたらしい。
正直運が良いと思ったが、これもガーウェスの策略らしく、『あの剣王が言った奴がどのような実力者かを見極める』との事だ。つまり弱化も狙って行われた事らしく、アランは少し落ち込んだ。てっきり中々良い線行っていると思っていたからだ。その直後に自惚れだと言われたアランは顔を真っ赤にして「分かってる!」と叫んだそうだ。
とまぁ、そんな事があり、無事に森の主は倒せた。
「よくよく考えれば、ガーウェスだったら瞬殺だったんじゃないかなぁ……」
そんなアランの呟きは、ラギの叫び声によって掻き消された。
「アラン!!!見ろよ、ユリーシアに着いたぞ!!!」
ラギが指差す方向を見れば、木で作られた大きな門があった。アランはイナ村と比べて、そこから察せる町の大きさに驚いた。
門の前の門番二人は、走ってくる馬車に気が付いたのか「止まれ!」と大きな声で叫んだ。
「へいへい、そんな叫ばなくたって止まりますよっと」
馬車を止めたラギは、馬車から飛び降りて門番の前まで歩いていった。
「目的は?」
「売買しに来た」
「積荷を見ても?」
「どうぞ。壊さなきゃな」
それを聞いたアランは慌てて馬車から降りた。
門番達は一瞬驚いたが、ただ乗せていた冒険者だろうと察すると、アランの横を通って馬車の中を覗いた。
馬車の中にはポーションの瓶と、魔除けの護符程度だ。使ってしまった道具もあるし、心なしか馬車の中は寂しく思える。
異常なしと判断した門番は、最後にラギの前に手を出した。
「ん?あぁ、ちょっと待ってくれよな」
一体何を渡すつもりなのだろう。と、思っていたアランは、ラギの懐から出てきた木の板らしき物に首を傾げた。てっきりラギの事だからお金が出てくるもんだと思っていたのだが。
木の板に手をかざす門番。すると、門番の目に橙色の光が灯り、そして直ぐにそれは消えた。
「よし、問題ない。通っていいぞ」
「それじゃあそこの君も」
「えっ……?」
ラギの渡したものが分からず、慌てるアラン。
すると、それを見ていたラギが耳打ちをしてくれた。
「アラン、ほら身分証明書出せよ」
「どんなの?」
「どんなのってスキルと名前と年齢が書いてある木の板だ。持ってないはずはないぜ?スキルを貰った時点で貰ってるはずだからな」
そう聞いてアランは記憶を振り返る。が、貰った記憶はない。それどころか両親すらそんな話をしていなかった気がする。
慌てに慌てたアランは、一先ず父親が持たせてくれたカバンの中を探った。
すると、カバンの奥の方に木の板が一枚入っていた。恐らく入れてくれていたのだろう。だが、それを伝え忘れたのか、アランはその存在を知らなかった。
木の板にはアランの名前とスキル名。そして年齢に出身の村の名前まで書いてあった。
それを渡すと、先ほどと同じように手をかざす門番。すると、淡い光が現れて、直ぐに消えていった。
「よし、異常なし」
「ようこそユリーシアへ。私達は貴方方旅人を歓迎します」
大きな音を立てて開いていく門。自分の村とは違うその大きな門に驚くアラン。
「どーも。ほらアラン、馬車に乗れ。さっさと行くぞ」
「あ、うん」
アランが馬車に飛び乗ったのを確認したラギは、馬を鞭で叩いて馬車を発進させた。
アランは、父親が入れていた木の板を手にとって不思議そうに眺めていた。個人情報が書いてある以外は何もないただの板。
「ねぇラギ」
「ん、なんだ?ユリーシアまではもうちょいかかるぞ」
「そうじゃなくて、あの板ってどんな仕組みなってるの?」
「んー、そうだな。アラン、精霊の木って知ってるか?」
精霊の木と聞いて、アランは東の島が精霊の島だと言うことを思い出した。恐らくそこに生えている木なのだろうと察する。
知っていると判断したのか、ラギはそのまま話を続けた。
「その精霊の木を切り出して作ったのがこの身分証明書だ。そこに名前とかスキルとか書く」
アランは身分証明書を眺めながら話を聞いていた。
「そんで……名前は忘れちまったけど、魔法を掛けると書いてある事が本当か嘘か分かる代物だ」
「凄いけど……嘘だとどうなるの?」
「ん?身分証明書が爆発する。粉々にな」
「えっ?ほ、本当なの?」
「見た事はねーけど、そう言われてるな」
ユリーシアへ近づく程、風に運ばれてくる潮の香りがする。それに賑わいを見せている街の風景も目に飛び込む。
「精霊は嘘を嫌う。それが木にも反映されているらしいぜ」
「そうなんだ……」
「そんな話をしている間に、ユリーシアの商業地区に着いたぜ!」
ラギが馬車を止める。それと同時に飛び降りたアランは、飛び込んできた光景に目を輝かせた。
見たことも無い魚や野菜。大量の人々。そして様々な武器を持つ冒険者達。全てがアランにとっては新鮮だった。
ラギはそんなアランを見て、溜息を吐きながら頭を叩いた。
「ほら、一先ず宿取るぞ。取れるか分からねーけどよ」
「うん、見るのはその後でも大丈夫だしね!」
「お前、そんな楽しみなのかよ……」
呆れ顔のラギは、馬車を『万物保管』に仕舞うと、アランを置いてさっさと歩いていった。
それを追うように走り始めるアラン。
「そういえば、アランは宿屋の前に行く場所がなかったか?何処に行くかは聞いてないけどよ」
「うん、だから先にそっちに行かなきゃ」
アランはガーウェスと別れる際に、一つの手紙を受け取っていた。
『ユリーシアにいるある男へ届けて欲しい』そうガーウェスに言われて託された手紙。誰に届けるのかも言われていないが、手紙に書いてある名前を見てラギは驚いた。
「お、おまっ!!?それ!!!」
手紙には『ギルベルト=サーフェスターへ』と書かれていた。ラギの反応を見て、このギルベルトという人物がそれほど有名な人なのだと察する。が、その後ラギの放った一言はギルベルトを知らないアランさえも驚かせた。
「ギルベルト=サーフェスターって聖王様じゃねぇか!?」
「えっ?聖王ってあの……?」
「それ以外に誰がいるっつーんだよ!お前とんでもないもん受け取っちまったんじゃねぇか……!!?」
聖王の名はこの世界に住む人々ならば全員が知っているだろう。聞いたことのない人物を見つける方が返って難しい程だ。
かつて起きた世界大戦に於いて、死者被害者共に誰も出さなかった七王の一人。
太陽と見間違える程の輝きを放つ金髪を持ち、全ての罪を赦す程の寛大なる心を持つと言われている聖人。
アランにとっては物語上の人物。そんな人へ届ける手紙と聞き、アランの手は急に震え出した。主に緊張で。
「どうしようラギ……とんでもないもの受け取っちゃったかも知れない」
「そもそもガーウェスの時点で伝説級なんだから諦めろ」
「そ、それじゃあせめて着いてきてよ!」
「悪いな!俺は宿とらねぇといけねぇからよ!お前の分も取っておくからなー!」
そう言ってその体躯に似合わない速さで駆けて行ったいい笑顔のラギ。その背中を呆然と見送りつつ、アランは改めて手紙に書いてある名前へ目を落とした。
変わらずに書いてある聖王の名前。
自分は只の配達員なのだと自身に言い聞かせつつ、アランはユリーシアへの第一歩を踏みしめた。
「あれ……何処にいるんだろう……?」
受験も無事に終わり、投稿が再開できるという事なので、書きだめをしつつのんびり投稿しようと思います。12月中も投稿はしますが、2月ぐらいになったら書きだめが一気に放出されると思います。
長い間書いてなかったのもあり、文が心配な所もありますが、少しづつ修正していきますのでご理解とご協力の程宜しくお願いします。