作戦決行
短めですが、次回でユリーシアに着きます。
「ったく……結構な出費だぞこれ」
ラギは馬車を『万物保管』から取り出し、馬に飛び乗った。膨よかな体型には似合わない身軽さだ。
一方のアランは馬車の中で目を瞑っていた。ラギが聞くと、どうやら彼なりに集中しているらしい。邪魔するのは良くないと判断したラギは、独り言をぶつぶつ言いながら準備していく。
決戦の日がやって来た。
散々作戦は考えたし、ラギ自身出費は惜しまないつもりだったのだが、やはり損害を考えてしまう。無理もない、彼が今回使う道具はかなり便利で高価な類に位置する。だが命よりも高いものはないと判断し、使う事に決めた。
まず『魔除けの護符』。ラギが洞窟内に置いていたもので、一定レベルの魔獣を寄せ付けない効果がある。これをアランに持たせる事によって、主と対峙した時にハイウルフが近寄ってくるのを避ける。
次に『目寄せの種』。掌に収まる程度の種で、魔獣の目線を向ける効果がある。それが臭いによるものなのか、はたまた見た目によるものなのかはさて置いて。
本来は冒険者が撤退する時に、人のいない方向に向かって投げて逃げる。そんな使い方をするのだが、今回は別だ。
その説明をする為に、今回の作戦について語っておこう。
まずラギは、アランを乗せた馬車を主が追いかけて来るまで走らせる。これは一定ルートを走る様にしている。丁度森の中をぐるぐると回る様にだ。
次に、アランは予め折っておいた剣を《原点回帰》で直しつつ、主の背後に回り込む。これは既に森の道の側に置いてある為、アランが《原点回帰》を発動させた時点で回り込む事ができる。因みにここにも『魔除けの護符』が置いてあり、他の魔獣に持っていかれる等の事故を未然に防いでいる。
そして、ラギが主の背後に行くように『目寄せの種』を投げる。主が振り返った所でアランが斬りかかれば不意を付ける。主が相当な速度を持っている為、アランの必殺技の速度を超えてしまうかどうかが問題だ。
後はアラン次第だ。ラギの馬車には、ラギが肉を解体する為に持っていたナイフが刃先が折れたまま置かれている。失敗しても《原点回帰》で戻れるようにだ。
今回の作戦は、ラギが『目寄せの種』を投げるタイミング、そしてアランが必殺技を決められるかに掛かっている。
この作戦は現在においては最善に近いが、かなり不安定要素が多い。ラギは一生分の運を使い果たしてやると思いながら、馬を走らせた。
「そう簡単に主が釣れるか……?」
「大丈夫だと思うよ。今、周りにもハイウルフが走ってるし」
ラギがそう言われて周りに注意を払うも、アランの言うハイウルフは見えない。
そして馬車を走らせていると、突如辺りに轟音が鳴り響いた。
「って横からかよ!!!!」
木々を食い破って、主が飛び込んで来た。馬車ごと噛み砕こうとしているのか、大きな口を開けている。
すぐさま馬車を操作しようとするが、間に合わない。全壊は防げそうだが、半壊してしまっても作戦に支障が出る。アランの剣が置いてある場所までは少しばかり遠い。
ラギが食われると思った時だった。
アランの右目に炎が灯った。青白い炎だ。
魔法を使う際に、利き目の方に炎が灯る。それはただ魔法を使っている証拠だとか、体内から溢れ出した魔力が漏れている証拠だとか色々諸説ある。
炎の色は人それぞれで、その理由は分かっていない。現在も魔法に関しての研究が進められている大きな要因だ。
アランは、折れた剣の腹で牙を受け流す。主の牙は、僅かばかりずれて馬車を噛み砕いた。
アランの功績もあってか、後輪が壊れながらも残っている。まだ走る事はできる。
「アラン!馬車の中にあるやつは好きなだけ飲んでいいからな!!!」
「ありがとう!でも、運転に集中して!」
「んな事分かってんだよ!」
アランの目から炎が消えると同時に、アランはすぐさま魔力ポーションを口に含んだ。
だが、休む暇もなく作戦は実行される。
「そろそろだぞ!一回で決めるからな!!!」
ラギの馬車がアランの折れた剣の片割れが置いてある場所を過ぎた。
その瞬間、アランは《原点回帰》を発動させて、主の背後に回り込むことに成功した。
アランが馬車から消えた瞬間、ラギは背後へと『目寄せの種』を投げる。
主の頭上にまで飛んだ種。それに目を向けた主は、一人の人間が剣を振り下ろしているのを同時に目撃した。
「いっっけぇえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ラギが拳を斜め上へと突き上げて叫んだ。
アランの目から凄まじい大きさの炎が飛び出す。
アランの必殺技は、父親譲りの技だ。彼の父親も魔法の才能はなかった。だが、魔法がなければ決定打を与えられないのがこの世の中だ。
そこで彼が思いついたのが、『体内の魔力を全部使って身体能力を強化する』事だった。
魔法使いからしてみれば、非常に燃費の悪い必殺技だ。だが、才能無しでも使える。それだけで彼には必殺技になった。
そして今、この力は彼の息子に引き継がれて、猛威を振るう。森に住む主を倒す為に。
「《過剰強化》」
アランの父親が、才能の壁を越える為に作り出した技。
剣を両手持ちに変えて、剣を全身全霊で振り下ろした。
だが、主は腐っても主だ。すぐさまアランを確認すると、大きな口を開けた。
アランの一撃は主の牙に迎撃され、そして折れた刀身が宙を舞った。アランの手には無惨な姿になった刃折れの剣しか残っていない。
普通ならば諦める所だ。そう、普通なら。
「まだだ!!!!!!!!!!」
アランの闘志はまだ消えていない!
すぐさま《原点回帰》を発動。宙に舞っていた刀身を空中で回収すると、そのまま主へ突貫した。
アランは産まれてから何度も心を折ってきた。自分には才能がない。腕もない。どれだけ鍛えても強くならない。
それでも彼は何度も立ち上がってきた。折れた剣が直るように、アランもまた幾度となく立ち上がってきた。
そして今、鍛えられた剣の一撃が実を結んだ。
「いけぇえええええええええええ!!!!!」
剣が肉を斬り裂く。
アランの剣が主の首元に突き刺さり、そして喉を斬る様に振り下ろされた。
血が溢れ、すぐさま主の目から生気が抜けていく。それでもなお口を動かす主に、アランは最後の気力を振り絞って剣を突き立てると、遂に動かなくなった。
倒したという実感が身に染みてくる。
涙目で走ってくるラギを確認した時、彼の中の達成感が産声を上げ、そしてそれはアランの勝利の叫び声に変わった。
今までの努力が遂に報われた瞬間だった。
戦闘描写にはあまり納得してないので、後で修正するかもしれないです。
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