憧れの記憶
「おーい!剣王様が帰って来たぞー!!!!」
そんな村の男の声を聞いたのは、僕が何歳の頃だっただろうか。
剣王様の産まれた村として有名なイナ村。剣王様が帰って来るといつも多くの観光客が村に訪れる。言わば一種の観光資源の様な物になっていたが、剣王様はそれを良しとし、更に村の為になるならと先に帰ってくる日時を村に伝える様になっていた。
だが、その日は違った。
剣王様は便りなく突然現れた。村人がどうして言わなかったのかと問うと、剣王も偶には人に見られる事なく静かにしたいらしい。確かに、剣王が素振りをするだけで歓声が上がる程だ。そんな中にいたら休む事もままならないだろう。
これはチャンスだと思った。何時もは背の高い大人達に囲まれている所為か、剣王様の素振りを見たことが無い。神の一振りと謳われたその剣裁きを見てみたいという素直な好奇心が僕を動かした。
剣王様が何処かに行くのを見た僕は、その後をつける事にした。今思えば剣王様は僕の事に気がついていたかも知れない。その上で知らないふりをしたのだろう。
村近くの森に入った剣王様は暫くして綺麗な泉の側にやって来ると、その腰に差していた剣を抜いた。
その剣の放つ重厚な輝きは今でも覚えている。陽の光に反射して森の中を照らし、泉の水をその刃に投影させた。まるで鏡の様な剣だと思った。
その剣を構える。洗練された構えを前に、僕は唾を飲んだ。剣王様の剣がより一層輝いた気がした。
そしてその場で一振り。
その瞬間に目の前から流れ込んで来る光景に僕は思わず腰を抜かしてしまった。決して怖かったのではない。その景色に僕が文字通り圧倒されてしまっただけだ。
尻餅をついた所為か、木の裏に隠れて見ていた僕はがさりと音を立ててしまった。
「ん〜?そこにいるのは誰かな〜?」
くるりと振り向いた剣王様は、持っていた剣を鞘に戻した。そして笑顔を浮かべながら此方に近づいて来た。
「もしかして付いて来ちゃったの?」
「う、うん……」
静かに木の裏から出てくる幼き頃の僕。それを見た剣王様は怒るのではなく、僕の頭を撫でてくれた。
「そうかそうかー!でも森の中は危ないから気をつけるんだよ?」
そう言った剣王様は僕について来る様に言うと、泉の側に腰を下ろした。
そして先程振っていた剣を再び抜き、僕に見せてくれた。
一種の魅了にも近かった。遠目で見ていたよりもずっと美しい刀身は、憧れの剣王様との会話など忘れさせた。
そして剣を見ている僕を見ていた剣王様に一つ聞いてみた。
今思えばこれが始まりだったのだろう。
「僕は剣王様みたいになれますか!!?」
僕が剣王を目指す。
「剣王様みたいに強くなれますか!!?」
「うん、きっとなれるよ」
その旅路は。
そして剣王様が姿を消したのは。
これからぼちぼち頑張っていきますので、ブクマや感想書いて頂ければ幸いです。