プロローグ ~葉の音が聞こえるあの夏~
書き溜めていたモノを放出します。
夏らしく、夏の雰囲気ができればいいなと思って3~4年前に携帯にメモしてたのを書き起こしました。
色々吹っ飛んだ設定が後々出てきますが、読んでいただけたら幸いです。
あと、FLAME OF BLOODはシリーズになります。(と言いつつ、Upできるかわかりませんが)
その昔、世の中の出来事がすべて無限大だと思っていた。
通いなれた神社の縁側、夏の風に揺れる葉の音を聞きながらそんなことを思い出す。
あの日からずっと通い続けた久我守神社。もう何百回ここに来たのか覚えてないほどだ。
相変わらず手入れも掃除も俺しかしないこの神社。おんぼろの社や壊れかけで水もない手水舎、今にも崩れそうな神門。どう見たって人が好んでくるような場所じゃない。
でも、この神社は俺のお気に入りの場所でもある。
夏の暑さで吹き出た汗を拭い、中でも特に思い入れのある神社の横手の縁側。夏の色に染まった桜の葉が心地良く音を出し、縁側に涼しい影を落としている場所へと足を向ける。
休憩をと縁側に座ると、夏の暑さを忘れさせてくれた。
火照った身体から熱を出すように息を吐き、少し縁側へと目を落とすと、昔、ある人の為に持ってきたアイスのカップを置いた跡を見つける。
その跡を手で撫でると、今は遠いところにいるはずのあの人が隣に居る気がした。
思い出があるんだ。ここには。
夏の葉の音に目を閉じれば、あの時の俺、火渡石和がいるような気がする。
この話の始まりは家の近くの古びたこの神社での出来事。
もう4年近くも前になるのか……俺の忘れられない夏はそこから。
小学校も低学年だった当時の俺は、冬になれば寒いのが嫌だから夏になってほしいだの、夏になれば暑いのが嫌になって冬にほしいだのとわがままを口にしながらも、予定通りにやってきた夏にわずかに胸を高鳴らせ、暑い日差しを受ける。
どうせだから特別な夏の思い出をつくってやろうと最初は思うんだが、結局、親友と遊びつくそうと躍起になって、気が付いたころには夏の終わりを迎えている。
夏休みの最後に溜まった宿題に目を回すのは定番中の定番。
楽しいことはあっという間。強く心に残って終わるだけ。
今まで過ごしてきた当たり前の夏になるはずだった。
はず……だったんだ。
夏という季節を大切に思うようになったのは今でも思い出せるあの日の事。
家の近くの神社で親友と待ち合わせをしていた俺に向けて一つの声が、かかる。
「あ、あの……き、君さ。ここで何をしているのかな?」
ただの子供な俺に向けられる少し戸惑いを含んだ声。
その声に振り向く俺が目にしたのは、巫女服の女性だった。
背がまだ低い俺の目線に合わせてわずか僅かに腰を落とし、はらりと落ちる長く白い髪を耳にかけなおし、こちらを伺う。
急に後ろから声を掛けられたことで一瞬だけ跳ねた心臓に、夏の暑さとは違う熱さを感じた。
驚きで動きを止めた俺の答えを、巫女服の女性……巫女さんは待つ。
俺がここにいる理由を聞かないと引いてくれそうにない雰囲気を感じた俺は素直に答えた。
まぁ嘘つく必要もないしな。
「なにって親友と遊ぶんだよ。ここでな」
それが俺の大事な人との出会いだ。
振り向いて、返事をして、その姿を見て、その瞬間に俺の夏の思い出は忘れられないものになったんだ。この会話だけですべてが変わった。俺はそう確信している。
その時は特別な夏になる。なんてそうは思わなかったけど、俺の意識とは別のところで運命とでもいうべき何かは動いていたんだと思う。
汗にまみれた俺が目にするのは、高校生ぐらいの歳に見えるその巫女さん。こんな何気ない会話が二人の最初だった。今でも思う。俺達二人が出会ったことが運命でなければ何と呼ぶのか。
小学生の夏休みの神社。
立ち上る入道雲の向こうに青い空。
アスファルトからは熱が陽炎のように揺らめく。
まぶしいばかりの日差しと合わせて、アイスが恋しいその季節。
これは今だから語る出会いと別れのお話。
そして、ただの小学生を自負していたはずのこの俺が、この時を境にただの小学生じゃなくなったお話。
まだ何も知らず、世界の出来事が無限大だと信じていた俺が、大切な人と出会い、決して手の届かない相手に恋をした話だ。
さぁ夏の葉を聞きながら、遠く、懐かしい記憶を語ろう。
読んでくださり、まことにありがとうございます。
続きがアップできましたら読んでいただけると幸いです。