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022 真壁透子は閉じ込められる

 しばらく歩いていくと、巨大な四角い箱が五つ、目の前に現れた。

 灰色の、鈍い金属の輝き――。

 それがツタの生い茂る壁の前にずらりと並んでいる。


「ナイトメア出現。A級デス。警戒してクダサイ」


 さっそくオーブの警告音があたりに響き渡る。


 どうやらこれらは「ロッカー」を模しているらしかった。

 あの衣類などをかけるタイプである。

 けれど、普通のものよりもそれは一回りか二回りほど大きかった。高さがゆうに3メートルはある。

 

 ロッカー達はこちらの存在に気付くと、みな扉を開け閉めしはじめた。

 透子はポルターガイストじみた現象を目の当たりにして、恐怖する。


「な、なにあれ……キモッ! あ、あんなのとも戦わなきゃいけないっていうの?」

「つべこべ言うな。……とりあえず、下がっていろ」


 透子が愚痴を言っている間に、シザキはひとり先陣を切って行ってしまった。

 ロッカーたちがシザキに殺到する。

 だが、シザキはそれらを身を伏せて躱し、横向きのまま銃口を相手に向けた。弾が当たると、ロッカーの一つは瞬時に分解する。そしてまたピンク色のエネルギー体を放出していく。


「すごいっ、シザキさん!」


 オーブがエネルギー体を回収しに向かう。透子は、その一連の流れを感動しながら眺めていた。

 このままならすぐに他の三体も斃せそうだ。


「ん? 三体?」


 もう一体あったような気がした透子は、周囲を見回す。

 すると、すぐ真横に大きなロッカーの影が迫っていた。


「えっ……なん、で……!」

「マカベ・トーコ!」


 声がした方向を見ると、シザキが猛スピードで駆け寄ってきていた。透子の腕をぐいと引き寄せ、敵から少しでも距離をとる。

 が、ロッカーの接近の方が早く、扉が開いたと思った時には二人ともすでに箱の中に取り込まれてしまった。


「えっ? 嫌っ! 出して!」

「間に合わなかったか……」


 暗い中、透子はシザキに抱きしめられている。 

 閉じ込められたとわかり透子は愕然とした。

 ここは……かなり狭い。

 出ようにもどうやって出ればいいのか……わからなかった。


「あ、開けて! 扉は……ドコ? あ、開かない!」


 シザキの腕を振りほどき、入ってきた方向の壁を押してみるが、びくともしなかった。

 わずかな隙間から外の光が入ってきているが、その薄明かりの中で、シザキは銃口を横の壁に押し当てている。


「な、何しているの?」

「このまま発砲する……か考えていた」

「えっ?」

「だがこう至近距離では、当然エネルギー弾の爆発に巻き込まれる。君が傷つくことはないが、私は負傷するだろう。負傷覚悟でなら……発砲できないこともないが。やってみるか」


 そう言って、シザキは引き金を引こうととする。

 透子はあわてて止めた。


「ちょっ、や、やめてやめて! シザキさん、また怪我しちゃうじゃない!」

「そうは言っても……それ以外脱出する方法がない。それとも何か? 君だけここから脱出して、外から攻撃してくれるか」

「えっ? わたしだけ脱出……?」


 シザキの言う言葉が一瞬理解できなかった。

 

「そうだ。外へ出るためには一度……また装備を解除してこの壁をすり抜けなければならないが……」

「そ、それってつまり、また裸になるってこと?」

「残念ながら」

「いやあーっ!」


 透子は言ったそばからこんな状況になって悲鳴をあげた。


「し、シザキさん……そ、それ以外の方法は……?」

「二択だな。私が負傷覚悟で発砲するか、君がここから脱出し外から攻撃してくれるか」

「そんなぁ……」

「君ができないなら、私が前者を選ぶまでだ」


 そう言ってまた行動に移そうとするので、透子はシザキの肩を殴った。


「もうっ! だ・か・ら……やめてって言ってるでしょっ!」

「し、しかし……」

「わかったわよ! 裸になってあげる! そのかわり……み、見ないで……」


 最後の方は小さな声でお願いすると、シザキはうなづき、すぐ目を閉じた。

 透子は深呼吸すると衣服を順に消していく。

 靴、手袋、ワンピースがすっかり消え去った。


「よし。裸に……なったわ」

「……そうか」


 見下ろすとわずかなふくらみが二つ。

 それを、おじいさんとはいえ家族以外の男の人の目の前で披露するなんて……透子はあまりにも恥ずかしくて気が遠くなりそうだった。


「じゃあ、も、もう外に出るけど! 出たら……そのあとはどうすればいいの?」


 訊くと、シザキは律儀にまだ目を閉じている。


「外に出たら……そうだな、なんでもいい。攻撃してナイトメアの体を傷つけろ。そうすれば利用可能なエネルギー粒子となって崩壊するはずだ」

「そ、そう。わかったわ……じゃあ、やってみる」


 透子はそう言って意を決すると、壁をすり抜けた。

 外に出ると、まだそこには三つのロッカー達がうろうろとしていた。

 まだこちらには気が付いていないようだが……振り向くと、もう一つ、透子たちの入っていたロッカーがある。これだけはやや大きいようにも見えたので、透子はひそかにその特徴を覚えておいた。


「よくも……わたしを裸にしてくれたわね。許さない!」


 そう言うと、透子は急いで変身をした。

 背中に赤い六つの光の帯を生やす。

 そして元の服を復元し、目の前に巨大な斧を三つ出現させた。それをシザキの入っていない残りの三つに向かって飛ばす。

 斧はそれぞれの扉に突き刺さり、ロッカーと共にピンクの発光体の群れに変わった。


「あんただけは、特別よ!」


 最後にシザキの入っているロッカーを睨みつける。透子はひときわ大きな斧を出現させると、それを両手でつかみ、敵に向かって飛びかかっていった。


「シザキさん、しゃがんで!!」


 そう、中のシザキに届くように叫ぶ。

 思い切り敵の上部に斧を振り下ろすと、斧の切っ先がそこにめり込んだ。瞬間、ロッカーは形状を維持できなくなり分解していく。

 ピンク色の光の粒子と共に、ようやく中からシザキが出てきた。


「あっ、シザキさん! やった! みんな斃したわよ」


 笑顔で迎えに行くと、シザキは驚いたような表情で辺りを見回す。


「四体すべて……斃したのか?」

「ええ。もう頭にきちゃって! 気が付いたら全部、やっつけてたわ。それより怪我はない?」

「ああ……」


 シザキは、横目でオーブの働きを見ながら言う。


「エネルギーもおおかた回収が済んだようだな……。良かった。君はこれが初めての戦闘、というわけではないだろうが……上出来だ。この調子でこれからもよろしく頼む、マカベ・トーコ」

「ええ。任せて!」


 褒められて、透子はなんだか嬉しくなる。

 微笑みながらどーんと胸を叩いてみせると、そのまま……その手をシザキへと差し伸べた。


「なんだ、これは?」

「ええと……まだちゃんとあいさつが言えてなかったから。わたしからもよろしくね、シザキさん」

「…………」


 シザキは、戸惑っているのがありありと見て取れた。無表情のまま固まり続けている。

 だが、透子はひるまず握手を求め続けた。

 すると、やがてシザキからもおずおずと手が伸ばされ――。


「ああ……」


 透子の小さな手に、それが重なった。

 こうして手をつなぐのは二回目だ。

 触れ合っているのに、感触はほとんどない。おそらく布越しに何か別の抵抗があると錯覚しているだけなのだろう。


 感じるわけがないのに、なんだかそこにはぬくもりがあるような気がした。

 視覚の印象が強いせいかもしれない。


 じっと手をつないだまま、シザキの灰色の瞳を見つめてみる。

 感情がほとんど読み取れない。

 でも、こうして見つめ合いながら手をつないでいると、なんだか胸の奥がどきんと高鳴った気がした。


「えっ?」


 思わず変な声が出てしまった。透子は自分のことながら驚く。そして、すばやく手を引っ込めた。

 今のはなんだったのだろう。

 シザキを急いでみると、複雑な表情をしていた。


「マカベ・トーコ……?」


 なんだったんだ、とシザキも思っているのかもしれない。

 でも、それは本当に不思議な感覚だった。

 まるで今の反応を、シザキも体験していたのでは……と、錯覚しそうになるほどに。だって、今の相手の声の調子も、まるで……。


「シザキさん……」


 弱々しく、透子も相手の名前を呼んでみる。

 珍しく張りのない、弱々しい声だった。それが自分の口から出ている。


 なぜ、こんな気持ちになってしまっているのだろう。

 驚きとともに、透子は胸の奥の鼓動が徐々に早くなっていることに気が付いた。


 ああ、ダメだ。

 自分は大地君が好きなのに。

 こんなわけのわからない場所で、しかも相手はおじいさんなのに――どうしてこんなにときめきそうに(・・・・・・・)なってしまっているのだろう。


「わたし……」


 シザキの瞳はさらに不安げに細められている。

 それを見つめながら……透子の意識はまた、断絶した。

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