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015 真壁透子は巨乳と出会う

 列車の扉が開き、中から背の高い女性が降りてくる。

 他にも搭乗者はいたようだが、外に出てきたのは彼女ひとりきりだった。


 長い赤髪がとても印象的だった。大きい胸をゆさゆさと揺らして、こちらに近づいてくる。透子は思わず自分のものと比較してしまった。透子のも決して小さくはなかったが、そのあまりの迫力に言いようのない悔しさを覚える。


 女性はシザキに鋭い視線を送っていた。


「OIGE基地の……シザキ・ゼンジだな。自分はHKGI基地のカミヤ・アカネだ。救難信号を受けたので救助に来た。さっそく救助カプセルを作成する」

「ああ、頼む」


 アカネは自分の上に飛んでいるオーブと、シザキのオーブに声をかけると、それぞれ「光の輪」を同時に出現させた。二つの青白い輪はシザキに当たり、瞬間、泡のような「膜」が形成される。シザキはそれに取り込まれると、ふわりと宙に浮いた。


「救助任務はこれで完了だ。あとは各々、元のエネルギー回収作業に戻ろう。そちらの……『明晰夢の天使』は?」


 アカネはそう言って、透子を怪訝な表情で一瞥した。


「ああ、この少女は……気にしないでいい。気まぐれに私についてきているだけだ。……拒否しているのだがな、なぜかまだこうして側にいる」

「……そうか。その少女は、まだ君の『パートナー』というわけではないのだな」


 パートナー?

 透子はアカネの言った言葉にわずかに眉をひそめた。

 いったいどういう意味なのか。


 一般的には「相棒」という意味で使われているはずだ。しかし、シザキとそういう関係になった覚えはない。ということは……もう一つの可能性が考えられる。いや、いやいや、と透子は首を振った。胸がドキドキしてくるが、必死でそれを否定する。


 シザキはそんな透子を不思議そうな目で見ていたが、アカネに向き直ると言った。


「必要なら君たちにその機会を譲るが?」

「なに、本当か?」


 シザキからの意外な申し出に、アカネは目を輝かせた。


「……その、少女をくれるのか。願ってもない申し出だ。パートナーの契約者が増えれば、こちらもエネルギーの回収率があがる」

「構わない。勧誘してみたらどうだ?」

「そうだな……」

「……!」


 自分を無視した会話が目の前で展開され、透子は激しく動揺した。譲るとか、くれるとか……いっい自分をなんだと思っているのだろう。透子は静かに怒りの炎を燃えあがらせた。


「ちょっと! あのねえっ! わたしを物みたいに扱わないでくれる?! ほ、本人抜きで勝手に話を進めるなんて……ない、ないないない! シザキさん、あなた以外の人についていく気なんて……わたし絶対ないからねっ!」


 強くそう叫ぶと、シザキもアカネもきょとんとした顔を向けてきた。

 声もなくじっと見られていると、透子は急に恥ずかしくなってくる。


「あっ、い、いや。そのっ……ふ、深い意味はない、っていうかですね! そ、そうじゃなくって……その……」


 しどろもどろになりながら、弁明する。

 しかし、なかなかいい言葉が出てこない。

 自分はもしや今かなり大胆なことを……誤解されるようなことを言ったのではないだろうか。急に不安になってくる。透子は自分を奮い立たせるように大きくうなづいた。


「う、うんうん。いや……あのね? し、知らない人についていくっていうのはやっぱり、イケナイことだと思うし。シザキさんとは、もう何度も助け合いとか、そういうのをしちゃってる仲なわけよ。だから……そう、シザキさん以外の人についていく気はないっていう、そういう意味ね。うん! あはははは!」


 乾いた笑いまでしてみせるが、シザキとアカネは冷静な顔つきのままだった。


「シザキ・ゼンジ……ずいぶんと、この天使に慕われているようだな」

「…………」


 シザキはまるで答えたくないと言うように、視線をそらす。

 アカネはため息をつくと、さらに追及してきた。


「履歴を見ると君は……以前にも、高頻出者の『明晰夢の天使』と接触しているらしいな。過度な関わりは……毒だぞ。わかっているのか、シザキ・ゼンジ」

「ああ、君に言われずとも……な」

「ならば今後も気をつけろ。くれぐれも、深入りはせんようにな」

「ああ」


 朝日が昇ってきて、周囲はだんだんと明るさを取り戻していた。

 アカネは気難しい表情を浮かべたまま、背を向け歩きだす。


「では、以上だ。無事に帰還せよ、シザキ・ゼンジ」

「ああ。恩に着る。別の区域が見れたことは、面白かった(・・・・・)

「…………」


 ピクリ、と今の言葉に反応したアカネだったが、結局振り返らないまま列車の中に戻ってしまった。

 扉が閉まり、頑丈な金属の装甲で覆われた列車が空へと飛翔していく。


「では。私も出発するとしよう。君はどうする? マカベ・トーコ」

「だから決まってんでしょ。あなたに……っていうか、わたしも地元の方まで戻りたいから、ついていく」


 透子は途中で訂正して言った。

 シザキは深くため息を吐き、操作盤をいじって元の基地へと進路をとる。


「では、また空の散歩といこう」


 シザキの載ったシャボンが空へと飛び立つ。それを追おうとして、透子はまた静止した。

 意識が暗転する――。

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