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7.祝杯を食らい、スキル説明を受ける!

次回更新は明日(5月10日)の夕方以降、次々回更新は5月12日(金)を予定しています。

 その後、ゾンビの腿を骨までしゃぶりつくした俺は、非常食と協力して他の怪物たちを倒し、食らっていった。相手は狂犬やゾンビ。奇襲さえ受けなければ大した敵ではない。

 だいたい肉の存在にさとい俺が敵を見つけ、非常食が狂犬に対しては【火焔ファイア】、ゾンビに対しては【魔弾ボール】の魔法で攻撃する、というのがテンプレ戦法か。

 6時間程度さまよい歩いたところで、非常食の魔力が底をつき始めたらしく、そこで冒険は打ち切りとなった。

 感触としてはまあ悪くないんじゃないだろうか、と下水道から地上へ繋がる階段を上りながら、俺はそう思った。

 うまくはないが、肉は食える。経験は積める。

 そして、金ももらえる。


「きょうは付き合っていただいてありがとうございました! いつもよりうまくいったと思います!」

「よかっ、た」


 冒険者は活躍――怪物の討伐数等に応じて、共和国冒険者管理委員会事務所ギルドから報酬を受け取れる。

 活躍のカウント等の仕組みは冒険者側にはよく説明されていないのだが、どうも登録の際に渡されたタグに、怪物の討伐数が刻まれている……らしい。それを参考に、事務所の方で報酬を受け取れるのだとか。


 ってことは、またあの受付嬢と顔を合わせることになるのか……。

 肉づきのいい肢体。大きく張り出した胸。切り揃えた黒髪、切れ長の瞳。整った鼻立ち。

 肉塊としても女としても極上の受付嬢だが、絡まれると面倒くさいタイプである。

 出来れば係わりあいになりたくない。


「下水道の掃討、お疲れ様です」

「あっ、いえ。こちらこそお巡りさん。お疲れ様です!」


 地上に戻るとすでに日は沈んでいて、下水道の出入り口のそばでは武装警官たちが見回りしていた。

 やはり県警機動隊めいた大盾と警棒、拳銃や自動小銃アサルトライフルで武装しており、そのあたりファンタジー感はほとんどない。腰には熊も一撃で撃ち殺せそうな大型拳銃がぶらさがっている。

 こいつらだけは絶対敵に回したくないなあ。


 ……などと考えたところで、俺はあることに気づいた。

 そういや、視力上がってねえか?

 昨日まで視界はかなりぼんやりしていて武装警官の装備も大まかにしか捉えられなかったが、いまは腰にぶら下げた拳銃の存在までしっかり気づけた。気のせいか?


◇◆◇


「生きとし生けるすべての知性ある人々に祝福あれ、乾杯ですっ」


 前述のとおり、共和国冒険者管理委員会事務所ギルド内は、ロビーが飲食を供する大広間になっている。一般的な飲食物から酒や煙草、薬物といった嗜好品まで揃っているために、夜にはお堅い事務所というよりも、大騒ぎできる巨大な居酒屋と化す。


「かん、ぱい」


 その一角で、俺と非常食は1日の成功を祝って、祝杯をあげていた。

 非常食と俺のジョッキには、見た目も味もそこそこなのに安い麦酒ビール。そして卓には山のように盛られた芋と魚の揚げ物――まさに駆け出し冒険者の飲み会だ。安い酒と安い肴。

 この時にはもう俺も体にも慣れてきたおかげか、ようやく手指の痺れもとれてきて、ジョッキを持つことも出来るようになっていた。

 問題はゾンビの体がアルコールを分解できるか、だが――それは問題が起きてから考える、ということでいいだろう。


「すいませーんっ! おかわりふたつお願いしますっ!」


 同時に飲み干し、非常食がすかさずおかわりを頼む。

 俺としては酒よりも肉が欲しい、と思ってしまうところだ。

 が、とりあえず目の前のてんこ盛りの揚げ物に手を伸ばしていく。


「にしても本当にゾンビさんに出会えてよかったですよぉ~」


 そうかい。

 にへら、と笑う非常食に対して、とりあえずうなずいた俺は、彼女に下水道で教えてもらったことを思い返していた。


 シルヴィス共和国は、警察官の数が世界一(そりゃ正規軍を兼ねているから当たり前か)であり、他国とは比較にならないほど国内法が厳格に施行されており、都市部では犯罪や汚職がほぼ撲滅されている、という。

 ただしその優れた警察国家ぶりは、人々が居住する市街地や、行政が国道と認めた街道だけに限った話であり、それ以外の山や森は、警察力や法律の効力が及ばない実質的な治外法権の地、となっているらしい。

 この地方城塞都市の例で言えば、市街地や他の地方都市と繋がる街道は、警察によって治安が維持されている。

 が、その他の森や山、そして下水道は実質的な治外法権の地、らしい。

 元日本人からすれば信じられない話だが――人的資源に限界がある警察が国民を効率よく守るため、そして法律を無視し、問答無用に怪物やテロリストを射殺するために、こうした措置がとられているのだとか。

 そのため、下水道では死体を食おうが、“知性があるかもしれない”怪物を殺しても、罪に問われることはほとんどないのだ、と非常食は教えてくれた。

 下水道や外界は、なにがあっても自己責任の地、なのだという。


 つまり、だ。


 俺が彼女を食っても誰にも文句は言われな――。


「お待たせいたしました。冒険者管理委員会謹製ビールふたつ、お持ちいたしました」

「はいっ、ありがとうご――」

「どうされましたか。民主主義防衛英雄の娘さんと、ゾンちん」


 俺たちの卓までビールを持って来てくれたのは、ただの給仕ではなく、うまそうな例の受付嬢だった。

 ……にしても、いよいよ「さん」付けすらしなくなったかよ。

 なんでこいつクビにならないんだ。


「なんでこいつ解雇されないのか、と思われたかもしれませんが……なぜでしょう。私にも分かりません」

「みんなが貴方のことをかわいそうに思って、権利擁護委員にタレこまないからですよーだ! 本当はゾンちん、なんてあだ名をつけてタグに登録しちゃうのだって、立派な異種間権利の無視なんですからね!」


 酒が入っているせいか、非常食は受付嬢に対して高圧的に出た。

 というか権利がどうこう以前の問題として、勝手につけたあだ名を公文書タグに登録するのは、懲戒処分じゃないのかよ。

 そう思ったが、受付嬢はやはり表情をまったく変えない。


「どうぞ、法務省権利擁護委員にタレこんでいただいても結構ですが」


 冷めた黒い瞳で非常食を一瞥すると、ビールがなみなみと注がれたジョッキを置く。

 本当に怖いものなしなのか。超然とした彼女の横顔を見ていると、そういえば、とあることに思い至った。

 ……聞きたいことがあったのだ。


「すいま。タグ、技能スキル、なに。おしえて」


 もらったタグには、技能スキルに関する記載があった。

 が、どうやらゾンビである俺の技能スキルは特異なものであったらしく、内容を非常食に聞いても分からなかったのである。


技能スキルについてですか。たしかゾンちんちんがお持ちだったのは、『飢餓』『気配察知』『血肉吸収』でしたね」


 ゾンちんちん……もう突っ込まないぞ。


「そうら」


 俺が返事をすると、受付嬢は僅かにうなずいて、早口で喋りはじめた。


「『飢餓』は獣人や竜人など、亜人の方が持っておられることの多い技能です。食事や闘争、性欲などに対して飢餓状態になると、その欲望を満たすために、直接的な行動に出ます。その際には、通常時よりも優れた身体機能が発揮されるようです。


『気配察知』は特定の存在――おそらくゾンちんちんの場合は、食べられる動物の気配を察知する技能です。


そして『血肉吸収』は、食事によって身体機能を向上させる技能です。これは大変珍しい技能なので、私も初めて拝見いたしました」


 血肉、吸収か。

 食事を摂れば摂るほど、強くなる、ってことか?


「おそらくは食事の質や量によって、向上していく能力が変わるのではないでしょうか」


 そこまで解説してくれた受付嬢は、「例えば」と前置きしてから、口の端だけを釣り上げるぞっとするような笑みを浮かべて言った。


非常食そこのを食らえば、おそらく魔法を使えるようになるでしょう」

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